標高2,999メートル 北アルプスの主峰『剱岳(つるぎだけ)』
富山県上市町
2892号(2014年9月8日) 上市町長 伊東尚志
上市町は県都富山市の東、約15㎞の場所に位置し、人口約22,000人、世帯数約7,900で、町の東側に北アルプスの『剱岳』を擁し、面積237k㎡のうち約8割が山間部となっています。
町の課題は、人口減少・高齢化への対応、特に若年世帯の定住です。
このため、町では若年世帯人口の増加を施策の中心に掲げ、定住移住者の増加策、交流促進を踏まえた観光施策を積極的に展開し、魅力あふれるまちづくりにつとめています。
町の東側にそびえる北アルプスの主峰「剱岳(標高2,999m)」が、かけがえのない貴重な財産であります。
近年、町がたびたび映画で取り上げられるようになりました。
中でも2012年に公開されたアニメーション映画「おおかみこどもの雨と雪」は、全国で観客動員数約344万人の大ヒットとなりました。この映画を手掛けたのは、 町出身のアニメーション映画監督・細田守氏です。映画では、町の風景が実写に劣らぬ精巧さで描かれ、中でも主人公が暮らす人里離れた古民家のイメージモデルは、町内の山中に現存し、 映画の公開をきっかけに、これまで約2万人が訪れ、今でも訪問者が絶えません。
町では、映画にも取り上げられる美しい自然資源を活用し、移住や交流をテーマにした「いなか暮らし体験ツアー」を平成25年に富山県と共同企画しました。このツアーは、 首都圏から参加した約40名の方々に、町の住環境や自然環境を体感してもらうもので、中でも映画で取り上げられた古民家での滞在は、都会からの参加者に評判で、 ゆっくりゆったりとした『田舎』を満喫していただきました。
映画「おおかみこどもの雨と雪」の舞台モデルとなった古民家
写真:いなか暮らし体験ツアー
また、観光面にスポットを当てた施策として、町の主要な観光地である「大岩山日石寺」をはじめ、 剱岳の登山口として知られる「馬場島」や参道に樹齢400年のトガ並木が続く「眼目山立山寺」の周辺地域で「森林セラピー基地」の認証を受け、これを核とした「エコツーリズム」を進めています。 町ではツアーガイドを積極的に育成するとともに、既存の自然資源をブラッシュアップする取り組みや、隠れた資源を発掘するなど、町の魅力を内外に発信する活動を通じて交流機会の増加を目指しています。
こうした取り組みを強化する要因に、来春開業の北陸新幹線の延伸があります。現在、首都圏まで上越新幹線を乗り継いで約3時間30分を要していますが、 平成27年春には乗り換えがなくなり2時間余りで結ばれます。これによって利便性が増し移動時間が大幅に短縮され、「富山は遠い」といったイメージから脱却を図れるものと大きな期待を寄せています。
大岩山日石寺での滝修行町では観光地をブラッシュアップ
他自治体と同様に、町でも人口減少・少子高齢化が進んでいることから、町として「今できることを着実に」をモットーに各種施策を進めています。
1つ目は「教育環境の改善」です。町内には6校の小学校と中学校1校があり、すべての学校で耐震補強工事に併せて、老朽化した校舎の長寿命化と機能強化を図りました。
さらに、全教室に空調設備を完備し、また、トイレも和式便器をすべて洋式に取り替え、温水洗浄機能付便座化を進めるなど、心地よく安心して学習に集中できる環境を提供しています。
学校を機能強化 耐震補強、冷暖房完備、ソーラーパネル、
ペアガラス化など快適な教育環境を提供
2つ目は「医療環境の改善」です。医療の近代化が叫ばれる昨今、既存の町立病院の老朽化と近代医療への対応が必要であると考え、平成14年に病院施設を刷新し、 病床数219を数える総合病院として建て替え、地域医療の中核を担っています。医師不足に悩まされているものの、在宅医療の拠点施設の機能を強化させた「シームレス」な医療環境を整え、 医療の確保と質の向上に努め、住民サービスの充実を図っています。
平成14年に完成した「かみいち総合病院」地域医療の拠点として在宅医療を強化
3つ目は「若年世帯の定住を促す住宅整備と助成事業の充実」です。近年、ライフスタイルの変化から核家族化が進んでいるものの、結婚後、すぐに一戸建を建てる若者は少なく、 一時的に賃貸住宅へ入居する世帯が増えています。
町では若年世帯の移住促進に向け、町外からの移住者を取り込み、加えて町内の若年世帯が住みやすいようにするため、公営住宅の整備を進めると同時に、 若年世帯移住者に家賃補助や住宅取得補助だけでなく、リフォームなどの改修にも補助をするなど、他に先駆けて手厚い支援策を整えています。
この結果、平成21年に完成した「陽南町営住宅」に子育て中の若年世帯が入居したことにより、減少を続けていた校区内小学校の児童数が増加するなど着実な成果が出ています。 現在、新たな公営住宅の「白萩西部町営住宅」を建設中(一部供用開始)で、平成28年の完成を目指し工事を進めています。
また、旧雇用能力開発機構が売却した雇用促進住宅を買い取り、入居要件を大幅に緩和し、安い家賃で入居できる定住促進住宅として運用しており、 一時的な住居として特に町内企業関係者に喜ばれています。
平成26年4月に一部供用開始した「白萩西部町営住宅」
木材を多く使用した温かみある住宅 平成28年に48戸完成
4つ目は「地域公共交通網の整備」です。富山県は自動車保有率が非常に高く、車が生活の中心に位置づけられています。こうした傾向は、 駐車スペースが確保しにくい中心市街地居住者の郊外転居に拍車をかけ、結果として、中心部の人口減少と商店街の衰退が顕著となりました。
この流れを大きく変えることは難題ではありますが、車と公共交通の共存したスタイルを定着すべく、バス路線の拡充、そして鉄道の利便性向上を図っています。
バス路線では、公共交通空白地帯の解消を進め、生活に密着した病院や商店、鉄道駅などを結ぶ生活路線バスとしています。
また、鉄道では、私鉄の富山地方鉄道が県都富山市まで25分あまりで結ばれる利点を生かし、無料のパークアンドライド用駐車場を整備しています。平成25年には、 駐車場を有する「新相ノ木駅」を新設したことで、他の駅に整備済みのものと合わせると160台を超える無料駐車場を確保するなど、公共交通の維持活性化に努めています。
人口減少・定住促進施策は、短期的、劇的な変化を求めるのではなく、徐々にそして着実に効果が出せる総合的な施策をもって、息の永い取り組みを行うこととしています。
平成25年12月に開業、富山地方鉄道・新相ノ木駅パークアンドライド用の駐車場80台併設
業務が多様化し、行政の資質向上が求められる今日、「行政の品質確保」と「事業評価し継続的な改善」を目標に、 品質における国際規格である「ISO9001」の認証取得に向けた取り組みを行っています。これは、役場で行われている業務を再点検し、事務の定量化を図ると同時に改善する意欲を養うことで、 町民の満足度の向上につなげようとするもので、目的・目標意識を持って業務に取り組む体制を整えているところです。
平成27年7月の認証取得を目標に、既に取得している環境ISOに加え、品質ISOの規格によって、町民の皆様への良質な行政サービスの提供と説明責任を担保し、 信頼される行政運営に努めています。
平成27年3月に念願の北陸新幹線が延伸し、ようやく北陸と首都圏を結ぶ高速交通網が実現します。県では「100年に一度の大プロジェクト」「時代の転機」として、 観光や移住定住、企業誘致をはじめ地域経済の発展に大きな期待を膨らませ、各種事業を進めています。
新幹線の開業は時短効果による人々の往来増加だけではなく、人々の意識の変化、特に地域住民の意識の変化が大きな効果であると考えます。
町では、新しい意識の「風」を取り込むため、町内企業や各種団体、一般公募の町民を交えて、自然や歴史など地域固有の魅力を生かした観光推進に関する懇談会を新たに開催し、 多くの方々の意見を拝聴して観光施策などに活かすこととしています。
新しい動きや考えにも敏感に反応しつつも、歩みを着実に、一歩一歩踏みしめて進むこと、これが総合計画に掲げる「確かな地域力」となって、さらなる発展の礎となると考えます。
町が誇る自然資源の魅力発信を通じて観光や交流施策の推進、住宅施策や教育・医療環境の充実など総合的に展開するだけでなく、 事務改善を継続的に行う仕組みづくりなど住民満足度の向上を目指し、町のシンボル「剱岳」のような存在感をもったまちづくりに取り組んでいます。
平成27年春に延伸開業する北陸新幹線
富山地方鉄道上市駅から町営バスに乗り約20分、山の麓に位置する真言密宗の大本山で知られる「大岩山日石寺」周辺は、石に刻まれた国指定重要文化財の「磨崖仏」に代表される岩の文化、 そして滝修行などに代表される水の文化が息づいた町の観光名所の1つです。
中でもお奨めなのは、お寺のすぐ隣を流れる大岩川にある渓谷「千巖溪」です。緑豊かな木々に囲まれ、大きな岩の間から流れ落ちる水は、大自然の美しさ感じると同時に、 心がリフレッシュします。心地よい涼しさを体感できますので、ぜひご訪問ください。
大岩山日石寺にある磨崖仏は、高さ4メートル近くの巨岩に
「不動明王像」が彫り出されています。