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高知県中土佐町/荒波に飛び跳ねるカツオ達が織りなす鰹乃國の物語~多彩な振興策から地域活性化を一本釣り!~

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年8月25日
土佐沖のカツオ一本釣り漁の写真

土佐沖のカツオ一本釣り漁


高知県中土佐町

2890号(2014年8月25日)  中土佐町長 池田洋光


町の概要

太平洋に面した高知県の中西部に位置している中土佐町(平成26年5月末現在:人口7,598人、面積193.40k㎡)は、 平成18年に黒潮の恵み豊かな海岸部である旧中土佐町と清流四万十川源流域の大野見村が合併して誕生しました。 

両地区は、中心地まで車でわずか20分足らずの距離ですが標高差は約300メートルあり、海と山の異なった地勢や自然環境を活かし、それぞれに発展してきました。 本稿では主に港を中心に発展してきた久礼地区について紹介いたします。 

「土佐の一本釣り」に代表される漁師町特有の気質を持つ久礼地区は、中世から近代にかけて四万十川流域に産する木材を始めとした各地の生産物が久礼港から海上輸送で搬出されるようになり、 あわせて人と物資が行き交う交易・交流の場としても重要な役割を果たしてきました。コンパクトな町の中に、人々の信仰を集める久礼八幡宮、町民の台所大正町市場、温泉宿・黒潮本陣、 県下最古の酒蔵を持つ西岡酒造店、町立美術館、小草ふれあい公園パークゴルフ場など豊富な観光資源を有し、その佇まいが平成24年漁師町で初めて国の重要文化的景観に選定されました。  

交通アクセスとしては、鉄道や定期運行バス・高速バスなどの公共交通機関に加えて、平成23年3月には四国横断自動車道が本町まで完成し、 更に平成24年12月には四万十町まで延伸したことにより西日本一帯からの観光客誘致が大きく期待できるようになっています。

「鰹乃國」の物語 プロローグ

中土佐町がカツオ一本釣りの町として全国的に知られる契機となったのは、 昭和53年から漫画家の青柳裕介先生作の「土佐の一本釣り」が青年誌「ビックコミック」で連載されたことに始まります。 

物語は、主人公の純平が一人前のカツオ一本釣り漁師として成長していく過程を描いたもので、「板子一枚下は地獄」といわれる厳しい漁場の臨場感や、 恋人の八千代をはじめ陸に上がって繰り広げられる悲喜こもごもの人間模様や人間愛が絶妙に描写されており、昭和55年には映画化もされるほど人気を博し、漫画の連載も16年の長きにわたりました。 また、漫画の中には久礼の町に実在する旅館や飲食店、人々などが登場したことも相まって久礼の町は一躍全国区となっていきます。

漫画土佐の一本釣りの写真

漫画土佐の一本釣り  青柳プロダクション/小学館

平成2年4月には町おこしのため、ふるさと創生一億円事業を活用し純金カツオを作製するとともに、官民共同で取り組む第一回「かつお祭」を開催し、 漁業と商業・観光を結びつけた「カツオの町」としての戦略を展開し始めました。そして、地域住民や業界代表者による「町づくり小委員会」及び「地域振興懇談会」を組織し、 将来の町づくりについて議論を行い、あらためてカツオをテーマとした地域振興策を進めていく方向性が確認されます。  

こうして平成6年から「黒潮のめぐみ体感プロジェクト」がスタートし、平成8年12月に温泉宿泊施設「黒潮本陣」と体験施設「黒潮工房」がオープンし、 以後続々と地域活性化事業が始まることになりました。

温泉宿泊施設「黒潮本陣」の写真

温泉宿泊施設「黒潮本陣」

「鰹乃國」の物語 各章

1.大正町市場の活性化事業

現在、中土佐町の観光拠点となっている久礼大正町市場は、わずか40mほどのアーケード街ですが、 その歴史は古く明治の中頃から地蔵町通りの露天で漁師のおかみさん達が魚を売り出したことが始まりです。 

大正4年、地蔵町通りは大火に見舞われ消滅の危機に瀕しますが、時の大正天皇より350円という大きな義援金をいただき復興を果たした住民達は、 天皇に感謝の意を込め地名を地蔵町改め大正町として現在に至っています。  

時代は巡り、平成に入るとバブル崩壊や町民の志向の変化から、市場は徐々に活気を失っていきました。そこで、商店街の皆さんと行政が一体となって、 鰹のまちの台所として活気のあった昭和30年代中頃の復活を目指して取り組みを進めた結果、平成15年、大正町市場は見違えるようなリニューアルオープンを果たしました。 アーケード内は鮮魚や干物などの海産物はもとより、野菜、果物、総菜など新鮮・美味・安価・安全な商品を取り揃えており、 付帯する食堂では商店街お楽しみ買物絵図パンフレットの作成や商店街の回廊整備などを行ってきました。 

また、新鮮な魚介類を現場で味わいたいというお客様に応えるため、鮮魚店などから自分好みの食材を買い求め、別売のご飯や味噌汁と共に食べることのできる食堂もオープンしています。 市場ならではの新鮮な魚をてんこ盛りにしても1,000円でお釣りが来るこの仕組みは、都市部の観光客から大好評を頂いており、その風情やおいしさを求めてやってくる大勢のお客様で賑わうようになりました。 

また、大正町市場と不可分にある隣接の商店街においては、地域を巻き込んだ「門前市」や「土曜夜市」といったイベントが開催されており、 観光交流の拠点として久礼の魅力を発信しつづけています。 

大正町市場の写真

賑わう大正町市場

2.ど久礼もんから豊かな食文化の発信

平成19年、 漁師と流通が共に潤うことで地域の活力を取り戻し、「漁業を基盤に一つの共同体として生きていく」まちを作ろうという思いで地元商店主などが集まり、「企画・ど久礼もん企業組合」が設立されました。

当初の主な活動としては、ネットショップの開設や鰹タタキの実演出張販売などでしたが、 経済産業省の地域資源∞全国展開プロジェクト事業を活用した「カツオまるごと商品開発プロジェクト」に着手しました。そして、各方面と連携しながら新商品の開発が進められ、 平成21年から23年にかけて辛焼味噌「カラヤン」、「なぶらスープカレー」、「漁師のラー油」などの新商品が次々と生み出されていきました。 中でも「カラヤン」は平成21年グルメ&スタイルダイニングショー「フード部門」で準大賞を受賞し、さらに「漁師のラー油」やそれに続く「生姜の恋」も生産体制が追いつかなくなるほどヒットするなど、 商品化された加工食品はいずれも高い評価をいただいております。

これからの商品開発コンセプトについては、海からの物語性を織り込むことで新たなマーケットを開拓し、漁業を基盤とした「地元の幸」で、 みんなが潤っていける地域コミュニティの再生を目指しております。

カラヤン、漁師のラー油、生姜の恋の写真

左から、カラヤン、漁師のラー油、生姜の恋

3.活きの良さを味わう「かつお祭」と「ぴんぴ鰹」

「かつお祭」は、古来よりカツオと共に生きてきた町として、カツオを供養し感謝を捧げると共に、より多くの人々に本場のカツオの美味しさを味わってもらうため、 久礼揚がりの新鮮なカツオを約2トン用意し、数々のアトラクションを通じて人情や自然を体感してもらえるよう、毎年5月の第3日曜日に開催しています。 

祭りの内容はカツオの大漁祈願と感謝・供養祭に始まり、四万十源流太鼓の演奏、トコロテン早食い競争やカツオ漁船への体験乗船、 そして最も会場が沸き立つカツオの一本釣り競争などが行われています。当初3,000人程度であった来場者数は回を重ねるごとに増加し、今年は18,000人の方が新鮮なカツオ料理に舌鼓を打ち、 四半世紀の歴史を刻んだ祭に酔いしれました。 

また、㈱中土佐町地域振興公社では、一昨年から高い鮮度保持効果があるシャーベット状の氷、スラリーアイスを使った「ぴんぴ鰹のたたき」を販売しています。これは、 冷凍や巻き網漁のカツオとは一線を画した本当に美味しいカツオを味わってもらうため、一本釣りで釣り上げた直後から-1℃のスラリーアイスを用いて高鮮度を保ったままタタキに加工し、 再びスラリーアイスにてお客様にお届けしています。 

カツオの町のプライドをかけた「ぴんぴ鰹のたたき」は、多くのお客様から「これまで味わったことがない」、「カツオのイメージが一新した」といった賞賛の声をいただいており、 スラリーアイスでの鮮度保持および品質向上が、本町の水産物ブランド化に一層貢献するものと期待しています。 

ぴんぴ鰹のたたきの写真

ぴんぴ鰹のたたき

カツオ祭り・カツオ一本釣り競争の写真

カツオ祭り・カツオ一本釣り競争

4.農事組合法人苺倶楽部「風工房」

平成9年12月、イチゴ栽培農家のおかみさん達が、丹精込めて作ったイチゴをふんだんに使ったケーキショップ「風工房」をオープンさせました。 

店舗は町が補助事業で建設して、それを苺倶楽部に賃貸する形式となっており、運営は農家のおかみさん達自らが行っています。 

発足のきっかけは、前述の黒潮本陣のオープンに合わせた地域の土産品作りの一環として、イチゴを有効利用すると共に付加価値をつけて商品化し、 1年を通じて活動できる環境を整備することで農業収入アップを目指すことでした。 

ケーキ作りをしたことのないおかみさん達8人が、本業の農業の傍ら文字通り寝食を忘れて約2年間ケーキ作りの修業を積み、 本格的なケーキショップを開店したことは当時センセーションを巻き起こしました。風工房で使用する朝採れイチゴは、カツオのアラなどを堆肥とした資源循環型であることや、 農家の女性が経営するケーキ屋の珍しさもあってマスコミにもたびたび取り上げられ、順調な経営が続き平成11年には農事組合法人となりました。今では県内外からの観光ルートの一端を担っており、 個人客から企業までの幅広い客層を持ち、小さな店舗ながら町の人気スポットとして定着しています。

風工房(上:2階喫茶フロア、下:1階ケーキ売場)の写真

風工房(上:2階喫茶フロア、下:1階ケーキ売場)

5.小草ふれあい公園パークゴルフ場

平成22年8月に開園された小草ふれあい公園は、「パークゴルフ場」と「ふれあい広場」で構成されています。

核となるパークゴルフ場については、発祥の地北海道幕別町や日本パークゴルフ協会からのご指導をいただき、 プロのグリーンキーパー監修によるコースコンディションや土佐湾を望むシーサイドコースといったロケーションの良さなどにより、西日本一との評価もいただいています。 本町のパークゴルフについては、まだ4年に満たない歴史ですが、老若男女を問わず誰でも気軽に楽しむことができ、人々の交流や知らず知らずの内に健康増進にも繋がるとあって、 毎月1,600人以上の愛好者で賑わっています。

また、平成25年に「ねんりんピックよさこい高知」のパークゴルフ競技会場となったことや年間を通じて楽しめることなどから、四国はもとより北海道や本州各地からの来場者も増えており、 今後もパークゴルフを通じた交流人口の拡大が期待されています。

小草ふれあい公園パークゴルフ場の写真

小草ふれあい公園パークゴルフ場

「鰹乃國」の物語 エピローグ

平成21年3月は、四国横断自動車道の中土佐IC完成により町民が待ち望んだ本格的な高速時代を迎える一方で、東日本大震災を受け、 南海トラフ巨大地震に対する防災対策の転換を余儀なくされるなど大きな節目の時でありました。 

次期南海トラフ地震の被害想定では、津波によって本町人口の大半が集中する久礼地区を始めとして、太平洋沿岸部の多くが浸水するとの予測が出されており、 命を守る防災対策事業の推進が最重要行政課題となりました。 

地域住民と協働で「久礼地区防災避難計画・防災マップ」等の作成や避難訓練を繰り返すと共に、一人の犠牲者も出さないための逃げる対策として避難道を52本、 避難タワーは3基の建設を進めています。  

こうした中、去る6月22日には海抜20メートル、スロープ、階段、ゴンドラを備え400人収容の第一号津波避難タワーが完成いたしました。このタワーは海岸近くに立地するため、 直径60センチの鋼管を16本岩盤のある地中31メートルまで埋め込み、内12本は地上でタワーの柱となっています。しかも、全てにコンクリートが充填されており、 どんな地震津波にも耐えうる強固なタワーとなりました。 

また、地域が重要文化的景観に指定されているため、檜をふんだんに使って景観にも配慮した意匠となっています。 

タワーの使命は命を守ることですが、住民の生活の一部として親しんでいただくため常時開放しており、普段は展望タワーとして利用できますので、 防災拠点と観光を兼ね備えた施設として内外から注目を集めています。 

第一号津波避難タワー落成式の写真

第一号津波避難タワー落成式

「鰹乃國」の物語においては、豊かな自然や食材、伝統文化や人といった地域資源を有効に活用することで、所得向上や雇用の創出につなげ、 町全体に経済効果を波及させていこうというテーマを貫いてきました。これからは一次産業と商業や観光業の組み合わせに加え、 防災行政も地域振興を図る上での重要な要素として積極的に取り入れていきたいと思います。 

昨今、カツオ漁の不漁が深刻化していますが、その原因の一端は資源を根こそぎ取り尽くす大型の巻き網船にあると言われています。「一本釣り」は、 人間とカツオの知恵比べでもあります。カツオに感謝しながら「板子一枚下は地獄」の厳しい世界を生き抜く我が町の漁師のなんと誇り高いことか。この精神をまちづくりの範としていきたいと思います。