ため池の広がるいなみ野の大地
兵庫県稲美町
2889号(2014年8月11日) 稲美町役場 産業課
稲美町は、兵庫県南東部に位置し、周辺を神戸市、明石市、加古川市、三木市に囲まれた地域的条件から阪神地域のベッドタウンとして発展してきました。面積は34.96k㎡で、 人口は約32,000人です。
地形はいなみ野台地と呼ばれる段丘台地で、大きな河川はありません。気候は典型的な瀬戸内気候で、年間降水量も少ない地域であり、昔から農業用水の便が極端に悪く、先人は水を確保するため、 たくさんのため池を造り、農業用水の水ガメとして利用してきました。そのため、現在では、水張り面積49ha、県下最大の加古大池や県下最古に築造された天満大池など、町内に大小88カ所のため池が存在し、 池の面積は町面積の約10.7%を占めるというため池のまちです。
また、町の総合計画においても「人と緑のホームタウン いなみ」を基本理念として豊かな自然環境を活用した町づくりを進めているところです。
稲美町を含む兵庫県東播磨地域では、地域の特徴である「ため池」の保全・整備・活用を進める「いなみ野ため池ミュージアム構想(田園空間博物館構想)」に取り組んでいます。
近年、ため池やその周辺の田園地域に対する地域住民の関心も高まりつつあり、このような中、 平成15年には文化庁から文化的景観における重要地域180箇所の1つとして「稲美町のため池群」が選ばれました。
文化的景観とは、「地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のために欠くことのできないもの」と定義されており、 「稲美町のため池群」は、元来は水の乏しい地域の生活や生業を支えるために設けられた無数のため池やそれらを繋ぐ水路網、この恩恵を受けて拓かれてきた農地や農村集落、地域の歴史や文化を伝える社寺や祭り、 自然豊かな樹林地など、様々な価値を有する地域の景観構成要素が「水を中心とする生活空間」として一体的に形成する地域の特徴ある景観であると位置づけられています。
ウィンドサーフィンもできるため池「加古大池」
稲美町では、いなみ野ため池ミュージアム構想の一環として、町内外の人たちや、 地域の方々が長年にわたり維持管理してきた「ため池」を中心とした水利用の素晴らしさを自然や文化を通して感じることができる散策ルートマップの作成を計画しました。
作成に関しては、地域の皆さん方の協力でマップのデザイン、散策ルートの設定、景観等ルートのみどころの掘り起こし、 各ルートに合ったイメージキャラクターの設定など楽しいマップを作ることができました。
道標キャラクター「いなぴょん」
ここから水を各所に配分しています「練部屋分水所」
稲美町では、町の東端にある練部屋分水所から各地域に“流”と呼ばれる農業用水路を通じて各ため池に水が配られるというシステムになっています。 現在でも「流のぼり」と呼ばれる水路の清掃作業が地域の農家の人々によって続けられています。
フットパスルートは、この“流”に沿って、「加古の道」、「入ヶ池郷の道」、「印南の道」、「天満の道」とこれらをつなぐ「愛宕の道」の計5ルートで構成されています。
ルートマップは横80センチ、縦60センチで、表面には、これら5ルートを組み合わせた7コースを設定し、それぞれの見どころを表しています。また、ルートごとに稲美町の歴史や自然、 ため池にまつわる言い伝えや重要な農業用施設等を写真で紹介しています。
マップの裏面では、町の地図に各ルート及び分岐点にイメージキャラクターの表示(実際にはプレートを道路に埋め込んでいます。)、ため池や石碑やほこら、ため池看板の表示、 また昔からの農業用水路である“流”を表示しています。
このマップをもとに町内の5つの小学校区で、年1回フットパスを活用したまちづくりウォーキングが行われています。
また、稲美町は、お隣の加古川市の一大イベントであるツーデーマーチのコースにもなっており、毎年大勢の方に稲美町の自然を満喫していただいています。
このマップで、みなさんの健康増進はもちろんのこと、稲美町の水に対する先人の苦労や、農業ののどかな風景を楽しみながら、できるだけ多くの皆さんにフットパスを活用していただき、 本町のPRができれば幸いです。
ため池を活用した「まちづくりウォーキング」
現在、町内に88ヵ所あるため池ですが、その多くが農業用水として使用される一方で、耕作面積の減少により、ため池を埋め立てて「廃池」にする場合もあります。 そうしたため池を管理する土地改良区等においては、埋め立てた跡の用地に太陽光発電施設を建設するなど新たなため池の利活用にも取り組んでいます。また、 近年では子どもがため池や水生生物と親しむ機会が少なくなり、それにともなうため池などの自然環境に対する関心の低下も危惧されています。
そこで、地域で作るため池協議会などの協力により、昔はよく行われていた「かいぼり※」も復活しました。 水かさの減ったため池の中で子どもたちが魚を捕まえるどこか懐かしい風景を目にすることができます。また、かいぼりはため池の水質改善など環境保全の面からも効果が期待されています。
さらに、平成26年4月には、「いなみ野ため池ミュージアム」の一環で、ため池や河川に生息する生物を学んでもらおうと、いなみ野水辺の里公園に常設展示施設「魚のおうち」がオープンしました。 淡水魚を中心に約30種を展示し、数年前まで身近だったものの、環境の変化で減少したメダカやモロコなどの希少種も観賞できます。ため池に住む生き物たちを更に身近に感じてもらい、 もっとため池に興味を持っていただきたいと思います。
「太陽光発電」ため池の跡地は日当たりも良好です
大きな魚がとれるかな。かいぼりの様子
「魚のおうち」外観
※「かいぼり」……農業用水のため池の水を農閑期の冬場に抜き、堆積したヘドロや土砂を取り除くもので、水質改善や外来生物の駆除の目的もあります。
今年も町内の田んぼの稲も青々と成長し、間もなく実りの秋を迎えます。今後とも、先人たちが築いた稲美町の財産ともいえる「ため池」を大切にするとともに、 更に磨きをかけながら活用していきたいと考えます。
そして、ため池の活用を通じて、稲美町に住んでいる人、稲美町を訪れる人が、稲美町をホームタウンと感じていただけるような町づくりを進めていきたいと思います。
ため池には色んな生き物が暮らしているよ