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徳島県勝浦町/「農業、交流、定住のまち」づくりを目指して

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年6月30日
勝浦川支流に飛び交うホタルの写真

勝浦川支流に飛び交うホタル(6月初旬)


徳島県勝浦町

2884号(2014年6月30日)  勝浦町 産業交流課


勝浦町の概要

勝浦町は四国、徳島県の東部に位置し、剣山系を源とする清流勝浦川がまちの中央を西から東へと流れています。 勝浦川とその周辺に広がるのどかな田園風景、まちを囲む緑したたる山々は、勝浦町の自然の豊かさを象徴しています。 

県都徳島市のほか2市と隣接し、それぞれ自動車で30~40分程度の通勤、通学には、比較的近い距離にありますが、 公共交通機関が民営の路線バスのみで、国道も鉄道もない、いわゆる「ないないサミット」加入の町です。 

人口の推移は、本町が合併により誕生した昭和30年当時の10,160人から60年近く経過し、平成26年3月末では5,689人(住基)と、 概ね半数近くに減少、現在でも、毎年平均して80人余りの人口減少が続く過疎のまちです。  

勝浦町は平成2年に人口減少と高齢者比率の状況から過疎の地域指定を受けましたが、 高齢者比率は昭和の時代に行われた5年ごとの国勢調査で2ポイント程度の上昇であったのに対し、平成に入ってからは3ポイント以上も上昇し、 平成22年国勢調査では35.2%となっています。 

勝浦町の地図の画像

勝浦農業の歴史と現状

「勝浦町の先人がみかんの苗木の搬出を厳しく取り締まっていた紀州藩(和歌山)から、大根をくり貫き、 そこにみかんの穂木をさして隠し持ち帰った」と伝えられている逸話があるように、勝浦町は阿波みかん発祥の地として、 県内では最も早くからみかん栽培が始まったまちとして知られています。 

みかん栽培は、昭和30年代には最盛期を迎え、地元新聞紙の見出しでは「みかんが光るすばらしい黄金郷」として紹介され、当時、 電話普及率が県内でもトップであったことなどからその繁栄の様子を察することができます。 

しかし、生産拡大、オレンジの貿易自由化やみかんの価格低迷、更には、 昭和56年2月の大寒波のためみかんの木が枯死する大災害が発生したことにより、他の作物への転換、 あるいは施設園芸との複合経営に移行する農家が増加しました。一時期はハウスみかんとの複合経営も盛んに行われていましたが、 燃料高騰と価格低迷のためハウス施設のみかん栽培は数戸の農家に減少しています。  

昭和45年の総世帯数1,896世帯に占める農家数(販売農家)の割合は66%、1,246戸でしたが、 平成22年では総世帯数1,878世帯に対し30%、563戸と大きく減少し、その内みかんを販売する農家は471戸となっています。 農家数の減少は平成の時代に入ってから特に著しく、農業センサスの調査毎に50戸を超える農家が廃業している調査結果となっています。 これは、人口と同様、農家の高齢化が進み、担い手不足であることを顕著に物語っています。 

このような状況の中、徳島県のみかん生産量は12,800tで全国17位(2013年2月発表)と他県に比較して大きな産地ではありませんが、 その中の40%余りの5,290tを本町で生産しています。 

みかん以外の農産物では、果樹として、徳島県特産のすだちや柚、ゆこう、野菜では、いちごの施設栽培、なす、オクラ、 菜の花などの栽培が盛んでみかんとの複合経営が定着しています。また、全国でも稀少な特産品として、山菜で知られている「野蒜(のびる)」を栽培し、 主に首都圏に出荷しています。 

収穫中のみかん園と中心やや右下に見えるのが貯蔵庫の写真

収穫中のみかん園と中心やや右下に見えるのが貯蔵庫

勝浦農貯蔵みかんブランドを目指し

「このままでは、みかん農家は減少する一方。あと10年もすると農家も農地も更に半減してしまう。 団結して勝浦農業を再生しなければ特産の貯蔵みかんが消えてしまう。」と平成22年、 篤農家を中心に「勝浦貯蔵みかんブランド化検討会」が立ち上がりました。農業の危機的状況を危惧し、 勝浦農業の再生を目指してみかん園地と栽培技術を継承していくため、町は農業の魅力と経済性を高めることを目標に、 勝浦貯蔵みかんのブランド化事業への取り組みを開始しました。 

勝浦町のみかん栽培は、12月に収穫した高糖系普通温州みかんを専用の貯蔵庫で大切に熟成させ、越年後、 2月から4月後半まで出荷が続きます。勝浦貯蔵みかんの特徴は、高い糖度だけではなく、貯蔵期間を長くすることで酸度も適度に含まれています。 貯蔵技術では早朝の冷気を貯蔵庫内に取り入れ、その後は温度と湿度管理に細心の注意を払うことで長期保存しても収穫時の新鮮さと糖酸度のバランスを絶妙に保つことができます。 

他産地の出荷最盛期から時期を遅らせることから、3月、4月の市場出荷量はトップクラスとなっており、 特に京阪神市場では1番のシェアを占めています。  

現在、町ではこのみかんの特徴を生かしたブランド「勝浦貯蔵みかん」をより多くの消費者にPRするため、マスコットキャラクター「ちょぞっ娘」を活用した各種ダンボール箱、小売り用小分け袋、 みかんを使った加工品などの開発を進めています。 

また、貯蔵みかんPR用のアイテムとして、 ちょぞっ娘が貯蔵みかんを紹介するDVD動画を作成しYouTubeで放映(先述URLからご覧になれます)するほか、平成25年には着ぐるみを製作し、 町内イベントはもとより、県内外での販売促進等イベントで活動を開始しました。 

ブランド化の最大の課題として勝浦貯蔵みかんの品質統一化が問題となりました。勝浦町のみかん出荷体制が主に個選共販であるため、 機械などの作業行程が少なく、より新鮮な状況で出荷できるメリットがありましたが、 選果を各農家で行っているため品質の選別にバラツキが生まれるというデメリットもありました。 

このため、「勝浦貯蔵みかんブランド化検討会」を更に拡充し、「勝浦みかん生産販売促進協議会」へと平成26年1月に改組し、 栽培や貯蔵管理のほかコンパクト光センサー糖酸度計を活用した品質調査などについて、今後、検討を進めることとしています。 

ブランド化の取り組みについて、本格的な活動はまだ始まったばかりで、 今まで少数農家で組織した出荷組合を一つにまとめる作業など数多くの課題が山積みされていますが、徐々にでも農家の経済向上に効果を上げ、 担い手が農業に魅力を感じられる事業を積極的に展開していく所存です。 

貯蔵庫内部、点検しやすい引き出し型の棚(せいろ)の写真

貯蔵庫内部、点検しやすい引き出し型の棚(せいろ)、
上部と下部に空気を出し入れする窓があり、温度湿度を調整する。

着ぐるみの「ちょぞっ娘」の写真

着ぐるみの「ちょぞっ娘」、25年3月東京秋葉原アトレでデビュー

グリーンツーリズム事業で交流促進

「小学校がなくなれば、老若男女、地区住民が集まる機会がなくなる。 コミュニティの崩壊じゃ。」平成7年に児童数の減少に伴い坂本小学校の廃校が決定し、地域住民にとって最大のコミュニティ機会がなくなることに、 悲痛な叫びが町や議会に訴えられました。 

勝浦町の最も奥まったところの坂本地区では、勝浦町誕生以前から1地区1小学校で、 運動会も全世帯が参加し坂本区民運動会を開催するなど、小学校が地域コミュニティの拠点となっていました。 

町は平成8年から、 地区住民と対話集会を何度も重ね、「風呂に入って、ゆっくり話ができる集会施設がほしい」「地域の行事やイベントができる施設は?」「農産物の加工施設は?」など様々な意見が出る中、「若者と老人向けの宿泊・研修施設」という地区の検討案に対し、 当時、徐々に広まりつつあった「グリーツーリズム事業を実践できる農村体験宿泊施設に取り組んでみては」と提案をしました。  

方向性が決定してからは、地域づくりアドバイザーを招聘し、初めて耳にする「グリーンツーリズム」事業の研修や、 遠路千葉県旧和田町への視察など、精力的に地区内で検討を重ねた結果、 平成12年に坂本小学校はグリーンツーリズムを実践する農村体験宿泊施設「ふれあいの里さかもと」として改修することになりました。 

「ふれあいの里さかもと」のスタッフの写真

「ふれあいの里さかもと」のスタッフ。地元食材での田舎料理が好評

坂本地区で11名の有志が「坂本グリーンツーリズム実行委員会」を組織し、企画部門では、 農業農村体験メニューづくりとインストラクターの育成、料理部門では女性を募り、郷土食を提供できるメニューに仕上げ、 情報部門ではパンフレット等の作成やホームページの開設など運営準備を進める中で、インストラクターや調理員など協力者の増員を図り、 平成14年3月開設に至りました。 

来客数や運営内容、素人ばかりの集団が取り組むことに不安を抱えながらの開設でしたが、当初見込んでいた年間宿泊者数1,560人、 日帰り利用者数240人、計1,800人の目標数値を、平成25年度では、宿泊者数3,081人、日帰り利用者数9,398人、計12,479人と大きく上回り、 現在ではリピーターも増え、当初目標の利用者数を大幅に超えています。 

農村体験のメニューも増え、定番の豆腐・こんにゃくづくりや山菜採り、勝浦町ならではのみかん狩りのほか、 ユニークなひな街道でのひな飾りや「じんぞくがり(ごり押し)」、パン・ピザづくりなど多彩な体験ができます。 

町では、農村体験宿泊施設「ふれあいの里さかもと」の運営に対し、その経費の一部を5年間助成してきましたが、その後は、 グリーンツーリズム事業に対する補助金の支出はあるものの、農村体験宿泊施設経営の財源確保については実行委員会の独立採算で運営できるまでに至っています。 

この「ふれあいの里さかもと」では、 数年前から農業の担い手確保や就農のための農作業を実践できる講座として「坂本農楽みかん組」を開設し、みかん栽培の技術習得や新規就農者への指導を進めてきました。 

今後の事業展開として、当該施設が勝浦町移住交流支援センターにもなっていることから、 モデル事業として当地区で空き家等を改修した農村生活体験事業の検討を始めています。 

まちのイベントを盛り上げる阿波おどりの写真

まちのイベントを盛り上げる阿波おどり

勝浦町最大のイベント「ビッグひな祭り」の写真

勝浦町最大のイベント「ビッグひな祭り」

お雛様の奥座敷の写真

坂本地区で「お雛様の奥座敷」を同時開催。
ひな街道の飾り付けを希望するリピーターが増えている。

ユニークな体験メニュー「じんぞく狩り(ゴリ押し)」の写真

ユニークな体験メニュー「じんぞく狩り(ゴリ押し)」

キーワードは世代交代

現在、施設は順調に運営されていますが、既に事業開始してから10数年が経過し、 当初から運営に携わっている当時のリタイヤ世代も高齢化してきたため、実行委員会自体も一時期の勢いが失われていく懸念が生じています。 

農業においても、地域づくり事業においても高齢化が問題となっており、積み上げてきた知識や技術とその成果を継承していくためには、 担い手不足という課題の解決が重要となってきます。 

このため、事業を牽引してきた世代が新たな時代の価値観を受け入れる意識改革と、 次の世代が先人の培ってきた知識や技術を継承していく意欲が必要です。  

町としては、この世代交代がスムーズに引き継がれていく支援について知恵を絞り提供していく所存です。