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静岡県吉田町/道路空間を活用した津波避難タワーの建設

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年5月19日
片岡地区「能満寺山公園と展望台小山城」の写真

片岡地区「能満寺山公園と展望台小山城」


静岡県吉田町

2879号(2014年5月19日)  吉田町 防災課


町の概要

吉田町は、静岡県中西部を流れる一級河川大井川の河口右岸に位置し、駿河湾に面しています。面積は約20k㎡ほどで、牧之原台地が北西側から中央部に突出しているほかは、 町域の90%以上が標高20m未満の平坦地です。人口は約3万人で、大井川の豊かな伏流水や東名高速道路吉田ICの開設によって企業が進出し、工業が盛んになりました。 

主な特産物としては、レタス、しらす、うなぎなどがあります。 

駿河湾に面する約㎞の海岸線には、吉田漁港を境に東西にわたって高さ6.2mの防潮堤が築かれています。  

また、吉田漁港周辺には、高さ6mの津波提や水門を設置するとともに、陸閘の開閉を遠隔操作化するなど、 これまで想定されていた東海地震の最大想定津波高(4m)に対応できるよう対策を講じてきました。 

そのため、平成23年3月に発生した東日本大震災までは、大地震が発生しても、町への津波被害は皆無であろうと考えていたのです。

取組の動機

千年に一度の大津波を想定~津波ハザードマップの作成~

平成23年3月11日に発生した東日本大震災による想定外の津波被害を踏まえ、町では、これまでの想定を超えた最大級の津波に対応する被害想定の策定に着手しました。

その結果、同年11月には“千年に一度の大津波”を想定した「吉田町津波ハザードマップ(被害想定)」を町が独自に策定し、公表することができました。 東日本大震災の発生からわずか8ヶ月後のことです。  

この津波ハザードマップにより、町を襲う津波高は最大で8.6mと想定され、巨大津波は防潮堤を軽々と越えて市街地に押し寄せ、町域の55%が浸水し、 町民の4割に当たる17,000人が津波被害に遭うという危機的な結果が示されました。 

高台のない吉田町においては、この“千年に一度の大津波”対策を町の最重要課題と位置づけ、津波避難施設の建設をはじめ、津波避難路や一時避難地の整備、 防災ラジオの全戸配布など、町全体で「津波防災まちづくり」に取り組むことを決意しました。 

吉田町津波ハザードマップの写真

吉田町津波ハザードマップ

津波避難タワー建設に向けて~津波避難計画の策定~

津波ハザードマップの完成により、想定津波浸水域における住民の具体的な避難対策が必要になったことから、町では、直ちに津波避難計画の策定に着手し、 津波ハザードマップ公表から4ヶ月後の平成24年3月には「吉田町津波避難計画」を策定するに至りました。 

この計画を受けて、GISによる津波避難シミュレーションにより、津波到達時間や避難困難地域の人口、避難経路等から、想定津波浸水域を20のエリア(街区)に分け、 既存の学校やホテルなどの現況施設が活用できない15のエリア(街区)について、津波避難タワーを建設することにしたのです。  

避難シミュレーションによる津波避難タワー建設計画の写真

避難シミュレーションによる津波避難タワー建設計画

建設用地の確保と課題~起死回生の打開策~

津波避難タワーは、当初4年間で15基を建設する計画としていました。しかし、町民に対して津波からの安心・安全を一日も早く提供したいという町長、 そして町職員全員の思いから、当初の計画を大幅に短縮する2年間での全基建設を目標に掲げました。 

その計画を達成する最大の課題は、建設用地の確保でした。一刻も早く工事の着工に移るため、速やかな建設用地の確保が必要でしたが、津波避難タワー1基当たりの避難者数が多く、 施設規模も大きくなることから、整備に必要となる全ての用地の確保には、困難を極めることは明白でした。 

連日様々な検討を重ねた中、町長から一つのアイディアが提案されました。町長は、東日本大震災の被災地を視察した際、 道路上にある横断歩道橋が流されずに存在していたことに気付いたのです。

取組の内容

道路上への建設に向けて

道路上空に避難施設を設けることができれば、用地確保に必要な時間や費用を抑え、工期短縮による早期建設が可能となります。

一方で、これまで例の無い試みであり、解決すべき課題が数多く存在することも容易に想像できました。  

しかし、何としても2年間で15基全ての津波避難タワーを建設するという決意から、町はこの方法を成功させるため、試行錯誤の検討を始めたのです。 

検討委員会の設立

道路上空を利用した津波避難タワーに関しては、全国的にも例がなく、その建設手法の計画に当たっては、設計上の準用基準や安全率の考え方、 整備上の法律的な制約などを一から整理する必要がありました。

そこで、町では町職員に加え、学識経験者、国土交通省、静岡県等の委員で構成する「津波避難施設(道路上)設計技術検討委員会」を平成24年7月に設立しました。 

委員会は、11月までの約4ヶ月間で計3回にわたって開催し、法令・建設手法・構造等のあらゆる面から検討を重ね、 その成果を「道路上に設置する津波避難タワーの標準仕様設計基準」としてとりまとめるに至りました。 

検討委員会開催の様子の写真

検討委員会開催の様子

横断歩道橋との兼用工作物

道路上に津波避難タワーを建設するためには、通常の建築基準法はもちろん、道路法の基準もクリアしなければなりません。 

検討委員会では、関連する全ての法令をクリアするために検討を重ねた結果、道路施設である横断歩道橋に津波避難施設の機能を兼ね備えた「兼用工作物」として整理をしました。 これにより、横断歩道橋でもあり、津波避難施設でもある道路上の津波避難タワーを建設することが可能となったのです。  

最悪の状態にも耐え得る構造

検討委員会がまとめた「標準仕様設計基準」における構造上の特徴として、次の点があります。 

  • 地震と津波が同時に発生して衝撃を受けても、元の状態に戻る設計(弾性設計)となっていること
  • 液状化を考慮し、基礎は支持層に到達するまで打ち込むこと
  • 吉田漁港に停泊する最大級の船舶(排水量30t)が流され衝突しても倒壊しない構造とすること

これらを満たす構造として、震度7クラスの地震及び同クラスの余震、大津波、液状化、そして船舶等の衝突が、 同時に発生しても倒壊しない構造の津波避難タワーを建設する設計となりました。 

タワーの建設、そして完成へ~完成式典には大臣も出席~

標準仕様設計基準がとりまとめられた翌月の平成24年12月、町は、3基の津波避難タワー建設に着手しました。このうちの2基が、 平時は横断歩道橋として利用できる“全国初の道路上の津波避難タワー”です。約9ヶ月間の工期を経て、平成25年9月、遂に3基のタワーが完成したのです。  

3基の完成を祝して実施した完成式典には、太田昭宏国土交通大臣をはじめ、国会議員や静岡県知事など多くの方々の御参加をいただきました。 

先行3基の建設と併せ、残る12基についても随時発注し、平成25年、町では15基の建設工事が同時に進行しました。 

そして、平成26年3月には、当初の予定どおり15基全ての津波避難タワーを完成することができました。この瞬間、「町民の命を守る対策」に、ひとつの結果を示すことが出来たのです。 

15基全ての完成と、命を守る対策の完了を祝して開催した完成式典には、古屋圭司内閣府特命担当大臣(防災)の御出席をいただきました。 

先行3基の完成式典の写真

先行3基の完成式典。太田国土交通大臣が出席

全基完成後の式典の写真

全基完成後の式典。古屋内閣府特命担当大臣(防災)が出席

今後の課題

真に安心して住み、働き続けることのできる町を目指して

限られた建設コストや時間的制約の中で、その建設に活路を見出した“道路空間を活用した津波避難タワー”は、多くの関係者の協力をいただいて完成するに至りました。 

特に、検討委員会における「標準仕様設計基準」は、道路上の津波避難タワーに関して、技術的にも確立されていない分野の先駆けとして、一定の成果があったものと考えています。  

東日本大震災以後、町全体を包んでいた津波からの恐怖に対して、一日も早く安心・安全を提供したいという思いからスタートした「命を守る対策=津波避難タワーの建設」は、 道路上の活用という方法の成功もあって、震災から丸3年、タワー建設開始から1年4ヶ月という期間で、完了することが出来ました。

しかし、これは町の掲げる「津波防災まちづくり」の第一歩にすぎません。町では、次のステージとして、財産・生産活動を守る対策(防潮堤の強化等)の検討をすでに始めています。 

企業の生産活動を維持し、町民が真に安心して吉田町に住み、働き続けることができる町を目指して、これからも町の津波防災対策は続きます。 

道路上に建設した津波避難タワーの写真

道路上に建設した津波避難タワー