「神流マウンテンラン&ウォーク」スタートの様子
群馬県神流町
2872号(2014年3月10日) 神流町長 宮前 鍬十郎
本町は、群馬県の南西部に位置し、関東一の清流とも言われる「神流川」が流れ、林野面積が町総面積の88.3%を占める自然豊かな町であります。
また町の中央部を東流する神流川の両岸は、極めて急峻な地形が連続し、支川が複雑に入り組んでいることから、その間のわずかな緩斜地に集落が点在しております。
産業については、農林業が主体であった産業形態も資材価格の低迷や従事者の高齢化、後継者不足等により衰退してしまい、 商工業においても四方を急峻な山々に囲まれていることから広大な用地の確保が難しく、僅かな平地に中小企業が点在しているのみであります。
交通については、町の中央を走る国道462号が交通の大動脈となっており、これに3県道が接続し、併せて国道299号が埼玉県へ通じております。本町には鉄道はなく、 唯一の公共交通機関である路線バスが、自家用車を利用できない交通弱者の足の確保、通勤、通学など地域住民の日常生活にとって必要不可なものとなっておりますが、近隣の市街地、 最寄駅までは車でも1時間程度を要してしまいます。
このようなことから、進学・就職を機に転出する町民も多く、過疎化・少子高齢化が急速に進行し、町の高齢者比率は53%を超えております。 国立社会保障・人口問題研究所が発表した「将来推測人口」によると、2035年には神流町の高齢化率が日本一となると推計されました。
本町は、人口2,242人(平成26年2月1日住基)の小さな町ですが、観光客を温かく迎え入れる人情味あふれる町民と、雄大な自然という2つの大きな財産がありますので、 これらを核として、観光事業の充実化や都市交流の促進などを積極的に推進し、町の活性化へと発展させることができる活性化策を模索しておりました。
そんな中、群馬県藤岡行政事務所(現藤岡行政県税事務所)職員と鏑木毅さん(当時、群馬県庁職員。現プロトレイルランナー)が来庁し、 町の活性化を目的に「トレイルランニング大会」の提案を持ちかけてくださいました。
しかし、聞いたこともない言葉にそこにいた誰もが「トレイルランニング」って何?という状況でありました。話を伺ってみると「トレイル」とは、登山道や林道など、 場所の高低に関わらず、舗装されていない未舗装道を意味し、そこを走るスポーツを「トレイルランニング」(以下「トレラン」という。)ということがわかりましたが、 大会を開催するに当たり参加費を支払ってまで山を走る人がいるのかと半信半疑の状態でした。
ただ、詳細を聞いていくうちに、先に述べた大きな財産を最大限活かせるのではないかということで、トレイルランニングを通して町の活性化を目指すこととなりました。
「トレラン」というものがどのようなスポーツなのかは理解できましたが、何の知識もありませんので、 これを大会にするためには非常に多くのことを検討しなくてはなりませんでした。
そのため、町民の方にもトレランを知ってもらうことから始め、実行委員長に神流町長、プロデューサーに鏑木毅さんを迎え、17の地域団体が参加する実行委員会を発足いたしました。
何もわからない状態ではありましたが、 群馬県藤岡行政事務所の全面的なバックアップをいただきながら、「神流町らしさ」を全面に押し出したオリジナルの大会を作り上げるため連日会議を開催し、 来町者を歓迎する様々なアイデアが提案されましたので、実際に行っている特徴的な取り組み内容についてご紹介いたします。
トレイルランニングに欠かすことのできない、コースの選定と整備です。
現在は、50㎞を含めた3つのカテゴリーがありますが、当初は27㎞と40㎞の2つのカテゴリーでした。長距離の山道を周回コースとするために、山に詳しい町民や、 高齢者に古道を聞いて、何日も何日も山に入り、既存する登山道と併せコースをつないでいきました。古道といっても、崩落や倒木などがひどい箇所がたくさんありました。 さらに希少植物がある山道を大勢の選手が走ることから、自然保護団体にも協議し助言をいただきながら、コースとして使用できるかを判断、 その後大会に適した距離になるようコース設定をしていきました。
コースが決まったら、町内外からもボランティアを募り、倒木の撤去や草刈り、選手が道に迷わないよう目印のリボンや案内板等を設置するコース整備を行いました。 ほとんど人の入ることのない古道や道のないところに道を作ったりしましたので、初めのコースづくりは大変な苦労となりました。また、各山々をつなげた道が整備できたことから、 この大会以外にも登山道として利用することができ、観光面でも活用できるようになりましたので、ハイキングコースとしても多くのお客様に利用していただいております。
トレイルランニング」コース選定
コース上には、エイドステーションといわれる選手の休憩所を設けております。そこでも「おやき」や「柚の甘漬」など地元の食材を使ったものを提供しております。 また、コース上で一番の人気エイドが、標高1000mに位置する「持倉」という集落でのエイドです。
持倉集落は、人口12人、高齢者比率100%のいわゆる限界集落ではありますが、おじいちゃん、おばあちゃん達がそこの畑で作り、 採れたものを使った手打ちそばや花豆が選手全員に振る舞われ、これを楽しみに参加される選手の方もいらっしゃいます。
標高1000mに配置された「持倉エイド」(休憩所)
本大会では、空気を入れて簡単にできるドーム型のゲートは使わず、昔神社のお祭りなどで使っていたという「杉の葉」のゲートを造っております。
材料となる杉の葉は、町内の間伐した杉を所有者から譲っていただき、トラックや工具なども町民の方の協力により造り上げております。
大会当日は、このゲートをバックに選手全員のゴール写真を撮り、後日ゴール写真入りの完走証を完走者全員に配布もしております。
杉のゴールゲート
選手に配布する参加賞についてですが、押し花のプレート、木製ネームプレート、地域振興券を配布しております。
押し花のプレートは、商工会女性部の方が中心となり作製していただいておりますが、材料となる押し花も何カ月も前から準備し、一つ一つ押し花絵を作り、プレートにしていきます。
木製のネームプレートは、ナツツバキ(シャラの木)を使用します。資材の提供、材木の切断など、町民の方のご協力をいただき作製します。 記念にオリジナルロゴの焼き印を押しますが、これも町民の手作り。選手の名前を一人一人書き入れ、配布しております。
押し花のプレートもネームプレートも一枚一枚作製するので、非常に時間のかかる作業ではありますが、町民の方が、記念になればと心を込めて作製してくれます。
地域振興券は、参加費の中から1000円分を選手にキャッシュバックし「1000かんな」という大会期間中限定の地域振興券として発行しております。
「神流マウンテンラン&ウォーク」は「地域の活性化」が最大の目標でありますので、極力町内で買い物をしていただこうと考案したものです。
手作りのネームプレート
本町にお越しいただくせっかくの機会ですので、神流町また田舎というものを体験していただこうと豆腐作りやこんにゃく作りなど5つのメニューの「山村体験」を用意しており、 希望される選手には体験をしていただいております。
また、選手を迎え入れ、歓迎したいということでウェルカムパーティーを開催しております。ここでは、町内のお母さん方を中心に神流町の郷土料理を振る舞い、 お袋の味を選手へ提供してくださいます。お酒は、手作りの竹コップ・竹徳利を使用し、「イワナの骨酒」など飲み物でも神流らしさを追求し、提供しております。
こうした町民の方の温かい歓迎が人気を呼び、ウェルカムパーティーを目的に大会に参加される方もいらっしゃるようです。今では、 会場である小学校体育館内を歩き回ることができないほど、参加希望者が増えております。
ウェルカムパーティー
本町には、宿泊施設が3件(旅館1軒、民宿1軒、公共の宿泊施設が1軒)のみであり、前日からの参加を希望する多くの選手を受け入れることは困難な状態でした。 そんなとき町民の方から「うちに泊めてもいいよ」という言葉をきっかけにボランティアという形で民泊制度を取り入れ、今では40件ものお宅で選手の受け入れをしていただいております。
また、この民泊制度を通し、町民と選手との交流が生まれ、大会以外にも新たな交流が始まりました。
町村と選手との交流が生まれる民泊
平成21年に第1回大会を開催いたしましたが、人情味あふれる町民の温かなおもてなしが人気となり、 回を重ねるごとに700名の定員が十数分で締め切りとなってしまうほど大変人気の大会となりました。ランナーのためのインターネットサイト「ランネット」でも、 4年連続トレイルランニング部門全国1位の評価もいただいております。
これだけの高い評価をいただけるのも、子どもから高齢者、男性、女性がそれぞれ得意分野を活かし、それを実行しながら大会に関わっていただいたことや、 大会を成功させる以上に来町された方を歓迎したい、楽しかったと気持ちよく帰ってもらいたい、そんな町民の方の気持ちの賜物だと痛感しております。
また、こういった町民の方の取り組みが評価され、平成24年度には過疎地域自立活性化優良事例として総務大臣表彰を受賞いたしました。
今までは各種事業やイベントにおいては、比較的行政主導で物事を進めることが多くありましたが、神流マウンテンラン&ウォークを通じ、 行政主導から町民主導へ移管のきっかけづくりにもなったと感じます。さらには人情味あふれる町民・地域と行政が一体となったイベント作り、一過性でない、年間を通じた交流人口の増加など、 こういった多くのことを感じ、実践することができました。
冒頭で申し上げたとおり、本町は高齢者比率が53%を超えており、過疎化・高齢化が進行する限り、高齢者比率の増加や人口流出は益々深刻な問題となってしまいます。
本大会の一番の目的は「町の活性化」です。ただ、活性化といっても町が元気になることが活性化なのか、財政が潤うことが活性化なのか、人口が増えることが活性化なのか。 最終的な目的は列記したものをクリアすることだと思います。
過疎地域ではありながらもイベントだけではなく、日常生活でも一人一人ができることを行い、町外の方との交流が広がり刺激を受けることは、 町への誇りと元気を持つ「活力ある町」へとつながり、それを継続していくことにより町民主体の地域活性化につなげていきたいと強く思います。
イベント終了後の記念写真