棚田「西友枝大入地区」
福岡県上毛町
2869号(2014年2月10日) 上毛町役場 企画情報課
全国的な少子高齢化の波は、上毛町においても山間の集落ほど著しく、過疎化は深刻さを増しています。これから10年先、あるいは50年先という中・長期の視点で考えたとき、 皆さんは生まれ育った故郷にどのような未来を描くでしょうか。近年、「ヒトが元気」という客観的評価が聞かれるようになった上毛町では、豊かな自然環境に育まれた農林産物をはじめ、 古い伝統文化を大切に育む地域活動が盛んに行われてきました。平成19年度には、早稲田大学との連携により住民ワークショップを開催し、 上毛町コミュニティ計画という住民による地域のための計画書が完成しました。この計画書は、町総合計画を補完するものとして位置付けられ、計画に沿った地域活動を応援するため、 平成20年に度上毛町地域づくり活動事業を創設しました。これは、地域づくり団体の後方支援を目的とした制度であり、団体に対して初動3年間、活動に必要な経費や情報発信、 合同イベントの開催等の支援を行っています。現在、町認定の「地域づくり活動団体」は38団体。住民自らの特技を活かし、「景観保全」「安全安心」「文化継承」「交流活動」「情報発信」などのテーマで、 地域の元気のために楽しみながら活動を続けています。こうした活動の源には、地域の皆さんが考える「大切にしたいもの」や「無くしてはいけないもの」が存在し、 それは住民皆さんが誇る地域の宝であると考えています。一人ひとりの誇りを集めて、その価値を内外に伝えてくことができれば、それこそが真の“上毛町らしさ”であり、町の魅力であると考えます。 過疎化に伴う課題は様々ですが、特に、後継者や担い手不足は重要なテーマといえます。地域の誇りを後世に受け継ぎ、いつまでも元気な町として輝き続けるために、今、 将来を見据えた垣根のない横断的で総合的な定住促進対策が求められています。
上毛町コミュニティ計画づくりの住民ワークショップ
全国的に、減り続ける人口、増える空き家、地方自治体は軒並み定住促進制度を掲げて、空き家バンク制度や奨励金、短期滞在体験、交流イベントなど様々な対策を講じています。 上毛町においても、「住まい」という切り口で、高校跡地を活用した宅地化事業を行っており、コモンパーク上毛彩葉という名称で、電線の地中化や街並みの意匠を統一するなど、 花と緑の落ち着きのある美しい住宅街を形成しています。現在、38区画(全76区画)の分譲を行っています。また、空き家バンク制度が平成25年10月にスタートし、利用者も増えています。その他、 暮らしを応援する三世代同居支援事業や、東九州自動車道整備に伴うスマートインターチェンジの設置など、快適な生活が実感できる環境づくりを推進しています。特徴的な取り組みとしては、 定住をキーワードに“上毛町らしい”暮らしや仕事の在り方を追求する事業として、平成24年度から、住みたい上毛町推進プロジェクトを実施しています。これは、意欲ある住民の地域活動を基盤とし、 持続可能な町づくりの仕組み(=好循環)を構築することを目的としたものです。
地域資源を活用した交流・暮らし・仕事の“好循環”を作り出すために、2つの事業を展開しています。事業の主役はもちろん地域住民です。 基幹産業である農業を中心とした上毛町らしい生業づくりの事業「こうげまち雇用続々プロジェクト(愛称「こうげのシゴト」)」と、 地域貢献や町づくりに関心のある都市住民などを誘致する事業「お試し居住プロジェクト」です。これらは車の両輪として位置付けています。
上毛町ブランド創造協議会(町、商工会、地域づくり協議会などで構成、平成24年2月設立)が主体となり、厚生労働省の実践型地域雇用創造事業を実施しています。 地域の生業を応援する(=商売繁盛のための人材育成)ことで、上毛町らしい雇用創出を目指しています。具体的には、各種研修やイベントを開催し、 既にある原石(=農林産物、加工品、人材など)に磨きをかけ、商品化するための知識や技術を、料理家や建築家、デザイナーなどの外部専門家が、講師としてアドバイスを行っています。 ここで磨かれた商品や人材などを上毛町のブランドとして消費者に届け、相応の対価が得られることで雇用が生まれるという好循環が定着することを目標としています。
研修会の様子「ブログを活用した情報発信」
昨年度の成果としては、グリーンツーリズムに取り組む中山間地域の東上有田地区で、5軒が旅館業法の民宿許可を取得しました。現在は、 山野草を活用した石釜調理や散策活動などの体験プログラムの研究を行っています。そのほか、12の研究テーマがあり、 農業者・特産「川底柿」の生産組合・廃校跡地活用の交流センター・NPO法人などの地域団体、さらには、からあげ専門店・温泉館・道の駅・天然醸造老舗醤油蔵などの事業所も参加しています。研修では、 それぞれコンセプトワークを通じて素材や活動の価値を探り、課題の抽出と目標設定などを行っています。参加者自らが活性化への意欲を持ち主体的にステップアップできるよう、サポートを行っています。
「山野草のフィールドワーク」の様子
上毛町の魅力や課題などを外からの目線で掘り起し、町の活性化を加速させる取り組みとして、“上毛町暮らし”の居住体験プログラム「上毛町ワーキングステイ」を実施しています。 上毛町について予備知識のない町外の方からの率直な意見や提案などを定住促進制度にフィードバックすることで、より“上毛町らしい”個性を活かした制度設計を目的とし、試行錯誤の中、 手探りでスタートしました。居住体験の物件をIターン希望者にとってハードルが高いとされる山間地域の集落内に設定し、地域行事への参加を促すことで、相互のコミュニケーションや、 受け入れ側となる地域住民の反応についても検証を行っています。
空き家や古民家を活用した取り組みは、近年ではめずらしいものではありませんが、特徴としては、 ①インターネット環境さえあれば場所を選ばない仕事(IT関連事業者やデザイナーなど)をしている人、かつ、②町づくりや地域貢献などに意欲のある人を対象としていることです。 その理由としては、①上毛町近郊での就職先は限られており、都市圏への通勤も不便であるため、上毛町における新しい働き方のモデルづくりを模索しています。②働き方や暮らし方など、 田舎に対するニーズの多様化が挙げられます。メディアなど様々な媒体で田舎の特集が多く見られるように、実際に「地域と関わる仕事がしたい」「町づくりに参加したい」という都会の若者は増えています。
何よりもまず、地域住民がいつまでも元気に活躍できる仕組みが必要だということを念頭に、突飛でありながらも現実的で、より大きな効果が生まれる制度を目指しました。 ワーキングステイとは、その名のとおり“働きながら暮らす”ことに重点を置いたもので、体験参加者自らの仕事の持ち込みに加え、クリエイティブな発想とそれぞれのスキルに応じて、 町に提言することを参加条件としています。その結果、上毛町の資源を活かした交流・子育て・教育・通信・空間づくりに至るまで、具体的な提案をいただくことができました。中でも、 田舎に不足がちなインターネット環境の整備については、すぐに地域づくり協議会が取り組み、事務所をコワーキングスペースとして開放しました。また、 ワーキングステイ参加者の一人であるカメラマンが「KOUGE」という観光ガイドブックを自主的に制作するなど、想像以上の成果に繋がっています。さらに実際に上毛町への移住を希望される方も現れています。
ワーキングステイ参加者が制作したガイドブック「KOUGE」
ワーキングステイは、田舎への移住を考える方だけでなく地域住民にとっても、新たな気づきや刺激となり、外部人材積極誘致の気運が高まっています。これまでに全国から7組が参加しました。 特に、平成24年度は3組の募集に対して20組の応募があり、話題となりました。新しい上毛町暮らしのモデルづくりの確かな一歩となっています。
居住体験物件「雁股庵」
平成25年度から、お試し居住プロジェクトの発展形として「田舎暮らし研究村構想」がスタートしました。 住みたい上毛町推進プロジェクトの核となる構想でもありコンセプトである“好循環”を実現するために、外部の専門性や活力、客観性を取り入れる仕掛けをビジョンとともに示しています。 ますます深刻化する地域課題と、能動的な外部人材のニーズのマッチングを促進することで、多様化する現代社会において、新しいアイデアとともに、適宜、町に相応しいプロジェクトを提案し、 実施していきます。例えば、農業応援・担い手育成・商売繁盛アドバイス・新しいビジネスの創出・空き家の活用など、これらは全て賑わい創出の源であり、“定住”という分母で横断的な取り組みを促進します。 目指すのは、埋もれている魅力を地域住民の誇りと自信に変えることです。小さな好循環を起こす“種”を同時多発的に蒔き、やがて大きな“笑顔の連鎖”へと繋がっていくこと、それが構想の研究テーマです。
都市部との交流が盛んで、素晴らしい眺望を有する東上有田地区に研究サロンを開設します。ここからは、遠く周防灘から山口県まで見渡すことができます。 研究サロンは、交流・移住・定住促進のためのシンボルであり、地域で暮らすことへの理解を深め、これからの田舎での暮らし方や働き方を、新しいアイディアと共に皆さんで考える場所です。 移住希望者や交流体験参加者などが最初に訪れる“入口”としてスタッフ(研究員)が常駐し、地域への橋渡し(紹介)を行います。誰もが、 いつでも好きなときに交流や文化体験ができる場所として広く一般に開放していきます。
また、様々な専門家が集まる場所として、地域内外のあらゆる分野において“頼れる拠点(田舎のシンクタンク)”を目指し、定期的に、研修会やイベントなども開催します。
田舎暮らし研究サロン「改修中の古民家」
研究サロンの設置には、長年、空き家になっていた築100年を超える古民家を活用します。今回は、古民家の改修を、学生と地域が参加する教育プログラムとして実施しています。改修を通じて、 多くの方々に愛着を持って親しんでいただける空間づくりを目指しています。現在、公募で集まった大学生(福岡・北九州を中心に建築学科などに在籍する8人)が、建築士に学びながら、 設計から施工までを行っています。地域内外の皆さんにとって利用しやすい空間になるよう、大学生がいろいろな方に聞き取り調査をし、議論を重ねています。これまで2泊3日の現地合宿を3回行い、 設計や施工準備を行ってきました。地域の方もサポーターとして大学生を支えています。2月下旬から約1カ月間、施工合宿を行う予定です。この取り組みは、空き家活用のモデルづくりとしても期待されています。
田舎暮らし研究サロンの設置「町長に対するプレゼンテーション」
東日本大震災以後、自然豊かな場所や、大都市を離れた安全な場所へ移住を希望する人が増えています。一方で、新しい土地に転居して暮らし続けるためには、住居や仕事だけでなく、 地域との関係づくりなど様々な課題や不安も抱えています。そして、その不安は受け入れる側も同様です。地域住民が求めるものと、移住者の思い描くものにはズレがあることも多いようです。
研究サロンでは、地域の皆さんと移住希望の方との橋渡しをしながら、地域に望まれる形での移住をお手伝いしていきたいと考えています。交流をきっかけにお互いが顔見知りになり、 信頼関係が生まれて初めて、空き家を貸したり移住を受け入れたりする可能性が見えてきます。その時間のかかるプロセスを皆さんと一緒にじっくりと取り組んでいくことが、今求められています。
田舎の暮らしと働く体験ができる機会を提供し、上毛町において新しい働き方を検証するワーキングステイを継続、発展させていきます。成果は、施策にフィードバックするとともに、 より現実的なファンとリピーターの増を図ります。
構想の“考え方”や“動き”を的確に伝え、町に必要な人材を呼び込むために、奇抜で斬新なウェブサイトを構築します。移住や交流、定住施策のポータルサイト化を視野に、 Iターン者など“上毛町暮らし”の実践者を中心に、全国の関心層に届くコンテンツを戦略的に発信していきます。
地域と都市住民との橋渡しをシステム化します。拠点づくりとともに構想の中心となるプロジェクトです。都市住民(=弟子)を対象に、就農・起業・体験・研修・地域貢献など、 数々のニーズをデータベース化し、町の農業者や加工グループなど(=師匠)地域が抱える課題とマッチングさせていきます。
町を訪れる方が、地域の皆さんと活発に交流し、互いに助け合い、 刺激し合うきっかけをつくることを短期目標とし、“いつまでも元気なまち”を実現する“笑顔の好循環”の仕組みをつくることを将来目標としています。
田舎暮らし研究村構想「概要図」
田舎の魅力は地域の個性であり、他所と比較するようなものではないと考えています。自らの足下にある魅力を再認識するとともに、“上毛町らしさ”の価値を皆さんで共有し、 伝えていくことが大切だと考えています。地域を誇りに思う人が、活き活きしている町は輝いています。 そこに持続可能な体制を構築することができて初めて「いつまでも元気な上毛町」が実現すると考えています。また、地域のコミュニティは一定の流れに沿って動き続けています。 地域を中心とした好循環が生まれることで、その仕組みが定着し、波及していくものと考えています。住みたい上毛町推進プロジェクトは、その「きっかけ」となる仕掛けを提案し続けていきます。