ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > 町村の取り組み > 熊本県津奈木町/アートを生かした住民による住民のための町づくり

熊本県津奈木町/アートを生かした住民による住民のための町づくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年1月13日
つなぎ美術館の写真

つなぎ美術館


熊本県津奈木町

2865号(2014年1月13日)  津奈木町長 西川 裕


町の概要

津奈木町は熊本県南部に位置し、海と山の豊かな自然に囲まれています。温暖な気候のためさまざまな品種の柑橘類が栽培され、新鮮な魚介類も特産品となっています。 総面積33.98k㎡の土地には展望所として整備された城跡の舞鶴城公園があるほか、江戸時代後期に架けられた大小さまざまな石橋が点在しており、 才知に長けたいにしえの人々の生活を偲ぶことができます。

緑と彫刻のある町づくり

水俣病の被害地域でもあった津奈木町は、文化による地域再生を目指して昭和59年に「美術品取得基金」を創設し、 佐藤忠良氏や岩野勇三氏など優れた彫刻家の作品を公共施設など町の屋内外の要所に設置する「緑と彫刻のある町づくり」に取り組んできました。その数は現在では15体を数え、 今年も新たな作品の設置を進めています。また、彫刻の設置と平行して公共施設に絵画を展示するなど、町民が美術と接する機会を設けることに努めてきました。 これらの活動の集大成として平成13年に開館したのがつなぎ美術館です。 

野外彫刻のひとつ岩野勇三作「風ん子」の写真

野外彫刻のひとつ岩野勇三作「風ん子」

住民参画型アートプロジェクト

著名な作家の作品展を開催するつなぎ美術館には、町外から多くの美術ファンが訪れました。交流人口の増加という点では町外からの来館は歓迎すべきことですが、 町立であるからには町民の利用をさらに増やす必要がありました。しかし、「緑と彫刻のある町づくり」の実績があるとはいえ、 やはり都市部に比べれば美術に接する機会が少ないのが実情です。さらに、大人はすでに趣味嗜好が完成されており、新たに美術の魅力を理解してもらうことは容易ではありません。 そこで、町民の日常と美術の距離を縮めて関心をもってもらうための方策を考えることになりました。その結果、 美術を作品としてだけではなく地域資源の再評価や地域の課題の解決を図る手段として機能させるプロジェクトが立案されたのです。これは、現代美術作家に津奈木町に通ってもらい、 あらかじめ設けられたテーマに沿って町民と共に課題を探し、 その解決のために地域資源を活用した表現活動を考え実践していくというもので「住民参画型現代美術プロジェクト」(2012年に住民参画型アートプロジェクトと改称)と名付けられました。 また、津奈木町を拠点に活動する諸団体のメンバーによる実行委員会を編成し、あくまでも町民向けの社会教育事業の一環として進めていくことになりました。そのため、 招聘する現代美術作家には作品の質だけではなく実行委員や一般参加者に気づきを促すファシリテーターとしての能力も求められます。 

最初の年は、誰もが参加しやすいように虹をテーマに地域で人々と共同でパフォーマンスなどの表現活動を行うレインボー岡山氏を招聘しました。 最初の月にワークショップの内容を決め翌月はその準備をし、さらにその翌月に一般参加者を迎えてワークショップを実施します。これを季節毎に4回行いました。

春は町のランドマークでもある奇岩、重盤岩を舞台にした「重盤岩がキャンバスだ!」。山中を駆け巡りながら自然と人間の手による創造物の差異を体感しました。 夏の「眼鏡橋レインボー大作戦」では1000個の7色の風船を県重要文化財でもある石橋から滝のように落としたあと、川面に浮かべて虹の橋をつくりました。 秋は野外彫刻の中でも大きすぎて視線が上にいかずほとんど視界に入らない野外彫刻を虹色に飾り付けて目立たせようとする「羽ばたけ 夢のつばさ!」を実施しました。 高所作業車の提供があるなど活動の輪は民間企業も巻き込みました。  

津奈木ハートマン計画の写真

「津奈木ハートマン計画」

いよいよ1年間の活動のフィナーレともなる冬。 これまでの活動の楽しさをすべての町民に伝えたいと思った実行委員は5000人の全町民が同時に手をつなぐパフォーマンスの実施を検討しましたが、やはり実現は困難でした。 そこで考えだされたのが、可能な限り多くの町民の手形を集めてつなぎあわせ美術館内の壁一面に貼るという「津奈木をつなげ!虹の橋」でした。 レインボー岡山氏と実行委員は町内の幼稚園やさまざまな催し物にでかけ虹をイメージした7色の画用紙1300枚に1300人分の手形を集め、町内外で話題となりました。 

2年目は山の木々をテーマにした「TSUNAGI光と風の回廊」。この年から2012年まではファシリテーターを務めるアーティストの個展を秋に開催しました。 ワークショップと秋の展覧会を連動させることで実行委員や一般参加者が美術作品そのものへの興味をもちやすくなります。

TSUNAGI光と風の回廊の写真

「TSUNAGI光と風の回廊」

3年目は地域の陶土を使って町の未来像をつくり出す「大地のメモリア」。

大地のメモリアの写真

「大地のメモリア」

4年目は閉校となった海の上の小学校を活用した「AKASAKI海想日誌」。

AKASAKI海想日誌の写真

「AKASAKI海想日誌」

5年目は熊本県立劇場との共同事業で、町のオヤジたちが結成したオヤジダンサーズの公演の舞台美術を町民がつくりあげる「TSUNAGIハート!アート!パラダイス!」。

TSUNAGIハート!アート!パラダイス!の写真

「TSUNAGIハート!アート!パラダイス!」

6年目となる今年は耐震問題により立ち入りができなくなった海の上の旧小学校に全国の人々の水曜日の物語を集めて転送により交換する「赤崎水曜日郵便局」が進行中です。 

赤崎水曜日郵便局の写真

「赤崎水曜日郵便局」

さいごに

実行委員の任期は1年ですが継続して務める委員も多く、その周囲の町民がさらにサポーターとして活動を支えるなど、プロジェクトは少しずつ町民の間に浸透してきています。 このような地域に根ざした住民主体の活動が評価され、つなぎ美術館は平成25年度地域創造大賞(総務大臣賞)を受賞しました。 

多くの人間が少なからず表現という行為に関心を抱いているという実感は住民参画型アートプロジェクトを通じて得られており、 このことは美術が都市部の専有物ではないことを示しています。美術は通時性と共時性を兼ね備え、多くの人、物、場所をつなぐ能力を秘めています。今後もつなぎ美術館は、 展覧会や住民参画型アートプロジェクトを通じて日常における美術の可能性を追究しながら地域の活性化に努めてまいります。