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三重県大紀町/安心・安全なまちづくりを目指して~津波災害から生命を守る「錦タワー」~

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年1月6日
錦タワーの写真

防災のシンボル塔「錦タワー」


三重県大紀町

2864号(2014年1月6日)  大紀町長 谷口 友見


大紀町は三重県の中南部に位置し、東西約24.8㎞、南北約26.3㎞で総面積233.54k㎡のうち約91%を山林が占め、 地形は全般に急峻で町内を流れる1級河川の宮川や大内山川、 藤川沿いに民家と耕地が散在する農山村部と海に面した僅かな土地に民家が集中する沿岸部からなる典型的な農山漁村です。その海と山が織りなす自然は豊かで美しく、 町内のほぼ全域が奥伊勢宮川峡県立公園にも指定されており、風光明媚な町として知られています。

当町は、地勢、産業、生活文化、購買動向などの日常や広域行政の取組みなど共通点を有する大宮町・紀勢町・大内山村の2町1村が平成17年2月14日に合併して誕生し、 人口が約1万人で、漁業、畜産業、林業、農業の第一次産業が盛んな海と山の幸に恵まれた町です。

町内には、伊勢神宮別宮の「瀧原宮」が鎮座し、全国でも有名な松阪肉七保牛の生産地であり、酪農も盛んで大自然の中で育てられた乳牛により作られた乳製品は有名です。 

また、沿岸部は熊野灘に面したリアス式海岸で豊かな漁場に恵まれ、ブリ大敷(定置網)漁は県内有数の水揚げ量を誇っています。 

まちづくりでは、「人の命は何よりも大事」「子どもは町の宝、お年よりは町の誇り」を町是として掲げ、住民と行政が一体となって、人の命を尊び、 子どもを育み、高齢者を敬う、助け合いの心に満ちたまちづくりを目指しています。

安心・安全な 災害に強いまちづくり

平成23年3月11日に発生した東日本大震災では、日本周辺における観測史上最大の地震が発生し、想定をはるかに超えた巨大津波が、 東北地方と関東地方の太平洋沿岸部に壊滅的な被害をもたらし、多くの尊い人命が奪われたことは記憶に新しいところです。 

当町においても、唯一沿岸部に位置する錦地区におきまして、昭和19年12月7日に発生した東南海地震の大津波により、 64名の尊い人命と多くの財産を失うという大変つらい経験をしました。 

また、平成24年度に国の中央防災会議から発表された南海トラフを震源とする巨大地震による新たな津波浸水想定では、平均津波高13m、最大津波高16mという、 これまでの想定津波高8mを大幅に超える愕然とするものでした。  

このことから「いつ起こってもおかしくない」とされる大地震に備え、その惨禍を教訓として、住民一人ひとりの防災意識を高め、 平和な住民生活を確保することを目的に、毎年12月7日を「大紀町防災の日」と定め、町内全域を対象とした避難訓練を実施し、安心・安全な災害に強いまちづくりを進めてきました。 

「大紀町防災の日」避難訓練の写真

「大紀町防災の日」避難訓練

取組みの内容

安心・安全なまちづくりの基本は『命』です。 

当町の防災対策への取組みは、この『命』の大切さを基本に考え、「人の命は何よりも大事・一人の犠牲者も出さない」ことを目標として、 町村合併以前の旧紀勢町で昭和61年当時から、防災対策を進め全国に先駆けて「防災対策実行委員会」を組織し、国、県からご指導ご支援をいただきながら、 町内各地へ住民の皆さんが安全で迅速に避難することができるよう、緊急津波避難所の整備をはじめ、防災教育等の啓発活動や各種訓練を実施するなど防災対策を推進してきました。 

また、現在の大紀町においても「大紀町防災町民会議」を組織し、防災対策事業の計画作成及び各種事業を継続して実施しています。 この組織は町長を本部長として、町内全地区の区長会、婦人会、各小中学校、漁協関係者、消防団員、建設業者などの各種団体の代表者の方など、 多方面から幅広い方々で構成され、緊急性を要する災害時においても即時に対応できる、実効性のある組織編成となっています。  

当町で唯一沿岸部に位置し、津波被害が予想される錦地区には、現在、約2,200人の方々が生活をしています。 

この錦地区では、津波からの緊急避難対策として、「地震発生後5分以内で安全に避難できる高台(海抜約20m地点)の確保」を目指し、 現在31ヶ所の津波避難所を整備しています。 

平成10年度に完成した緊急津波避難塔『錦タワー』は、津波発生時の緊急避難所としてだけでなく「災害は忘れたころにやってくる」のことわざどおり、 自然の凄さ、災害の怖さを風化させることがないよう防災のシンボル塔として、また、防災活動の拠点として建設しました。 

この『錦タワー』の構造は、鉄筋コンクリート造5階建で、基礎部分は地盤改良によって約6mの深さにあり大変強固なもので、 耐震設計もしっかりとされています。また、形状は大津波により流出する船舶等の衝突時の衝撃を緩和できるよう工夫され円柱状になっています。各階の用途は、 1階が公衆トイレと消防用倉庫、2階が地区住民の皆さんの憩いの場として活用できる畳敷きの集会室になっています。3階が防災資料館、4階、5階が避難所となっており、 最上階の5階で海抜20m20㎝の高さとなっています。 

また、停電時には最上階に備付けの発電機により非常用電源を確保することができるほか、救急箱、救命胴衣、救助用ロープ、 毛布などの防災用備品を備えています。タワーへの避難用入口は、らせん状の外階段で最上階まで昇ることができ、タワーが面している全ての道路、 どこからでも避難できるよう3ヶ所に階段入口が設置してあります。 

この『錦タワー』は平成11年度に消防庁主催の第3回防災まちづくり大賞(消防科学総合センター理事長賞)を受賞し、現在では防災対策の先進地事例として、 国内外並びに全国各地から官民問わず多数の方々が視察に訪れ、又、国の防災資料としても活用されています。

そして、平成24年度には第2の緊急津波避難塔として『第2錦タワー』を建設しました。 

第2錦タワーの写真

第2錦タワー

この『第2錦タワー』の建設場所は、魚市場の近くに位置し、津波が最も早く到達する地区であり、山裾の高台にある津波避難所へは遠く、 大地震により民家等が倒壊し避難路が寸断された場合に、市場で働く方や住民の皆さんが迅速に避難できるように建設しました。構造は鉄筋コンクリート造一部鉄骨造8階建で、 1階が3ヶ所の入口と消防用倉庫、2階が台風、大雨警報発令時などの避難室、6階、7階が津波時の避難室、最上階の8階で海抜23m80㎝の高さとなっています。設備も『錦タワー』と同様に、 停電時には最上階に備付けの発電機により非常用電源を確保することができるほか、救急箱、救命胴衣、救助用ロープ、毛布などの防災用備品を備えています。 最上階までは内階段で昇ることができ、錦地区が一望できる展望所となっています。  

また、『第2錦タワー』の竣工に際しまして、鈴木英敬三重県知事より「命あればこそ幸せも笑顔もおとずれる」のお言葉を頂戴いたしましたので、 記念碑として敷地内に建立しています。 

この2つのタワーは、平常時には階段を利用しての健康維持など住民の皆さんの絆の場として、多目的に活用されています。 

本年度に完成しました、津波避難所の第2釜土避難所、浅ケ谷避難所をご紹介します。 

第2釜土避難所は、既設の釜土避難所の高さが海抜11m27㎝でありましたが、南海トラフ沖巨大地震の想定津波高に対応するために、海抜18m50㎝の箇所に整備したもので、 三重県が施工する急傾斜地崩壊対策事業と同時施工し、施設管理用通路を避難路として供用することで避難に要する時間が飛躍的に短縮され、また、整備費用の軽減も図りました。 

釜土避難所と第2釜土避難所の写真

釜土避難所と第2釜土避難所

また、浅ケ谷避難所も三重県が施工する治山事業との同時施工により整備しています。 

浅ケ谷避難所の写真

浅ケ谷避難所

これらの津波避難所へ向かう避難路の整備については、民家が密集した錦地区の中心部であるため、地震による民家の倒壊や屋根瓦の落下、 ブロック塀の倒壊などにより避難路が寸断されることが考えられ、短時間で大勢の方が安全に避難していただけるよう、複数の避難路を整備する必要があります。 

おかげ様で、避難所付近にお住まいの住民の皆様の温かいご好意によりまして、ご自宅の軒下を避難通路として無償で活用させていただき大変感謝しているところです。 

民家の軒下を利用した避難通路の写真

民家の軒下を利用した避難通路

それぞれの津波避難所へは、2つのタワーと同様に、停電時には備付けの発電機により非常用電源や避難路の照明を確保することができるほか、救急箱、救命胴衣、救助用ロープ、 毛布などの防災用備品を備えています。 

また、平成23年9月に発生した紀伊半島大水害で、当町を流れる大内山川が氾濫し多くの民家が床上・床下浸水の被害を受け、田畑や河川の堤防・護岸も甚大な被害を受けました。 

河川災害復旧については、氾濫箇所の河川改良も含めて対策を施し、堆積土砂の影響も大きかったことから河川内の土砂の撤去などを実施しています。 

その他ソフト面の取組みとしまして、毎年12月7日の「大紀町防災の日」避難訓練では、昭和19年の東南海地震が発生した午後1時40分に、 町内全域一斉のサイレンを合図に避難訓練を行っています。訓練では避難袋を背負った住民の皆さんが、最寄りの避難所へ避難していただき、避難所備付けの救急箱や懐中電灯、 毛布など防災用備品の点検や非常用発電機の使い方を訓練しています。 

避難訓練終了後には、町内各地の自主防災組織の皆さんが消火器を使用した初期消火訓練や防災専門の講師を招いて防災講演会も開催しています。

また、夜間に地震が発生し、大津波が来襲したことを想定した夜間津波避難訓練も実施しています。 懐中電灯を片手に昼間とは違い避難しづらい状況を体験していただくことを目的としています。 

その他では、町内全6校の小中学校が毎月7日を学校防災の日と定め、学校での避難訓練をはじめ、児童生徒が登下校時に発生した、地震・津波からの避難のため、 現在の位置から最寄りの避難所へ自主的に避難する訓練を行うなど、学校・保護者が一体となって防災教育に取り組んでいます。 

又、錦地区の役場錦支所は海抜31mの高台に耐震性にも充分配慮して整備されており、停電時においても3日間程度の電力を賄える程の発電機と燃料を備えております。更に、 支所に隣接した海抜27mの位置には多目的ホールがあり、500名程度の避難者の収容並びに備蓄米を備え、更に隣接した海抜22mのところに保育園が整備されており、 有事の際には併せて活用が可能となります。 

錦小学校登下校時避難訓練の写真

錦小学校登下校時避難訓練

今後の課題

これまで防災対策として避難所整備をはじめ、避難訓練の実施や防災教育等の啓発活動、住宅耐震化の推進など各種事業を進めてきましたが、 防災施設の整備は今年度でほぼ計画が完了する予定であります。 

これからは東日本大震災の大津波を教訓に、粘り強い構造の防波堤などにより、少しでも町内に入る津波の威力を弱め、津波が到達する時間を遅らせることで、 避難する時間を稼ぐことを目的とした減災対策の推進を図ります。 

今後も地元住民の皆様のご理解とご協力を賜り、国、県の関係当局のご指導を仰ぎながら防災対策・減災対策に取り組んでいきたいと考えています。