柳田國男生家 柳田國男は著書の中で「私の家は日本一小さい家だ」
「この家の小ささという運命から、私の民俗学への志も源を発したといってよい」と記しています。
兵庫県福崎町
2863号(2013年12月16日) 福崎町長 嶋田正義
福崎町は、兵庫県の中央部、姫路市の北約20㎞に位置し、人口は約2万人、面積は約46k㎡です。中国自動車道と播但連絡道路のICがあり、古くから交通の要衝として知られた町です。 文化勲章受章者の柳田國男、吉識雅夫の2名を擁しているのが町の誇りです。
柳田國男は民俗学の父として広く知られています。吉識雅夫は造船工学の権威であり、この人の開発した技術によって大型タンカーの造船が可能になったと言われています。
福崎町の特産品は、大麦の一種であるもち麦を素材とする数々のもちむぎ商品です。もち麦は穀類の中でも高タンパク、高ミネラルで、βグルカンという食物繊維の含有率が高いため、 注目されています。もちむぎ麺、もちむぎ素麺「福の糸」、もちむぎカステラ、お茶、焼酎などがあります。
柳田國男は「美しき村」の中で「村は住む人のほんの僅かな氣持から、美しくもまづくもなるものだといふことを、考へるような機會が私には多かった。」と書いています。
この言葉はまちづくりの原点だと思っています。強制されることなく、ほんの僅かな気持ちでいいからよい町をつくろうと行動する人が増える町がよい町になっていくのです。 この言葉を大切にして「自律(立)の心を育て、参画と協働のまちづくり」をメインスローガンに掲げました。そして、それを支える次の4本の柱をたてました。
自律(立)のまちづくり イメージ図
計画を立て実行するには多くの知識と情報が必要です。その知識と情報は、偏見や偏りがあっては困るので、より多方面であることが大切です。
私は人生の中で二つの神話に裏切られた苦い経験を持っています。
一つは小学校時代の神風神話です。日本は神国なので神風が吹き戦争に負けることはないと教えられ、信じた私はすっかり軍国少年となっていました。
二つ目の神話は原子力の安全神話です。原子力は安全で安価で安心なエネルギーだと喧伝され、兵器に使用するのはよくないが、発電には心配がないのではないかと思ってきました。 しかし、3.11の大地震による福島原発事故によって、この思いは吹き飛びました。「科学の心で」としたのは、この苦い思いを反映させたものです。
視野を広く持ち、グローバルに展開することが求められる時代になっています。
もてなしという行為は、相手があって初めて成り立つ行為です。福崎町では二つの意味を持っています。
小さな町ですが、孤独死が何件か発生しました。絆が弱くなりかけているのです。隣近所が声を掛け合い、仲良く助け合い、地域コミュニティを豊かにすることが求められています。
次に、観光客の少なさです。最近の県の統計によると、年間23万人で、県下市町の中で少ない方から3番目という惨たんたる状態です。交通の要衝として多くの人が交流するわけですから、 神社仏閣、山や池も紹介して、もてなしの心で滞在時間を長くしてもらえる工夫が必要なのです。
食育に力を入れるようになった動機は、町内の小学生の肥満率で、県下で一番高い数字が出たからです。肥満は健康によくないと言われています。肥満対策を学校だけに任せず、 町ぐるみで取り組むことにしました。
毎日の食事をただ漫然と繰り返すのではなく、栄養やマナーにも気を遣うように努めています。
福崎町の地産地消は、農林産物に限らず、人、物すべてに光を当てることです。優れた知識技能の持ち主を探して「まちの先生」として働いてもらうこと、 町外に出て活躍されている人の力を借りること、町の風物を再評価して活用していくことを重視しています。
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まちづくりの計画は作りましたが、問題はどう実行するかです。着目したのは、伝統的な集落組織です。集落には公民館や集会所があり、 集落(自治会)を運営する執行機関の長を区長と呼んでいます。この集落の活動をとおして「自律(立)の心を育て、参画と協働のまちづくり」を実践してもらおうと考え、「自律(立)のまちづくり交付金」制度を創設しました。
要綱のいくつかを例示します。
第1条 この要綱は、「自律(立)の心を育て、参画と協働ですすめるまちづくり」の理念のもと、自治会の創意と工夫、判断と責任によって、 地域の特性に応じた魅力あるまちづくりを推進するために自律(立)のまちづくり交付金を交付して、自治意識と連帯感を醸成し、安全、安心で暮らしやすい自治会を形成していくことを目的とする。
第3条 交付金の対象となる事業は、基本事業及び自由事業とする。
2 基本事業は、自治会の各種団体の代表により構成された委員会を開催し、地域の現状と課題及びその取組について話し合い、その計画書及び報告書の作成に取り組むものとする。
3 自由事業は、前項において計画された自治会内のつながりを活性化し、第1条の目的を推進できる取組であること。
第4条 町長は、原則として、毎年度定める予算の範囲内で、算出して得た額を上限に、自治会に対し交付金を交付することができる。ただし、次の各号のいずれかに該当する活動には交付しない。
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私はこの交付金制度を民主主義の学校と位置付けています。みんな若しくは各組織の代表が集まって、よく話し合い、計画を作り、予算を組み、みんなで実行する。この繰り返しを持続的に遂行できることが大切です。
「自治会の中のあらゆる団体が、それぞれの意見を持ち寄り、話し合いの中で決められた内容であれば認める方向です。重要なのは、その結論へたどり着くまでの過程です。 誰がどういった発言をして、どのような議論がなされ、その結論が出たのか、それがきちんと分かるように、参加者名簿と議事録をとっておいてください。」と伝えました。
平成25年度の予算は、基本事業100万円、自由事業1千万円です。各自治会への配分は、区長会に諮った結果、均等割40%、人口割60%となりました。最高額は617千円、最低額は166千円です。 参加自治会は33自治会のうち31で、参加率は94%でした。
今年度が初めてのスタートなので、事業推進の補助員として2~3人の町職員を各自治会に配置し、話し合い、記録、趣旨説明の手助けをしました。また、職員が集落に入り、町民と直接ふれ合い、 町民の声を聴くことによって公務員としての自覚を高め、能力アップに役立つのではないかと期待しています。
実際に取り組みを進める段階で、私の説明不足から、職員の理解にばらつきが見られ、何回か意思統一の場をもちました。なかでも「みんなが集まって」の理解に差が出ました。 自治会の役員だけで検討をしたり、記録が不十分であったりすることがありました。
11月に入り、本年度の計画の90%は終わり、各自治会での反省会が開かれています。その記録は集約されていませんが、反省と共に、来年度の取り組みを進めている自治会もあると聞いています。
近く町としても、反省会を兼ねた実践発表会を計画しています。実践報告をまとめ、多くの聴衆の前で発表することも、よい勉強になるのではないかと考えています。
すべての記録は膨大ですが、町図書館には備えようと思っています。各自治会で出た声はまちづくりにとって大切な資料ですし、各自治会がお互いに学び合い、 次の計画づくりの参考にしてほしいと思っています。
私は、自治会の話題が4本柱全般にわたって取り上げられ、話し合いが展開され、実行に移されればいいなと思っています。
コスモスいっぱいの会場で、手作り料理、バザー、写生会など、イベント盛りだくさん!