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愛媛県愛南町/次世代に水産業を伝えるために~愛南町の水産振興~

印刷用ページを表示する 掲載日:2013年4月22日
カツオの一本釣りの様子の写真

「カツオの一本釣り」水揚量は四国一


愛媛県愛南町

2838号(2013年4月22日)  愛南町長 清水 雅文


愛南町は、平成16年10月に、5つの町村(内海村、御荘町、城辺町、一本松町、西海町)が合併して誕生しました。

四国の西南地域、愛媛県の最南端に位置し、南は太平洋を臨み、西は豊後水道に面している自然環境に恵まれた農山漁村で人口約2万5千人の町です。

「愛南町」という町名には、愛媛県の最南端にあり、町民がこの町を愛し、地域や人を愛して皆が仲良く助け合って、元気な町になって欲しいという願いが 込められています。

「愛媛県」、「愛南町」と愛いっぱいの町です。

愛南町の基幹産業は農林漁業で、特に水産業は、巻き網、カツオ一本釣り漁業をはじめとする漁船漁業と、マダイやブリ類、真珠、真珠母貝、カキ、ヒジキなどの海面養殖業など、多種多様な漁業が行われており、「日本の漁業の縮図 愛南町」と言われています。

カツオの水揚げ量は本町深浦漁港が四国一の漁港であり、養殖生産量は年間約2万トンに達し、全国市町村別でマダイが2位、カンパチが5位、ブリが8位と日本でも有数の水産業が盛んな町です。

愛南町の水産業も、他の産地と同様に、長引く不況で消費減退による魚価低迷、燃料・養殖餌料の高騰、後継者不足・高齢化による就業者の減少などにより、非常に厳しい漁業経営を余儀なくされています。

愛南町では、昭和57年には約400億円あった生産額が、平成21年には260億円まで落ち込みました。その結果、就労機会が減少し、地域経済も衰退し、過疎化が進行しています。

このような中、愛南町の重要産業である水産業を振興するために行っている愛南町の取組の一部を紹介します。

愛媛大学南予水産研究センター設置事業

愛南町誕生直後に、町内にあった大手企業の製造工場が撤退し、約600人の雇用が失われました。新たな企業誘致を進めましたが、鉄道も高速道路もなく、空港まで2時間半を要し、「陸の孤島」と呼ばれる立地条件ではなかなか厳しい状況です。

そこで、地域に根ざした一次産業の活性化を図る取組を開始しました。

その中の一つとして、“「企業誘致」から「人材誘致」へ”すなわち、人材を誘致、育成することにより、関連企業の集積を図ろうという取組で、平成20年4月に愛媛大学南予水産研究センターを誘致しました。

研究施設は、町村合併により使用しなくなった旧西海町庁舎(現愛南町西海支所)の空きスペースを有効に活用しています。

ちなみに、この事業は総務省の平成21年度市町村活性化新規施策100事例に紹介されています。

現在、愛南町に常在している同センターのスタッフは、教員11名(内臨時7名)、事務員4名(内臨時3名)、学生研究助手19名、研究助手7名の41名です。この内8名が地元からの雇用で雇用の受け皿にもなっています。

ここでは、水産現場に近いという利点を生かし、生命科学部門、環境科学部門、社会科学部門の3つの研究部門が、漁業者の意見を聞きながら、現場に則したさまざまな研究を行っており、成果も挙がってきています。

また、研究だけではなく職員、学生が地域行事に積極的に参加しており、継続が厳しくなっていた地区の秋祭りを盛り上げるなど、地域コミュニティの維持にも活躍しています。

愛媛大学南予水産研究センターの外観写真

平成20年4月に完成した愛媛大学南予水産研究センター

愛南型食育を基盤とした地域づくり事業

この事業も、市町村活性化施策100事例(平成22年度)に紹介された事業で、“ぎょしょく教育”が核となっています。

愛南町における“ぎょしょく教育”は、全国各地で展開されている魚食普及と、近年、重視されている食育推進の統合を前提に、地域に根ざした総合的な水産版食育です。具体的には、従来の魚離れ対策としての表記の「魚食」ではなく、ひらがな表記することで、多様な意味を持たせ、魚の生産から消費・文化までの フードシステムとして捉え、幅広い意味を持たせたものです。

7つの“ぎょしょく”として、

  1. 「魚触」:魚に触れる体験学習
  2. 「魚色」:魚の種類や栄養など特色を知る学習
  3. 「魚職」:とる漁業を知る学習
  4. 「魚殖」:育てる漁業を知る学習
  5. 「魚飾」:魚文化の学習
  6. 「魚植」: 魚をめぐる環境を知る学習
  7. 「魚食」:魚の味を知る学習

があり、ただ単に魚を調理して試食するだけではなく、魚にまつわる諸事象を細かく体系的に学習し、水産物と地域を理解する教育です。

このコンセプトは愛媛大学南予水産研究センター若林教授らが提唱したもので、愛南町は、当初から「“ぎょしょく”教育発祥の地愛南町」という標榜のもとに多角的に実践してきました。現在、町内の各保育所、幼稚園、小学校、中学校では、義務“ぎょしょく”教育として町水産課職員、漁協職員、漁業者が“ぎょしょく”教育の授業を実施しております。また、平成20年度以降は、町内のみではなく、町外からの“ぎょしょく”教育授業の依頼が増加し、平成22年度からは、東京都と“ぎょしょく”普及交流事業を行っており、東京都の小学校でも“ぎょしょく”教育の出前授業を実施しています。

また、愛南町の水産物のPRと“ぎょしょく”普及推進のためのキャラクター「愛南ぎょレンジャー」も誕生しています。ぎょレンジャーのキャラクターは地元の小学生が考案し、高校生がイラスト化して作成しています。

現在、カツオブルー、タイレッド、ブリグリーン、カキアイボリー、ヒオウギパープル、ヒジキブラック、アコヤピンクの7人が活躍しています。

さらに、教育的な効果だけではなく、“ぎょしょく”教育事業を実施することで、愛南町の水産物が学校給食に使用されるようになり、経済的な効果も大きくなっています。

このように、地域内においては、地域の魚・水産業を総合的に把握することで、地域の社会や文化を問い直すことができ、地域の良さを再認識し、地域の教育力の向上を図り、地域外に対しては、水産業界関係者はもちろん、全国の地方自治体、小学校をはじめとする教育機関、さらには、一般消費者に向けた “ぎょしょく教育”を通じた情報発信をすることで、地域の魅力をPRでき、愛南町の水産業振興につながるものと考えています。

「ぎょしょく」出前授業の様子の写真

東京都の小学校で行われた「ぎょしょく」出前授業

刺し網漁の模擬体験の様子の写真

「ぎょしょく」の体験学習刺し網漁の模擬体験

「愛南ぎょレンジャー」の画像

地元小学生が考案した「愛南ぎょレンジャー」

ICT活用による次世代型水産業の確立と普及促進事業

他の産業に比べ、水産業のICT(情報通信技術)の利活用の取組は非常に遅れています。しかしながら、漁業者や漁業協同組合、行政、大学など 関係団体の間で、必要な水産情報を共有化し、双方向のコミュニケーションを活発化すれば、水産に関する業務の大幅な改善と効率化が期待できます。

そこで愛南町では、平成22年度に総務省の情報通信技術人材育成活用事業交付金を受け、水産業の課題を解決する一助として、ICTを活用して、持続的な漁業生産が行える環境を整備することにしました。

具体的な内容は、「水域情報可視化システム」、「魚健康カルテシステム」、「水産業普及ネットワークシステム」の3システムから構成される「愛南町次世代型水産業振興ネットワーク」の構築及び普及促進です。

まず1つ目の「水域情報可視化システム」は、漁業者が水質情報、赤潮情報などの環境情報をいつでも、どこでも確認できるというシステムです。

漁業を行う上で、環境情報は必要不可欠なものですが、これまで、大学、町、漁協がそれぞれ調査・測定を行い、漁業者には紙媒体で連絡し、管理も測定機関毎に管理するという状況でした。

このシステムにより、漁業者へ多くの情報をリアルタイムに伝達することができるようになり、また、関係者間の情報共有が図れ、管理、解析も容易になっています。

次に魚健康カルテシステムについてですが、魚病というとあまり良い響きではありませんが、魚も当然人間と同じように病気になります。

愛南町での魚病による被害は年間5億円程度あり、大きな問題となっています。そこで、魚類養殖業の振興を図るため平成18年度から魚病診断室を設置し、町、漁協職員が魚の診断を行い、死因を究明し、適切な管理や処置及び予防の指導や出荷魚の検査などを行っています。年間約15,000尾の診断を行っており、その診断情報は 症状や遺伝子検査など膨大なデータとなるため、一部の情報しか管理できていない状況でした。

そこで、魚病診断の現場に電子カルテシステムを導入することにより、漁業者への診断情報の提供、データの管理、解析が容易になりました。

最後に「水産業普及ネットワークシステム」ですが、これは、漁業後継者などの人材育成や愛南町の水産業や“ぎょしょく教育”の情報発信のための「ピアザ愛南ぎょしょく」というホームページです。

ここには、愛南町の水産業、“ぎょしょく教育”情報や愛媛大学南予水産研究センターの研究情報を掲載しています。

中でも力を入れたコンテンツが、「ぎょしょく学校」です。これは、小学生向けに作成した〝ぎょしょく.クイズで入学式から始まり、7つの“ぎょしょく”について勉強して、「愛南ぎょしょくキッズマイスター認定証」を取得し卒業するという流れになっています。

クイズの問題は愛媛大学南予水産研究センターの学生、教員、愛南町の小学校教諭、町職員が協力して作成し、解説には、地元の漁業関係者、愛媛大学南予水産研究センターの教諭、漁協職員などが出演しています。

教科書に沿った問題もあり、楽しく学習できるようになっていますので、是非ご覧ください。

このように「水域情報可視化システム」、「魚健康カルテシステム」により、情報共有とデータを活用し、科学的根拠に基づいた水産業の推進を図り、一方では「水産業普及ネットワークシステム」により人材育成や愛南町の水産業のPRを行っています。

これらのシステムを総合的に、かつ、戦略的に利活用することで、ICTによる戦略的な地域水産業を実現し、次世代につなげる愛南町の水産業の振興を図っています。

愛南町では今回紹介した事業をはじめ、水産業関係者が集まり水産振興の方向を決定する懇話会や研究成果の発表などを行う水産フォーラムの開催など、水産業振興に関するさまざまな取組を実施しています。

今後も、試験研究から生産、加工、販売まで産官学民が一体となった愛南型水産業モデルづくりを進め、水産業の振興、ひいては愛南町全体の活性化を図っていきます。

水域情報可視システムの画像

「水域情報可視システム」水質情報などの環境情報をウェブ上で確認できる

魚病診断を行う様子の写真

魚病診断を行う様子

魚健康カルテシステムの画像

魚健康カルテシステム

ピアザ愛南ぎょしょくの画像

「ぎょしょく」教育の情報発信のためのホームページ「ピアザ愛南ぎょしょく」