「葦北御郡筒」の伝統文化 江戸時代に芦北一帯の守備に当っていた火縄銃鉄砲隊
熊本県芦北町
2836号(2013年4月8日) 芦北町長 竹﨑 一成
芦北町は、熊本県の南部に位置し、不知火海と九州山地の豊かな自然に恵まれた風光明媚な土地で、昔から九州南部の交通の拠点として発展してきました。
東西に16.6㎞、南北に25.4㎞の総面積233.81平方キロメートルを有しておりますが、平地が少なく、町土の約8割が山林となっており、典型的な 中山間地域であります。
昭和30年に佐敷町、大野村、吉尾村が合併して「葦北町」となり、昭和45年に葦北町と湯浦町が合併して「芦北町」となりました。そして平成17年1月1日に 田浦町と芦北町が合併し、現在の「芦北町」が誕生しました。
芦北町は、海や山、温泉など豊かな資源に恵まれており、各集落には、それぞれの特色があります。その一つ一つの集落がその特色を活かした地域づくりをすることにより、点が線に、線が面へと広がり活力あるまちづくりへとつながっていきます。そんな、地域それぞれの特色を活かした「みんなが主役のまちづくり」を目指し、「芦北町まちづくり支援事業」を実施しています。
この事業は、町民自身の知恵や工夫を活かした行政区単位での取り組みについて、行政が協力・サポートする事業で、社会環境が変化し少子高齢化が進み、地域内コミュニティの希薄化などが見られるようになったことから、地域コミュニティを支援する目的で開始されました。大きな特徴として、事業費の一部の補助に併せて、 全84行政区それぞれに職員を配置し、企画の段階から事業実施までのすべてをサポートしています。配置した職員は、その地区の一員として参加し、日ごろの業務で 培ってきたノウハウを活かしてアドバイスや手助けを行います。地区の皆さんの輪の中に入って一緒に活動することから、地区にとっての身近な相談役として大変喜ばれています。
また、行政区ごとに申請を行うことで、地域の特色を活かしたイベントなどが実施しやすく、地域コミュニティの活性化につながっています。いくつか例を 挙げますと、ある地区では、地元に100年続く伝統文化「早苗振り」を写真や映像で保存し、後世に伝えようと、この事業を活用しています。また、ある地区では、 小学校が廃校になり途絶えた運動会を復活したところ、町外や県外に出て行かれた方々も帰郷し、大勢の方が参加され、その中には首都圏から参加された方もおられたようで、地域の絆が一層深まりました。
このように、本事業は、各地域で行われる祭やイベント等にも活用でき、地域を盛り上げようと各行政区で様々な催しや取り組みが行われており、特色を 持たせ、使いやすい事業にすることで、町民主体のまちづくり活動の促進へとつながっています。
廃校のグランドに歓声が沸く「大運動会」
百年続く伝統文化「早苗振り」
芦北町では、急速に進展する国際社会に対応すべく、国際感覚豊かな人材を育成することを目的に国際交流事業を展開しています。
なかでも、芦北町国際交流協会と共催している「カンボジアに学校を贈る運動」では、内戦で教育環境が壊滅的状態にあったカンボジアへ学校を贈るための 募金活動に町ぐるみで取り組み、現在、4校の学校を贈呈しています。この取り組みは、平成8年、芦北町国際交流協会の前身である「芦北町国際交流友の会」が始めたもので、町内では、佐敷小学校の児童がカンボジアについての学習をとおして、自分たちに出来る国際貢献とは何かを考え、チャリティーバザーを開始したことを皮切りに、 町全体に広がっていきました。町内に6つある小学校のうち中心校である佐敷小学校は、現在まで毎年チャリティーバザーを開催し、その益金を寄附しています。お隣の 大野小学校では、募金米やサラダ玉ねぎを児童たちが栽培し、その販売益を寄附しています。また、この事業では、現地カンボジアへ子どもたちの派遣も行っており、 学校を訪問しての子どもたちとの交流、各種施設、JHP(カンボジアを中心に「学校」や「教育」という観点から人道的な支援を行っているNPO法人)、JICA (独立行政法人国際協力機構。日本の政府開発援助(ODA)を行う機関)などでの学習を行い、帰国後はその体験をレポートとしてまとめてもらい、報告会を実施し、子どもたちの国際理解の深化、そして、世界に視野を広げ、心豊かで健全な郷土愛を持つ青少年の育成に努めています。
また、カンボジアの学校の先生を町内の小学校に受け入れ、音楽など文化教育の研修を行っており、これまでに13名を受け入れています。
平成24年度は、ブータン王国からの研修生の受け入れも行い、芦北町が実施しているまちづくりに関する事業の研修を行いました。
さらに、「外国の地方公共団体の機関等に派遣される職員の処遇等に関する条例」を制定し、職員としての身分を保障しながら青年海外協力隊員として 発展途上国へ派遣しています。これまで3名の職員がその適用を受け、それぞれニカラグア、ボリビア、ガーナに赴任し、村落開発などの業務に当たっています。
このほかにも、英国派遣事業や国際交流員の招へいなど、国際感覚豊かな人材を育成するために、様々な事業を展開しています。
国際交流事業「カンボジアスタディーツアー」
国際交流事業「カンボジアスタディーツアー(トゥールスレン博物館での研修)」
大規模太陽光発電所(メガソーラー)誘致事業は、新エネルギーや省エネルギーなどの取り組みを積極的に推進し、経済の発展や農山漁村の保全などを 目的とする「熊本県総合エネルギー計画」の一環として、取り組みを行いました。
本町では、町有地である「矢城牧場跡地」「女島埋立地」の2ヶ所について、熊本県を通じ、公募を行った結果、多くの事業者が現地視察を行い、 事業実施への可否についての検討を行いました。その後、現地視察を行った事業者に対し事業企画提案書の提出を求め、町として選定委員会を設立し、事業計画・経営能力・ 地域貢献及び事業への取り組み姿勢・意欲面などを厳正に審査のうえ、それぞれ事業者を決定しました。
「矢城牧場跡地」については、芦北町南西の水俣市・津奈木町の境に位置する標高約500メートルの高台に位置する高原であり、約15年間遊休地であった 牧場跡地に対し、面積約32万㎡、2万1,500キロワットの出力規模を誇るメガソーラー発電施設が完成します。
一方「女島埋立地」は、不知火海に面し、港湾機能の拡充、地場産業の振興などを目的として昭和61年から埋め立て造成を行った土地であり、本町にて 企業誘致を計画していた土地です。総面積約17万㎡の内、約9万㎡、8,000キロワットの出力規模で「矢城牧場跡地」に次ぐメガソーラー発電施設となります。なお、 「女島埋立地」については、東京都が共同設立した官民連携インフラファンド事業第1号案件となるなど、本町としてもエネルギー政策を積極的に推進しています。
両地ともに、予定通り工事が進むと、平成25 年度中に2ヶ所合わせて2万9,500キロワットの出力能力を持ち、一般家庭約8,000世帯分の電力を補う 県下最大(H25・3月現在)のメガソーラー発電施設が完成します。また、現地法人を町内に設立し、維持管理を行うとともに、施工に関しても地元企業の活用など、 雇用創出の面においても、大変期待をしています。
今後は、エネルギーの安定供給、雇用創出等に寄与するとともに、環境学習の拠点として活用し、見学者等による集客の増加につなげていきたいと 考えています。
県内最大の太陽光発電事業「メガソーラー」(矢城牧場跡地完成予想図)
「メガソーラー」起工式の様子
芦北町で最初に相撲合宿を誘致したのは平成23年10月のことでした。
本町には、長い歴史と伝統ある春の佐敷諏訪神社例大祭があり、子どもたちの奉納相撲や九州高校選抜相撲大会で賑わいを見せ、町民が一番楽しみにしている 行事の一つであります。
今回、誘致した尾上部屋の尾上親方(元小結濱ノ嶋・熊本県宇土市出身)は、高校時代にこの大会に出場した経験のある方で、そのようなご縁もあり、 今まで出会ったことのない本物の力士に子どもたちや町民と直接触れ合ってもらおうと、地元相撲協会の献心的な働きかけと親方の理解を得て、大相撲尾上部屋合宿の誘致に 成功しました。尾上部屋には人気力士、関脇杷瑠都関(当時は大関)が在籍していることもあり、2万町民はその日を待ち望んでいました。
尾上部屋は1週間ほど滞在し、午前中稽古に精を出す傍ら、町内園児たちとの相撲や、来場者との記念撮影、餅つき大会、ちゃんこ鍋の食事会、 握手・サインなどファンサービスも時間の許す限り応じてもらい、また、福祉施設や保育園へ訪問を行うなど積極的に交流を深めてくれました。夕暮れ時にちゃんこ鍋の 買い出しや散策などで力士が町なかを闊歩する様には、何とも言えぬ風情を感じることができます。
日本の伝統文化の代表であり国技でもある「大相撲」は、観客動員の減少や新弟子力士不足など危機的状況にありますが、本町では、今後も大相撲合宿の 誘致を続け、「町民みんなで大相撲を応援しよう」という機運を盛り上げ、大相撲人気復活の一助になればと考えています。また、本町の相撲クラブでは、全国大会で 上位入賞する子どもたちもおり、そんな子どもたちに夢と希望を与えるとともに、町の活性化にもつなげていけたらと思います。
「大相撲尾上部屋合宿」ちびっ子たちと把瑠都関
福祉施設での記念撮影
このほか、文化・スポーツの振興については、江戸時代に芦北一帯の守備に当たっていた火縄銃鉄砲隊「葦北御郡筒」の伝統文化、射法を継承しようと 平成15年に「葦北鉄砲隊」を復活結成。以来、県内外はもとより、英国や韓国など海外にも遠征して演武を披露しており、平成24年には県民文化賞も受賞しています。また、 毎年秋には、日本古来の伝統芸能であります薪能や狂言による「観月会」を国史跡に指定されている「佐敷城跡」で開催しています。一方、芦北町総合スポーツクラブや スポーツ振興補助金など制度を充実させています。スポーツの振興をまちづくりの一つに掲げており、先のロンドンオリンピックにおいてバドミントン女子ダブルスで本町出身の 藤井瑞希選手がみごと銀メダルに輝いたことは記憶に新しいところです。
また、芦北町では、「温故創新」を教育理念に掲げ、武道の必修化においては、町のシンボル的武道である空手を全国に先駆け一早く導入し、また、論語の 素読を通して徳育にも力を入れており、子どもたちの礼節を重んじる心と態度の醸成を目指しています。
産業面では、「未来につなげる芦北町農林漁業振興基本条例」を制定し、安全・安心・良質で売れる農林水産物の生産、供給体制の確立及び地場消費体制の 整備を目指しており、その代表格としてデコポン、サラダ玉ねぎ、太刀魚、あしきた牛などがあげられます。
また、熊本県で唯一「ほたる保護条例」を制定し、本町に生息するほたるを貴重な地域資源として保護することで、自然環境及び景観の保全継承に努めています。
このように、芦北町では、まちづくりの基本理念として「個性の光る活力あるまちづくり」を掲げ、郷土愛を育み、誇ることのできるまちづくりを実現する ために多種多様な取り組みを行っています。後世に何を残してやれるのか。その使命感に燃え、「すべては21世紀を担う子どもたちのために」を合言葉に、オンリーワンの まちづくりを展開していきます。
「佐敷城跡観月会」町内外から300人が会場に訪れ薪能を楽しむ