地域の活性化が期待される地域活性化住宅
宮城県色麻町
2831号(2013年3月4日) 色麻町長 伊藤 拓哉
色麻町は、宮城県のほぼ中央北西部、仙台市から北へ約30㎞に位置し、人口7,400人余りの典型的な農業の町です。
地形は、東西に長く(約24㎞)南北に狭い(約5㎞)くさび形で、総面積は、109.23k㎡。町の西部には奥羽山系に属する秀峰・船形山や前船形山などが 山岳地帯を形成し、四季折々に美しい表情を見せてくれます。
色麻町の歴史は古く、前方後円墳や円墳、さらには群集墳など学術的にも貴重な遺跡が数多く発見されています。又、「続日本紀」にも色麻についての 記述が見られることから原始・古代を通じてこの地が、政治・文化の中心地であったことが推測されます。
色麻町では、暮らしの中に支え合いの精神が今なお息づく、良い意味での「イナカ」なところが本町の最大の魅力であり、これからの社会全体に求められる 新しい価値と捉え、平成23年3月に策定した第四次長期総合計画で「イナカの良さ、強さ、美しさを活かしたまちづくり」を基本理念として、町民にとって暮らしやすく町を 訪れる人にとっても心地よさが体感できる町づくりを推進しています。
しかしながら、少子高齢化社会の到来により本町でも人口減少が進んでおり、人口増を伴う少子化対策が重要と捉え、子どもを安心して生み育てることが できるよう保育環境や学童保育の充実、中学卒業までの医療費を無料化するなど、他の自治体に先駆けて様々な支援事業を実施してきました。平成21年度には、小学生以下の お子様をお持ちの町外在住者に限定し、運動会などのレクレーションや道路清掃など地区や町の行事に積極的に参画することなどを入居条件としたハイグレード賃貸住宅を30戸 整備し、近傍家賃価格の半額程度で賃貸する地域活性化住宅事業を始めました。募集とほぼ同時に満室となり、若い夫婦世帯30世帯が入居しました。入居者総数は106人、 そのうち小学生以下の子どもが46人となっており、地区や町の行事に参画することなどを入居条件としていることや、若い夫婦世帯が入居したことから、地区や学校の活性化に 一定の成果が上がっています。3年が経過し子どもたちの数も10名増え56人となり、さらなる賑わいを見せています。
定住化施策の第2弾として、平成23年度には、町有地を無償譲渡する定住促進団地事業を始めました。この事業は、地域活性化住宅事業の入居条件と同様に、 小学生以下のお子様をお持ちの町外在住者で、地区や町の行事に積極的に参画することなどのほかに、無償賃貸契約した町有地に2年以内に住宅を建築し、8年間住めば その土地を無償で譲渡するというものです。町営住宅跡地に一区画100坪程度の宅地を6区画造成し募集したところ、これまで2世帯が既に住宅を建築し住んでおられ、 さらに2世帯が現在建築中で、4月までには4世帯のご家族がこの団地で生活することになります。残る2区画についても問い合わせがあり、25年度中には全ての区画に住宅が 建築されるものと思います。全区画に入居すると入居者数は25名程度、子どもの数も12名程度となり、地域活性化住宅と同様に地域の活性化に大きく寄与するものと思います。
定住促進団地
地域活性化住宅
本町では、昭和30年代より地域内電話である有線放送設備を整備し、電話機能に加え、行政・防災情報など幅広い広報活動を行って参りました。 一昨年3月11日に発生した東日本大震災により、電気、水道、通信等のライフラインが未曾有の被害を被る中、本町の有線放送設備は、町内の有効な情報伝達手段として 住民同士の情報交換や災害情報を昼夜を問わず発信し続けることができました。
しかしながら、役場内の自動放送装置などの有線放送設備は老朽化が進み、アナログのため定期的に交換が必要となる部品も既に製造中止となっており、 充分な維持管理が難しい状況にあります。そこで総務省及び防衛省の補助事業を導入した新たな情報通信施設を整備し、町民への行政・災害時などの情報伝達手段を確保し、 安心安全なまちづくりを図ることとしました。
新たに整備する情報通信施設はWIMAXと呼ばれる高速無線通信の基地局を町内6カ所に設置し、町内全域で無線通信ができる環境を整備するもので、 各世帯や行政区長、消防団員にタブレット端末やIP端末を配備し、電話機能や全国瞬時警報システム(Jアラート)をはじめ、国や県、町からの情報を瞬時に住民に届けるものです。
このシステムは、災害などでNTTなどの通信事業者の回線が断線しても町内での通信は確保される町独自の無線網です。総務省の補助で整備している 6カ所の基地局と役場庁舎内のセンター設備は完成し、公共施設や地区集会所等に配備するタブレット端末やIP端末については防衛省の補助により本年度中を目処に 進めているところで、公共施設間の運用開始は、4月を予定しております。
各ご家庭に配備するIP端末については、防衛省の補助により、平成25、26年度の2カ年で全世帯に順次配備することとしており、住民の皆様への供用は 平成27年度から開始する予定です。
この情報通信施設は、WIMAXと呼ばれる周波数2.5ギガ帯の電波により町全域を無線でネットワークするものですが、無線局の免許を取得し運用する もので、総務省によりますと自治体がこのような施設を整備するのは、全国的に初めてのケースになるようです。音声のみならず、映像による双方向の情報通信が 可能になるため、今後は、福祉分野や農業分野など様々な分野での活用が期待されます。将来的な活用方策については、それぞれアプリケーションの構築が必要になることから 計画的に進めることとしています。
役場庁舎屋上に設置されたWIMAX基地局
WIMAX基地局
色麻町には昭和40年代に立地した採卵鶏飼育数250万羽の大規模農場があります。この農場から200t/日(73,000t/年)の鶏糞が恒常的に発生し、 事業者は堆肥化し販売することで処理していますが、処理量が膨大なため新たな処分方法を模索しておりました。
東日本大震災による広域停電は本町全域で5日~7日間におよび、生活家電が使えなくなるに止まらず、電話、テレビ、パソコンが使えず情報入手が 困難になったことや、上下水道が使用不能になり、住民の生活に多大な支障をきたしました。特に高齢者、病院入院患者、腎臓透析患者などの弱者にとっては生命に関わる 深刻な状況に陥りました。今回の震災と震災に伴う原発事故を経験し、電気を確保することが「住民の命を守る」という行政の第一義の目的のために不可欠であり、 化石燃料や原発に頼らない電気エネルギーを確保する必要性を痛感しました。
そこで、大規模農場から発生する鶏糞の新たな活用方法として鶏糞を原料にメタンガスを発生させ発電し、農場や一般家庭等に電気を供給するという構想を 検討しています。200t/日の鶏糞を処理することで、時間当たり1,600kwの電力が発電されます。これは全世帯(2000世帯)の電力消費量を超える発電量で、町内公共施設や 一般家庭等に供給されれば「電力の地産地消」になり「地域から地球温暖化防止対策」を推進することにもなります。鶏糞は、メタンガス発生量の多い未利用資源ですが これまでメタン発酵に利用できませんでした。鶏糞は窒素分を多く含むためにメタン発酵の阻害物質であるアンモニアが発生しメタン発酵を阻害していました。そのため 従来のメタン発酵は水を加えアンモニアを希釈する方法しかないため、ガスを採った後の残渣液の処理に大きな経費が必要となり普及の足かせになっていました。
このほど、鶏糞からアンモニアを除去しメタン発酵し残渣液も極わずかになる技術が開発され実用化されています。町では、「安心安全な町づくりの推進」と、 「地域から地球温暖化防止対策を推進」するという観点から、バイオマスエネルギー活用事業に取り組んでいます。
また、バイオマスエネルギーによる発電を軸に、前述のWIMAX技術による町全域を無線によりネットワーク化する情報通信施設事業と組み合わせる ことにより、各世帯等の電力消費量をリアルタイムで把握することが可能になることから、低炭素型スマートコミュニティ構築の可能性まで検討したいと考えています。
本年度は住民代表、関係企業、農業協同組合、NPO法人、東北大学、県、町からなるスマートコミュニティ特区地域協議会を組織し、 農林水産省の補助によりバイオマスエネルギー活用事業の調査業務を行いました。平成25年度には基本計画から実施設計まで策定したいと考えています。
東日本大震災を経験し、予測不可能なことがおこりうることに地方自治体も備えるべく、住民や議会、更には民間企業と手を携えて、重層的な事業を 展開してまいりたいと考えています。
スマートコミュニティ特区地域協議会による先進事例調査