「吾妻山」山頂から見る富士山
眺望は、関東富士見百景にも選ばれている
神奈川県二宮町
2827号(2013年1月28日) 二宮町長 坂本 孝也
二宮といえば、新春恒例、箱根駅伝のテレビ中継地点で有名な二宮・押切坂をランナーが駆け抜けていく町です。
二宮町は、神奈川県の南西部、湘南地域の西端に位置し、JR東海道線で東京から約70分、横浜から約40分という都市近郊の通勤圏にある町で、 町の東西には東海道本線、東海道新幹線、国道1号線、西湘バイパスと小田原厚木道路が走り、交通アクセスの良さから、都市近郊のベッドタウンとして発展してきました。
町の立地は、東は大磯町、北は丹沢連峰を背に中井町、西は中村川をはさんで小田原市、南は相模湾に面しています。
町の形状はおおよそ三角形で、南部は東西の幅3.3㎞、北に進むにしたがって狭くなり、南北は3.8㎞、総面積9.08平方キロメートルの中に、 人口約29,300人が暮らしています。
海・山・川の豊かな自然と年間を通じて寒暖の差が比較的少ない二宮は、豊富な山海の幸によって、自然に健康に必要な栄養を取ることができ、 人々の生活そのものに「健康長寿」という基盤があることで、昭和初期から「長寿の里 二宮」とも称されてきました。
町のランドマークは「吾妻山」です。JR二宮駅から徒歩20分ほどで辿りつく山頂は、相模湾、箱根の山々、三浦半島から伊豆半島までを一望できる最大の ビューポイント。人々を魅了する眺望は、「関東の富士見百景」にも選ばれています。
毎年1月には、早咲き菜の花が見ごろを迎え、富士山と同時に楽しめる景色がメディアでも多く取り上げられることから、1月上旬から2月上旬にかけて 開催する全町あげてのおもてなしイベント「菜の花ウォッチング」の開催期間中には、県内外から多くの観光客が訪れます。
箱根駅伝(押切坂)
多くの観光客が訪れる吾妻山「菜の花ウォッチング」
都市近郊という立地条件と、恵まれた自然資源を持つ二宮町ではありますが、これといった大きな産業がなく、サラリーマンからの税収が町の 基幹収入となっているのが現状です。
農業・漁業は高齢化と担い手不足、商工業は中小零細企業が大多数を占め、商業環境においては商店街の空き店舗が年々増加していくといった、 多くの自治体が抱える悩みは、二宮町も例外ではありません。
このような状況にあって、二宮町では、平成19年度から、新たな産業振興策として、二宮ブランドづくりに挑戦しています。
二宮ブランドづくりの目的は、農業、漁業、商工業、観光の各分野が連携した取り組みをおこなうことにより、産業の再生とともに、通年で観光客が訪れる 観光プランと食を結び、町そのもののイメージアップをはかり、経済の活性化を目ざすことにあります。
そして、地域ブランドづくりを成功させるためには、町民や産業に携わる皆さんに地域ブランドに対する理解と認識を深めていただくことが大切です。
そのため、まずは平成19~20年度を開発研究期間として、町民や各団体を巻き込んだフォーラムの開催、アイデア募集やワークショップなどを実施し、 町全体に二宮ブランドづくりの目的を浸透させていきました。
アイデア募集では、76点の応募をいただき、ワークショップにおいて、それぞれの意見と応募いただいたアイデアを総合的に捉え、地域資源の整理と評価、 二宮ブランドのプロジェクトの検討などをおこない、その結果を二宮ブランド戦略の基礎としました。
2年間の開発研究期間を経てまとまった二宮ブランド戦略は、
この3つの視点で事業を実践することで、二宮らしいブランドを構築するというものです。
いよいよ戦略がまとまったことで、平成21年度からの取組みは、「開発研究」から「推進」へとシフトし、「健康長寿(アンチエイジング)のまち」を テーマに、ブランド戦略における3つの視点で実践してきました。
特に、ものづくりでは、町の特産物である「みかん」「たまねぎ」「落花生」「原木しいたけ」「海産物」を使用した商品や、観光資源である「菜の花」、 町のイメージでもある「健康長寿」をもとにストーリー性を持たせた商品が開発され、農商工の各団体の代表により組織した二宮ブランド認定審査会の審査を経て、 現在までに約50種類の認定商品が誕生しています。
二宮ブランドロゴマーク
町の特産品を使用した二宮ブランド商品 たまねぎドレッシング
さば棒寿司
ピーナッツフィナンシェ
ここまで、順調に商品開発から認定までのプロセスを確立してきたことで、農業者・漁業者と商工業者との小規模な連携は徐々に生まれてきていますが、 農業・漁業の生産力が弱く、特に少量多品目栽培が特徴の農業においては、生産量が加工・販売のニーズを満たせない状況にあります。
そこで、平成22年度からは、二宮ブランドの土台となる農業・漁業の再生についても取り組みを開始しました。
漁業については、定置網、さし網、地引網などの沿岸漁業が中心ですが、漁港が未完成のため、漁業就労環境が悪く、漁業者の減少が深刻な状況です。
そのため、インフラ面を中心とした漁業就労環境の向上とともに、担い手を育成するための「漁業塾」を開催し、新たな漁業就業者を生み出しています。
また、漁業者と農業者・商業者が連携した「海の朝市」を新たに立ち上げ、二宮漁港周辺の活性化と、地産地消による消費拡大に取り組んでいます。
一方、再生への課題が山積の農業においては、
これら負の連鎖を断ち切るため、遊休荒廃農地解消への補助や、鳥獣被害対策、さらに農業所得向上のため付加価値の高い新たな 特産物の普及奨励などを実施しています。
「海の朝市」で体験できる地引網
漁業の担い手育成のための「漁業塾」
付加価値の高い新たな特産物の普及として着手したのは、神奈川県が品種改良した柑橘の新品種「湘南ゴールド」や、二宮町の先人、二見庄兵衛氏が 明治6年に横浜で南京豆を外国人から譲り受けて栽培したことから関東一円に栽培が広まったとされる「落花生」。この2品種を奨励することとしました。
このように、農業再生への取組みを進めていく中、再生への希望は、意外にも身近なところにありました。それが「オリーブ」です。
オリーブは、国産が希少で付加価値が付けやすく、イノシシなどの鳥獣被害もほとんど無い、そして気候温暖で健康長寿の里でもある当町にイメージが重なる。
そんなオリーブの栽培に、数年前から地元の農業法人が着手しており、収穫できる程まで成長を見せていたのです。
町では、この取り組みに着目し、早速、オリーブの調査研究を開始。
オリーブの産地である香川県小豆島町をはじめ、オリーブを生産されている自治体や企業を対象に、栽培や加工・販売のノウハウを伺い、平成24年度を 「オリーブ元年」として、オリーブを活用した100年産業の創造を目ざした「湘南オリーブプロジェクト」を始動しました。
オリーブ元年となる平成24年度は、農業者への栽培普及に加え、神奈川県農業技術センターと農業者団体、町の3者が連携した共同研究圃場を開設。
農業者への栽培普及は、年度目標であった400本をはるかに超える1,000本近い普及に成功し、共同研究においては、7種類60本の苗を植栽し、 手さぐりながらも順調に研究をおこなっています。
今後、この研究をもとに、町の気候風土にあった品種の選定や栽培方法の確立を図り、平成38年までの15年間で、5,000本の栽培とともに4haの 遊休荒廃農地解消を、また、概ね30年後となる平成55年には、100tの生産量を目標として、戦略的に栽培を普及していく予定です。
湘南オリーブプロジェクトでは、栽培普及による遊休荒廃農地の解消や農業所得の向上だけではなく、本格的な収穫が始まる見込みの平成28年度を皮切りに、 段階的に収穫量が増加していくことを見据えて、農商工連携や六次産業化を含めた加工・販売組織のあり方や販売方法、販売先の見込みを立てた加工・販売戦略、また、 「健康長寿」「気候温暖」「湘南」などのキーワードとオリーブを結びつけた観光・イメージアップ戦略なども盛り込んでいます。
これらを並行して進め、「オリーブのまち二宮」を確立することで、高付加価値化へとつなげることも今後の重要課題です。
まだまだ、先の見えないオリーブプロジェクトではありますが、成果を急がず、着実に推進していくことで、農業再生だけでない、その先にある産業活性化の 波へと繋げることができるよう、歩を進めていきます。
農業再生に向けて期待されるオリーブ栽培
二宮町は未だ発展途上の町。農業・漁業の再生や商工業の活性化、そして、人を呼び込む観光。これらを点ではなく線で結びつけ、大きな面にしていくための 「二宮ブランドづくり」を継続的に進め、小さいながらも、わざわざ来たい、そして住みたい。そんなキラリと光る足腰の強い町を目ざして、今後も挑戦を続けます。
明治から昭和にかけて言論・出版界で活躍し、戦前・戦中・戦後の日本に大きな影響を与えた徳富蘇峰。
二宮町にも所縁のある蘇峰に関する資料や蔵書、書簡等を展示した「徳富蘇峰記念館」において、NHK大河ドラマ「八重の桜」の主人公 新島八重から 蘇峰にあてられた6通の手紙を展示する特別展を開催しています。
平成25年1月8日~11月30日
徳富蘇峰記念館
Tel:0463-71-0266