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長崎県波佐見町/産業体験型観光によるまちづくり~来なっせ やきものと自然あふれる波佐見へ~

印刷用ページを表示する 掲載日:2013年1月7日
鬼木棚田の風景の写真

美しい鬼木棚田の風景


長崎県波佐見町

2824号(2013年1月7日)  波佐見町長 一瀬 政太


はじめに

長崎県波佐見町(はさみちょう)は、長崎県の中央北部に位置し、北と東を佐賀県に接する町です。東西10.5㎞、南北7㎞、周囲33㎞で 総面積55.97k㎡(山林約63%)です。人口15,237人、世帯数5,042世帯(H24・11月末)、高齢化率約26%で、長崎県で唯一海に面していない町です。

波佐見町は、400年の伝統をもつ全国屈指の「やきものの町」として栄えてまいりました。全国の一般家庭で使われている日用食器の約13%は 波佐見町で生産されています。

農業の近代化にも力をいれ、水田面積650haのうち約83%は区画整理済みで大型農機による作業とライスセンターを結んだ米麦大豆一貫作業体制が確立されています。

これによって生じる農家の余剰労働力は、地場産業である陶磁器関連産業への就労と結びつき、農工一体となって発展を続けてまいりました。

また、2010年には長崎キヤノン㈱が進出し400年の歴史を誇る陶磁器産業、農業や温泉などとデジタルテクノが融合した共生のまちづくりを目指しています。

多彩なイベント

年間とぎれることがない各地域イベント

この陶磁器生産の町の最大イベントはゴールデンウィーク期間中に行われる「波佐見陶器まつり」です。約130社の窯元と商社が軒を並べ、 多彩なイベントを開催し、期間中毎年約28万人の人出でにぎわいを見せます。今年で54回を数え、波佐見町が誇る看板イベントとして定着しています。

一昔前までは町外から集客する観光的なイベントとしては、この「陶器まつり」だけでしたが、20数年前から状況が変わってきました。

波佐見陶器まつりの様子の写真

波佐見陶器まつりの様子

そのきっかけは、山あいにあり、陶郷として知られる中尾山にある窯元の若手メンバーの情熱でした。4月に開催されている「桜陶祭」は、 当初は地域内の窯元の交流の場として始められましたが、年々趣向が凝らされ、現在では各窯元の工場を展示場として開放するなど、町内外のお客様と 直接交流がもてるイベントとなり、今では2日間で約2万人のお客様が足を運ぶ大イベントとなりました。

桜陶祭の様子の写真1

多くのやきものファンで賑わう「桜陶祭」の様子

桜陶祭の様子の写真2

桜陶祭の一番の名物となっているのが、各窯元のオリジナルの陶箱弁当で、毎年大人気です。また、10月には「秋陶めぐり」を開催し、 窯元を一般公開するなど、やきものの販売はもとより、作り手と買い手の心の交流が持たれています。

陶箱弁当の写真

陶器のお弁当箱に地元産の野菜などを盛りつけた「陶箱弁当」

このように地域から自主的に沸きあがってくるイベントが、町内各地で生まれてきました。

その一つである「鬼木棚田まつり」は、平成11年に棚田100選に選ばれたことをきっかけに始まり、毎年9月23日に開催され、 こちらも年々趣向が凝らされ、現在では、地元鬼木地区全戸から出品されるその年の世情を反映したユニークな案山子たちが立ち並び、約1ヶ月の間、 多くの観光客の目を楽しませてくれます。

ユニークなかかしの展示の様子の写真

ユニークなかかしの展示

また、駅のない波佐見町でJRウォーキングが開催されますが、そのお目当ても鬼木のユニークな案山子たちで、期間中町内外からユニークな 案山子を見ようと約2万人の観光客が鬼木地区を訪れる大イベントとなっています。

このように、桜陶祭や鬼木の棚田まつりは、県内はもとより、九州各地の方から楽しみにされているイベントに育ちました。

これらの地区の成功をきっかけに、その他の地区でも地域の特色を活かした「川内ほたる祭り」、「ザ!酒塾」「村木畑ノ原まつり」、 「稗木場どろどんぎょ祭り」、「皿山器替えまつり」、「峠の里まつり」などのイベントが、地区の有志によって立ち上げられています。このような取組みが 波佐見町の元気の源だと思います。

どろどんぎょ祭りの様子の写真

どろどんぎょ祭り

「来なっせ100万人」

※ 「来きなっせ」とは波佐見弁であり、「どうぞおいでください」の意味です。

陶磁器産業の落ち込みで町内の産業に活気がない中にあって、「これらの動きを町全域に広げることができないか」、「町外からのたくさんの人に 来てもらって、町内を元気にできないか」とこのような考えが起きてきました。このころ、これまで観光産業とはあまり縁がなかった波佐見町において、 陶郷中尾山や鬼木棚田、温泉、史跡等、もともと地元にある資源を活用して、観光交流人口を増やし地域が元気になるために「来なっせ100万人」という スローガンを唱え観光に力を入れるようにしました。これらを受けてNPOグリーンクラフトツーリズム研究会などの団体や町、観光協会等一体となって、 グリーンツーリズムとクラフトツーリズムを組み合わせたツーリズム事業が始まりました。

体験型観光花ざかり

このようにして始まった波佐見町のツーリズム事業は、試行錯誤しながら、現在では「来なっせ体験塾」と題して、やきもの体験、農業体験、 また2つを組み合わせた陶農体験メニューを開発し、観光客の受入を行うまでに成長しました。

やきもの体験では、「ロクロ・絵付け体験」などの本格的なものから、「波佐見焼ストラップつくり体験」など、お手軽に楽しめる体験まで 色々な体験メニューが揃っています。

農業体験では「茶摘み体験」「米作り体験」など、波佐見の豊かな自然を思う存分満喫できます。

「梅漬け体験」や「椎茸づくり体験」、やきものの煙突レンガのリユースややきものの窯が変身したピザ窯で、親子や友人と一緒にピザ焼きが できる「石窯ピザ焼体験」など「おいしい体験」も人気メニューです。

ピザ焼き体験の様子の写真

ピザ焼体験

その他にも、波佐見町ならではの体験が、やきものと農業を組み合わせた陶農体験です。その中で1番人気は、前述しました「ザ!酒塾」です。 地域のイベントから生まれた体験メニューで、酒米の田植え・稲刈り体験をし、その米でできた酒を自分の手で作ったオリジナルの器でいただくという、なんとも 贅沢な体験です!1回目が田植えと手びねりによる酒器づくり、2回目が稲刈りと酒器の絵付け、3回目がラベルづくりと新酒試飲会となります。1回申し込むと 波佐見町に3回来て頂けるという仕組みになっています。

陶農体験「ザ!酒塾」の参加者の集合写真

やきものと農業を組み合わせた陶農体験「ザ!酒塾」

この他、蕎麦の栽培から蕎麦打ちまでの体験に、蕎麦ちょこ作りを加えた「ザ・そば塾」、麦大豆の栽培から味噌づくりまでの体験に、味噌甕 (かめ)づくりを加えた「みそづくり塾」など、波佐見ならではの窯業と農業を組み合せた「陶農体験」メニューを多くのお客様が満喫されています。

日本再発見塾

ツーリズム事業が盛り上り始めた2010年11月には、東京財団の後援を頂き、「第六回日本再発見塾in長崎県波佐見町」を開催することができました。

日本再発見塾の様子の写真

日本再発見塾

全国から120名の参加があり、「手づくりしてみらんね 幸せに手の届くばい」と題して、「語る・探す・食す」をコンセプトに、やきものと 農業の町・波佐見町でいろんな見学、体験を通して、外から見た波佐見町の他のまちにはない魅力的なところを発表していただき、地元の人が普段は感じない 波佐見の良さをあらためて再発見するという、大変有意義で意味のある塾を開催することができました。その後も、地元主催で「波佐見再発見塾」が毎年開催され 地域を再発見し、地域活性化に一役買っています。

待望の「はさみ温泉」復活!

地域の盛り上がりは、ついに温泉も復活させました。以前あった温泉センターが閉鎖され波佐見町から良質な温泉が途絶えていました。

そのような中、温泉を何とか復活させようと町が新しい泉源を掘削し、地元有志の皆さんが立ち上がり、はさみ温泉「湯治楼」(ゆうじろう)が 波佐見の癒しスポットとして2010年4月にオープンしました。とろみがあり、美肌にいいと評判のお湯で、3つの内風呂は全て源泉掛け流しです。さらに、 このお湯に炭酸を封じ込め、全国的にも珍しい高濃度炭酸泉もあります。

湯治楼の写真

美肌の湯「湯治楼」

緑の山々に囲まれて、川のせせらぎを聞きながら、ゆったりと過ごすひとときをアットホームなおもてなしで体感でき、地元はもちろん、 県内外からもたくさんのお客様が心と体の癒しを求めて来て頂いています。

併設の「陶農レストラン清旬の郷」では、地元の食材にこだわり、旬のおいしい素材を使った身体にやさしい料理が波佐見焼の器でいただけるとあって、温泉同様人気のスポットとなっています。

これからのまちづくり

このように地域の活力が産んだイベントも、最初は数名の参加からのスタートでした。それでも地域の人たちは口を揃えて言います。 「最初は数名でもいいんじゃないか」、「その最初の第一歩を踏み出すことが大切なんだ」、「踏み出さないことには何も始まらない」このような気持ちが地域を動かし、 町民も巻き込み、イベントが定着化し、来訪者にも喜んでもらえるようになると思います。

そこまで来ると地域の自信となり、最終的には地元皆さんが元気になってもらえると思っています。

これからも、地区の特徴を取り入れたイベントを企画し、地区の方と一緒になって波佐見町を元気にし、PRできれば良いと思います。目標は、 町内22自治会で、それぞれの地域の特色を取り入れたイベントを年間1回行なってもらい地域活力を観光に取り入れていければ面白いと思います。

地域が元気で、訪れるお客様と地域が交流を持ち、お互いが体験観光等で楽しめる観光と産業がうまく融合できる、訪れる楽しみがある まちづくりを進めていきたいと考えています。