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長野県山ノ内町/地域特有の自然資源(自然エネルギー)を活用したまちづくり~「エコのまち」「元気活力あふれる産業のまち」を目指して~

印刷用ページを表示する 掲載日:2012年10月29日更新
スノーモンキーの写真

外国人観光客には特に人気の地獄谷野猿公苑「スノーモンキー」


長野県山ノ内町

2818号(2012年10月29日)  総務課企画財政係 湯本貴光


人と自然を育み、次世代へつなげる温もりのあるまち

山ノ内町は、長野県の北東部、上信越高原国立公園の中心に位置する四季折々の素晴らしい自然に恵まれた町です。志賀高原・北志賀高原の高原エリアに加え、 湯量豊富な温泉地として知られる湯田中渋温泉郷エリアを有し、日本を代表する観光地として年間を通じて多くのお客さまをお迎えしています。中でも「地獄谷野猿公苑」はニホンザルを 間近で観察できる人気スポットとなっています。“温泉に入るサル”として有名で、1970年に米「LIFE」誌の表紙に掲載され海外にも報道されたことから、1998年長野冬季オリンピックの 際にも世界中の関係者が訪れるなど、“スノーモンキー”として広く世界に知られる名所となっています。 

年間の寒暖の差が大きい内陸性気候であること、また全域が特別豪雪地帯に指定されているように冬季の降雪量が多いことなどから、高原エリアは避暑地・スノーリゾートと して、平地においては高品質の果樹生産に適した地象となっており、こうした自然条件を活かした観光業と農業が町の主要産業となっています。なお、志賀高原については、 国連教育科学文化機関(ユネスコ)が自然と文化の共生、自然資源の持続可能な利用促進などを目指して進める「人間と生物圏(MAB)」計画の中心事業である「ユネスコエコパーク」 にも登録されています(国内では5カ所のみ)。 

当町は平成22年度より過疎地域に指定されました。少子化や若者世代の町外転出による人口減少、人口年齢構成の高齢化は近年特に進んでおり (平成24年3月末時点の住民基本台帳人口:13,824人、高齢化率:33.2%)、また産業分野においても昨今の社会経済情勢の影響を受け、観光地延利用者数・観光消費額の減少、 農業従事者の減少と高齢化・遊休荒廃農地の増加が進んでいるなど、まちづくりにおける様々な課題が増大傾向にあります。こうした状況が地域活力の低下を招いている大きな 要因となっていることから、町民や地域との協働により積極的な対策を講じながら、自立のまちづくりを一層推進していく必要があります。  

こうした中、平成23年度を初年度とする第5次総合計画、平成22年度からの6年間を計画期間とする過疎計画をそれぞれ策定し、少子化・高齢化社会への対応、 地域ブランド力の強化と基幹産業の活性化などをまちづくりの重点課題に掲げ、町の将来像「人と自然を育み、次世代へつなげる温もりのあるまち」実現に向けた諸施策に取り組んでいるところです。 

最近の取り組みでは、「志賀高原ユネスコエコパーク」を地域振興に活用していくため、志賀高原周辺に限られている範囲を町内全域に広げる構想を進めています。 現在は、自然を重点的に保護する「核心地域」、自然教育などに利用できる「緩衝地域」だけが設定されていますが、人が住み経済活動を行うことができる「移行地域」の設定を 目指しています。これにより町の農産物を「ユネスコが認める農産物」としてアピールできるなど、当町の新たな魅力の一つとなることから今後実現が期待されます。

新エネルギービジョン(基本理念)

美しく豊かな自然環境に恵まれた当町は、様々な自然からの恩恵を受けて発展を続けてきましたが、今日の地球温暖化問題やエネルギー問題は、このかけがえの無い 財産である自然環境のみならず、私たちの日常生活や産業活動に対しても脅威を与えるものとなりつつあります。豊かな自然環境・安全安心な日常生活・安定した産業活動を今後も 維持・発展させていくためにも、地域資源を活用した自然エネルギー施策の推進に積極的に取り組んでいくこととしました。 

まず平成21年度に、町内の自然エネルギー賦存量や利用可能量の調査・把握、地域に適した導入推進プロジェクトの検討・具体化などを目的とした「新エネルギービジョン (初期ビジョン)」策定に取り組みました。信州大学工学部から学識経験者として2名の先生方を派遣いただくなどご協力をいただき、また町基幹産業である観光業・農業の関係者、 町民代表者、長野県の環境施策担当者などに参画をいただきビジョン策定委員会を組織、1年間かけて調査検討を行いました。 

委員会では、自然エネルギー施策推進にあたっての基本理念について再検討を行いました。1つ目に「自然の恵み(エネルギー)を最大限有効利用するエコのまち」として、 町に豊富に賦存する自然エネルギーを極力無駄にせず最大限有効利用することにより、実際に環境負荷の低減を図り地球温暖化防止・自然環境保全・化石燃料節減に貢献していく “エコのまち・やまのうち”を目指していくこと、また2つ目に「自然エネルギー施策推進による環境に配慮した元気活力あふれる産業のまち」として、観光や農業をはじめとする 町の産業分野において、自然エネルギーの有効利用により環境への配慮を広くアピールしながら他地域との差別化やイメージアップを図るなど、環境に配慮した元気活力ある産業振興に 取り組んでいくことを掲げました。これらの理念については“自然エネルギー施策推進により目指す町の将来像”として位置づけるとともに、その将来像のもとに 「町の地域特性に合致した」「地域振興に資する」「町民・事業者・行政の協働による」事業推進を3つの基本方針とすることを確認しました。  

新エネルギービジョン策定委員会の様子の写真

新エネルギービジョン策定委員会の様子

4つの重点プロジェクト

初期ビジョンでは、町の地域特性や自然エネルギー賦存量等の試算結果などを踏まえ、今後さらに重点的に検討を進めていくべきものとして4つの重点プロジェクトを 選定しました。起伏激しい地形と豊富な流水を有効利用する「小水力発電プロジェクト」、町の観光資源でもある温泉と雪を有効利用する「温泉熱利用プロジェクト」 「雪氷熱利用プロジェクト」、また太陽光発電と太陽熱利用による「太陽エネルギー利用」の4つを選定しました。 

この中でも「温泉熱利用」と「雪氷熱利用」については、他地域に無い町特有の賦存エネルギーであること(=地域特性)、貴重な観光資源でもあること (=地域振興)から、将来像や基本方針に合致する自然エネルギーであると位置づけることができ、今後優先的に具体的取り組みを進めていくべきものとしました。

温泉熱利用プロジェクト

初期ビジョンでの検討内容をさらに詳細化することを目的に、平成22年度に「温泉熱利用に係る詳細ビジョン」を策定、翌23年度から温泉熱利用促進事業として 具体的取り組みをスタートしました。まず町内の温泉利用関係者を対象とした「温泉熱利用普及拡大セミナー」を開催し、設備メーカーから実際の設備導入事例等について 紹介いただくとともに、参加者とメーカー担当者の個別相談会を設けました。またセミナー開催を契機に、町内の温泉利用施設や温泉引湯住宅において温泉熱を利用した省エネルギー設備等 を導入する方に対しその経費の一部を補助する「温泉熱利用設備導入支援補助金」制度を創設。温泉熱エネルギーのさらなる普及拡大に向けた支援策としました。 

これまでの実績ですが、当町の温泉特有の恵まれた条件「高温かつ豊富な湯量」を活かし、8軒のホテル・旅館等での設備導入がありました。当初、温泉熱の有効利用には 大規模な設備投資が必要ではないかと想定していましたが、比較的簡易なシステム・安価な投資費用で導入できることがわかりました。浴槽は“源泉かけ流し”であっても、 シャワー・カラン用に水道水を灯油等により加温して給湯する必要があることから、熱交換器により温水を作って貯湯・給湯するシステムへ代替することで、化石燃料の大幅な節減や 温室効果ガス削減に寄与しながら、約1年前後で投資費用を回収できるという驚愕の結果となりました。その他にも、有り余る温泉熱を利用して客室等建物内の暖房に利用している ケースもあり、公共施設でも新設保育園の床暖房と温水プールの熱源として利用しています。温泉熱利用の利点としては、24時間天候に左右されず安定的に熱源を取得できること、 また日々の管理も簡単なことであり、導入した方々からはたいへん好評です。将来的には温泉バイナリー発電がさらに安価に導入できるよう技術革新されれば、毎日大量に噴出している 既存の温泉源湯を利用した発電事業という道も開かれるのではないかと感じています。 

個別相談会の写真

温泉熱利用普及拡大セミナーにて個別相談会を実施

温泉熱利用設備の写真

補助金で温泉熱利用設備 (チューブ式熱交換器)を整備

「雪氷熱利用に係る詳細ビジョン」の画像

「雪氷熱利用に係る詳細ビジョン」

雪氷熱利用プロジェクト

平成23年度に「雪氷熱利用に係る詳細ビジョン」を策定しました。またビジョン策定と並行して雪山方式による屋外での「貯雪実験」にも初めて取り組み、 本年3月に約500トンの雪山を造成、特殊なシートで覆って8月まで貯雪し、“真夏の雪利用”と題してイベントを行いました。友好提携都市である群馬県玉村町の花火大会会場にて 雪灯籠100基を作ってデコレーション、農業体験で当町を訪れた都内小学生約100名に雪遊び広場のプレゼント、渋温泉夏祭り会場へ雪を運搬して雪遊びコーナーを設置など、 “真夏の雪”という非日常を体験していただく企画として好評でした。今回の実験により多くのノウハウも得られましたので、本年度の冬には更に知名度ある「志賀高原の雪」の貯雪に取り組む予定です。 

また現在、雪そのものを冷熱エネルギー源として利用する農産物等貯蔵施設「雪室」の建設に向けた詳細設計を進めています。来年度には雪室を整備し、 果樹やそばをはじめとした当町の農産物等の付加価値を高めるための貯蔵実験や新産品の開発等にも取り組んでいく予定です。

“真夏の雪遊び広場”に喜ぶ子どもたちの写真

“真夏の雪遊び広場”に喜ぶ子どもたち

貯雪実験の写真

約500トンの雪山を造成した「貯雪実験」(雪山の高さ約6メートル)

今後の課題

現段階では専ら行政主導により“エコのまちづくり”を推進している状況ですが、今後、地域における自然エネルギー普及拡大を図るためには、基本方針の一つ 「協働による自然エネルギー導入推進」に掲げたとおり、地域(町民や町内事業者等)による積極的な施策への関与と、自主的自発的な取り組みを引き出していくことが必要であると 考えています。そのための環境づくりなど「行政の役割」についてあらためて整理し、効果的な取り組みを展開していかなければならないと感じています。 

また国や県など関係機関においても様々な施策や取り組みが行われていますが、これら機関との協議調整を密にしながら、明確な役割分担のもとで、町として必要かつ 効果的な取り組みを選択して進めていく必要があると考えています。そのための情報収集や関係機関との意見交換、学識経験者とのつながりなども大切にしていきたいと考えています。 

「地域特有の自然資源(自然エネルギー)を活用したまちづくり」と題して、当町のこれまでの取り組み経過や今後の課題などについてご紹介しましたが、 サブタイトルにもあるとおり、本施策については単に温暖化対策・エネルギー分野だけでなく、自然エネルギーを核としたエコのまちづくり、とりわけ産業振興につなげていきたいという 思いを常に意識して取り組んできました。今後についても、自然エネルギー施策をまちづくり政策の大きな核と位置づけ、その効果がさまざまな分野へ波及されるような取り組みを 進めていきたいと考えています。  

当町では取り組みを始めたばかりであり、他地域と比較しても実績も誇れるものも何もありません。まずは自然エネルギー推進に対する町内の意識醸成に地道に 取り組みながら、町民・事業者・行政による協働体制の構築を図り、着実な取り組みを進めていきたいと考えています。