将来の美郷町を担う、人材と産業を育て上げる「みさとカレッジ」
島根県美郷町
2817号(2012年10月22日) 美郷町長 沖野 健
美郷町は、平成16年10月に、邑智町と大和村の2町村が合併してできた、人口5,300人余りの中山間地域の町です。
島根県のほぼ中央部に位置し、町内を中国地方随一の江の川(総延長194.0㎞)が大きく蛇行しながら貫流しています。江の川の沿岸部や谷間に集落が形成されています。 北西部には標高200m前後の平坦地が広がり、南西部には標高300m前後の丘陵地帯が広がっています。また、東部には標高400~700mの急峻な山々が中国山地へと連なっています。
総面積は282.92 k㎡で、島根県の総面積6,707.294k㎡の4.2%にあたります。
特産品としては、江の川の鮎やイノシシをブランド化した「山くじら」などがあります。
「山くじら」とは、日本で獣肉食が禁忌された時代、山間部などではイノシシを「山鯨(肉の食感が鯨肉と似ているため)と称して細々と、あるいは堂々と食べられており、 「薬喰い」の別名からもわかるように、滋養強壮の食材とされていました。
ここ美郷町では、今でも数多くのイノシシが生息しており、農作物などを荒らす害獣として駆除されていましたが、天然の自然薯や樫の実などを食べて育った イノシシの肉質は、歯ごたえも良く、めったに味わえない名物として地元の人に愛されています。その一方で、イノシシの肉は処理が難しく市場に出すことが困難とされていました。 しかし美郷町では、独自の処理方法で臭みを排除し、冬場の脂のある肉はもちろん、夏場でもヘルシーにおいしく食べることができるようになりました。今では 「おおち山くじら」のブランド名のもと、高級食材として全国各地の有名店でも取り扱われ、人気の特産品となっています。
さて、本町では、日本の産業構造の大きな転換から、これまで農林業に続く主産業であった建設土木業の衰退、縫製を中心とした製造業の撤退などから、 雇用及び生産所得の減少を余儀なくされ、町内の若者は仕事を求めて都市部へ転出していきました。
この結果、平成17年の国勢調査では、人口減少率が県下ワースト1位という結果となったことから、定住対策に特に力を入れて事業に取り組んできたところです。
特に、40歳以下の夫婦で小学生以下の子どもさんがおられる家族をターゲットにした、「1戸建て若者定住住宅」の建設は功を奏し、平成19年度から平成23年度までで 28戸を建設、126人が入居しています。
この結果、県内で4歳以下の子供が増えた地域が非常に多いという結果が出ています。合わせて、育児の負担を軽減することを目的に、保育料の軽減対策にも取り組み、 第2子までは国の基準の4分の1、第3子以降は無料にするなど、定住対策に力を入れてきました。
ところが、やはり仕事がなければ、いくら住宅や手厚い子育ての制度があっても、安心して暮らすことができないという課題は残ったままとなっています。
少子高齢化の進行から、町の担い手となる人材が不足してきたこと。また、文化・伝統芸能・慣習・古来からの技などについても、このままでは誰にも 伝承されることなく、忘れされられてしまう状況も危惧されるなど、これは町にとってたいへん大きな損失であると考えました。
これらのことから、将来の美郷町を担っていく人材と産業を一体的に育て上げる仕組みとして「みさとカレッジ」を設立し、将来の美郷町の持続・発展を図ることとしたところです。
第1回起業コンテストポスター
みさとカレッジは、平成22年度から平成27年度までを期間として策定した、美郷町過疎地域自立促進計画、及び平成23年度から平成27 年度までを期間として策定した 美郷町第1次長期総合計画の後期基本計画に、重点プロジェクトとして位置づけました。
そして、「人に投資し、人を育て、人による町づくりを進める」ことをテーマとし、次の5つの視点をコンセプトとしました。
これらのコンセプトに基づき、具体的な事業推進の手法としましては、「専科」「研修科」「普及科」の3つの「科」を設定して事業を展開することとしました。
専科は、美郷町内での起業促進を図ることを目的として実施します。
この起業にあたっては、早急な取り組みが必要なことから、第1段階として、地域の課題解決や資源活用などに主眼を置いた、美郷町内での起業を目的として、 平成24年4月に「第1回起業コンテスト」を実施しました。
第1回起業コンテスト審査会の様子
コンテストは、①地域課題解決、②地域資源活用、③経営革新の3部門により実施し、入賞者には賞金100万円を授与するとともに、起業に向けての支援 (実現プログラムの作成・プランのブラッシュアップ・起業資金支援助成(上限1千万円)を行います。
条件としましては、美郷町内で起業すること、美郷町に定住すること。また、みさとカレッジ研修生及び美郷町の住民を優先的に雇用することとしています。
4月に行った第1回起業コンテストでは、本年2月から募集を開始し、26件の応募をいただきました。この中から5件を選定し、公開でプレゼンテーションを行ったところ、 次の3件が入賞をし、すでに起業をされたものも含め、年度内にすべて起業をされる予定となっています。3件の入賞プラン
起業された(株)ヘルシーぷらす
研修科は、地域課題の解決や地域資源の有効活用などを目的として、町がテーマとして設定した次の6つのプロジェクトに沿った事業プランを提出していただき、 書類審査・面接(プレゼンテーション)審査を行います。
入賞者は、町で用意する研修先で1年程度の研修を行っていただきます。この間は生活支援費として月12万円を支給いたします。
研修終了後に、再度プランを提出(卒業試験的な位置づけ)していただき、これをさらにブラッシュアップをしますと、専科と同じように、起業資金の支援を受けることが 可能です。
なお、研修生の受け入れ先には、月10万円の指導料をお支払いします。
現在10月31日を期限として募集を行っているところです。
普及科は、誰でも参加することができる、オープン参加型講座で、カルチャースクール的なものとして、全体の底上げ的な位置づけとしています。また、 専科・研修科の入り口としても考えているところです。
本年度は、次の5つのコースを設定し、起業・就業はもちろんのこと、文化・伝統・技などの伝承者の育成などにも力をいれていきます。
受講対象者は、町内外・年齢・性別を問いませんし、受講料も無料としています(ただし、実習のための材料費等は負担いただく場合があります)。
また、各コースの受講定員は20名としています。
研修生募集ポスター
この普及科の開始に合わせて、9月30日(日)には「みさとカレッジ開校セレモニー」を挙行いたしました。
セレモニーでは、みさとカレッジの趣旨やコンセプト、これまでの取り組みなどを紹介したほか、石見銀山資料館の仲野館長による開校記念講演を行ったところです。
このように、みさとカレッジは「専科」「研修科」「普及科」の3つの柱で進めていくわけですが、単に起業のための補助金を出す。人を集めて講座を行う。 ということでは、まったく特徴のないものとなってしまいます。
みさとカレッジの特徴は、「専科」「研修科」では、より良い起業をするために、プランの段階からブラッシュアップの支援を行い、起業後もフォローをしていく 体制をとっています。
「普及科」につきましては、単に講座を聞いて「よかったよかった」で終わることなく、実践を通じて、確実に形になるものとしていくことや、底辺を広げるだけでなく、 指導やマネジメントができる人材も育成していくことを目的としているところが特徴です。
このみさとカレッジは、人と産業の活力創造システムとして立ち上げました。
しかしながら、まだスタートを切ったばかりです。
今後は一層、地域産業と地域の活力が活性化するよう、みさとカレッジの仕組みも含めて確立していかなければならないと考えているところです。
みさとカレッジ プレ・オープニングフォーラムの様子