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愛媛県鬼北町/森がすくすく、川がいきいき、人が元気 ~自然満足都市 きほく~

印刷用ページを表示する 掲載日:2012年3月12日
川上り駅伝の写真

四万十川最大支流「広見川」での川上り駅伝


愛媛県鬼北町

2792号(2012年3月12日)  鬼北町長 甲岡 秀文


インパクトある町名を活かす

全国で「鬼」の付く自治体は、我が町「鬼北町」だけであります。「鬼」のイメージには、好感を持てないという人が多いと思います。私はそれを逆手にとって、「鬼の北(来た)町」の町長ですと名刺交換をいたします。

「鬼」には、一つのことに信念と情熱を傾注し、ただひたすらやり通すという意味もあります。だからこそ「仕事の鬼」「土俵の鬼」と尊敬される日本の文化が息づいているのだと思っています。「鬼」は「力」、「鬼」は「精魂」です。

鬼北町は、平成17年1月1日に旧広見町と旧日吉村が合併し誕生した町で、四国愛媛県の西南地域に位置する人口1万1千余人の中山間地です。農林業が主産業ですが、国道3線が交差する交通の結節点であり、隣県高知県の市町村を含む地域住民の生活経済圏として発展してきました。

また1,000m級の山々に囲まれ、清流四万十川の最大支流である広見川や国立公園に指定される成川渓谷、四万十川源流の節安渓谷等の観光資源に恵まれていることから、公共の宿泊施設や二つの道の駅(「日吉夢産地」と「森の三角ぼうし」)、温泉、公園、観光農園等を整備し、魅力ある町づくりに努めています。

風光明媚な鬼北町は、先人から受け継いだ固有の生活文化や多様な芸術・伝統文化を継承してきた地域力と人間力豊かな町であると自認しています。

温泉のあるキャンプ場成川渓谷

成川渓谷は、古来より精麗な渓谷と自然林に囲まれた憩いの場として地元民に親しまれてきましたが、昭和47年にこの一帯が足摺宇和海国立公園に指定を受けたことによって一躍脚光を浴びることとなりました。成川渓谷を抱く毛山や八面山など1,000mを超える鬼が城連峰からの展望とともに、シイ・タブ・カシ類などの温暖地帯の広葉樹林が繁茂する自然林の中に、桜・カエデ・モミジ・ツガなどが混生し、四季折々の変化に富む絶景地であります。

また、成川渓谷が「愛媛12景」に指定されたことが活力となり、町営の宿泊施設である成川渓谷休養センターと高月温泉を整備するとともに、バンガロー(10棟)の新設とキャンプ場を完備しました。これにより四季を通じて遊山客が多く訪れるようになりました。隣接する高月温泉は、ラジウムと硫黄の混合泉で万病に効果があると云われており、大浴場からはガラス越しに移りゆく四季折々の渓谷美を眺めることができます。温泉とふるさと料理さらに温泉のあるキャンプ場としてアウトドアやグリーンツーリズムなど「癒し型レジャースポット」として人気を博しています。

成川渓谷休養センターの写真

温泉が楽しめる成川渓谷休養センター

「鬼北熟成きじ」が美味しい秘密

鬼北町では、特産品として雉(きじ)を養殖・加工・商品化して全国販売を展開しています。きじ肉は処理後すぐ食べるより2日ほど熟成させてから食べた方が美味しいことは昔から知られていました。しかし熟成とは、除々に腐敗が進行していくことを意味していますので、きじ肉の熟成を進めつつ腐敗を可能な限り押さえるためには、一定の低温で48時間寝かせるのが最適なことが解かりました。化学的に実験したところ、旨味の主成分「イノシン酸」等も48時間経過後に最大になることが解かり、その熟成のピーク時に凍結処理をするのがベストということになりました。

きじ肉が1年のうち一番身が締まって美味しくなるのは、12月~3月上旬頃のわずか4ヶ月間です。美味しい「鬼北熟成きじ」を年間通して安定供給するためには冷凍技術の開発が大きな課題となりました。しかし、従来の凍結法では凍結時に細胞内の水分が膨張して細胞を破壊してしまい、凍結で凍った成分の微結晶がどんどん結合してより大きくなり一層細胞破壊を進めるということが判明しました。また解凍時には、旨味成分を含む細胞内の諸成分がドリップ(多量の水分)となって出てしまい、味も鮮度も落ちてしまうことも解かりました。熟成技術で旨味成分をたっぷり含んだきじ肉に仕上げても、商品化するためには新しい凍結法の開発が急務となりました。

様々な実験の結果、熟成後マイナス30度以下のアルコール液にきじ肉を浸す「瞬間急速凍結技術」を開発いたしました。急速に内部まで凍結することで、細胞内に生じた微結晶がそのまま微小状態を保ち細胞破壊も最小限に抑えることが可能となり、それによって解凍時にドリップの発生を抑えることができたのです。

こうした様々な努力の結果、旨味成分が最良の状態にあるきじ肉に仕上げることができ、また最良の状態だからこそ冷凍保存中の劣化もなく長期保存することが可能となりました。

厳選した飼料で養殖したきじ肉には、人体に必要なアミノ酸が多種含まれておりヘルシー食材として食通にも認知していただいております。年間通して 美味しい「鬼北熟成きじ」を自信を持って提供させていただいておりますので、ぜひご賞味いただきたいと思います。

鬼北熟成きじの写真

「古(いにしえ)の味を食卓へ」鬼北熟成きじをご賞味あれ

ジャンボきじ鍋の写真

最大イベント「でちこんか」でのジャンボきじ鍋(手前)

高齢者の輝くまちづくり

平成8年に高齢者が中心となって「地域おこし」「ボケ防止」を目的に鬼北町愛治地区で「愛治ちんどんクラブ」が誕生しました。以来15年にわたり町内や県内外のイベント参加、福祉施設などの慰問等ちんどん演奏のパフォーマンスを披露し活躍しています。

平成8年に高知県野市町で開催された「全国素人ちんどん大会」では初出場でグランプリ大賞を受賞、その後も練習を重ね、今では演奏できる曲が30曲に及んでいます。現在最高齢は78歳、平均年齢は70歳、週2回の練習を欠かさず、見る人、聞く人の笑顔と自らの健康と元気を楽しみに活動しています。

また「愛治ちんどんクラブ」が主催し、実施しましたチャリティー演奏会での収益金を義援金として預かり、昨年6月に福島県福島市土湯町で行なわれた「東日本大震災被災者応援イベント」に鬼北町役場職員4名と参加し、土湯温泉観光協会に手渡しで贈らせていただきました。

この度、高齢者が過疎地で元気に生きる姿を記録した「第20回FNSドキュメンタリー大賞」で大賞を受賞、1月19日に全国放送されました。

福島県土湯温泉では、毎年「こけし祭り」を開催されており、今年は4月21日から22日にかけて開催されます。今回の「ドキュメンタリー」を見られた土湯温泉観光協会から、「ぜひ土湯に来てお祭りイベントを盛り上げてほしい。」と招待していただきました。福島市までは距離1,200キロ「愛治ちんどんクラブ」の会員にとっては気が遠くなりそうな距離でありますが、少しでも復興のお役に立てるならとイベント参加に向け準備を進めております。今回のイベントへの参加は、高齢者になっても、まだまだ社会のお役にたてるという、人間としての「誇り」の回復ではないかと思っています。

放送の中でも地域振興課長が語っておりますが、「農村では60歳代は青年」であり、この高齢者のパワーを最大限生かした町づくりは、今後の町のあり方を方向づけると考えています。

「愛治ちんどんクラブ」の地元愛治地区では、以前から高齢者が中心となった地域起こしの活動が活発であり、ウコンの栽培、そのウコンを利用したウコンラーメンの開発、山芋の研究・栽培などの取組みが進められてきました。

また、昨年から「愛治ちんどんクラブ」のメンバーが中心となって組織している愛治地区の老人クラブ「愛生会」が、耕作放棄地を利用した「そば」作りに挑戦しており、平成24年4月22日から11月4日まで開かれる愛媛県宇和島圏域観光振興イベント(高速道路開通イベント)「えひめ南予いやし博2012」では、自分たちで作った「そば」を使った「そば打ち体験」を企画する等、グリーンツーリズムにも積極的に取り組んでいます。

今後もこれらの活動をヒントに、高齢者が「誇り」や「生きがい」を持ち、輝いて生きていける町づくりを進めていきたいと考えています。

愛治ちんどんクラブの写真

大人気の「愛治ちんどんクラブ」

夜市に出演の愛治ちんどんクラブの写真

夜市に出演の愛治ちんどんクラブ

一世紀に繋げる庁舎

鬼北町庁舎は、昭和の大合併で誕生した旧広見町の庁舎として、今から54年前の昭和33年に完成した建物です。我が国の近代建築を牽引したアントニン・レーモンドが開設したレーモンド設計事務所が設計した庁舎として、建設当初から「町村の庁舎としては四国随一」と言われるほど注目された建物です。「鬼北町庁舎は強固な地盤の上に建てられており、適切な耐震補強工事を施すことにより引き続き庁舎として使用が可能であり、庁舎内の設備機器の改善も現在の技術を持ってすれば、更なる快適性が確保できる。また、その歴史的文化的な価値については、レーモンドの建築観や近代建築の教義に則った建物であり、1950年代の日本の近代建築の好例として、またレーモンドらしさを良く示した建築として、その建築史的価値は極めて高い。」との調査評価報告書が示されたことを受け、国の登録有形文化財にするよう平成23年12月9日に文部科学省に登録申請をしました。国の文化審議会は「無駄を避け、建築の必須要素だけで高水準のデザインを施すレーモンドの建築観を反映した完成度の高い建物で、建設後50年を経過し造形の規範となっているもの。」とする登録有形文化財基準を満たすとして、これにより本庁舎は、本年2月に正式登録されることとなりました。

築後半世紀を過ぎた鬼北町庁舎は、耐震性を始め様々な課題を抱えておりますが、その歴史的・文化的な価値は先述の通りであります。この庁舎を再生保存し、更に新しい価値を付加することにより、引き続き40年~50年庁舎として使い続けることこそ意義あることであり、真の地域財産・観光資源となると考えております。もっとも、経費がいくらかかっても良いということにはなりません。できるだけ経費を抑えながら、しかも現庁舎の持つ歴史的・文化的な価値を損なうことなく、耐震補強工事と合わせて改修工事を行い、本庁舎が単に役場の事務をする場所に止まらず、町民の皆様に希望や勇気を与えられる、そしてそこで働く職員が、町民の方々の幸せのために誇りを持って執務ができる、そのような再生庁舎にしたいと考えております。

鬼北町庁舎の写真

レーモンド設計事務所が設計した鬼北町庁舎