ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > 町村の取組 > 三重県玉城町/「明るく・元気で・長生き」できる町を目指して! ~ICTを利用した安心・元気な町づくり~

三重県玉城町/「明るく・元気で・長生き」できる町を目指して! ~ICTを利用した安心・元気な町づくり~

印刷用ページを表示する 掲載日:2011年11月28日
三重県玉城町の写真

三重県玉城町

2781号(2011年11月28日)  玉城町長 辻村 修一


私の住む玉城町

三重県は、日本最大の半島である紀伊半島の東側に位置し、海、山の豊富な自然に恵まれ、農業・漁業が盛んであります。また観光で江戸時代(お伊勢参り)から現在(F1日本グランプリや、鈴鹿8時間耐久レースなど)に至るまで、観光を産業として成り立たせている県です。わが玉城町はその中で伊勢神宮の鎮座とともに、神領となり、その中心でした。

町の位置は、伊勢平野の南部にあって、面積40.94平方キロメートル。本町の中心、田丸は、古来陸上交通の要地で、大和を結ぶ初瀬街道と熊野街道(世界遺産熊野古道出立の地)が合して伊勢に通じていました。江戸時代から、お伊勢参り(お蔭参り)の名で知られる伊勢神宮を擁する地域として発展しました。また、大河ドラマ「江」でも紹介された、織田信雄(のぶかつ)(織田信長の二男)が、天正3年三重の天守閣を掲げて現在の城郭を築き上げましたが、天正8年炎上して焼失。元和5年(1619)以来明治維新まで紀州領となり、廃藩置県とともに明治9年三重県管轄となりました。その後、昭和30年(1955年)、1町3村が合併して、玉城町が誕生しました。

平成15年4月、近隣の5町村が任意合併協議会を設置し協議をしましたが、平成16年12月協議を終了し、当町は当面単独の道を選択し現在に至っています。

押し寄せる高齢化の波

玉城町は人口15,400人、そのうち65歳以上の高齢者は3,300人、高齢化という問題を抱えています。特に大きな問題は高齢者の交通手段です。平成8年、民間の路線バスが大幅縮小されたことを受け、町は翌年、病院や買い物へ行く高齢者のために「福祉バス」という無料の路線バスの運行を始めました。2台体制の29人乗りのマイクロバスは、いつも乗客は4-5人程度。「空気バス・ガラガラバス」と呼ばれていました。路線型のため点在する住宅地をカバーしきれなかったのです。サービスを向上させたいのですが、予算は余りかけられない。路線バスは、時刻表通りに決められた経路で、すべてのバス停を回ります。その為に乗客が居ないバス停も巡回し、乗合い効率が悪い運行となっていました。

オンデマンドバスの採用

平成21年11月、路線型の「福祉バス」の欠点を改善して、高齢者の生活に合った新しいシステムのバスを登場させました。最大9人が乗れるワゴン車「元気バス」です。オンデマンドバスという新しいシステムで走ります。オンデマンドとは注文を受けてサービスをするという意味です。

特徴は

  1. 予約制の乗り合いバス
  2. 乗り合いによりタクシーより効率的
  3. 乗客がいなければ移動せず、路線バスより効率的
  4. 多数のバス停を設置できるためバス停までの便がいい

オンデマンドバスは、乗客が予約したバス停を最適な経路で巡回するので、無駄が無く、乗合い効率が高い運行が可能になり、環境問題(CO2の削減)にも貢献します。

また、時間帯によって予約が無いときは走行しないなど、柔軟な運行も可能です。

乗客は、予約をするというのが特徴です。バスには、乗車時間、乗車場所、目的地が違う乗客が乗り合わせます。この乗客のそれぞれの希望に合わせて運行するのがオンデマンドバスです。

バスの運行管理をしているのは玉城町社会福祉協議会です。ここに予約が入ります。

乗客は「元気バス・予約デスク」のオペレータに電話します。電話を受けたオペレータは予約内容をパソコンに入力、するとバスの運転手の端末に連絡が入ります。この指示に従ってバスを運行します。

乗客の希望に合わせるので、自宅や目的地の近くで乗り降りができます。これが、高齢者の交通手段として導入した大きな理由です。

ところが、当初デマンド方式の採用には消極的でした。その理由は、運行管理が大変難しいことでした。オンデマンドバスは、乗客一人一人の希望を効率的にスケジューリングしなければなりません。さらに、予約が追加されればそのたびに予定とルートがどんどん変わります。オペレータが予約を受け、オペレータが経路を作り、そして配車する。オペレータに土地勘や高度な経路形成能力が必要となります。バス停を増やせば増やすほど経路が増えます。そのため、どうしても時間遅れのトラブルになりやすかったのです。

元気バスの写真

オンデマンドバス「元気バス」

元気バス車内の様子の写真

元気バス車内の様子

東京大学大学院との出会い

こんな時、玉城町に転機が訪れました。

東京大学大学院新領域創成科学研究科 オンデマンド交通研究チームがコンピュータを使った、今までにない運行管理システムを開発していることがわかったのです。

人の頭で考えていた作業をほとんどコンピュータが肩代わりしてくれるのです。

バスの予約電話を受けたオペレータは、利用者の乗りたい場所、目的地、時間を選ぶだけ。するとコンピュータがインターネットを通じて、東京にあるオンデマンド交通サーバーにアクセスして、瞬時にバスのスケジュールを計算して無理なく運行できる乗車時間の候補を表示します。乗客はこの中から自分に合ったものを選びます。

東京大学大学院との出会いがこのあと展開するICT(Informationand Communication Technology)、情報通信技術を使って地域のコミュニケーションを作ることにつながっていくのです。

元気バスの推移と効果

平成21年11月、路線型の「福祉バス」と併行して運行を開始したオンデマンドバス「元気バス」は、当初、月に100人程度の利用でしたが、月を追うごとに利用者が増えてきて平成22年8月には3ルートあった「福祉バス」の1ルートをデマンド方式に切り替え、平成23年1月からは「元気バス」3台体制によるフルデマンド方式に完全移行しました。現在、月2,400人の方が利用されています。

「元気バス」は、高齢者の外出するきっかけを作りたい。その願いから始めました。「元気バス」のバス停は147カ所、町内の68ある自治区をすべてカバーします。「福祉バス」のときはバス停が53カ所でしたから、約3倍に増えたことになります。これは、バスを小型化したことにより城下町の道幅の狭い道をスムーズに走れるようになったためです。

バス停の数が増えたことで、自宅や目的地の近くで乗り降りができるようになりました。

町が開催している介護予防教室の参加も大幅に増えました。また、温泉施設に通う高齢者も増加するなど「元気バス」は、少しづつ町に変化をもたらせています。

玉城町の国民健康保険の一人当たりの医療費は県下29市町中21位とあまり高くないのですが、ここ5年間で外来が1.1倍の伸びに対して、入院が1.6倍に急増しています。

重症になるまで病院に行かないのでしょうか。日々医療費が伸び続けるという現実から、出かける機会と出かけやすさを求め、「元気バス」はその対策としても期待しています。

玉城町が採用したオンデマンドバスシステムの図

ICTを利活用した安心・元気な町づくり事業

平成22年3月、総務省の情報通信技術地域人材育成・活用事業交付金事業(通称:ICTふるさと元気事業)に応募し、「ICTを利活用した安心・元気な町づくり事業」として採択されました。この事業は、「外出支援サービス」、「安全見守りサービス」、「安全情報配信サービス」の3つのICTを活用したサービスを連携させた複合サービスを提供することにより、持続可能な地域の福祉・防犯・防災といった公共サービスの充実を図ることを目的としました。

①外出支援サービス

「元気バス」利用者は、オペレータへの電話予約だけに留まらず、自宅のパソコン、従来型の携帯電話からインターネットを経由してセンターサーバに接続し、希望の時間や移動の場所を指定して予約を行った上でサービスの提供を受けます。加えて今回の事業では、高齢者にとっても扱いやすいICT機器(スマートフォンやスーパー、銀行、病院、公共施設など43カ所に設置した、おサイフ携帯などFelica対応のカードで一発予約できる設置型バス予約端末)を新たに開発し、外出先でも高齢者が気軽にバスの予約を行えるようにしました。

外出支援サービスの画像

②安全見守りサービス

「安全見守りサービス」とは、高齢者・障害者の福祉・防犯の観点から、先の外出支援サービス」で活用するICTインフラと人的ネットワークを積極的に有効活用し、地域全体で高齢者の見守りサービスの提供を行うものです。スマートフォンを持った高齢者が、自身がけがをした場合、もしくはけが人を発見した場合などの緊急時に遭遇した場合に、簡単な操作で自身の位置情報をサーバーに送信します。すると受け取った情報はリアルタイムに社会福祉協議会のオペレータに通知されると同時に、地域内に存在する設置型バス予約端末にも通報され、社会福祉協議会職員や近くにいる方が駆けつけるという仕組みです。

安全見守りサービス(緊急通報)の画像

安全見守りサービス(安否確認)の画像

③安全情報配信サービス

「安全情報配信サービス」とは、地域全体の防災・防犯の観点から、地域の安全に関する情報の配信を行うものである。

町、もしくは社会福祉協議会職員によって、オペレータ用のICT端末から台風・地震などの自然災害の情報・不審者目撃情報がスマートフォンや設置型バス予約端末に送信されます。

今回の事業で採用したスマートフォンは、グーグル社が開発したOS(オペレーティングシステム)アンドロイドを搭載した端末が利用できます。したがって国内大手のキャリアはこの端末を発売していますので、携帯通信会社をどこでも選べるというメリットがあります。地図情報は無料のグーグルマップを利用します。また、「元気バス」や「緊急通報」のアプリケーションは、グーグルマーケットからダウンロードやバージョンアップができるように開発しましたので、世界中で自由に使える仕組みになっています。

従来型の携帯電話でも1回だけIDとパスワードを入力していただくと、次回からはこれを省略して「元気バス」を予約できる「簡単ログイン」機能を追加しました。この携帯電話にGPS(位置情報)機能やFelica(おさいふケータイ)機能がついていれば、町内43カ所に設置したタッチパネル方式の設置型バス予約端末(スーパーや銀行、郵便局、ホームセンター、病院、医院、老人福祉施設、公共機関など)で、携帯電話をかざすだけで簡単にバスを予約することができます。

「緊急通報システム」は、夜になると家族が帰ってくる。しかし、昼間は老々世帯になってしまう。出かけて何かあって家に電話しても誰も出ない。家族の携帯に電話しても仕事中で応答がない。こんな方々に、「見守ってくれる方がいるから安心して出かけてください。」という仕組みを考えたのです。

現在は、「元気バス」が運行している時間帯だけの見守りですが、安心して外出していただく「お守り」として利用されています。

スマートフォンは現在40名ほどの高齢者に利用していただいています。まだまだ、使い慣れなという理由で敬遠されがちですが、様々なサービスを展開をすることにより利用者を増やしていきたいと考えてます。

今後は、このバスシステムの予約IDを使って様々なサービスの利用ログを「生きている・生活している」というシグナルに置き換えて、高齢者を孤独にさせない。そんな仕組みを考えています。

このように、同一のICT機器・基盤を活用した複合サービスを展開することにより、さらに外出する機会を増やすことで、高齢者の方の社会参加の機会を増大させ、健康増進による医療費軽減の効果も期待するものです。また、地域全体で高齢者を見守り、さらに防災・防犯情報の共有を図っていきたいと考えています。

安全情報配信サービスの画像

基本理念の画像

住民が安心して元気に暮らすことができる町へ

高齢者の運転に起因する交通人身事故の割合が増加しているという現実の中、車を運転する「よろこび」から「元気バス」に乗って出かける「たのしみ」へ変えていきたい。

車は移動手段であって「いきがい」にしてはいけない。「生きがい」を失うと認知症になる可能性があります。

「元気バス」で「出かけさせる」という外出支援サービスを展開しながら、ICTを利活用して高齢者が「生活している・生きている」というシグナルから生活弱者を地域で見守る体制づくりを構築したい。

「高齢者の方を一人にしない」とういう町の願いを込めて、今後も「ICTを利活用した安心・元気な町づくり」を展開していきたいと考えています。