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北海道白老町/食材王国しらおい誇りある故郷づくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2011年6月27日更新
ポロトコタンの写真

ポロトコタン

北海道白老町の写真

北海道白老町

2764号(2011年6月27日)白老町産業経済課 高橋裕明


北海道にある元気まち

白老町は、北海道の南西部に位置し、東隣に苫小牧市、西隣に登別市が接する。平成23年1月現在、人口19,623人、世帯数9,726戸、面積は425.75平方km。町の基幹産業は、工業を中心に一次から三次産業までバランスよく構成されているまちである。

産業の概要

目の前に雄大な太平洋を望み、水産資源が豊富であり、水産業ではスケトウダラを中心にさけ、毛ガニ、貝類が水揚げされ、優れた加工技術による品質の高い「虎杖浜たらこ」が有名であると同時に、全国有数の透明度を誇る倶多楽(クッタラ)湖、町の背後に広がるほぼ手つかずの原生林など美しい自然がいっぱいである。その中で農林業は北海道でも有数の黒毛和種「白老牛」の生産や養鶏(鶏卵)、シイタケなどの栽培が盛んである。一方、工業は、道央中核地域に属し、地域産業の流通拠点である地方港湾白老港が整備され、製紙業をはじめ、食品製造業、機械器具製造業、精密機械製造業などが進出している工業団地がある。また、産業・流通の交通アクセスにも優れ、道央自動車道(陸)、白老港(海)、千歳空港(空)に隣接している。気候は道内でも夏は涼しく冬は雪が少なく温暖である。

さらに、本町は、道内を代表するアイヌ文化の伝承の地であり、自然を神としたアイヌ民族の生活と文化を復元し保存伝承している(財)アイヌ民族博物館には、多くの修学旅行生や外国人旅行者をはじめ、町全体で年間約200万人の観光客が訪れている。近年は後で紹介する「食材王国しらおい」の取組みとともに食産業と観光が連携しさらなる地域振興を図っている。

白老観光素材リストの画像
白老観光素材リスト

町民活動・福祉の概要

町民活動は、20年前に地域CI(コミュニティ・アイデンティティ)の導入以来、「元気まちづくり」に取組み、協働のまちづくりが進み、加入率100%である町内会連合会が地域自治を進め「町民まちづくりセンター」として町内会と各種ボランティア・NPO団体、文化・スポーツ団体、自然環境活動団体などの町民活動団体とのネットワークによる活動の取組み、情報の収集・発信、相談などの機能を有して活動している。また、議会改革の取組みも注目され、白老町議会では国内で初めて「通年議会」の導入や議員活動の充実に取り組んでいる。さらに、子どもからお年寄り、障がい者など福祉の取組みも長年にわたり盛んで、NPOによる子育てネットワークの取組みや障がい者が生き生きと働く事業所などがある。近年では高齢者に操作性を向上させた携帯電話を貸与し、高齢者の安否確認や買い物などの生活支援、地域の支援ボランティアへの相談や緊急通報機能をもたせる「高齢者見守り・生活支援システム事業」が注目を集めている。

環境活動の概要

環境活動は、自然環境保全活動としてNPOが活発に活動するほか、ゴミをリサイクルするという最先端のエコを実践する「ecoリサイクルセンターしらおい(白老町バイオマス燃料化施設)」で町内から出る可燃ごみ、生ゴミ、木くず、食品残渣、廃プラなどの多様な廃棄物を飽和水蒸気を用いて固形燃料に生成し、工場の石炭代替燃料として使用することでリサイクルしている。この施設によって19%だったリサイクル率は90%以上にまで上昇し国内でもトップのリサイクル率に達することから注目されている。

このように白老町は、人が元気、自然が元気、産業が元気な「北海道にある、元気まち」である。とりわけ、今回は、食と観光を中心として「誇りある故郷づくり」に取組む産業活動をレポートする。

虎杖温泉キャラクター「ゆたら」の画像
虎杖温泉キャラクター「ゆたら」

「食材王国しらおい」の取り組み

低迷する観光産業を立て直す

白老町では、平成3年度に250万人を超えた観光客数が、平成17年度には185万人にまで減少し、観光産業は危機的状況に直面していた。特に、観光の基幹施設であったアイヌ民族博物館の入場者数も平成3年度の87万人をピークに平成17年度には23万人にまで落ち込んでいた。

行政においてもこの危機感の高まりから、それまでの管理・指導型の体制から実践・営業型の組織体制に改編し、自治体間の広域連携の確立や民間旅行社との交流による振興策の導入など官民協働による地域活性化に取り組んだ。

そのことから、本町の観光特性を検討し課題を克服するために、①町内に点在する観光資源を有機的に結びつける。②旅行者の誘客と滞在時間の向上による観光消費額の増加を図る。③裾野の広い観光産業から地域全体に経済波及効果と活力を創出することに注目して提案されたのが、「食」が文化、自然、温泉をつなぐキーポイントとなる「食材王国しらおい」の取り組みである。

食材王国しらおい推進理念図の画像

食材王国しらおい推進理念図

官民協働の推進体制づくり

白老町では、「港まつり」、「牛肉まつり」や「白老港朝市」など、これまでに商工会、農協、漁協が中心となって開催されている産業イベントによる地域活性化に向けた取り組みをさらに発展させ、町をはじめ商業・観光事業者、学校や教育機関などとも連携して、地域に根ざした豊富な食材を用いた「地産地消」による新たな地域づくりに取り組むため、平成16年度から啓発事業を開始するとともに組織づくりを行い、平成18年度に「食材王国しらおい地産地消推進協議会」が発足した。協議会は、食に関する消費者と生産者の信頼関係の構築、豊かな食文化の継承や発展を目指し、地元の多彩な食資源を基盤に、生産から加工、流通消費に至る取り組みによって食品部門の基盤強化、観光産業の活性化を図り「誇りある地域づくり」を進める体制とした。事業の柱となっているのは、「産業の活性化」「観光と農林水産業の連携」「ヒトづくり・ネットワークづくり」「食育」の4つであり、この推進理念により地域ブランドを強化して町の未来に繋ごうとしている。

牛肉祭りの写真

牛肉祭り 2011年は、6月4、5日に開催され、来場者は、過去最高の49,500人でした!

食材王国しらおいの主な歩み

【啓発期】(平成16~17年度)故郷の素晴らしさを皆で知ろう

まず、地域の団体や地域住民に対する働きかけとして、町職員が町内の様々な施設や企業を個別に訪問し、抱えている課題を聞き取った。そのことにより課題解決に向けてこれまで繋がりのなかった事業者間や産業間を繋ぎ新たな産業が創出されていった。

観光客が白老の食を満喫する環境をつくるためには、町民による地産地消や生涯食育も必要であると考え、平成16年に開催した「食材王国しらおい誇りある故郷づくりシンポジウム」を皮切りに白老消費者協会による「食の文化祭」、札幌グランドホテルによる白老の食材を活用したフェア「大白老祭」、三国シェフと子どもたちによる味覚の情操教育「食育授業」、商工会による「産消協働ショップ」など多岐にわたる事業を実施した。

​試食会の写真
試食会

SHIRAOI B&Bの画像

しらおいシーフードカレーの画像

【実践期】(平成18~19年度)飲食店との連携強化、生涯食育へ

平成18年度には農・漁業、観光業界から消費者協会に至るオール白老による「食材王国しらおい地産地消協議会」を設立。町内初の取組みとして、普段は町内に流通しない白老近海で水揚げされた本マグロを提供する「まぐろの日」を企画し、町内の飲食店6店で開催したところ、各店とも平日の2~3倍の入込客を記録するなど好評であった。

そして、観光協会では、町内飲食店と協賛したご当地グルメとして「じゃらん」とのタイアップ企画で「白老バーガー&ベーグル」を開発。当初10店舗が域内調達による商品開発と販売を開始し、年間5万個を越す売り上げとなった。また、商工会においても全国商工会連合会の支援を受けて、独自ブランド「白老粋品」を開発するなど飲食店が中心となった地場産品との連携が強化された。また、食育の取組みは小学校での単発な授業から総合学習と連動した取組みに成長し、北海道栄高等学校では選択授業である「味わいクラブ楽食」の学習テーマを「食材王国しらおい」として、レシピの考案から飲食店でのテスト販売に至る授業として深まった。

しらおい蔵バーガーの写真

じゃらんとのタイアップで生み出されたしらおい蔵バーガー

【発展期】(平成20~22年度)産学官民連携によるビジネス構築を目指して

5年目を迎えた平成20年度は、北海道の支援を受け、食による地域活性化を目指した「食材王国しらおいブランド強化事業」としてプロジェクトに取組み、内容は、①白老「薬膳料理」開発事業 ②元気農園プロジェクト事業 ③しらおいシーフードカレー開発・PR事業 ④海の畑づくり事業 ⑤食材リスト作成事業の5つで構成され、本町の豊富な山海の幸やアイヌの伝承有用植物を素材に、地域に根付く文化の独創性を前面に打ち出し、産学官の連携による新たな料理・食品・商品を開発して、生産から加工・販売までトータルコーディネートすることで、食材に「付加価値」を与え、産業の底上げを目指した。

アイヌ伝統料理の写真
アイヌ伝統料理

「白老牛」の図形商標の画像
「白老牛」の図形商標

取組みの成果とまちおこしへの効果(白老の特性を活かした振興策)

観光客数の減少や商工業の低迷から始まった「食材王国しらおい」の取組みは、従来の行政の仕事を大きく変えた。ひとつは観光や商工といった縦割りの仕事や調査・報告といった管理型の体制を、より行動実現型にするための行政内連携体制とともに、現場主義の実行や産業間連携が深まり関係機関の垣根がなくなったこと。これまでの民間が中心の活動からまち全体を考えた地域振興として活動できるようになったこと。そして職員が白老町をトータルに売り込むセールスマンとして企画書を作成して積極的に営業し、旅行会社の商品化が実現していったことなどで、平成20年度には観光客の入込数が208万人にまで回復した。

しかし、まだまだ国内景気の低迷が続くなか、課題は山積しているが、農林水産業の生産者から加工業者、飲食店、福祉・環境関連事業者などが連携することでお互いが抱える課題を解決できることが多くあることに気づき、自ら主体的に取り組もうとする意識変化がある限り将来への可能性が高まった。観光の形態も時代とともに変化し、団体旅行から個人旅行へ、見学旅行から体験旅行へ、そして、健康旅行や産業観光など多岐にわたる。現在、本町では、バラエティーに富んだ産業を抱える町の長所を活かして、中学校の宿泊旅行向けに職業体験メニューの開発を進めている。農業・漁業体験のほか、ネイチャーガイド、文化伝承者、学芸員、陶芸指導、リサイクル業、ホテル業、小売業、福祉施設などの1次~3次産業までの全てで受入れ可能な体験商品をつくったところ、早くも6校の受け入れを開始した。

さらに、本町は全国町村では珍しく東京事務所を置き、企業・観光・商工といった部門を中心に職員を常駐させ、首都圏での企業や産業との連携を強化して、町内の産業界とともに生産・消費や誘客の拡大を図るシティセールスを行なっている。その結果、首都圏発の旅行商品の開発・催行や旅行会社の担当者などが下見に多く訪れるなど、また、首都圏の飲食店で白老地場産品の取り扱いが増えるなどの効果が現れている。

このように積極的に活動する白老町は、アイヌ文化という地域独特の資源や自然の豊富さ、そして何より産業間連携や人材ネットワークという利点や強みを活かして、食と観光、食と産業という切り口に着目して「食材王国しらおい」を進め、誇りある故郷づくりを目指している。

ポロトコタンの夜の写真
ポロトコタンの夜(チセ夜景)