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和歌山県北山村/“小さな村だからこそ出来ることがある” 伝統技術・地場特産物・ICT・環境保全・教育の5本柱で地域づくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2011年5月23日
観光筏下りの写真

北山川夏の風物詩“観光筏下り”


和歌山県北山村

2760号(2011年5月23日)  北山村長 奥田 貢


全国唯一の飛び地の村

和歌山県北山村は、紀伊半島の南東部に位置し、周囲を三重県と奈良県に囲まれた和歌山県のどこの市町村とも隣接をしていない全国で唯一の飛び地の村です。

面積は48平方キロで97%が森林となっています。豊富な森林資源に恵まれ、かつては木材と筏師の村として栄え、人口も2,000人近くを有していましたが、現在では人口約500人、高齢化率48%という典型的な過疎で少子高齢化の村となってしまいました。加えて、戦後復興の電力需要のため北山川にもダムが建設され、北山村は上流には七色ダム、下流には小森ダムと2つのダムに囲まれた村となり、住民の生活環境も大きな変革を余儀なくされてきました。

今は、平成の大合併も飛び地という特殊な地理的条件から合併を断念し、単独の道を選択することで、村民一同が力を合わせて先人達が築いてきた北山村を守って行こうと決意をしたところです。

過疎だ少子高齢化だと悩んでいても仕方がない、地域は自らが守る、自分で出来ることは自分でやる、これをモットーに、“これがこの地域に見合った適疎である”“小さな村だからこそ出来ることがある”と発想を変え、「伝統技術を復活継承した観光筏下り」「地場特産物じゃばら販売」「地の利の悪さを逆手にとったICT活用」「環境保全に配慮した地域資源の活用」「少子化と過疎対策になる教育の充実」の5本柱で地域の特性を活かし、小さな村だからこそ出来る施策を実施し積極的な地域造りに取り組んでいます。

筏下りの復活(伝統技術の復活と継承)

優良な紀州杉の産地として栄えた北山村は、切り出された木材は筏に組んで北山川を流し、下流の木材集積地である新宮へと運んだ筏師の村として、600年の歴史を有しています。北山村の筏師の技術は高く評価されており、戦前では朝鮮半島の鴨緑江まで筏流しに出かけていきました。

しかし、戦後復興政策の中で電力エネルギーを確保する事から北山川にも多くのダムが建設され、基幹産業である林業の衰退と相俟って伝統ある筏流しも終焉を迎えることとなりました。このような状況を憂いた先人達が地域活性化のためにと取り組んだのが600年の歴史を持つ筏流しの伝統技術を復活させ、後世に継承していく事業として、北山川に観光筏下りを復活させることでした。

紆余曲折を経て昭和54年に北山村観光事業の目玉として復活以来、全国各地からスリルを求めて多くのお客さまが来るようになりました。激流に観光客を乗せて昔ながらの筏で下るのは全国でも北山川だけです。毎年5月3日が観光筏下りの開航式となっており、5~6、9月は土日及び祝日のみ運航、7~8月は木曜日を除いて毎日運航をしています。

観光筏下り開航以来30余年を経過した現在では、北山川夏の風物詩として定着してきましたが、大きな課題は筏師の高齢化にともなう後継者の確保です。平成10年に全国から後継者を募集し後継者養成事業に着手しました。現在では、筏師後継養成者15名が、夏は観光筏下りに、冬は林業等に従事してこの伝統技術を継承しています。

しかし、近年の林業の衰退等から冬場での仕事の確保が大きな課題となっており、後継者達には、伝統技術を継承しつつ、新しい分野の仕事にも携わっていくことが求められています。

筏と筏師の像の写真

おくとろ公園にある筏と筏師の像

地場特産物じゃばらで地域振興

ゆずでもない、すだちでもない、とんでもない柑橘類が北山村に自生していました。原種原木の「じゃばら」とよばれる果実です。「じゃばら」という名の由来は、邪気を払うからきており、北山村では正月料理に欠かすことのできない縁起物の果実でした。昭和47年「じゃばら」は国内はもとより世界に類のない新品種であることが判明し、昭和52年に農産種苗法による品種登録を出願し、昭和54年に種苗名称登録許可を得たのです。

しかし、知名度の低さや販路の狭さは致命的で、販売事業もままならず事業廃止も検討されるような状況にまでなりました。そこにインターネット時代の到来という、事態を急転させる救世主が現れました。平成の時代に入りIT、IT、という言葉が飛び交うようになりインターネット全盛の時代を迎えたのです。このような状況の中、北山村としても地の利の悪さを逆手に取り、最後のチャンスとしてじゃばら販売をインターネットに賭けてみようということになり、インターネット販売に取り組みはじめました。これが北山村の今後を左右するぐらいの大きな転機となりました。

小学生によるじゃばら収穫体験の写真

小学生によるじゃばら収穫体験

じゃばら果実と果汁の写真

じゃばら果実と果汁

地の利の悪さを逆手にICTの活用

北山村として最初にICTの活用に取り組んだのが楽天市場への出店でした。大きなきっかけはお客さまの一言「じゃばらは花粉症に効く」ということでした。

直ちにインターネットを活用して1,000人モニター調査を実施しましたが、その結果は驚くべき結果でした。回答を頂いた人の約半数の方が花粉症に効果があったということでした。この結果をインターネットで公表するとすぐに大きな反響があり一躍じゃばらが脚光をあびることとなりました。

これを契機として売上も順調に推移してきましたが、IT全盛の時代にはより新しいツールが求められています。北山村としては、これまでに培ったインターネット通販のノウハウを活かす新たな戦略として平成19年春にブログポータルサイト(俗称村ぶろ)の運営にのりだしました。

このブログポータルサイトは、自治体運営としては全国初となります。運営の基本理念は、地域に密着したブログとして地域情報を発信し、北山村の応援団を全国に作り、地場畜産物の販売促進と地域活性化を図ることで、ブログ内の広告収入やシステム利用料等による運営として、村に財政負担のかからない仕組みとしています。現在の利用状況は、会員数約1万5千人、アクセス数1日当たり約30万PVとなっています。

村ぶろの輪も広がり、民間企業及び自治体で運用を頂いています。自治体では北海道の上士幌町とブログを通じての連携交流が始まっています。

この様なICTへの積極的な取組が認められ、平成19年10月には日本経済新聞社から地域情報化大賞MJ賞を受賞、平成22年には総務大臣から情報通信月間及び地域造りへの表彰を頂きました。自治体が運営するブログについては、種々の課題があるのも事実です。しかし、ICTは地域活性化にとって大きなツールの一つであることは間違いありません。地域が如何にそれを活用するかにかかっていると感じています。

じゃばら花粉症モニター調査のグラフ

地域密着型ブログポータルサイト「村ぶろ」の概要の画像

環境保全に配慮した地域資源の有効活用

地球環境保全の動きは世界的に大きな動きとなっています。北山村においてもこの様な観点から観光施設の一つである「おくとろ温泉」のリニューアルにあわせて温泉供給方式を循環式から掛け流し方式に改めると同時に加熱方式をこれまでの化石燃料から間伐材等の地域資源を活用した木質バイオマスボイラー方式(薪ボイラー)に変更し、CO2の削減に取り組むこととしました。(平成23年5月3日から運用を開始しています。)

化石燃料から薪ボイラーに変更することによりボイラー管理等の人件費は若干増えることが考えられますが、CO2の削減や間伐材等地域資源の有効活用を考えれば今後は大いに活用されるシステムであると考えています。

木質バイオマスボイラーの写真

おくとろ温泉に導入した木質バイオマスボイラー

少子化・過疎化対策と教育環境の充実

少子化対策と過疎対策の課題は表裏一体であり、如何に地域から若者を初めとする人口の流出をくい止めるか、または流入をいかに図るかにかかっています。ただ、山間僻地の過疎地域では大きな企業の誘致等は不可能であり、就業機会の確保は容易ではありません。しかし、あれもダメこれもダメと手をこまねいていても仕方がありません。北山村では、少しでも子供達の教育環境を良くし北山村で子育てをしたいという方が、1家族でも2家族でも増えればと、“出来ることは何でもやろう”という思いで、教育環境の充実に取り組んでおります。地域の将来を担う子供達を光り輝く宝物に仕上げていくのも行政の仕事であり、ひいては過疎対策と少子高齢化対策になっていくと考えているところです。

力を注いでいる「教育環境の充実」の大きな特徴として、①小規模校ならではの小中一貫教育への取組、②国際化に対応した英語教育の充実、③学力向上と社会教育の向上を目指した北山村塾の運営です。

特に、国際化に対応した英語教育には力を入れており、保育所からの英語教育、小学校での英語教育、中学校での海外語学研修を兼ねた修学旅行(平成22年度はアイルランド2週間)などに積極的に取り組んでいます。海外研修では、ホームスティして現地の語学学校への通学、現地学校との交流等が主なカリキュラムとなっています。(総費用の約90%を公費で負担)

保育園児も参加しての英語教育の写真

保育園児も参加しての英語教育

語学学校での授業の写真

語学学校での授業

中学生海外研修旅行(地元高校生との交流)の写真

中学生海外研修旅行(地元高校生との交流)

おわりに

小さな村だからこそ、小規模だからこそ出来ることが沢山あります。例えば意志決定が早いのもその一つで、予算等費用面においてもそれなりのメリットはあると感じています。

勿論、それぞれに一長一短がありますが、大事なことは、色々なことを先々と心配しても仕方がない、これがベストと信じて前に進むことではないかと思っています。これをモットーに北山村は、これからも地域造りに積極的に取り組んで参ります。