栃木県那珂川町
2752号(2011年3月14日) 那珂川町長 大金 伊一夫
那須の山々を源としてゆったりと流れる那珂川と八溝(やみぞ)山系の豊かな自然の恵みを受け、発展を続けてきた馬頭町と小川町が平成17年10月に合併して「那珂川町」が誕生しました。
栃木県の東部、茨城県境に位置し、東西約23㎞、南北約19㎞、中央部には関東の四万十川と称され町名の由来となった清流那珂川が南流しています。総面積192.84平方kmのうち耕地が約15%、森林が約64%を占める中山間地域です。
人口は、19,000人あまりで、主な産業は、農業、林業、観光業です。農業は、水稲・畜産が主体ですが、近年ではトマト、イチゴ、ナスなどの施設園芸作物やナシ、ブドウなどの果樹類も定着しています。林業では、豊富な山林を有する八溝山系の木材は、「とちぎ八溝材」として良質ですが、木材需要の低迷により苦しい状況に置かれています。
観光面では、地域資源をネットワーク化するとともに、地場産業と連携し特産品の推奨を図り、交流人口の増加と地域の活性化を図りたいと考えています。
広重美術館を核とした「にぎわいのあるまちづくり」として、街なみ環境に配慮したバリアフリーの道路整備を推進し、人にやさしいユニバーサルデザインの道路交通環境の整備をしました。また、電線類の地中化も実施し、街なみ景観の形成に努めました。
電線類の地中化を実施し、景観に配慮した街並み
高齢者等のマイカーを利用できない交通弱者の足を確保するため、自宅と市街地までを利用者の希望に応じて運行する「デマンドタクシーなかちゃん号」の実証運行を平成22年10月から始めました。実証運行により見直しを行い本格運行に移行する予定です。
デマンドタクシーなかちゃん
当町は、高度情報化社会に対応し、情報通信技術(ICT)を活用した地域の一体性の確保と行政サービスの向上を目的に、平成17年にケーブルテレビ高度化事業計画を策定し、平成18年から3か年の継続事業でケーブルテレビ施設の高度化を実施しました。
平成21年4月にケーブルテレビ放送施設がリニューアルし、地上デジタル放送再送信を始め、CS有料放送サービス、インターネット接続サービス、IP電話サービスなど新しいサービスの提供が可能となりました。
情報通信基盤の整備は、あくまで地域活性化の手段であることから、基本サービスの充実はもちろん、ケーブルテレビ網の町民の利便性の向上、地域福祉や地域産業の活性化、豊かで安全・安心な生活の確保等に利活用していくことが今後の課題となっています。
平成21年にリニューアルしたテレビ放送施設
歴史的には、関東地方で最も古い古墳が造られるなど特色ある文化が育まれました。国指定史跡の筆頭は、古代那須地方の役所である那須官衙(なすかんが)です。発掘調査の結果、役所や倉とみられる建物跡が確認されました。県内最古とされる駒形大塚古墳、前方後方墳の那須八幡塚古墳などの那須小川古墳群、古代の豪族の墓跡と伝えられる唐の御所(からのごしょ)、弓の名手那須与一が生まれたとされる那須神田城址などが国指定の文化財となっています。
これらの史跡や資料を保護し、文化財の調査研究啓蒙普及を図るため県立なす風土記の丘資料館は、ふるさとの森公園の一角にあり、県北部地域の文化財保護センターの機能を果たしています。
歌川広重の肉筆浮世絵・版画等を中心とする「青木コレクション」の寄贈を契機に建築した馬頭広重美術館は、美術品の研究・保存、芸術鑑賞など新たな芸術文化活動の拠点となっています。
県立なす風土記の丘資料館
豊かな国際感覚と感性を身に付け、国際化時代に対応できる人材の育成と国際交流を生かしたまちづくりを推進しています。
その一つが県内に在住する外国人を中心に地域民間団体の協力を得て実施するホームステイなどの国際交流事業です。「ホームステイウィークエンドIN那珂川」と名付けたこの事業は、田植え時期と稲の収穫時期の年2回実施し、平成22年度で15年目を迎えました。
「ホームステイウィークエンドIN那珂川」での稲の収穫
昨年10月の収穫には、県内在住の外国語指導助手や留学生など29人、ホストファミリーなど総勢120人が参加して春に植えた稲の刈取りを行いました。稲刈り終了後には、地元ボランティアの手作り料理や指導による餅つきなどで交流を図っています。
また、姉妹都市であるアメリカ合衆国ニューヨーク州ホースヘッズ村へ中学生や高校生を派遣し、国際理解教育活動の推進を図っています。
ニューヨーク州ホースヘッズ村との交流
町の中央を流れる那珂川は、鮎の漁獲量日本一で、釣りのメッカです。魚屋の軒先や観光やなで食べる鮎の塩焼きは格別です。
町内9か所の農産物直売所には採れたての大根や白菜、キュウリ、トマトなどの新鮮野菜やイチゴ、ナシ、クリなどの果物が並び、安全安心な食材を供給しています。
とちぎ「食」の回廊で、「八溝そば街道」にあたる当町には、十数軒のそば処があり、八溝山系の豊かな水資源のもと、寒暖差の大きい中山間地域で作られた香りの高いそば粉を使用したこだわりの食味が楽しめます。
また、新たな特産品のブランド化の取り組みを紹介します。一つは、箱罠やくくり罠で捕獲した野生のイノシシの生体を買い取り、町営加工施設で商品化したイノシシ肉に「八溝ししまる」のブランド名を付けて売り出しました。
「八溝ししまる」は、食肉加工店や地元温泉旅館、飲食店に出荷され、八溝ししまる料理として好評を得ています。農作物の被害も減少し、まさに一石二鳥の取り組みです。
農産物直売所
二つ目は、温泉を活用して、高級魚のトラフグを養殖する「那珂川町温泉トラフグ研究会」の取り組みです。廃校となった小学校で塩分を含んだ温泉を使って実証実験を続けて、「温泉トラフグ」の養殖に成功し、昨年夏に初出荷しました。今後、事業拡大によりブランド化を目指しています
八溝県立自然公園内に位置する当町は、緑と清流に恵まれた自然資源、古代から連なる歴史文化資源、温泉、美術館、ゴルフ場、キャンプ施設などのスポーツ・レジャー資源など魅力的な観光資源を有しています。
那珂川沿いの高台にある馬頭温泉郷は、1860(万延元)年に源泉が発見され、今も豊富なお湯が湧き出ています。アルカリ性単純泉で、肌がなめらかになることから「美人の湯」と呼ばれており、「町営温泉ゆりがねの湯」を始め、十数軒の温泉宿から眺める夕日に染まる那珂川は絶景です。
また、対岸の「まほろばの湯」は、ナトリウム硫酸塩・塩化物泉で電気風呂、気泡浴、遠赤外線強化仕様フィンランドサウナなど様々な入浴が楽しめます。
当町には、三つの美術館があります。
まず、「那珂川町馬頭広重美術館」は、江戸時代の浮世絵師歌川広重の貴重な肉筆画や保永堂版東海道五拾三次之内、小林清親を中心とした明治版画、日本洋画界創始期の画家川村清雄の油絵、思想家徳富蘇峰の書などを所有しています。「江都八景」や「富士十二景」など、広重の肉筆画の名品を鑑賞することができます。また、建築家隈研吾氏の設計による建物は、「広重の芸術と伝統を表現する伝統的で落ち着きのある外観」をコンセプトとし、自然豊かな町の景観に溶け込むよう、ゆったりとした平屋建てに切妻の大屋根を採用しています。
美術館全体は、地元産の八溝杉による格子(ルーバー)に包まれ、時間とともに移りゆく光によってさまざまな表情を見せてくれます。「いわむらかずお絵本の丘美術館」は、日本のみならず、ヨーロッパやアメリカ、アジアなど13か国の国々で翻訳出版されている世界的な絵本作家いわむらかずお氏の原画や絵本などが展示された美術館です。
美術館に併設されたえほんの丘(子どもの森)は、総面積10ヘクタールの土地が、描かれた絵本同様に雑木林や草原、田んぼや畑などを配し、訪れた子供たちが自然を学び、豊かな心を育む情操教育の場となっています。
「もうひとつの美術館」は、廃校になった小学校の校舎を活用して開設されました。さまざまな障がいを抱えた人たちの芸術活動をサポートするとともに、誰もが表現活動の楽しさを感じることができる場として、あるいはアート本来の力によって人と人を結びつけ、誰もが人の可能性、自分の可能性を見出していく、そんな新しい出会いの場を提供している美術館です。
那珂川馬頭広重美術館
いわむらかずお絵本の丘美術館
「小砂焼(こいさごやき)」は、日本最古の砂金の産地と伝えられる当町の小砂地区から焼物に適した陶土が発見されたのをきっかけに、水戸藩主徳川斉昭が御用窯として庇護し、日用の陶器が焼かれるようになりました。
現在は、黄金の光を放つ砂金を思わせる金結晶の陶器を始め、青磁、白磁などが7軒の窯元で製作されています。芸術性もさることながら日用性を重視した皿、碗、壺などを生産し、「栃木特産百選」、「県伝統工芸品」に指定されています。小砂焼体験センター「陶遊館」では、手びねりや絵付けなどを気軽に体験できます。
小砂焼
定住人口を増やすため、家庭菜園もできる分譲宅地「農ある田舎暮らし高手の里」を造成しました。
町外から定住希望する人に住宅用地として20年間無償貸与するもので、1区画150坪程度で10区画整備しました。田舎暮らしを考えている方のお越しをお待ちしています。
「農ある田舎暮らし高手の里」を造成