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岩手県一戸町/携帯販売サイト「アイ・ショップ」を開設 ~町独自の販路開拓で、少子高齢化時代の生き残りを図る~

印刷用ページを表示する 掲載日:2010年8月23日
鳥越観音堂の写真

鳥越観音堂 ここを開いた慈覚大師が竹細工を広めたといわれている。


岩手県一戸町

2730号(2010年8月23日)  一戸町まちづくり課 主査 野崎 貞春


一戸町の概要

一戸町は岩手県北部に位置し、東側を北上山系、西側を奥羽山脈の山々に囲まれた、面積約30平方km、人口約1万5千人の町です。

町南部の奥中山には町を縦断している国道4号の最高地点があります。また、現在はJRから経営分離された三セクのIGRいわて銀河鉄道が国道4号に沿って運行していますが、その昔は峠を越えるため蒸気機関車を三台連結して運行する必要があったことから、機関区が置かれるなど旧国鉄時代には鉄道の拠点となっていたところです。

岩手県北部から青森県南部にかけ、一から九までの「戸」のつく市町村がありますが、これは南部藩の時代に馬を生産する単位を戸とよび、それぞれ管理した名残となっているようです。

また、岩手、青森、秋田の北東北と北海道には、縄文時代の遺跡が多く発見されていますが、一戸町でも御所野遺跡や蒔前遺跡などの遺跡が発見されており、青森県の三内丸山遺跡など他の縄文遺跡と協力して世界遺産登録を目指して活動をしています。

御所野縄文公園の写真

「御所野縄文公園」縄文時代の人々の暮らしを見るだけでなく体験することができます。

レタス畑の写真

一戸を代表する色はレタスの緑。「緑の風景には地元の生産の場がかかせません。」

携帯サイト構築の背景

冒頭で紹介したとおり、一戸町は古くからの歴史を有する町で、全国にも知られた「鳥越の竹細工」をはじめとして、脈々と伝えられた工芸品や特産品が存在しています。また、町の基幹産業は農業ですが、国道4号の最高地点があるとおり、標高が高い地区では、その冷涼な気候を活かした高原野菜の栽培や酪農が盛んに行われており、レタスなどの高原野菜は全国的にもその品質には非常に高い評価をいただいています。

しかし、かつては日常生活用品として需要が多かった特産品も、現在では限られた方々が使っているにすぎず、地元の小学校の授業にその製作実習を取り入れたり、地元産品の紹介・販売所を開設したりしましたが、このままでは伝統工芸が廃れてしまうのではないかという懸念がもたれていました。

しかし、年に数回町外で開いている物産展では、非常に多くの売上、来場者があることから、決してごく限られた一部のニーズではなく、様々な活用方法があり、より広くPRを行うことで新たな顧客の開拓を図れると考えました。さらには、これらの工芸品は農閑期の主要な収入源であったという側面もあったことから、需要を喚起することで町民の所得となりうる可能性が多分にあり、それがひいては製作者の増加につながるという循環が期待されていました。

このような状況のもと、まず取り組むべきは、商品の歴史や使い方などの背景をひろく伝え、個々の価値を高める必要性があるとの認識から、普及が著しい携帯電話を用いた商品紹介サイトの構築を考えましたが、物産展などで希望の商品が入手できないなどの意見から、実際に購入も可能なよう平成18年12月に携帯販売サイト「アイ・ショップ」を開設しました。

竹細工の写真

弾力性と耐久性に富む竹細工。使い込むほどのあめ色の美しい光沢が増していきます。

携帯サイトの概要(アイ・ショップ&公式サイト)

サイト開設にあたり考えたことは、「そもそも役場の資源とはなんだろう」という点と、「どのようにしたら継続性を持つことができるだろう」といったことでした。

昨今、行政へのイメージはともすると、「仕事が遅い」とか「サービスが悪い」といったネガティブな評価が多いように感じていますが、一介の地方公共団体が詐欺的なことを行うといったイメージは少ないように感じており、それをいわゆるネット通販の分野に活かせないかと考えました。

大手ネットショッピングモールへの出店も検討しましたが、公共団体が関与することによるリスクの軽減も見込まれることから、むしろ産品の魅力を伝えることに傾注すべきという結論に達しましたので、独自サイトを開設することとしました。

また、継続性の維持という観点からは、できるだけ平易な操作性を採用しながら、携わる方々の意識を変えていく、例えば、生まれてからずっと当地で暮らしている方にとっては当たり前のものでも、他の方から見たら素晴らしいものがあるかもしれない、といった意識を持つことが必要であると考えました。

さらに、当町でも過疎化、高齢化が進んでいますが、こういった販売形式の定着により、将来、高齢者世帯への買い物代行などへの発展の可能性も期待しました。

なお、このアイ・ショップの実績としては、現在若干数字は低下していますが、立上げ時には一日平均で約250件のアクセスがありました。また、その後開設した一戸町のモバイルサイトはNTTドコモ社のiモード公式サイトとして登録いただいており、そのページからアイ・ショップへリンクを貼るなど、アクセス向上を狙っています。

アイ・ショップ画面の写真

アイ・ショップ画面「アイ」は一戸町の頭文字です。

アンテナショップの立上げ

前記のとおり、当町の産品の価値を高める取り組みは依然として必要なものと認識していますが、やはりおのずと限界もあると考えています。

普及している携帯電話ですが、やはり商品を確認するには画面サイズが小さいという難点がありました。その傾向は高額商品になればなるほど顕著で、実際に工芸品の購入については、過去に物産展等で実物をご覧になった方がほとんどでした。

また、食品に関してはサイトでの販売は難しく、主要な産品である高原野菜や乳製品についても、当町は大量消費地から離れているため輸送コストの問題などから昨今の状況下での競争力の低下や、流通過程の中で産品の価格を生産者が決定できないことによる収入の不安定性などが心配されていました。

そのため、実際に商品を手にとってご覧いただける場が求められていましたが、ただちに利益を生み出すことは難しいと予想され、店舗の開設は困難であると考えていました。しかし、たまたま当町出身の方から一戸町、ひいては岩手県の産品を紹介する場を作りたいとの申し出があり、平成22年1月に神奈川県横浜市にアンテナショップ「ナチュラル・エッセイ」をオープンすることができました。

アンテナショップ「ナチュラル・エッセイ」の写真

神奈川県・横浜市に一戸町のアンテナショップ「ナチュラル・エッセイ」をオープン。地方と都会を結ぶ仲介役を目指しています。

町への効果

従来、当町ではどちらかというと生産活動に傾注してきました。それは当町に限ったことではなく、農業を基幹産業とするどの自治体も同様ではないかと推察します。

しかし、こういった販売活動に力を注いだ結果、少しずつではありますが、生産者の意識も変わってきつつあります。

例えば、工芸品については、これまで趣味的な活動であったのが、購入者の視点で製作を行うようになったり、町外の方々から興味をもっていただくことで製作にもより力が入るようになったりしています。

また、行政におけるコンピュータの活用についても、情報の収集などに限らず、実生活で有用なものとなる可能性が見出され、町内の商業に活用できないかといった意見も出されるようになってきました。

以上のように、アイ・ショップの開設やナチュラル・エッセイの開店は、一戸町をPRしようとする気運を醸成するのに一役買ったということができると思います。

課題と今後の展望

以上がこれまでの取り組みですが、今後の課題も多く残されています。

まず、地元産品を紹介するという位置づけで開始していますが、やはり継続するためにもある程度の利益確保は必要です。

特に横浜市に開設したナチュラル・エッセイでは、大都市での出店ということもあり、店舗家賃などの経費支出が大きいです。また、オープンした時期も農閑期で商品の品揃えも多くなかったことから、今後魅力的な商品の販売や多角的な商品の充実が求められています。

さらには、生産者の中には、ナチュラル・エッセイへの出荷を他の出荷先と同等に考えている方もいるので、やはり一戸町をアピールできる高品質のものを出荷していただくよう啓蒙する必要も感じていますし、ナチュラル・エッセイの傾向を産地へフィードバックできる体制づくりも整える必要があると考えています。

もちろん、消費者が求める高品質な産品を創出する取り組みを続けることは言うまでもありません。

また、アイ・ショップについても、より実店舗と連動した販売促進活動も行えると考えており、出品数や発送体制の強化などが必要であると考えています。

近年、ネットショッピングは増加を続けており、今後もその傾向は続くという意見もありますが、大手ショッピングサイトに登録しても、なかなか成功事例が少ないのも実情ではないでしょうか。

もちろん当町の取り組みが成功していると言うことは、とうていできません。しかし、当町のような少子高齢化や過疎化が著しい町では、他市町村との競争力を持たないとその存在すら危ぶまれてしまいます。

地方の町であるほど、景気の動向に翻弄されます。景気が良いときにはゆっくりと、少しずつ恩恵を受けますが、ひとたび景気が悪くなると真っ先に影響を受けてしまいます。そのために時間や人手がかかることも多くありますが、住民が一丸となって、もがき続ける必要があると考えています。

そのような取り組みは従来行政が進出し難い分野ではありますが、これまでより柔軟な自治体ドメインを検討し、自治体が持つ資源も活用しながら生き残りを図る時代が到来していると認識しています。

木工製品の写真

手業に長けた木工製品も町の特産品です。