青森県東通村
2717号(2010年4月19日) 東通村長 越善 靖夫
本州最北端青森県下北半島の北東部に位置する東通村は、東は太平洋、北は津軽海峡に面し、面積(294.36平方km)の約80%を山林・原野で占めている村です。そして、北東端の尻屋崎を挟み、津軽海峡と太平洋に面した約65㎞にも及ぶ海岸線や、幅約1㎞長さ10㎞以上にわたる猿ヶ森砂丘など、独自の景観と豊かな自然に恵まれた地域です。
東通村は、明治22年の町村制施行以来、隣接するむつ市に役場庁舎を置く、全国でも極めて珍しい自治体でした。昭和63年に、村の地理的中心地である砂子又地区に役場庁舎を移転し、中心地として整備が始まりましたが、人口は、点在する村内大小29の集落に散在している状況にあります。
また、村議会は、昭和40年に原子力発電所の誘致を決議し、平成17年に東北電力1号機が運転を開始しました。今後、東北電力1基、東京電力2基の建設計画が進行しており、村では原子力発電所との共生による街づくりを進めています。
当村は1万人に満たない人口ではあるものの、村民の総意のもと、他市町村とは合併せず、単独での行政運営を選択して歩んでおります。
このような状況で、村の基本構想の中の重要な柱の1つである「人材育成」を進めるため、①安心して子供を産み育てられる子育て環境づくり、②未来を担う子供たちが将来の夢に向かって大きく羽ばたいていく教育環境づくり等を村の最重要課題に掲げ、取り組んでおります。
村制100年を記念して完成した新庁舎
村には、平成16年度時点で小学校16校、中学校6校があり、人口に対して学校数が極めて多く、うち4校は小学校・中学校併置校、9校は複式学級を伴う極小規模校という状況にありました。このような状況の中、これまで学校は子供たちの学びの場であると共に、地域のコミュニティ活動の中心としての役割も担い、村独自の形で発展し、愛され、親しまれてきました。
しかしながら、高度化・多様化する現代社会において、独自の形で発展してきた村の学校は、いつしか子供たちの学力を高める機能を構造的に弱め、多くの子供たちにとって恵まれた教育環境とは言えない状況となっておりました。このことは、子供たちの進学状況や各種学力調査において、殆ど全ての教科で満足出来る数値に達していない状況をみても明らかでした。
現在、原子力発電所の立地に伴い、各方面の様々な分野の人口流入と地域の高度技術化が進む中で、子供たちが科学技術に関心を持ち、立派な国際人として活躍出来る力を育む教育を施すことは、欠かす事の出来ない必須の条件となっています。
また、将来にわたって地域の機能を存続させていくためには、地域が自ら様々な分野・職種のエキスパートを育て上げていかなければなりません。それには、子供たちの知力を高め、知力を土台として、徳力・体力が相乗的に大きく伸張し、心身共に逞しく、自らの夢を達成する力を育成する必要があると感じておりました。
そのため、これまで先人達が築き上げてきた教育的財産と英知、教育への情熱を再認識し、将来を的確に見据えた教育環境を改めて再構築することが大切であり、その過程においては、「保護者・地域・学校・行政」が一体となって考え、共に行動・実践することが重要であり、村全体で子供たちのことを考えていく教育環境を作り出す必要があると決意しました。
平成16年に既成の教育概念や枠組み等、一切の教育界のしがらみに影響されないよう村長部局の企画部門に事務局を設置し、諮問機関の「21世紀東通村教育デザイン検討委員会」に対し、学力の充実を目指した総合教育プラン「教育環境デザインひがしどおり21」の策定を諮問し、翌年3月に答申を受けました。
策定段階においては、教育現場の新たな取り組みや変革を嫌い、低い学力も風土によるものと片付け、現状維持を求める教育現場が様々な形で反発した事から、本検討委員会委員には一切委嘱せず、子供たちの学力向上を切望する保護者並びに村連合PTAから全面的な賛同・協力を得て、多数のヒアリングやワークショップ、アンケートを経て、子供たちの将来を想い、大きな飛躍を願ってやまない保護者や村民の理想が直接盛り込まれたプランとなりました。
答申では、「21世紀の国際的リーダーと村をリードする次世代の優秀な人材の輩出」と「子供を持つ世帯に魅力的かつ先進的な教育の村として確立し、定住志向を高め、県内外からの移住取り込みを図る」という2つの大きな目標のもと、具体的な数値目標が掲げられ、目標達成のためには、保護者・住民が深く学校教育に参画、教育に対する気運を醸成し、保護者・住民・学校・教育行政が一体となって取り組んでいくことが必要であると提言されました。
この答申は、骨格デザイン8項目と詳細デザイン30項目で構成されております。主なデザインを紹介すると、
等の斬新な提案がなされました。
このような斬新な施策の提言(デザイン)がなされました。
総合教育プラン「教育環境デザインひがしどおり21」
東通小学校全景
東通中学校全景
答申を平成17年3月に受け、平成17年4月には、本プランを具現化するための人事の刷新を図ると共に、教育委員会内部の機構改革を行い、教育政策室を設置するなど実施体制を整えました。
また、平成20年4月に中学校6校を1校統合、平成21年4月に小学校16校を1校統合しました。
更に、平成24年4月には、現在10園ある乳幼児施設を認定こども園として1園統合すると共に、乳幼児施設・小学校・中学校を隣接設置し、廊下で繋ぎ、幼小中一貫教育の展開をハード面からサポートしていく予定としております。
一方、ソフト面では、平成17年度に「わが村の先生制度」特区の認定を受け、現在、村費負担教職員を全国公募で15名採用し、小学校で25人学級、中学校で29人学級の少人数学級体制を敷くと共に、小学校段階から主要教科で習熟度別クラス、ティームティーチング、教科担任制を既に導入しています。
更に、平成19年の「東通村英語教育特区」の認定により、小学校1年生から英語科を正規教科として設置し、日本人英語教員、外国人英語教員、学級担任の3人体制で英語教育を行っており、特に、豊かな国際感覚の育成と英語によるコミュニケーション能力が身に付けられる村独自で策定した英語教育プログラムは、小学校段階で中学校卒業程度レベルの習熟を無理なく可能としております。
構造改革特区伝達式
当時、全国初の試みであった公営学習塾「東通村学習塾」の設置は、村内外からとても多くの反響がありました。
民間学習塾が村・保護者と協働で運営を行い、低廉な受講料(月1,000円程度)を導入して、現在、中学生を対象に週2日間、長期休業時はほぼ毎日開設し、村の子供たちの学力強化に貢献している状況にあります。
また、学習塾の運営をより効果的にするために、個別受験相談窓口の設置や、学習塾保護者の会を設立するなど、試行錯誤を繰り返しながら運営を行っている状況にあります。
今後は、受講対象を小学校1年生まで拡充し、全ての子供たちが学習塾に通う体制を整えるとともに、学習塾が年間を通して毎日開催されるなど、先進的な学校教育以外の教育環境を目指し、更なる充実をしていかなければならないと考えています。
「東通村学習塾」での授業風景
学校教育に対するニーズの多様化と社会や価値観の複雑化の中で、学校教育の本質的究明や全体的な掌握は極めて困難になっています。しかし、政府も学校教育制度そのもののあり方を検討するなど、教育改革という大きなうねりは着実に進行している状況にあり、本プランを実現して、村の次代を担う子供たちが夢と希望を持ち、自信を持って、国内はもとより国際社会にも大きく羽ばたいてもらうことこそが、村にとっての最重要課題だと考えています。
また、教育改革の実現は、地域や保護者の日常生活への影響が大きく、住民の理解・協力はとても大切であります。常に住民の目線に立ちながら、一方で、将来を見据えた的確な決断をしていかなければなりません。
教育改革は、一朝一夕で成果が見えるものではないため、子供たちの将来に想いをはせながら、着実に根気よく取り組んでいく姿勢と保護者・住民・地域・企業の気運を高めながら協働を保ち、今後、総合教育プランの実現に向け、更なる努力を傾注していきたいと思っています。
尻屋崎灯台と寒立馬