2692号(2009年9月7日) 村長 安江 眞一
東白川村は面積8,700ヘクタールの92%が山林であり、2,800人の村民が暮らしております。明治22年の立村以来、合併も分村もせず120年が経過、7月1日に120周年を迎えました。11月22日に記念式典と中部フィルハーモニーのコンサートを予定しております。
岐阜県で一番実質公債費比率の高い東白川村は平成の大合併に乗り遅れ、岐阜県では白川村とともに二つだけの村となりました。世界遺産の白川村とは遠く離れた岐阜県の東部に位置し、国道41号と国道257号を繋ぐ国道256号と、飛騨川支流の白川に沿って開けた中山間の小村であります。
東白川村の自然の恵み、茶園から山々を望む。
村の産業構造は第一次産業14.4%、第二次産業43.5%、第三次産業42.1%であり、平成21年5月末の高齢化率は36.6%で典型的な少子高齢化の進む、中山間の過疎地域であります。また、幻の未確認生物「ツチノコ」の目撃例が日本一多い村として、ツチノコを探しつづけている夢とロマンをもった村としても有名です。
平成3年に設立したふるさと企画は、資本金3,325万円、一株5万円で村民が、223株、村外居住の関係者が42株、東白川村が400株で誕生しました。社長が村長、副社長が商工会長、取締役には、各種団体役員が務め、行政や団体が一体になって地域を活性化する組織として始動しました。現在は、当時の社員が代表取締役となり、公設民営として地域をリードする会社運営を目指しています。
ふるさと企画は、農産物の加工製造事業、特産品の販売事業、都市との交流事業の3つの柱で事業展開をしています。はじめに、製造事業の拠点となる「味の館」では、農家の皆さんが丹精こめて育てた農産物を特産品として加工製造、商品開発をおこなっています。特に、村では健康農産物の郷として夏秋トマト「桃太郎」の生産が盛んですが、完熟して市場に出荷できないトマトに付加価値をつけてトマトジュース「とまとのまんま」を製造販売しています。トマトのうまみがぎゅっと詰まったトマトジュースは、市販のトマトジュースに比べ濃厚のため、トマトをまるかじりした食感があり、トマトジュースが飲めない人でも飲みやすいと好評をいただいています。現在年間10万本(720mlビン)を製造し、完売の状態です。
次に販売事業の拠点となる「つちのこ館」では、村内の特産品の販売を行っています。村内の各業者からの、ツチノコクッキーなどのお菓子、アマゴの燻製や炭火焼、そして白川茶など特産品のすべてを取り扱っております。また、農家から新鮮な野菜などを仕入れ、お土産屋として村に訪れていただいた方に商品と情報を提供しています。また、「つちのこ館」には、日本で唯一のツチノコ資料館が併設されており「まぼろしの生き物ツチノコ」の話題の提供もしています。
そして、交流事業の拠点となる「こもれびの里」では、人と人、人と自然、村と都市の交流をテーマにし、「体験」をキーワードとして感動が味わえる手づくり体験の里として、30種にもおよぶ食の体験・クラフト体験のメニューを開発し、イベントも定期的に開催しております。風光明媚な観光地でも温泉地でもなく、周囲を山に囲まれた何もない小さな山村に、いかに都市からの交流人口の増加を図るかは、ふるさと企画に課せられた責務でありましたが、現在、村外からの多くのお客様を招き入れています。「おもてなしの心」を持って、お越しいただいたお客様に、満足してお帰りいただくことが大切とスタッフが一丸となって取り組んでまいりました。こちらから営業訪問や多額の経費をかけて宣伝広告はできないので、日々、お客様と接するサービスの向上の積み重ねで、お客様に満足していただくことが最大の営業だと考えております。
こもれびの里でクラフト体験(プレートづくりの様子)
今後の取り組みとして、国が行う「子ども農山漁村交流プロジェクト」を受け入れできるように体制を整え、子供を通じて、さらにつながりを深めることができるよう展開していきたいと考えています。人と人とのふれあいの大切さ、自然のいとなみの偉大さを肌で感じられる交流を通じて、遠い親戚のようなつきあいができる関係が一番の理想です。
東白川村の二つ目の第三セクターに「有限会社 新世紀工房」があります。「新世紀工房」は、平成12年4月に村の農業振興を目的に設立された第三セクターです。設立当初は特産品の白川茶の製造販売を主たる事業として活動を開始しました。しかし、茶園を始め水田も農家の高齢化が進み、耕し手の不足が深刻化する中、「農地の引き受け手対策」が緊急な課題として挙げられてまいりました。
(有)新世紀工房は今や村にとってなくてはならない存在
引き受け手をどこへ求めるか。「経営手腕に優れた人材を、地域が支える生産法人に集結し、生産、加工、流通、販売までをトータルした6次産業化をもって、持続性のある農業生産基盤を築く」これが「農業山村=東白川村」の生き残りをかけた再生の道だと考え取り組みました。
村の水田農業機械化一貫体系を構築し、運営にあたっては「中山間地域等直接支払制度」によるふるさとづくり交付金制度を創設して農家負担を軽減。東白川方式によって全ての作業を請負っています。
また、設立2年後の平成15年4月には道の駅として運用を開始し、地元白川茶の再生加工販売はもちろん、食で結ぶ交流を進めています。今年は、さらに10年先を見越した課題対策に取り組んでおり、村の農産物はじめ県内のこだわり産品を取り扱う流通の動脈「物流部」を新設。さらに農業生産法人としての特殊性を生かした水田、畑作、ブルーベリー栽培等に取り組んでいます。加えて、野菜の他、村の天然素材を道の駅全体に拡張して販売する産直部・(東しらかわ産直)・を新設しました。
いずれの部門も一貫して「食の安心、おいしいを極める!」を社是として「わたしの/東しらかわ村」をキャッチコピーに東白川ブランドを推進しています。
(有)新世紀工房 農業サポートの田植え作業
「有限会社 新世紀工房」は、今や東白川村になくてはならない存在になっています。雇用の場の創出と農業生産所得の向上をめざしてお客様に絶対の信頼を置いていただける会社を社員一丸で目指しています。特に平成19年7月から、公設民営化として、代表取締役を民間登用してから事業の幅が一段と広がり、雇用も増して東白川村の将来を背負って行けるものと考えております。
最後にこれから設立を目論む新しい村おこし会社の紹介をしたいと思います。国産材利用向上による地域経済活性化事業(ICT事業)です。
当村は、地域面積の92パーセントが森林で占められていることは冒頭にも書きましたが、森林資源によって生活が支えられてきました。しかし、住宅建築における利用シェアが20パーセント前半まで落ち込み、それに呼応して、基幹産業である住宅建築の低迷と、森林木材の取引量、取引額共に極めて低い水準に至っています。
1990年以降、こうした社会情勢から派生する急激な変化は、村民の所得の減少と人口減少を招いています。この課題を解決するには、競合大手住宅メーカーとは差別化された経営戦略と、新たに国産材利用のニーズを引き出す斬新な手法が必要となります。そこで、総務省の「地域ICT利活用モデル構築事業」によって、全国のモデル地区となり、新しい発想で国産材の利用を促し、差別化された戦略をもって住宅建築の受注拡大に取り組んでおります。
建築受注で、これまで一番の課題であった顧客との接点の創出、透明性の高い建築経過の公開などを解決するために、ICT(Information and CommunicationTechnology)技術をその手段として利用することといたしました。
一方で1880年代の国産材の素材価格が、現在の6倍近い高値をつけていた時代のイメージとして、「国産材は高い」ということが、素材価格の下落しきった今日も、神話の如く固定概念として国民全体にあることです。
専用サイトではユーザーが思い描く間取りを描くことが可能
この固定概念を打破するため、村では、インターネット上に概算建築費を算出するシステムを用意します。このシステムでは、建築ユーザーがインターネット上で自分の思い描く間取りをシステムを使って描きます。この時点で、デフォルトの仕様に基づいて概算建築費が算出されます。さらに、建築ユーザーの希望する材質、機器を選択することによって理想とする住宅像の実際の建築に係る概算建築費をリアルタイムで表示します。(参考、テスト版概算建築費算出サイト http://www.forestyle-home.jp/)
このシステムによって、誤解されていた国産材の価格について正しい認識を広めようということが主目的ですが、加えて、顧客になり得る建築ユーザーの住宅像を知ることが、実際の営業に役立つ最も優れた情報収集システムでもあります。
主流である30~40代の世代のニーズとしては、デザインの選択、工務店の選択、競争力のある価格提示という「選択と納得」が、顧客を開拓するキーワードとなります。このため、当事業では、複数の設計士(建築家)や工務店と顧客の間にポジションを置く新しい中間的立場の会社を設立することとしています。営業的には、設計士(建築家)、工務店の代理として建築ユーザーに働きかけを行い、建築体制を整える段階では、建築ユーザーの代理人となるもので、言い換えると建築コンサルタント的性格の新しい組織を起こすものです。
少子化によって縮小していくとされている産業分野ではありますが、全体の傾向とは別に、拡大していく要素を形にしていくことによって勝組として生き残る戦略が「優位シナリオ」です。具体的には
①国産材利用による炭素固定を明確化し、FSC( 森林認証 http://www.forsta.or.jp/fsc/)を進めることによって、国産材利用の住宅が温暖化対策に貢献し、加えて環境保全に役立つという認識を広めること。
「無いものねだりよりあるもの探しの村づくり」をモットーに村の挑戦は続く。
②太陽光エネルギーに代表される自然エネルギーを取り込むことで、ランニングコスト削減を実現できる住宅を広めること。
③花粉症やアトピーに代表されるアレルギー疾患について、国産材を使うことの合理的理論や知識を広めること。
以上の3つを柱において、持続性ある事業として、この11月にはサイトの全体の完成を予定しており、実践の段階に移ります。
東白川村には120年間、先人により脈々と守りつづけられてきた歴史と自然があります。私の村づくりは、これまで述べてきたように、地域にある自然とその恵みである農林業から産みだされる特産物、そしてそこに暮らす人々の知恵と汗を縦横に組み合わせ、地産地消をスローガンに「無いものねだりよりあるもの探しの村づくり」を基本にして進めてまいりたいと思っています。