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茨城県大子町/活力ある町、大子のオリジナル施策

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年8月31日更新
茨城県大子町 授業風景の写真

茨城県大子町

2691号(2009年8月31日)  企画観光課 主査 藤田 貴則


町の概要

大子町は茨城県の最北西端に位置し、北は福島県、西は栃木県に接しています。

町面積325.78平方kmは、県総面積の約5%を占める広大な町であり、面積の約80%は八溝山系と阿武隈山系からなる山地で、八溝山や男体山などの秀峰を擁しています。気候は高温多雨で寒暖の差が大きい山岳気候の様相を呈し、このような地勢や気候の特性から、町にはこんにゃく・お茶・米・りんご・しゃも等の特産品が数多くあり、日本一の名瀑である袋田の滝、清流で知られる久慈川、県内随一の奥久慈温泉郷など自然資源に恵まれた山紫水明の地で、年間150万人の観光客が訪れる観光と農林業の町です。

昭和30年に1町8か村が合併して誕生した町の人口は、当時43,812人を有していましたが、平成21年5月1日現在21,173人と少子高齢化が急速に進行しています。現在、町は過疎自立促進特別措置法の過疎地域に指定されており、財政力指数0.35と自主財源率が県最下位であって、交通・情報通信・生活排水処理等の基盤整備が十分とはいえない状況にあるなど、多くの課題を抱えています。

このような状況の中、平成19年1月に綿引久男(わたびきひさお)町長が就任し、活力ある町を目指すため、「若者の住む町づくり」を政策目標に位置づけて、積極的に施策を展開しております。

その活力ある町づくりのため、様々な取り組みをする大子町において、大きな二本柱となっているのが、外部からの活力導入を行う「山田ふるさと農園」事業と、内部の活力で住民活性化を図る「読書のまち宣言」です。

大子町では、これら取り組みのほか様々な事業を展開し、平成20年度に総務大臣表彰や茨城イメージアップ大賞等を受賞しております。

山田ふるさと農園

当事業は、財政的に新たな開発・基盤整備が困難な状態のなかで、町所有の遊休地を活用し、財政支出を極力抑えて、都市住民等を誘致できないかという発想からスタートしました。

遊休地の様子の写真
「山田ふるさと農園」には町所有の広大な遊休地を利用した。

山田ふるさと農園は、1区画平均1,000㎡以上の農園付き住宅用地を16区画に整備し、20年間無償で貸与する事業であり、以前は大子営林署のスギやヒノキの苗畑でした。

この地域は、JR常陸大子駅から車で10分ほどの位置で、「全国お米まつりinしずおか2006」で最優秀賞(1位)を受賞した「奥久慈大子米」の産地でもあります。

事業面積の約17,305㎡を、造成等を行わずに16区画( 1 区画約796~1,745㎡)に分割し、区画内道路を防塵舗装するなど最低限の整備を行いました。

事業の特徴としては、別荘や分譲住宅、滞在型市民農園とは異なり、約1,000㎡の広大な敷地に居住者が自分の好みに応じて住居を建築し、農作物を育てたり芸術活動を行うことができることです。

1.募集条件

  1. 大子町以外に住所を有し、概ね65歳以下の者。
  2. 定住又は二地域居住(年間90日程度以上滞在)する者。
  3. 住宅は平屋建てとし、近隣の景観を損なわない外観であること。
  4. 住宅建築にあたり、町内建設業者を利用し、自費で住宅を建築する者。
  5. 契約後1年以内に居住すること。

2.優遇施策

  1. 町有地の無償貸付…広大な土地を20年無償で貸し付ける。(20年後に貸付更新や譲渡も可能)
  2. 定住促進奨励金の交付…定住者に対し、家屋の固定資産税相当額を3年間交付。(土地の固定資産税はかからない)
  3. 木造住宅建設助成金の交付…一戸あたり50万円を交付する。(条件:県内木材を2分の1以上使用、延床面積80㎡以上 等)
  4. 町営浄化槽の設置…市町村設置型浄化槽により、設置費用の9割程度を町が負担し施工する。(施工業者は町指定)

また、この事業を進めるにあたり、 主に次のような目的と効果を狙いました。

  1. 町有遊休地の有効活用(遊休地の解消)
  2. 人口(世帯)及び交流人口等の増加
  3. 固定資産税及び住民税の増収効果
  4. 新しい人材(財)の確保
  5. 地元建設業者等への経済効果
  6. 地元商店での購買・消費効果※10年間で6億円以上の経済効果があると試算

現地説明会の様子の写真
メディアが話題にしたこともあり、現地説明会には多くの人が詰めかけた。

3.事業展開

①地域住民及び民間企業との連携

  • 山田ふるさと農園は、大子町・地元山田地区の住民・住宅建設に携わる業者の三者が連携し、力を合わせ進めることが重要であると考え、地元住民に対しては、概要説明会や中間報告会などをこまめに開催し、事業の趣旨を理解してもらいました。また、居住者決定後などには、地元住民主催による交流会を数度開催し、地元住民と都市住民等が対話できる機会を設けていただいているほか、居住後に農業支援など様々なサポートをお願いしています。これらにより、町としても、名称については、大子町ではなく地元地名を使い、「山田ふるさと農園」としました。
  • また、住宅建設業者に対しては、業者一覧パンフレットの作成や、居住者と建設業者の面接会開催などの協力をいただきました。

②話題性とメディアの活用

  • 当事業の概要が決まった段階で、いかにして居住希望者のもとへ情報を伝達するかが大きな課題となり、予算及び期限等が限られた中で、メディア等を有効に活用することが必要不可欠であると考えました。
  • 1、000㎡の土地が20年間無償で借りられることなど、日本初となる内容が、テレビや新聞・雑誌等に多数取り上げられ、国内はもとより、海外メディアからも取材を受けることとなり、当初の想定以上に話題となりました。
  • 新聞掲載 35件
  • テレビ放送 15件
  • 雑誌掲載 15件
  • 視察等 40 件

契約調印式の様子の写真
関係者が対話を重ねて最後の契約に結びつけた。

4.結果

最終的に、申し込み者は海外を含む全国各地から179組で競争率は約11倍となり、応募者及び決定者は、土地無償などのイメージとは異なり、自費で住宅建築という理由から、経済的に余裕のある方が多くなりました。なお、選考にあたっては、希望区画・使用目的・家族構成・経済力などの項目により判断しました。

5.今後の展開

今回申し込みいただき、選考からもれた方々に対し、田舎暮らしを希望する方々のニーズに応えるため、魅力ある新たな施策等の情報や空き家や空き地等の情報も積極的に発信するほか、地元宅地建物業者と連携を強化し、有料不動産物件の紹介等も行っていきたいと考えています。

読書のまち宣言

大子町は、平成19年6月に、読書の良さを活かし、読書を通じた心豊かな人づくりまちづくりを進めるため「読書のまち」を宣言しました。同年8月には文部科学省から「子ども読書の街」の指定を受け、大子町「子ども読書の街」推進委員会を組織し、町をあげて運動を推進しました。

近年、社会全体に心の豊かさが失われるような事件等が発生していますが、この宣言や活動は、日本人が育んできた心の豊かさを守り、育て、広げ、次の世代に伝えていきたいという願いを読書に託したものです。

狙いとして、①子供たちの読書習慣の確立、②家庭・地域の読書に対する意識の高揚、③地域社会の読書環境の整備、④読書を基盤とした豊かな人づくり・町づくり、⑤「読書の街」のよさの全国への発信、の5つがあげられ、具体的な取り組みとして、読書習慣定着のため、ブックスタート・うちどく(家読)・あさどく(朝読)・読み聞かせなど様々な手法で年齢や環境に合わせたきめ細かな活動を行っています。

「読書のまち」宣言の看板の写真
「読書のまち宣言」で町を挙げた運動を展開

1.読書のまちの取組み

(1)幼児

  1. ブックスタートとして、健康相談・健康診査の際に、1歳児から3歳児までの赤ちゃんに、絵本を2冊ずつプレゼントする。
  2. ボランティア団体「森のおはなし会」などの協力を得て、贈った絵本の読み聞かせを行っている。

(2)幼稚園・保育所

  1. 読み聞かせ
    幼少期に本の楽しさや面白さにふれ、本に親しむ習慣や、読書は楽しいという意識を確立する。

(3)小学校・中学校

  1. あさどく(朝読)
    読書の習慣を確かなものにするため、大子町では町内すべての小・中学校(13校)があさどく(朝読)を実施しており、子ども達にすっかり定着し た読書運動の1つである。
  2. うちどく(家読)
    学校だけではなく、家庭において家族ぐるみで読書をしようと、だいご小学校が全国の先陣を切って「うちどく」のチャレンジを始めました。これを受けて大子町が全国に先駆け、町ぐるみでの取り組みを始めました。
  3. その他
    大子町児童生徒読書活動推進委員会を設置し、意識の高揚を図り、継続的・自主的な取り組みを目指している。

園児たちへの読み聞かせを行っている様子の写真
園児たちへの読み聞かせで豊かな心を育む。

2.成果

読書の成果は、一朝一夕に出るものではありません。しかし、現在蒔かれている読書という種は、やがてそれぞれに大きな花を咲かせるのではないかと思います。

読書の様々な取組みの成果として、子どもたちの読書時間が大幅に増えました。また、これらは数字としてデータにはっきりと表れて、図書館での本の貸し出し数が大幅に増えています。

また、読書により親子のコミュニケーションが図られ、家庭内での会話が増えるなど、子どもによらず大人を含めた町民全体の読書習慣が伺えます。

その他、読書により子どもたちの心が落ち着き、好奇心や知識欲を育むなどの効果も期待できます。

まとめ

山田ふるさと農園については、大子町の知名度を大幅にアップさせたほか田舎暮らしに対する町のイメージを大いに向上させ、地域経済の活性化など大きな実績を上げています。

読書のまち宣言については、知的分野での向上や人材育成を図る施策であり、数十年先を見越した事業であります。

これらの事業は、外部活力と内部活力・短中期と長期とを併せたものであり、どちらも個性的でユニークなオリジナル施策であります。自治体間の競争が激化する今、これらの取組みにより、他自治体の先駆者となっていくことが肝要であると考えています。