2656号(2008年10月13日)
政策推進課政策推進班 佐々木 靖
田野畑村は、岩手県の沿岸北部に位置し、南と西は岩泉町に、北が普代村にそれぞれ接し、東は太平洋に面しています。東西に約17km、南北に15kmほどあり、面積は156平方km余り、人口約4,200人、高齢化率約30.8%、平地はわずか16%足らずで、ほとんどが山林に覆われた臨海型山村です。
村制施行の明治22年4月に田野畑、沼袋、浜岩泉の旧3村が合併し、そのまま現在に至っています。
気候は、村のほぼ中央を南北に走る国道45号を境に、西は内陸型、東は沿岸型に概ね分けられます。初夏から夏にかけてオホーツク海気団からヤマセと呼ばれる冷たい北東風が吹くことがあり、気温の低下と日照不足により農作物に冷害をもたらすことがあります。
一方、冬期間の積雪はあまり多くはなく、2月から3月にかけて湿った「ドカ雪」が降ることが特徴です。
産業は、良質の三陸ワカメやコンブの洋食、定置網によるサケ漁などの近海漁業のほか、夏場の冷涼な気候を生かした酪農も盛んです。第三セクターの村産業開発公社で製造販売している乳製品は、村を代表する特産品のひとつとして好評です。
村の海岸線はすべて陸中海岸国立公園に指定されており、年間90万人を超える観光客でにぎわうなど、観光産業にも力を入れています。
特に、200m前後の断崖が約8kmにもわたって連なる「北山崎」は、(財)日本交通公社が行った全国観光資源評価の自然資源・海岸の部で唯一、「わが国を代表し、世界にも誇示しうる」資源として最高ランクの特A級に格付けされた景勝地です。
村では近年、物見遊山的な通過型観光から、体験型・滞在型の観光への移行に取り組んでいます。地元ベテラン漁師が実際に漁で使っている小型漁船で断崖を案内する「サッパ船アドベンチャーズ」や、海岸線の自然遊歩道を活用した「北山崎ネイチャートレッキングガイド」、新鮮な海の幸を自分で料理する「番屋料理体験ン」などが人気を集めています。この取り組みは昨年度、環境省主催の「第3回エコツーリズム大賞」特別賞に選ばれました。
特A級の自然資源は富士山や奥入瀬渓谷など全国で17箇所しかありません。北山崎の雄大な景観のみならず、伝統文化や地場産業、地元住民とのふれあいを求めて、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
平成13年度に策定した向こう10年間の村総合計画基本構想(平成13年~22年度)で、「参加・協働・創造」による村づくりを基本理念に掲げました。「協働」という言葉は今でこそ普通に使われるようになりましたが、策定当時は「そんな日本語はない」などと言われたこともありました。
さらに村では15年度、地方分権改革や市町村合併、「三位一体改革」が国を挙げて協力に推し進められているさなか、「新しい住民自治」の策定に取り組みました。
「新しい住民自治」とは、分権型社会を構築するため、住民と行政との役割分担と協働により、公共サービスを担う新たな自治を確立しようとする取り組みです。
高度経済成長は、全国津々浦々に経済的豊かさをもたらした反面、地域のコミュニティ力を衰退させ、地域内の課題解決等に対する行政依存体質が染みつきました。右肩上がりの時代はそれでもよかったわけですが、行財政改革の推進により、とりわけ地方の行財政が非常に厳しくなる見通しの中でサービス水準を維持するためには、地域と行政との役割分担と協働がおのずと求められます。
共同作業による集会所増築の基礎工事
また、市町村合併が進展する中で本村では「当面自立」の道を選択しましたが、将来的には合併は避けて通れないものと考えています。岩手県が示した合併構想で、本村は枠組みの北端となっており廃れる可能性が高く、合併しても地域として生き残るためには、住民や地域がやるべきことはそれぞれが担うという「住民自治」を根づかせ、行政に頼らない足腰の強い体質への変革と意識改革を図る必要がありました。
策定した「新しい住民自治」は1ヶ月をかけて、村内24の自治会での村民懇談会で説明して回りました。参加したある住民から「『新しい自治』ではなく、普通にやっていた『古い自治』に戻れということだな」との意見が出されました。「結い」の精神が脈々と息づいていると感じさせられたエピソードでもあります。
「住民自治」による住民と行政との協働事例をいくつか紹介します。
まず、「住民自治」活動を推進するために創設した「住民自治活動確立支援事業助成金」制度です。この制度は、「住民自治」の基本理念に沿う自治会などの活動に対して、ソフト事業は補助率4分の3で30万円の上限、ハード事業には3分の2の補助率で100万円を上限として助成する制度です。また、事業の採択にあたっては、安易に業者委託することなく、地域住民の共同作業などを取り入れるような工夫を求めるようにしています。
自治会等主催の敬老会
これまで助成した主な事業は、自治協議会単位での「地域づくり計画」の策定、集会施設等の維持修繕、資源ごみリサイクルステーションの建設、津波避難路の整備、除雪機の購入などとなっています。
二つ目は、敬老会の開催です。平成15年度までは村主催で全村を対象に開催していましたが、16年度からは自治会や自治協議会ごとに開催してもらうようにしました。これは老人の方々との懇談で「地元で開催してもらう方が出席しやすい」との声を反映したものです。
各自治会等では敬老の日等に限らず、春や夏の地区神社祭りなどと併せて開催している地区もあります。村主催時の出席率は3割弱でしたが、自治会等の主催となってからは4割ほどまで向上しています。
敬老会の開催に対しては、飲食代として75歳以上の高齢者1人あたり500円を助成しており、全村で総額49万円ほどを交付しています。村主催時は食料費やバス借り上げ料など約160万円を支出していましたので、結果として110万円以上のコストと、職員の業務削減が図られたことになります。
三つ目は、村道の草刈り作業です。お盆前の時期の年1回、自治会ごとに路線を示してボランティアでの作業をお願いしてます。
村道の総延長は約162kmあります。平成15年度までは97kmを業者発注し、残り65kmを自治会にお願いしていましたが、16年度からは自治会依頼延長を倍の約127kmに伸ばしました。この作業延長は、10年以上前まで実施してもらっていた距離に戻したものです。全村平均の1世帯当たり作業延長は90mとなっています。
住民ボランディアによる村道草刈り作業
業者発注した場合、1kmあたり5万円のコストがかかりますので、住民のボランティア作業により635万円のコスト削減につながっていることになります。
四つ目は、自治会が主体となって多目的集会施設を建築した事例です。これまで集会施設は村が整備し、自治会等に管理運営を委託するのが一般的でしたが、村は自治会に補助金を交付し、自治会所有の施設として自治会自らが整備し、管理運営する方法へと見直したものです。
地域住民の役割としては、地縁団体の結成、用地の取得と登記、地元負担金の調達、施設概略構想の策定、設計費各審査、工事契約締結、施工管理完了確認、落成記念式典の開催、日常の施設管理運営等と、多岐にわたるものとなりました。用地費を含めた総事業費は約2,800万円。村の役割は補助金2,500万円を交付したほか、要請に応じて技術職員等を随時派遣することなどでサポートしました。
自分たちで完成させた施設として愛着心が生まれたためか、自治会や女性部、青年会、子供会などの会合のほか、消防団活動、郷土芸能の伝承活動、冠婚葬祭、盆踊りなど、地域活動の拠点として活発に利用されており、住民同士のコミュニティと連帯感の醸成が図られています。
平成20年度は、「地域の元気再生交付金」の創設と「地域コーディネーター」の配置に取り組んでいます。「地域の元気再生交付金」は、地域内の子どもからお年寄りまで幅広い住民が楽しめる新たなソフト事業に対し、一自治会あたり5万円を交付して地域コミュニティの再生を図ろうとするものです。盆踊りや子どもみこしの復活、地区祭りに余興を呼ぶなど、各自治会では知恵と工夫を凝らした活用策を模索しています。
子どもの民泊受け入れ
「地域コーディネーター」は自治会長等と連携をとりながら、地域資源を生かしたコミュニティ活動の企画、立案、実施などを担当し、地域活動の活性化を図ってもらおうとするものです。自治会活動の担い手の確保が難しくなってきたという地域の声に応えたもので、月額報酬2万円のほか、コーディネーター枠として年10万円の元気再生交付金が活用できます。
本年度はモデル的に3地区に公募配置しました。地区を挙げての郷土芸能の伝承保存活動、小中学生の民泊受け入れの地域体制構築などに取り組んでもらっています。これらの実施状況を検証して改善すべき事項を点検し、来年度以降、業務内容の見直しや充実、配置する地域や人数の拡大などにつなげていきたいと考えています。
言うまでもなく地域コミュニティの主役は、地域の住民です。地域と行政との役割分担と協働を今後とも推進し、地域コミュニティを再生することによって、より暮らしやすい地域の実現を図っていきたいと考えています。