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北海道美幌町/未来(あした)を拓く森林(もり)、子育てが楽しい町をめざして

印刷用ページを表示する 掲載日:2008年9月8日更新
美幌峠の写真

北海道美幌町

2652号(2008年9月8日)
町長 土谷 耕治


町の概要

美幌町は北海道の東部、網走支庁管内のほぼ中央部で、オホーツク海から30㎞内陸に位置する人口約22,400人の町です。面積438.36平方㎞を有し、町名の由来である「ピポロ」は、アイヌ語で「水多く大いなるところ」を意味しています。本町を流れる美幌川は平成14年度、環境省より「清流日本一」の太鼓判が押されるなど、その名のとおり大小合わせて60本を数える美しい川が流れ、肥沃な大地と高い日照率にも恵まれ緑と水に包まれた地域であります。

基幹産業は農業であ、甜菜・馬鈴薯・小麦・玉葱が主な作物として収穫され、日本一の生産量を誇る澱粉工場や農産食品加工場では、北海道の特産品が生産されております。また、旧海軍航空隊時代を遡れば70年にも亘り、地域とともに歩む陸上自衛隊が駐屯する町でもあります。

道東観光の玄関口となる女満別空港と隣接し、JR石北本線、幹線国道4路線を有するなど利便性の高い環境にあることから、観光も大きな魅力です。阿寒・知床の各国立公園及び網走国定公園に囲まれた自然豊かな本町には、360度の大パノラマ「天下の絶景『美幌峠』」があり、年間約100万人の観光客が訪れています。眼下に広がる屈斜路湖や摩周岳、そして、遠くは世界自然遺産の知床連山が眺望できる素晴らしい景観で、訪れる人々に感動を与えています。美幌峠展望台には国民的人気歌手「美空ひばり」さんが唄った「美幌峠」の歌碑があり、「千の風になって」を大ブレイクさせた秋川雅史さんもCDアルバムの中で「美幌峠」を唄うなど、北海道東部の観光ポイントとして知られています。

地域材を活用した森林資源対策

森林・林産業の歩み

美幌町の森林面積は町域の約62%、27,175haを占め、人工林面積16,912haの内、約70%を占めるカラマツが主産材であります。

この地域は、もともと天然林が豊富であり、鉄道工事に伴う枕木生産や木挽きによる角材生産が盛んでしたが、戦前の軍用資材としての木材調達や戦後の復興に伴う過剰伐採により、町内にある大部分の森林が失われました。

こうした中、熱心な林家や指導者のもとで生産性の良い人工林に転換する努力が行われ、昭和45年には町内民有林の約70%、10,000haの造林が達成され、342人の林業従事者を抱えるまでに成長しました。なお、当時、木材は炭坑の坑木や電柱、枕木などの用途に使われ、将来は立木売払い収入で町税分が賄えると、希望を持って植林に励んだと言われていました。

しかしながら、時代の移り変わりとともに、木材の輸入自由化を契機に安価な外材が輸入されたことによる立木価格の大幅下落に加え、産業や消費構造の変化から木材需要の大幅減少などが重なり、林家が森林経営において管理費用を賄えなくなり、豊かな自然資源を保全・継承することが困難となりました。

町内産カラマツを使った住宅
町内産カラマツを使った住宅

未来を拓く森林づくりと森林認証の取得へ

地域の森林を共通財産として守り、利活用のための具体的な提案や実行する組織として、林家・林業事業体のみならず環境団体・教育関係者・消費者団体など24団体と公募による町民を加えた「未来(あした)を拓く森林(もり)づくり協議会」が平成16年10月に設立されました。

委員33名による全体委員会・専門委員会・先進地調査や講演会など数十回に及ぶ協議と検討を実施。美幌みどりの村森林公園を協議会活動の中心的なシンボルとし、また、森林認証を共通の課題とした利活用の取り組みを大きな柱に「環境に優しい森林づくり」「人と森を生かす循環型社会の構築」「森と生きる町美幌」をメインテーマに掲げ、実行目標と実施時期、実施主体の具体的な提案がなされました。

これを受け、未来に豊かな森林を残す方法として、平成17年10月、美幌町森林組合を代表者に町やJA、寺社など22の団体や個人の所有森林3,028haについて、環境的な配慮や社会的持続性のほか、経済的な持続性を求めた国際的な「FSC(森林管理協議会)森林認証」を、北海道内では2番目に取得しました。

認証材を活用した住宅を建てる

平成18年度以降、森林組合・町内外の木材加工業者・工務店・クラフト・流通業者の計19企業が森林認証を受け、さらに木材・木製品を加工・流通させる「COC認証」を取得したことにより、川上から川下までの加工・流通体制が整い、加えて温暖化対策や不法伐採対策のほか、地元特産品開発・付加価値化・ブランド化など様々な事業展開への道筋が拓かれてきました。

本町の主産材であるカラマツは独特のねじれ特性から、従来より住宅への使用は不向きと言われてきましたが、乾燥・加工・組立技術の進歩により、その一矢を克服し、逆に、特性を活かした強度と防腐性のある秀逸な材料として製品化され、町内にはカラマツ集成材を構造材として使用した住宅が建築され始めました。

美幌中学校の生徒による森づくり体験
美幌中学校の生徒による森づくり体験

平成19年9月には、FSC認証を受けた町内産木材を使い、COC認証を取得した町内工務店の施工により新築・増改築を行う建築主に対して、町はその費用を最大75万円まで助成する「町産材活用住宅助成制度」を施行しました。原木の供給基地だけでなく、FSC認証森林から産出される木材に付加価値を付け、二次製品としての加工・流通により住宅建築の約6割を占める町外大手工務店等の施工から町内業者への誘導で地産地消を図り、地域経済の活性化を目指しております。

また、北海道が普及を進める北方型住宅と同等の高気密・高断熱を建築要件とすることで、工務店の技術向上のほか建築主に対しても、より良質な住環境が提供されると考えています。

さらに、町内の美幌中学校においては、生徒の提案により認証林を活用した苗木づくりを授業に取り入れており、植栽・枝打ちなど森づくり体験を通じて、将来、自分で育てた木で住宅を建てる夢も現実化されるものと期待しております。

低炭素な町づくり

本町は、新エネルギーの取り組みも進めており、平成19年度から始めた家庭用廃食用油を燃料化するBDF(バイオディーゼル燃料)の実証試験や、本年度から始めた「住宅用太陽光発電システム導入費」の補助、一般住宅・事務所での未利用木質資源活用を推進するための「木質ペレットストーブ普及宣伝事業」など、二酸化炭素を削減する取り組みを積極的に展開しております。

また、環境に配慮した低炭素社会の構築に向け、本年6月に横浜市の武蔵工業大学で開催された学園祭において生じた、温室効果ガス排出量を学生自らが算定し、努力しても削減できない排出量をFSC認証森林内での植林で吸収する、全国初の学生との「カーボンオフセット」協定を結びました。(「カーボンオフセット」とは、発生した二酸化炭素の量を何らかの方法で相殺し、二酸化炭素の排出をゼロにすること。つまり、排出された二酸化炭素相当量分を植林により補うこと。)

町産材を町内の住宅建築に使うことによるウッドマイレージ(「木材量」と「産地から消費地までの木材輸送距離」を乗じたもの)効果及び炭素の固定化、森林による二酸化炭素の吸収、温室効果ガスの排出抑制など、政策を併せた「低炭素な町づくり」事業に取り組む一方、今後は、森林機能を活かしながら、都市や企業のCSR(社会貢献)活動からの支援などの展開も視野に入れた中で、森林・林業を基盤とした地域づくりを進めていきたいと考えております。

安心して出産・子育てができる少子化対策

小さな少子化施策の積み重ね

平成19年における合計特殊出生率は、全国1.34、北海道1.19、本町は1.43と比較的高い数値となっていますが、少子化は確実に進行し、平成15年まで年間200人を超えていた本町の出生数も、平成19年では161人まで低下した状況にあります。

このような中、平成16年3月、少子化対策を本町の重要課題と位置付け、基本メッセージ「子どもと、親と、地域が育つ・・・子育てが楽しい町づくり」とした「美幌町次世代育成支援行動計画」を策定し、同年4月には子育て支援の管理職を専任配置し、各種施策に取り組んでおります。

先駆的な不妊治療助成

行動計画策定以前の平成15年7月、国の取り組みに先駆け北海道で初めての不妊症治療費助成「こんにちは赤ちゃん支援事業」を導入しました。これは、経済的負担の軽減により少子化対策の一助として効果を上げ、その後、国においても少子化対策として不妊治療費助成が実施されたところであります。

平成17年1月には子どもたちのニーズに沿った、子どもの拠点施設を整備する計画に基づき、既存施設のコミュニティセンターに「子育て支援センター」「発達支援センター」を移設し、同年4月、日中や放課後に子どもが集い、遊べる「児童センター」を併設。専任職員の配置とともに、主任児童委員、児童委員、運営ボランティアとの連携強化のほか、施設内にある常設老人クラブ通所者との交流を図り、様々な事業を展開しています。

不妊治療助成の図

平成17年からは子育て経験者が参加する「子育てサポーター養成講座」を毎年実施し、これまでに27名のサポーターが活躍するなど、子育て支援の輪が広がっています。

また、平成18年10月からは子育て支援センターにおいて、2人目以降の出産を控える母親が妊婦健診を受ける際、養育しているお子さんを一時保育する事業も実施し好評を得ており、コミュニティセンターは子どもの中核施設として大きな役割を果たしております。

安心で喜ばれる施策を

町立国民健康保険病院産婦人科の休診に伴い、町内での出産が困難な状況に陥りました。町は、妊婦さんに少しでも出産への不安を解消してもらうことを目的に、美幌消防署において平成19年10月から「妊婦エントリーネット119」をスタートしました。

子どもみまもり隊
子どもみまもり隊

この施策は、自宅の住所やかかりつけ病(医)院、出産予定日などを事前登録し、緊急時には医師からの適切な指示のもとで病院へ搬送されるシステムであり、本年9月1日現在で67名の方が登録され、これまでに5回の緊急搬送の実績があります。

住所の登録により、救急車が現場へ向かう時間が短縮され、かかりつけ担当医との連絡が速やかに取れ搬送中の処置も適切に行えることから、里帰り出産の妊婦さんにも大変喜ばれております。

全町民の見守り

平成17年7月、地域のおじさん、おばさんでつくる「子どもみまもり隊」が美幌町青少年育成協議会を中心に結成されました。不審者から子どもたちを守るため「黄色い缶バッチ」を胸に付けて活動いただき、今や活動に賛同される町民が約2,300人に膨らみ大きな輪となっています。 さらに、マイカーに「子どもみまもり隊」のマグネットを貼りパトロールに活用するなど、子どもたちは地域の大人に大切に見守られ、安心・安全な毎日を過ごしています。

また、平成16年4月には、赤ちゃんの豊かな心を育むため、たくさんの絵本との出会いと心の栄養が大切であるとのことから「ブックスタート」を開始しました。10か月乳児健診の際、母親に絵本を贈り、図書館職員からの読み聞かせや絵本の種類など本との関わりの大切さを認識してもらい、赤ちゃんが健やかに明るく元気に育つことを願い好評の中で取り組んでおります。

地方の切実な訴え

本町は厳しい財政状況の中で、必要とされる支援に適宜対策を講じてきましたが、地方自治体の財源には自ずと限界があります。言うまでもなく、少子化対策は保健・医療・福祉・教育などの総合的施策が効果的に実施され、かつ、長い期間を費やさなければその効果は期待できません。

子どもみまもり隊活動
子どもみまもり隊活動

しかしながら、日本の社会保障給付費総額に占める子育て支援関連支出は3.6%と極めて低く、GDP(国内総生産)に占める子育てに係る予算については、先進国では2~3%であるのに対し、我が国は実に0.6%と極めて貧弱な数値となっています。

少子化対策に真剣に取り組んでいくためには、国が本気になって財源確保に責任を持ち、そして、地方に対して十分な財源を配分することが必要であると考えます。

これからも『小さくてもキラリ夢輝くまちづくり』を目指し、地域一丸となり地域力を育て、成長させていくことに努めていきます。