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福岡県大木町/地域の環をつなぐ循環型社会のまちづくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2008年8月4日

福岡県大木町

2648号(2008年8月4日)  全国町村会広報部 片岡 志穂


福岡県大木町。筑後川下流域の肥沃な大地と温暖多雨の穏やかな気候を生かし、水稲、麦、い草を中心に発展した農業の町に、いま全国各地から視察が相次いでいる。

大木町は2008年3月、「もったいない宣言(ゼロウェイスト宣言)」を公表し、「おおき循環センター『くるるん』(愛称)」を中心に、行政と住民が協力して、循環型社会のまちづくりに取り組んでいる。

梅雨の中休みのある日、「くるるん」で、注目の取り組みについて全国町村会広報部職員が取材した。

町の概要~農業とクリークの里~

福岡県南西部に位置する大木町は、人口14,554人(平成19年3月31日現在)、面積18.43平方㎞の小さな町だ。

筑後平野の中央部、肥沃な土地と温暖な気候に恵まれ農業を基幹産業としている。米やい草の生産を中心に発展してきたが、近年ではイチゴ、シメジ、アスパラガスなど収益性の高い農作物の生産にも力を入れている。特にシメジは、町内に12の農事組合法人が設立されるなど、農業に活気のある町としても注目を集めている。

町を歩くと網の目のように張り巡らされたクリーク(堀割)を目にする。クリークというのは、低平地な水田地帯に掘削された水路網のことである。中世以前、筑後平野は低湿地帯であった。そこに住む人々は低湿地帯を掘削し、土盛りし乾田化して人工的な農地を形成してきた。農業用水の確保の為、また洪水時の貯水槽、生活用水路として水路は掘り進められ、クリークは現在大木町の14%を占めている。クリークのある風景は、この地域特有の農村景観の一部を形成している。

循環のまちづくり拠点施設「くるるん」

今回取材したのは循環型社会のまちづくりの拠点となる、おおき循環センター「くるるん」(以下「くるるん」)である。そこには、町内から出る生ごみや浄化槽汚泥・し尿をバイオガスや有機肥料に変えるバイオガスプラントや環境学習室・資料展示室等がある。これらの施設建設は、平成17年度からはじまった、おおき循環センター整備事業の一環であり、他に農産物直売所や郷土レストランの建設を予定している。

「ごみ処理施設」と聞くと、町の端で人影もあまりないような場所にあると想像していたが、「くるるん」は、人家や田んぼに囲まれ、国道沿いに建っていた。今回お話をお伺いした町環境課資源循環係の野口英幸主査によれば、「くるるん」は「処理施設」ではなく、今まで焼却していた生ごみやし尿を無駄にせず、地域の中で利用し、循環させていくことを目標にした、循環のまちづくりの拠点施設として、建てられたという。

また、町中心部に位置する立地条件を生かし、住民が気軽に訪れる場として、さらには都市と農山村の交流の場として、整備していきたいとのことだった。

現在、町では家庭から出るごみを生ごみなど、20の資源ごみに分別。このような細かな分別によって再資源化を進め、ごみ減量化につなげている。生ごみの分別については、平成13年度からモデル地区を設定し、試験的に開始。平成18年11月からは町全域に拡大した。これによって、焼却ごみの量が44%減少、コスト面では約2,000万円の削減につながった。

こうした「資源」である生ごみの収集、ごみの分別には、住民の協力が欠かせない。町はその協力と理解を得るために、各集落の公民館で100回以上の説明会を行ったという。

農業を営み、液肥利用推進協議会会長の今村利光氏に住民側の立場からお話を伺った。生ごみの分別が始まったとき、一般の家庭から苦情が出ることはなかったという。「文句が出なかったのは行政がきちんと説明したためだろう」とも語る。

おおき循環センター「くるるん」の写真

おおき循環センター「くるるん」

町の取り組みについて熱心に聞く視察団一行の写真

町の取り組みについて熱心に聞く視察団一行

「くるるん」基本計画図

「くるるん」基本計画図

センターを訪れた人々に向け町の取り組みを分かりやすく説明したパネルの写真

センターを訪れた人々に向け町の取り組みを分かりやすく説明したパネル

「資源化」の産物・有機質液肥

町の基幹産業は農業である。循環型社会のシステムは農業の発展にも寄与している。「くるるん」でできた有機質液肥「くるっ肥」は営農組合の申込を受けて、田んぼに散布される。散布は、1反あたり500円で循環センターが散布車を出し作業を請け負う。「くるっ肥」のもともとの原料は町内から出るし尿や生ごみであり、生成される量が限られる。そのため、町の全ての農地に播くことはできない。しかし、散布作業を循環センターが請け負うことで農家の作業にかかる負担を軽減し、肥料代も従来の10分の1程度に削減。町の農家も、液肥利用推進協議会に参加して町の事業に協力している。また大木町住民は無料で「くるっ肥」を手に入れることができ、口こみで評判を聞きつけて町外からも問い合わせがあるという。

有機液肥を与えられ収穫された農作物は、地元で育った安心・安全な食物として町民の食卓へ届けられる。調理後の残渣やし尿は、ふたたび循環センターに持ち込まれ、液肥の原料となる。

「くるっ肥」を用い、福岡県減農薬・減化学肥料栽培基準に基づいて栽培した米「環のめぐみ」(大木町産ヒノヒカリ)は順調な売れ行きを見せている。これは学校給食にも使われ、子どもたちの環境教育にも一役かっている。身近なところで「循環」を実感できるのである。

~目指すは2016年「大木町もったいない宣言」~

2008年3月、大木町は「もったいない宣言(ゼロウェイスト宣言)」を公表した。ゼロウェイスト宣言とは、ごみを「燃やさない、埋めない」という考え方のもと、徹底したごみの再利用・再資源化を目指し、ごみの発生そのものを抑制しつつ、持続可能な社会を実現しようとする取り組みのことである。

町の宣言では、「子どもたちにつけを残さない」町をつくることをはじめに謳い、2016年度までに、ごみ焼却・埋め立て処分をゼロにすることを目指している。国内では2003年の徳島県上勝町による宣言に続いて2例目である。

上勝町では2020年度の「ごみゼロ」を目標にしているが、それよりも4年も早い達成目標について、町ではどのような見通しがあるのか。野口主査は次のように語る。

「具体的な数値目標に向かって、ごみを減らす努力をしていくことは重要なことです。達成の行方は住民の方と行政の協力にかかっています。」

今年4月から、町ではごみの分別を20 種類にし、さらに硬プラスチックと軟プラスチックの分別も試験的に実施している。将来、紙おむつなども分別するようになれば、ゼロに近づけられるのではないかと、手応えを感じているようだ。

一方、「もったいない宣言」をすることで住民の意識は何か変わったのか。ある住民の方は「突然やったのではなく、少しずつ生ごみを減らしてゼロにしようということで宣言したので、当たり前のこととして受け入れた」という。

平成7年度に、周辺自治体に先駆け資源ごみの分別収集を行うなど、環境への取り組みが早かった町ではあるが、宣言の公表は意識の浸透に一役買った。

各地域に配られる、生ゴミ用バケツを紹介する野口主査の写真

各地域に配られる、生ゴミ用バケツを紹介する野口主査

循環型社会のまちづくりを支えるもの

昨年7月、IPCC(気候変動の取り組み二関する枠組み条約)による第4次評価報告書は、地球温暖化の原因は人為期限の温室効果ガスの増加にあると断定した。国、企業、地方自治体、住民はそれぞれの立場から、この問題に取り組まねばならない。

地方自治体が展開している施策はさまざまで、自然エネルギーの導入に力を入れているところもあれば、環境保全型の農業を推進して周辺地域の自然を守ろうという動きもある。

そんな中、大木町の環境政策の特徴は何か。

まず、循環型社会をめざす町の取り組みは、環境政策というよりもむしろ、まちづくりの一事業という面が強い点である。循環まちづくり委員会を設置し、住民からの要望や提案を聞く場を設けたり、ごみの分別が優秀な地区を広報誌で紹介する表彰制度を設け、住民に地域の循環システムづくりに楽しく参加してもらえるような工夫をしている。なぜ住民がごみの分別など一連の取り組みに力を入れているのか興味を持って町に視察に来る人達も多いという。

そして、農業重視の姿勢を明確に打ち出している点がもう一つの特徴である。環境問題に取り組む時、一過性のもので終わらせては意味がない。持続させるためにも、自分の町の強みや弱みを把握し、地域の特性に合った施策が必要となる。「循環型社会は江戸時代にあった社会。それがバージョンアップしたのが今の「くるるん」であり、農業が成り立って初めてできること」と北島環境課生活環境係長は大木町の強みを語る。今後の課題として、町の目指すまちづくりを実現するには液肥の栽培技術の確立などやるべきことは多いという。 

しかし、循環型社会の構築にむけ、様々な取り組みをする過程で住民とともにごみの量を減らし、住民とのつながりも強化されるなど、大木町のまちづくりは、着実な成果をあげている。「もったいない宣言」の達成はもちろんのこと、小さくても輝く自治の根ざす町として、さらなる発展が期待される。

液肥利用推進協議会会長 今村氏の写真

液肥利用推進協議会会長 今村氏

分類種類ごとの看板の写真

分類種類ごとの看板。並べてみると圧巻

環をつなぐ地域社会システムの図

環をつなぐ地域社会システム