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岩手県平泉町/史都平泉の文化的景観~世界遺産登録に向けて~

印刷用ページを表示する 掲載日:2008年5月26日更新
源義経最後の地、高館からの眺望の写真

源義経最後の地、高館からの眺望 平泉を代表する景観である。


岩手県平泉町

2640号(2008年5月26日)
教育委員会世界遺産推進室
室長補佐 千葉 信胤


はじめに

平泉町は岩手県の南部に位置し、南は一関市、北は奥州市に接しています。総面積は63.39平方キロメートル、県内で一番小さな町です。町の中央を南流する北上川両岸の沖積地に耕地がひらけ、東方には束稲山(596m)がそびえています。

基幹産業は農業、国勢調査による平成17年の総人口は、8,819人、近年も漸減の傾向にあります。交通網は、東北縦貫自動車道、国道4号線、主要地方道一関・北上線の3本が当町を南北に走り、さらに、国道4号平泉バイパスが今年度全線開通される予定です。鉄道はJR東北本線が国道4号と北上川の間を通っており、平泉駅があります。

当町には、無量光院跡など特別史跡 3箇所、史跡3箇所、さらに特別名勝と名勝が1箇所ずつあります。これだけ史跡・名勝が集中しているところは全国でも珍しく、また国宝中尊寺金色堂をはじめ、中尊寺・毛越寺に伝存する国宝・重要文化財は、3千点を数えることから、毎年100万人を超す観光客が訪れます。

まちづくりの歩み

歴史と文化の町「平泉」…平安時代末期、奥州藤原氏の拠点となった平泉は、みちのくの政治・文化の中心として繁栄し、一族の居館のほか多数の寺院伽藍や社殿が造営されるなど、都に倣いながらも極めて独自性に富んだ文化が華開きました。しかし、奥州藤原氏が滅亡するとそれらは急激に衰退しました。中尊寺金色堂を除き、当時の建造物のすべてが江戸時代までに消滅しています。

坂上田村麻呂ゆかりの達谷窟(国史跡)の写真

坂上田村麻呂ゆかりの達谷窟(国史跡) 平泉全盛期の仏像も伝存する。

平泉の文化遺産は、すでに江戸時代から高い関心が寄せられており、当地方を領した仙台伊達氏は、奥州藤原氏ゆかりの寺院を手厚く保護し、旧跡の整備につとめました。そうした流れは明治維新後も続き、貴重な文化財の保護・整備の活動は、はやくから国家規模で取り組まれてきたのです。

明治維新当時、現平泉町の町域には、平泉村・中尊寺村など6村がありましたが、明治7年・同22年・昭和30年と合併を繰り返して現在に到ります。

昭和30年代には教育施設や役場庁舎など、主要な公共施設が建設され、昭和40~50年代には上水道、町営住宅や公民館などが整備されています。昭和50年代には、一関バイパス・東北縦貫自動車道・東北新幹線など、高速交通網の整備が進み、平成に入ってからは主に福祉施設の充実が図られてきました。

平成13年、平泉の文化遺産が世界遺産登録暫定リストに登載されてからは、各分野の施策や横断的プロジェクトを積極的に展開して、世界遺産登録に備えています。

やすらぎと文化をおりなす千年のまちづくり

「平泉町総合計画・将来像」

藤原清衡が居館をかまえてから約900年、平泉文化の栄華の跡をしのばせる当町は、周辺の豊かな自然環境と一体となった歴史の町として発展をとげてきました。

平泉町総合計画(基本構想・平成13年度~22年度)では、将来を見据え、豊かな自然とのどかな田園風景のなか、平泉文化の遺産をいかしながら、住む人・訪れる人が安らぎを感じ、新たな出会いと文化を創造していくまちづくりを目指しています。

「後期基本計画」基本方針(平成18年度~22年度)

平成18年12月、日本国政府は「平泉‐浄土思想を基調とする文化的景観」の タイトルで、ユネスコへ世界遺産登録推薦書を提出しました。今年7月の世界遺産登録が期待されることから、当町では世界遺産にふさわしい環境を備えた、平泉文化の本質が体感できる「世界遺産のまち」を目指しています。

町の自立にむけての行財政改革はもとより、財源・資源を有効に活用して、『小さくともキラリと光るまちづくり』を推進し、その実現に向けて、次にあげた7つの柱を立てています。

特別名勝毛越寺庭園の写真

特別名勝毛越寺庭園 浄土式寺院庭園の傑作と評価される

さわやか・平泉―美しい自然のまち

循環型社会の構築を目指した環境保 全、世界遺産に調和した美しい自然景観の保全と創造。

あんしん・平泉―健やかな福祉のまち

町民が健やかな生活が送ることができるための、健康づくりや保健サービス・地域医療体制の充実。

子どもから高齢者まで、誰もが安心して暮らせる地域社会の創造と、地域全体で子育てを支え合うまちづくり。

いきいき・平泉―学び楽しむ文化のまち

次代に向けた人材育成と心豊かなひとづくりを進めるための、学校教育・生涯学習の充実、文化・芸術やスポーツの振興。

平泉の文化遺産の適切な保存・整備を進め、世界遺産への登録推進と登録後の管理活用。

うるおい・平泉―快適な生活環境のまち

世界遺産登録に対応した景観対策、住宅、上下水道、河川、ゴミ処理など快適な居住環境の整備、災害に強い安全な地域づくり。

にぎわい・平泉―活気ある産業のまち

農業生産の基盤整備と生産振興・販売促進、企業誘致による雇用の創出と魅力ある観光地づくり。

ひろがり・平泉―行き交う便利なまち

世界遺産登録や国道4号平泉バイパスの全線開通を見据え、生活者や来訪者のための道路網などの整備、住民サービス向上につながる地域情報化の推進。

のびのび・平泉―共に創るまち

町民の町政参画促進による地域力の向上、集中改革プランに基づいた行財政改革、効率的で自立可能な行政体制の確立

遺産をいかす-新たなまちづくり

「世界遺産について」

日本が「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」すなわち「世界遺産条約」を批准したのは、1992年のことです。世界遺産には、文化遺産、自然遺産、複合遺産の3種類があり、現在の登録件数は、文化遺産660件、自然遺産166件、複合遺産25件の合計851件です。国内では、文化遺産11件、自然遺産3件、合計14件が登録されています。

登録資産は、顕著で普遍的な価値を有した上に、10項目に上る登録基準の内、1つ以上を満たすものとされています。また、資産の中核地域となるコアゾーンは、文化財保護法などの国内法により厳格に保護されていなければなりません。さらにその周辺地域すなわちバッファゾーンも自治体の条例等で守られていることも条件の1つです。

登録推薦書

日本国政府によりユネスコに提出された登録推薦書。

世界遺産は、毎年開催されるユネスコの世界遺産委員会によって登録の可否が審査されます。対象物件は各々の国の暫定リストに登載されていることが第一条件であり、政府からの正式な登録推薦書がユネスコ世界遺産センターに提出され、受理されていなければなりません。また、ユネスコの外部団体(イコモス)による現地調査及び勧告内容は登録の可否を決定する上での重要な判断要件とされています。

「現在までの取り組み」

平成13年4月、暫定リスト登載に伴い、当町では教育委員会事務局内で、登録のメリット・デメリットや登録までの手続きなどについて研究を始めました。同年12月、文化財関係の専門家による「世界遺産登録指導委員会」を設置。コアゾーン・バッファゾーンの範囲を検討し、その原案により住民対象の説明会を開催しました。

平成14年4月には、町長部局に世界遺産推進室を設置。また、資産をより広範囲に保護することが国から求められ、平成16年4月、資産範囲を奥州市・一関市まで広げることになりました。岩手県教育委員会事務局は担当者を配置し、同年11月、「平泉の文化遺産」世界遺産登録推薦書作成委員会を設置しています。

平成17年1月、バッファゾーンを保護する景観条例が施行されました。翌年6月には、文化庁が主催する「平泉の文化遺産」国際専門家会議が開催されています。この会議の結果を受けて、資産名称を「平泉―浄土思想を基調とする文化的景観」と改めました。

これらの経過をふまえて、世界遺産登録推薦書が作成され、同年9月、日本国政府として推薦することが決定したのです。同年12月、政府はユネスコ世界遺産センターへ推薦書を提出し、受理されました。昨年8月には、イコモスによる現地調査が行われています。

イコモスの勧告は今年5月中旬、7月には第32回世界遺産委員会が、カナダのケベックシティで開催され、平泉の文化遺産の登録可否が決定する予定です。

遺産をいかす-新たなまちづくり

「安らぎのある景観づくり」

平成16年12月、景観に関する総合的な法律である景観法が施行されました。平泉町の景観は、平泉文化を培った自然景観と、奥州藤原氏が造営した寺院などの遺跡群によって形成される文化的景観に大きな特徴がみられます。

小学生によるボランティア清掃活動

小学生によるボランティア清掃活動

町では、この景観をいかし、庭園文化都市としての調和が保たれた土地利用を図るため、樹木等での緑化、眺望 の確保、建築物の意匠など、まとまりのある町を目指して、平成17年1月に「平泉の自然と歴史を生かしたまちづくり景観条例」を施行しました。また、同年10月、平泉町は全国に先駆けて、景観法に準拠した景観行政団体の選定を受けています。今年3月には、法に基づく景観計画を策定したところであり、法適用の景観条例も早期に制定される予定です。また、ポイ捨て禁止や廃棄物の適正処理などに関して、新たな条例策定も検討しています。

「安全・快適なまちづくり」

まちづくりの大きな転換期を迎え、平成15年度において都市計画マスタープランを策定し、その将来像実現に向けて取り組んできました。

今年中に、平泉バイパスが全線開通することにより、市街地を縦断する通過交通の著しい減少が予想されています。遺跡を守りながら、住民・観光客にとって安心・安全・快適なまちづくりを目指した、新たな道路交通ネットワークや歩行者支援システムの確立が望まれています。

都市計画道路の再編を行うとともに、史跡地の公有化に伴う用途地域の拡大、景観に配慮した高度地区の指定と指定容積率の見直しなども検討されています。

平泉バイパスにおける道の駅の整備については、交流拠点としての整備、情報発信機能の確立が期待されています。

都市計画道路「毛越寺線」は、特別史跡毛越寺境内に隣接していることから、沿道の景観整備を行い、歩行者の安全性を配慮して車両通行速度を抑制しています。また、電線地中化をはじめ、景観に配慮した街路灯やガードパイプが整備されました。

「国際文化観光の町を目指す」

国の施策である「ビジット・ジャパン・キャンペーン」が実施されているなか、当町では、外国人観光客の増加が見込まれることから、外国人にわかりやすい案内看板や標識の整備、観光パンフレットの作成に取り組んでいます。個人客や長期滞在型、台湾からの観光客が多いということから、新たに設置される看板については、英語・中国語(繁体字・簡体字)・ハングル表記とするなど、幅広く外国人観光客に対応し、開かれた観光地づくりを推進していきます。

また、今後の国際化に対応するため、地域住民や宿泊施設、各観光施設を対象とした接客向上セミナーや外国人接遇講習等を開催し、外国人観光客の受け入れ態勢を整備・充実していきます。

このように、官民一体の様々な取り組みによって、平泉らしい景観のなかに快適な居住環境を形成し、自然と歴史が調和した国際文化観光の町「平泉=HIRAIZUMI」を世界に向けて発信していきます。