2606号(2007年7月2日付号) 経済部産業振興課 佐々木 康行
本町は、北海道の東部に位置しています。南は太平洋に面し、北は阿寒富士の麓まで広がる東西25.3km、南北55.9km、総面積は773.70平方kmで、道内でも比較的大きなまちです。
阿寒富士を頂点にして山地と丘陵地が連なり、起伏の多い傾斜線から沿岸に平野状となっており、茶路川(ちゃろがわ)、庶路川(しょろがわ)、和天別川(わてんべつがわ)の河川沿いに、白糠(しらぬか)、庶路、西庶路の市街地が形成されています。
東山公園から望む白糠町
本町は、安政の頃、道内最初に石炭の採掘が行われた地で、石炭産業が最盛期のときには、人口20,770人(昭和35年)おりましたが石炭産業の衰退とともに減少が続き、現在は10,500人となっております。最近の人口動態では毎年190人程度の減少幅となっており、今後においても同様に推移すると思われます。
本町においても少子高齢化現象は顕著であり、将来のまちづくりを見据え、平成15年から釧路市を始めとする1市4町1村で市町村合併の協議をしてまいりました。しかし、平成17年1月の市町村合併の是非を問う住民投票の結果合併しないこととなり、本町は自立の道を歩むことになりました。(後にこの合併は、釧路市、阿寒町及び音別町の3市町で合併。)
北海道太平洋沖の暖流と寒流が交わる絶好の漁場にある白糠は1年を通じて様々な海産物が獲れることから、水産物や水産加工品の種類がとても豊富です。特にししゃもや鮭、柳だこ、毛がには、築地市場を始めとし、全国から引き合いがあります。
ししゃもの遡上
ししゃもは、世界でも北海道の太平洋にしか生息しない日本固有の貴重な魚です。遡上する河川は北海道内の9河川のみで、一市町村では唯一、本町には茶路川と庶路川の2河川があります。漁獲量は、全道でも本町の白糠漁業協同組合が一番で、昨年は総漁獲量の20%強を占めました。ししゃもは回遊魚で、北海道西部から東部海域に回遊してくるもので、十勝沖から徐々に脂が抜け、卵が熟してくることから、白糠沖では最高のししゃもが獲れもっとも美味いと言われています。
秋鮭は、白糠漁港の立地条件が良く、漁場も近いために高鮮度のまま加工され、又、生鮭も鮮度が落ちないまま直送されています。
柳だこは、築地市場のお店の方々が“正月用には白糠の柳だこ”とお買い求めいただくほどプロに認められた最高級のたこです。白糠では、たこ産卵礁を計画的に整備し、安全で安心な柳だこを安定供給しています。
また、ししゃもや鮭は増養殖事業を行っており、“獲るだけの漁業”から"産んで育てる"資源枯渇防止のための基本的な取り組みを積極的に行っています。食するだけではない、正に『食と食材のまち』であると自負しています。
毛がには、「どっちの料理ショー」で紹介されたほどの良質なもので、白糠沖で獲れるものはしっかりとした歯応えで、甘味が広がる身とコクのある味噌が市場でも最高級とされ、札幌、東京、大阪などの大手かに料理店に直送されていました。しかし、密漁などにより資源が枯渇してきたことに伴い、3年前から漁を休止し、資源の回復に努めています。昨年12月の試験調査では概ね良好な旨の報告がなされ、漁が待ち望まれています。
このように恵まれた魚場にある本町は水産物だけでも十分すぎるくらいですが、今、山に目を向けてみると、また様々な特産品があります。
“白糠産の紫蘇を使った焼酎”と言ってもピンと来ないかもしれませんが、『しそ焼酎鍛高譚(たんたかたん)』と聞けば、ほとんどの方はうなずいてくれるものと思います。
鍛高シャンメリー鍛高譚
今や『しそ焼酎鍛高譚(たんたかたん)』はあまりにも有名ですが、原料の紫蘇の産地が白糠町ということは知られておりません。『鍛高譚』のネームバリューを利用した「町のPR」と、紫蘇の効能と栽培作業で体を動かしてもらうということでの「町民の健康」という2つの大きな目的で、昨年の春から町職員が紫蘇栽培に取り組んできました。 昨年12月にノンアルコールシャンパン『鍛高シャンメリー』を発売し、わずか3ヵ月で2万本が完売しました。この4月には『鍛高ラムネ』を発売し、本番の夏を迎える前に4万5千本が完売。急遽青紫蘇のラムネを6月に発売し、2週間で5万5千本を販売しています。
“地元で搾った生乳を地元の人が飲めない…”
こんな疑問を抱き続けてきた北海道の職員が退職してチーズ工房を立ち上げました。イタリアチーズを学ぶため何度もイタリアに渡り、工房立ち上げ後本格的な修行を積みました。
イタリアのチーズはそのまま食べるというよりも食材として使われます。イタリアは南北に長く日本に似ていること。特に北イタリアは気候、風土が白糠によく似ていて、“ここで愛されるチーズは、きっと白糠でも愛されるチーズ”との思いから、地元の水産物など豊富な食材を生かせるチーズを作ることで「新たな乳食文化」を白糠から広げていくことを目指し始めました。本場とほぼ同じ味を実現し、地域に根ざした“食べた人が幸せな気持ちになれるチーズ”、“毎日、食卓に並ぶチーズ”を造るため、日夜丹精こめて製造に励んでいます。
ジビエ(野生鳥獣肉)が一般的なヨーロッパでは特別な日の高級食材として愛されている鹿肉。
白糠は、エゾ鹿の越冬地であることから鹿がとても多く、農業被害がピーク時の平成9年には3億5千万円ほどありました。1軒の農家で約4~5百万円です。
農業被害を防ぐために、北海道では数年前から鹿肉の有効活用を始め販売が可能になりました。
適切に処理されなかった鹿肉は「臭い・堅い」など、悪いイメージがついてしまったものですが、それは、血抜きがしっかりとされていないことが原因で、現在、白糠産の鹿肉は衛生管理の行き届いた施設で十分な血抜きをしていることから、臭みもなくとても柔らかです。 また、狩猟後は直ちにそして短時間で完全に血抜きをすること、内臓を取り出し体の熱を逃すことが非常に重要になることから、ここの代表者は、1時間以内で戻ってこられる所でしかハンティングを行わないというこだわりを持ち取り組んでいます。要するに鹿肉は、上手なハンターが撃ち、適切な処理をしたものが一番美味しいということで、自らが狩猟をし解体をしている日本の第一人者が処理する白糠の鹿肉は日本一と断言できます。
種類豊富な加工品
昨今のジンギスカンブームで起業したのではなく、既に20年前から白糠に入植し牧場として経営している方が2名おります。どちらの方も相当のこだわりを持っており、羊肉、羊毛の品質を下げないためにも安易に飼育頭数を増やしたり、機械化したりすることなく、現在出来る限りの中での飼育にこだわっています。1人の方は、モンゴルにまで行き、“羊をまるごとあなたのために”をモットーに羊の可能性に取り組んでいます。だからこそ、質にこだわった本物をお届けすることが出来ます。
しかし、この2つの牧場の羊肉は東京や札幌のレストランに卸されることから、町民にとっても手に入らない状況が続いています。一方は全く無理で、一方は“半年待ちなら…”という状況です。
このように本町は、従前まで地場食材というと海産物が中心でしたが、近年は、チーズや鹿肉、羊肉などの山の恵みも充実してきています。本町のように、海を見ても山を見ても豊富な食材を持ったまちは全国でもなかなか見当たらないのではないかと思います。
このような本町の特産品を広くPRしていくことを目的に、平成16年4月に企画財政課に地域資源対策営業担当参事(課長職)が配属となり(現課長)、翌年の17年4月に私が係長として増員になり、2名の地域資源対策営業担当室が設置されました。
私が配属された平成17年4月は、市町村合併をせずに自立を選択して間もなくだったことから、町を活性化するための施策を数十項目考え、その年の夏に理事者を含めて取り進めていくプランを協議しました。
私は、この地域資源対策営業担当室に配属されるまでは、総務課情報管理係長として平成11年4月から6年間担当していました。私の経歴を遡りますと、その前の2年半は現町長になった年(平成8年10月)に配属された企画財政課振興係で、前町長が残した懸案事項の一つであった『しらぬか物産センター恋問館(こいといかん)』(町の第三セクターである㈱白糠町振興公社が運営)の累積赤字問題を係長の下で担当していました。 そのときの恋問館は、お菓子等の一般的な土産品の販売とレストランを運営していたのですが、オープンした平成4年に5千5百万円の赤字が出て、平成8年までに8千5百万円までに膨らんだのです。その後現町長に代わり、これを一時閉鎖してどのような形でリニューアルするのが最善な方法かと考えた結果、本町の誇れる特産品である水産物の販売のために白糠漁協にテナントとして入店いただくことになり、半年後の平成9年7月にリニューアルオープンすることとなりました。
私の経歴をここまで遡ったのは、『しらぬか町商店』のヒントがここにあったからです。
恋問館の担当をしてマーケティングというものに興味を持ち、そして、情報管理係のときには、国がe-Japan戦略を打ち立て、5年以内に日本を世界最先端のIT国家にするということでした。それにより当時では夢のような考えられない通信速度が今では現実のものとなりました。
そんな中、町長に常に言われていたことがあります。 それは、“白糠漁協の品物をインターネットで売れないか”ということです。この町長の考えは、それ以降、私の頭の中に常にあったことから、平成17年4月に地域資源対策営業担当係に異動した時につくった町を活性化するための施策の中に、この町長の考えを具現化した『しらぬか町商店』の原型となるプランがあったのです。
自立の道を選択した本町は、昨年、“足元を見つめなおして原点に立ち返る”という精神のもと、今後のまちづくりの取り組みとして「第1次産業の再興と振興」「町民の健康づくり」「教育(意識改革)」の3つの柱を掲げました。
この「3つの柱」を実現していくための1つのキーワードとして『食と食材』で結びつけることが可能と考え、『食と食材のまち』として「しらぬかブランド」を確立していく必要があると考えたのです。
本町の事業者及び生産者は、ほとんどが中小零細企業であることから、通信販売等の新たな手法に踏み出せない状況にあります。知識的にもマンパワー的にも数少ない従業員の中で経営しており、ネットショップに手を出したくても出せないという思いがあり、そのような声が現実として聞こえていました。
そこで、インターネット通販を手がけられない事業者及び生産者に、その場を提供するという一種のインフラ整備として町がネットショップを開設しようと考えたのです。
本町の産品を広め、多くの商品が売れることによっての収入や事業者での雇用の創出が期待でき、そこから税収として入ってくれればとの思いで、事業者との協同のもと経済活性化に取り組んでいければと考えました。
楽天市場では地方公共団体の出店が初めてということもあり、細部にわたる協議に時間を要しましたが、昨年12月18日に8事業者の50アイテムでオープンしました。
各事業者からは、当店での取扱利用料として基本的に売上額の20%をいただくことにしました。
絵文字昆布
根拠は、楽天への手数料や発送用ダンボール代などで売上額の10%程度がかかります。また、楽天への出店基本料が月額52,500円ですので、事業者からいただいた手数料の残り10%分でこの出店基本料を支払うということになり、逆算すると最低でも月商525,000円が必要になります。
当店の商材は、北海道を象徴しているような商材で種類も豊富なことから、同業種の売上げ状況をセミナーの事例紹介などで聞いたところ月商数百万円とのことで、目指すべき最低限の売上げを設定し逆算をした結果この20%としたものです。
楽天市場への出店は、本町の優良な物産をPRするために始めたもので、町が利益を追求するために始めたものではありません。また、良い品をお安く提供したいという考えもありました。そういうことも20%に設定した理由です。
事業者からいただくのは、あくまでもご注文いただいた額に対する手数料のみですので、事業者には全くリスクはありません。たくさん売れることによって町のPRもそれに比例してでき、そして、手数料のみの自主費用で運営していくことも可能になります。
売上げ的にはまだ十分ではありませんが、全国各地からご注文をいただいている状況で、ここでの販売は全てが今までにないお客様層への販売であり、事業者には喜んでいただいています。町としても、相当数マスコミで取り上げられたこともあり、全国への本町特産品の大きなPRになっているものと感じています。売上げを伸ばすための手法については楽天から学んでおりますので、今後はどこまで伸ばすことができるのかという期待感もあります。
商店4人衆
商品の発送は、課長を中心に1~2名の課員で行っており、毎日、各事業者に商品を取りに行き梱包し発送しています。現在の受注状況だからこのようなやり方が可能ですが、今後、注文が増えてきたときには、発送や内部の事務についても対応しきれないと思います。そのときには、この事業の目的の1つでもある雇用に繋がってくれればと考えています。
公共事業として、まちの活性化策として、色々な投資の方法がありますが、先ほども申したとおり、少なくても今までにない商圏への販売が出来たことで全国へのPRになっていますし、お客様からはリピートも頂いております。町が動いたことによって新たなお金の動きが出てきたことを嬉しく思っています。