ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > 町村の取組 > 福島県鮫川村/健康長寿めざして『まめで達者なまちづくり』~高齢者の大豆づくりで地場産業を振興~

福島県鮫川村/健康長寿めざして『まめで達者なまちづくり』~高齢者の大豆づくりで地場産業を振興~

印刷用ページを表示する 掲載日:2007年6月11日更新
鮫川村の景勝地「強滝(こわだき)」の写真

福島県鮫川村

2603号(2007年6月11日付号掲載)  村長 大樂 勝弘


村の概要

鮫川村は福島県の南部、阿武隈山地の頂上部に位置し、標高400mから700mの丘陵地に住宅が点在する典型的な中山間地域です。人口は4,345人(19年4月1日)、村の76%が山林で、耕地は山林に囲まれた狭隘な傾斜地に散在し、数年ごとに冷害に襲われる高冷地でもあります。

村の基幹産業は農業で、小区画の耕地に水稲を中心に畜産、夏秋野菜などの複合経営を営んでいます。

大豆栽培のお年寄りの笑顔の写真
大豆栽培のお年寄りの笑顔

かつては、養蚕・葉たばこ・こんにゃくなどが盛んに栽培されていましたが、輸入自由化などの影響で生産者は激減し、水稲の価格下落や減反の強化と合せて農業生産額は昭和59年の22億円を最高に、平成16年度には12億円まで減少してしまいました。また、農業就業者の高齢化と後継者不足が進み、不耕作地も増え続けています。

私は家業である米穀集荷業を通じて、このような鮫川村の農業の厳しさを、身をもって痛切に感じておりました。山間高冷地の条件不利な地域でも、農業は村の産業の柱です。せめて農家の苦労に報いる「収入の保障を」の思いを強めていました。

自立の選択と高齢者の豆づくり

このような情勢のなか、前村長は平成15年、農業の不振や地域経済の低迷、地方交付税の削減などの停滞感、閉塞感を隣接3町村の合併で解決しようとしました。3町村のうち本村は地形的に最も条件が悪いこともあり、この合併に対して、村民からは「小さい村は一層寂れてしまう」との意見が多く寄せられ、住民投票でも合併反対票は70%を占めました。その結果前村長は辞任し、15年9月、多くの村民に要請されて、当時議会議長職にあった私が無投票で村長に就任しました。

さっそく私は、高齢者の大豆づくりから地場産業の振興を図り、沈んでいる村の経済、村民の心に元気をとりもどしたい、笑顔が絶えない健康で長寿の村をつくりたいとの思いから、各課横断の『里山大豆特産品開発プロジェクトチーム』を発足させました。

さらに、平成16年6月21日に総務省に申請した「里山の食と農、自然を活かす地域再生計画」が第1号の認定を受け、大きな励みと推進力を得ました。地域再生計画では、廃校となった小学校・幼稚園の「農産物加工施設」への弾力的転用が認められ、農産物の栽培から加工・販売へと「農業の6次産業化」への道が大きく開かれました。

高齢者の大豆収穫作戦の様子の写真
高齢者の大豆収穫作戦

大豆は、自家製の味噌づくりの材料として古くから多くの農家で栽培されていましたので、高齢者の栽培知識は豊かです。そこでイソフラボンが在来種の1.5倍以上ある福島県が開発した新品種「ふくいぶき」の種子を格安で(定価560円を100円)提供しました。

また、村で同様に古くから作られていた『エゴマ(じゅうねん)』の栽培もあわせて進めました。『エゴマ』もαリノレン酸が豊富な健康食品として大変注目されています。

村の高齢者は、かつては農業経営者として知識も技術も豊富にもっています。その高齢者の力を活かして「大豆づくり」で体を動かし、収穫の喜びを味わい、大豆を家族と食べて健康を喜び、「大豆づくり」で社会に貢献しようとする『まめで達者な村づくり』の事業は、「生きがい・働きがい」と「健康づくり」を結びつけた取り組みとしてスタートしました。

大豆の全量買い上げと6次産業化

初年度の16年は、秋の台風と長雨で品質は極端に悪く、市場では規格外となる大豆ばかりでしたが、くず豆も含め全量に生産奨励金(25kg3,000円)を付けて買い上げました。穀類検査員の資格も持つ私が検査し、手で選別した大豆は1等10,500円、くず豆でも奨励金をつけて4,000円(いずれも25㎏当たり)で買い上げた費用は250万円でした。 エゴマは村商工会が組織する事業組合が全量買い上げしました。「くず豆でも残らず全部買い上げてもらえる」との安心感から、栽培者は16年に102名だったのが17年158名、17年には203名と増えてきました。

鮫川村独自開発の大豆・エゴマの特産品の写真
鮫川村独自開発の大豆・エゴマの特産品

収穫した大豆とエゴマは、1粒も村外に流通させることなく、村内で加工し、付加価値を高め、村内で販売。加工施設・直売施設の整備も「総務省地域再生計画認定」が大きな力となり、県当局の特段の配慮も受けて急展開で進めることができました。

豆腐工房・正紀の様子の写真
豆腐工房・正紀

豆腐・豆乳・納豆などの加工施設を併設した農産物直売所は、統合で廃校となった幼稚園舎を改修したもので17年11月に『手・まめ・館』としてオープンしました。

また、豆腐、味噌など大豆加工品の製造のため、役場の若手職員を6カ月間東京農業大学醸造学科に研修生として派遣し、技術の習得をさせてきました。

『手・まめ・館』から9千万円超の新たな産業創出

『手・まめ・館』はオープン当時、地理的不便さから経営の困難を指摘する村民の声がありましたが、今年3月までの1年4ヶ月で、総売上げ72,468千円と、予想を大きく上回っております。 しかも6割は村外のお客さんです。生産農家のうち、1ヶ月の売上げが10万円を超える方が7名誕生し、『手・まめ・館』の運営では、大豆加工品製造部門、直売部門など合せて9名が雇用されるなど、新しい雇用の場を創設することができました。

『手・まめ・館』全景(幼稚園舎の改修)の写真
『手・まめ・館』全景(幼稚園舎の改修)

『まめで達者な村づくり』スタートから3年間で、ひと粒の大豆から、直売所の売上げと高齢者へ支払った19,770千円を合せた92,238千円の新しい産業を創り出すことができたわけです。

『手・まめ・館』直売コーナーの様子の写真
『手・まめ・館』直売コーナー  

さらに、地産地消の拠点として、『手・まめ・館』から学校給食 センターや福祉施設、保育園・幼稚園の食材の供給が飛躍的に伸びています。特に学校給食では、今年の4月から米飯給食を週3日から4日に増やし、村内の特別栽培米を『手・まめ・館』の炊飯器で炊いて、保温した温かいご飯を全校に提供しております。昨年まで隣町の業者に委託していたため、冷めたご飯になっていましたが、炊飯器のご飯で、『食』への興味と、農薬を7割削減させた特別栽培のお米の『農』への関心と、子供たちの食育の推進に役立っています。

条件不利を活かした源流の里山、環境にやさしい農業へ

物を作る喜びを生きがいにし、収穫の喜びを味わいながら、健康で笑って暮らせる長寿の村をめざした『まめで達者な村づくり』は、当初は「豆で村づくりはできない」という批判もありましたが、実績を積み重ねることで、村民の理解と協力が深まり、新しい事業が進展しています。

温かい炊飯器での米飯給食の様子の写真
温かい炊飯器での米飯給食

ひとつは、地理的・気候的に不利な条件を逆手にとった「源流の里山、安全・安心農産物」の推進です。村は「鮫川」「久慈川」「阿武隈川」の3つの川の源流部として生活廃水や工場廃水の汚染がありません。この「源流のきれいな水」「澄んだ空」「里山の自然」を活かした低農薬・減化学肥料で、豊富な畜産堆肥を活用する環境にやさしい農業の推進へ農家の意識が高まっております。

村の景勝地「江竜田の滝」の風景写真
村の景勝地「江竜田の滝」

2点目は交流人口の拡大です。東京農業大学、大妻女子大学、福島大学、東京農工大学などの里山環境学習、農業体験講座などでの受け入れ、NHK交響楽団員などの合宿の受け入れや、集落独自でのグリーンツーリズム受け入れなど新たな活力が生まれてきました。  

3点目は、村民の協力・協働の意識の醸成です。村中心部で『手・まめ・館』に接する「館山公園」は長く手入れがされずに荒廃していました。そこで、この公園を地域活性化のシンボルにしようと花に囲まれた公園に整備する計画を立案、村民の協力を求めました。すると、子供たちも含めた200名以上の方々がボランティア活動に参加しました。村づくりに対する村民の意識の高まりが、身をもって感じられました。

中山間直接支払交付金で村民の協力・協働の高まり

私は就任まもなく、「第3次鮫川村長期振興計画」の策定作業に着手しました。その検討の中で、これからの地域づくりとは住民自身の発想と参画から集落ごとに優れた資源を見つけ出すこと、そしてそれに磨きをかける「知恵比べ」であると提唱しました。これに対し、「元気づくりモデル地区」として、多数の集落から特色のある提案がありました。その夢を実現するために、村の乏しい財源に頼らない仕組みを、村民自らの手で創り出します。中山間地域等直接支払交付金の活用です。

本村は、9割を超える集落の積極的な取組みにより、年間1億2千3百万円の中山間交付金の交付を受けていました。この交付金を活用して耕作放棄地の防止や里山景観の整備などを行い、集落の活力を取り戻すことで、協力・共同の「結い」の伝統を復活させました。

平成17年度、同交付金制度は従来の活動には8割、前向きな取組みに対しては10割と、段階的な交付に転換。そこで、日当や農機具の購入など従来の守りの対応から、地域づくりなど積極的な攻めの活用を集落にお願いしました。

これに応えて、全74集落が「鮫川村協定間協定協議会」に参加し、交付金の12%(8割交付の集落は6%)を拠出することで意欲的地域づくりの集落などに助成する「拠出金制度」を創設しました。年間1千4百万円の拠出金で、交付金の10割要件達成の支援や、エコファマー認証の費用、村内農産物宣伝・販売費用などの援助とともに、現在50集落の地域づくり事業に助成金を交付しています。

地域づくりの主な事業では「花とふれあい里づくり」「花菖蒲の里づくり」「もみじの里遊歩道・広場づくり」「山桜とホタルの舞う里づくり」「めん羊の里づくり」「悠々の森づくり」など多種多様な事業が展開されています。助成額は事業費の70%で35万円までとし、総額600万円。この協定間拠出金が特色ある地域づくりを積極的に支え、「豊かな里山の景観を後世に残したい」という活動の励みとなっています。

『まめに働く』鮫川ブランドをめざして

『まめで達者な村づくり』は、無いものねだりをせず、地域・足元にあるものを掘り起こし、活用する「まめな暮らしを育む」村づくりです。私は、多数の高齢者の経験と知識を活かし、村民総参加の「まめな仕事」で『源流の里山、鮫川おいしい農産物』の地域ブランド化をめざして、小さな村の大きな夢に向かって前進したいと考えております。