ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > 町村の取組 > 奈良県明日香村/飛鳥ブランド創造への挑戦~「農」の再生ともてなしの心が活力と癒しを生む~

奈良県明日香村/飛鳥ブランド創造への挑戦~「農」の再生ともてなしの心が活力と癒しを生む~

印刷用ページを表示する 掲載日:2007年6月4日
夢販売所に並ぶ新鮮な農産物の様子の写真

奈良県明日香村

2602号(2007年6月4日付号掲載)  政策調整課


概況

明日香村は昭和31年7月、高市郡阪合村、高市村、飛鳥村の3村が合併して誕生し昨年50周年を迎えた面積24.08平方kmの小さな村である。奈良盆地の東南部、大阪市より40㎞、奈良市より25kmの圏域に位置し、約1時間程度で大阪近郊への通勤が可能となっている。現在の人口は約6,500人、高齢化率は27%を超え、今なお人口の減少と出生率の低下が進んでいる。

日本の国家形成の原点

明日香村には、村内全域に後の律令国家体制の礎となった飛鳥時代の宮跡や古墳・寺院など重要な歴史的・文化的遺産が数多く点在し、その文化財を包み込む景観は「歴史的風土」と呼ばれる。その周辺環境を含めた保存の方策は、昭和41年「古都保存法」に基づく古都の指定を受けたことに始まり、昭和45年には「飛鳥地方における歴史的風土及び文化財の保存等に関する方策について」が閣議決定され、国を挙げての明日香保存へと結びついた。さらに昭和55年には「明日香村特別措置法」が制定、歴史的風土の保存と住民生活の安定向上が進められることとなり、本年28年目を迎えている。

ここ数年、キトラ古墳、飛鳥京苑池遺構、亀形石造物、飛鳥池工房遺跡など数多くの遺跡の発掘調査が進み、飛鳥京の全貌が見え始め、新たな発見ごとに国民にわが国の国家形成の原点としての飛鳥の魅力を発信し、多くの感動を与えてきた。

また、近年の文化財政策も、保存から活用へと大きな転換を見せており、貴重な文化財を地域の創意工夫によって活用し、生きた資源として地域づくりに生かすことが求められているところである。

明日香を支える「農」の再生

「農」は明日香の歴史的風土と文化を形成する基本であると同時に今日まで集落機能を維持してきた基幹産業である。しかし、昭和45年には956戸と総世帯数の3分の2を占めていた農家数が、平成7年には680戸となり、平成12年619戸、平成17年601戸と減少。そのうち、他の仕事を主とする第2種兼業農家は90%を占めている。

農村レストラン夢市茶屋の写真
農村レストラン夢市茶屋

その背景には、厳しい農業情勢に加えて、法的制約から現状変更が難しいこと、省力化も困難なことなどがある。また、後継者不足や高齢化による担い手の弱体化などにより、耕作地は300haにまで減少している。

農村集落のコミュニティーの危機、農産物価格の低迷による農地利用の低下、里山の崩壊など生態系の変化も相俟って、このままいけば明日香の歴史的風土と文化の基本である「農」の維持は困難である。 そこで、村では平成10年6月(財)明日香村地域振興公社(愛称:あすか夢耕社)を設立。農地保有合理化事業を進めながら、専業農家による飛鳥ブランドを育成し、観光と農業が結びついた新たな「農」の展開を地域ぐるみ組織ぐるみで考え、「農」による地域の活性化を図ることとなった。

あすか夢耕社の戦略

地域特産品の開発

専業農家が結成した「みのり会」を始め、明日香村には10の加工品グループが活動している。昔ながらの製法にこだわり、昔から伝えられてきた明日香らしい味を伝えたい、飽食の時代にこそ、ひと手間かけたものを・・・そんな熱い思いから商品化が始まった。村で採れた野菜や米を加工し、お菓子やおつけものを商品化している。

飛鳥鍋御膳の写真
飛鳥鍋御膳

平成18年4月、待望の農産物加工施設を新設した。女性4人の手によって有限会社「ゆめ明日香」が設立され、商品開発が進められている。現在では25種類の菓子類と16種類のおつけものなどが商品化された。

また、農村レストラン「夢市茶屋」と「明日香の夢市」も新築明日香を訪れる観光客に対して「飛鳥鍋御膳」(牛乳を入れたスープに明日香産の野菜や大和肉鶏が入っている。)「黒米カレー」などの明日香の味を提供している。

販路開拓事業

あすか夢販売所の外観写真
あすか夢販売所

平成11年近鉄飛鳥駅前に仮設店舗で営業してきた「あすか夢販売所」を平成17年新築し、明日香の農産物等を直売している。この直売所は生産者自らが運営参画するため、明日香村農産物直売所等運営協議会を設立、地域に根ざした直売所を目指し運営している(現在会員260名)。近隣団地の新鮮野菜のマーケットとしての需要が高く、また、観光客が飛鳥駅前ということもあり、着いたときに野菜を買い求めておき、観光した帰りに買い求めたものを持ち帰るなど日曜・祝日などは特に賑わっている。

新築に伴って販売面積の拡大を図り、年間1億2~3千万円であった売上は、2億3千万円まで伸びている。この直売所は生産者が自らの判断で価格を設定し店舗に陳列。「新鮮、安全、安心」をモットーに品質管理を徹底し、顧客本位の運営を期している。また、更なる販売促進を図るため、旬の農産物のPRイベントを実施するなどして農家の所得の安定確保を図っている。

都市と農村交流事業

平成8年に稲渕地区での棚田オーナー制度が発足した。この地域は全国棚田百選のひとつで、春には蓮華や菜の花が咲き、秋には彼岸花と青い稲穂が棚田を彩り、大勢のカメラマンが沿道を埋め尽くす。 たんぼコース区画・畑78コース100区画・トラストコース15口を募集しており、棚田の保全と、都市と農村の住民交流が活発に行われる全国的にも有名な地域である。この地域に刺激を受け、現在ではうまし酒オーナー(200口)、一本木オーナー(200口)、たけのこオーナー(50口)、いもほりオーナー(40口)、阪田なるほどふぁーむ(20区画)、森の手づくり塾(50名)など合わせて7つのオーナー制度が実施されている。この制度についても、あすか夢耕社がPRやオーナー会員を募集するなどの窓口を一本化し、各制度の充実を図るため支援を行っている。

稲渕地区の棚田の風景写真
稲渕地区の棚田

新たな取り組み「観光農園」

明日香の特産物のひとつにいちご「あすかルビー」がある。「観光いちご狩り」を平成16年から実施し、今では10ヶ所(9農家)で実施している。平成16年当初入園客7,700人であったが、平成18年には19,600人余りに達しており、大好評を得ている。 その他2地区ではぶどう狩りが実施され、春にはチューリップ園が開園するなど、リピーターの観光客誘致を促進している。

特産の「あすかルビー」の写真
特産の「あすか」ルビー

自然と歴史体験を重視した滞在型観光への移行

「農」によるもてなしの経済交流を進める中で施設整備は進み、"飛鳥ブランド"は住民の努力により高められてきた。その過程で、明日香村に心の癒しを求めてくる人たちをどのようにもてなしていけばよいか自分たちで考え行動するという意識が生まれてきた。都市住民との交流の中でなされる何気ない営みは、都市住民にとって特異に映る。このような再認識・再発見は、村民にとって良い刺激となり、高齢者や女性の元気な人づくりの一端にもなっている。

観光農園でのいちご狩りの様子の写真
観光農園でのいちご狩り

今後は明日香を訪れる年間120万人の観光客にゆっくりと宿泊していただき、体験活動などを通して飛鳥の景色や自然により多く触れてもらいたい。そのためのハード面ソフト面のプログラムづくりが大きな課題である。