2600号(2007年5月21日付号) まちづくり政策課 守屋 英彦
辰野町は、中央自動車道やJRで首都圏・中京圏から2~3時間という交通至便の地にあり、“ひともまちも 自然も輝く 光と緑とほたるの町”をキャッチフレーズにまちづくりを進めている自然豊かな町です。
町の自慢は何と言っても“ホタル”です。町内のほぼ全域に発生し、環境省「ふるさといきものの里」に指定されています。なかでもホタルの発生地「松尾峡」のゲンジボタルは東日本随一といわれ、初夏、その乱舞する姿は圧巻であり、幻想的な美しさは必見です。
ほたる 未来への輝き
りんご、花卉類、マツタケ等の農林産物や龍渓硯(知事指定伝統的工芸品)、地酒等の特産品も多く、町の基幹産業である工業では精密関連をはじめとした多くの優良企業が立地、県下有数の製造品出荷額を誇り、町内外を含め就労の場に恵まれています。
毎年6月に開催される「ほたる祭総踊り」
松本・諏訪・伊那方面にも隣接し、木曽方面へのアクセスも良くなり、大変住みやすい環境です。ぜひ一度「ほたるの里辰野」へおいでください。
しかし、このようなのんびりとした静かな町にも、セキュリティの脅威は襲い掛かってきています。システムは絶え間なく攻撃されており、一つでも弱点があればそこを起点に猛威を振るわれてしまいます。そんな中「新セキュリティ・システム」であるシン・クライアントに出会い、それを採用するに至りました。今回は、その経緯をご紹介いたします。
いつ何時襲ってくるかもしれない脅威に対して、いつも脅えていなければなりませんでした。皆様も同じ思いをしていませんか。一つ対策を打っても、次から次へと新たな脅威が発生します。キリがありません。また、セキュリティポリシーを設定しても職員全員に周知徹底させることは大変なことですし、1人の気の緩みが全体の被害に繋がってしまいますので、微塵の妥協も許されない状況です。
前述の様な脅威に対する対策を、専門家でない職員が対応しなければならないのです。当然予算は少なく、人数も限られており、将来的に予算も人も増やす事が出来ません。
通常のパソコンでは、5年毎に買い替えなければなりません。まだ導入されていない部署があるにも関わらず、もう別の部署では買い替えを検討しなければならない状況です。一度購入しただけで買い替えを検討しなくて済めばそれに越したことはないのですが、機能的な不足は補えたとしても、業務アプリケーションやセキュリティ対策ソフトが古い機種に対応できないことから、買い替えざるを得ないのです。まさにパソコンメーカーの戦略に思惑通りのせられているわけですが、このいたちごっこをいつまで続けなければならないのでしょうか。使うお金は住民から預かった大切な税金です。この税金を、このように使って良いのでしょうか。
決して安くはない買い物を、5年後にはまた買い替えることが明白であるにも関わらず、敢えて購入しなければならないのです。
移動して仕事ができれば便利だと分かっていながら、情報漏洩やウィルスの脅威を懸念し、二の足を踏まざるを得ない状況でした。
環境問題への対策が取り上げられる中、行政として率先して取り組まなければならないにも関わらず、システム自体はどんどん増えていくという自己矛盾に陥っている状況でした。
パソコンのお子守に非常に多くの時間と労力が費やされ、本来の業務や、住民や職員にとって本当に必要なシステムを検討することが出来ない状況が、ここ数年続いていました。
前述した多くの課題を解決したいという思いから、インターネットや雑誌を読み漁り、様々なイベントやセミナーにも出席し情報収集を行いました。その結果、あたり前のように使っていたパソコンをいっそ止めてしまったらどうかというメッセージに非常に惹かれました。パソコンを使い続け、付け焼刃的な対策を取り続けていくのではなく、既成概念を取り払い、発想を転換して、課題を根本から解決してしまうシン・クライアントという斬新なシステムを導入した方が良いのではないか、という提案です。
シン・クライアントを制御するサーバー類
そんな中、隣市がタイミングよくシン・クライアントを導入したので、シン・クライアントに対する意識が更に加速されました。調査を進めるにつれシン・クライアントにも様々な方式と製品があることが判明してきましたので、それらを全て調べてから、導入するかしないかを判断することにしました。
一言でシン・クライアントと言っても、パソコンから記憶装置だけを取り除いただけのものや、パソコンの形を変えて一箇所に集めたもの等様々。しかしながら、どれも費用面で高額なものばかりでした。そんな中、導入されているユーザーから高い評価を得ているものがありました。それが、今回採用した「S社製シンクライアント」でした。
最初の出会いは、イベントでした。最初はあまりにもシンプルな形に惹かれました。いままで使っていたパソコンと違って、あまりにもシンプルで斬新な形。逆に、こんなおもちゃのような端末で、本当に業務ができるのかとも感じてしまいました。しかも、ユーザーの認証をカードで行うという、斬新さにも魅力を感じました。 デモが始まり、説明員が説明を始めながら、おもむろに端末に挿してあったカードを突然引き抜きました。乱暴に抜いたせいか、画面は真っ暗になってしまいました。多くの人が見ているプレゼンの中で、機器が壊れてしまうとは、かわいそうにと思いました。 ところが、その説明員は全く慌てていません。そのまま悠然と別の端末の前に歩いて行きます。そして、先程抜いたカードをそのまま別の端末に挿入したのです。すると、どうでしょう、なんと先程表示されていた画面がそのまま出てくるではないですか。これには驚かされました。彼はわざと乱暴にカードを抜いていたのです。
消防署に設置したシン・クライアント①
最初の導入は消防署でした。消防署職員は3交代制で日々使うわけではありません。 全員分の端末を用意することに若干の抵抗があったことも否めません。それに、職員の役職、役割、権限によって業務が異なりますから、1台のパソコンを共有で使わせるわけにもいかなかったのです。それを「S社製シンクライアント」は全て解決してくれました。カードを職員に1人1枚持たせます。端末は兼用で使えますので人数分必要ありません。これで職員全員が個人の環境を持ちつつ、端末の経費を浮かす事が実現できました。
この3月に全庁への導入を行いました。前述の課題が解決され、業務効率が向上したことは言うまでもありません。今回は触れませんが、現在全く問題なく稼動しています。今回は別の観点にて、システムの設置に関して記述させていただきます。と言いますのも、設置があまりにも簡単だったからです。
サーバーの設定は当然行ったものの、そこは裏側の話、表向きの設置は、半日で終わってしまいました!設置というよりも配置といった方が正しいのかもしれません。つまり、端末を置いてコードを繋ぐだけでしたから。しかも、配置が終わって、電源を入れたときからすぐに使えるのです。これには驚きました。
また、これは将来的な話ですが、メンテナンスのしやすさに関しても目を見張るものがあると考えています。そもそも駆動部分が全くないので壊れることもないのですが、万が一、1つの端末が壊れたとしても、カードを別の端末に挿せば今までの作業を継続できます。そして業務を妨げることなく壊れた端末は後で交換するだけで良いので、非常にメンテナンスが楽なのです。
オペレーティング・システム(以下OS)やオフィスにOSSを採用しました。OSは、S社のソラリスというOSを採用しました。OSはコンピュータを動かすための基幹となるソフトウェアですので、Windowsに慣れきってしまっている中、採用していいのか実際は不安でした。ところが、ユーザーの目に触れるトップ画面は、若干の違いはあるものの、Windowsと似ていましたので、慣れてしまえば全く問題ありませんでした。
また、新・クライアントシステムの採用と同時に、オフィスもOSSを使うことにしました。具体的には、OSSであるオープン・オフィス・オルグから派生し、S社で製品保証を付与した「スタースイート8」です。こちらもワードやエクセルに慣れていましたので、移行することに不安を覚えましたが、機能ボタンの配置が違う位で、すぐに慣れることが出来ました。 以前、一太郎/ロータスからワード/エクセルに移行した時のことを思い出すと、その時ほどの混乱はありませんでした。というのも、以前作成したデータもそのまま使うことができるからです。若干の文字ズレや、マクロへの対応が出来ないものの、職員の少しの協力と努力で、税金を無駄に使うことがなくなるわけですから、先のOSの採用も含め、非常に良い決断だったと確信しています。
事務所に設置したシン・クライアント
当然、セキュリティの向上、運用管理負荷が低減されています。
職員異動時の煩雑さの解消
どこの市町村でも抱えている問題かと思いますが、3月末等の職員異動時期のパソコン移動またはデータ移行、権限移行等のネットワーク管理者には避けて通れない煩雑な諸問題が一挙に解決されます。
通常では3月末の土・日曜日を使って、本庁オフィス、外部オフィス(病院、保健センター等)を飛び回り設定変更等を行わなければなりませんでした。しかし、来年のこの時期には、サーバー室の中でカードのユーザー情報を変更するだけで足りてしまいます。また、副産物として下記のような効果も現われてきました。
電力の削減(まだ早いか・・・)、 効果が現れるのはこれからでした。
紙の削減、カードを持って移動し、別の部署の端末であろうが会議室であろうがどこでも自分の環境が呼び出せるので、いままで印刷して持ち歩いていたものが、印刷をしなくてもよくなり、紙の使用が少なくなりました。
端末を公民館や支所に置くことによって、どこでも仕事ができるようになります。いままでパソコンと睨めっこをしていた時間をもっと住民とふれあう時間に使えるということになるのです。結果として、住民サービスの向上に繋がると、確信しています。
消防署に設置したシン・クライアント②
また、この構想は近隣の市町村の賛同を得なければなりませんが、近隣市町村との連携も提案していきたいと考えています。同じシステムを採用することにより、カードさえ持っていけばどこでも仕事ができるようになるからです。他の役場に行った時でも自分の環境が表示されるわけですから、間違いなく業務効率が上がると考えます。これは役場だけではなく消防署や病院でも応用できます。
オフィスの互換性等の課題は残るものの「高度なセキュリティ・システム」であるシン・クライアントを採用出来て良かったと確信しております。今後多くの自治体でも採用が進み、真のネットワーク社会が実現されることを願っています。