2593号(2007年3月19日) 西伯病院事務部次長 戸田 幸治
山々の緑と湖、溢れる自然、それが南部町の自慢です。一度失ってしまったら二度と手に入らない「自然」を、南部町は大切にしています。
南部町の自然は季節ごとにその姿を変え、観る人の目を楽しませてくれます。
南部町の桜
春:沸き立つようなピンクに染まる桜の名所が町内のあちらこちらにあり、華やかな春の訪れを感じさせてくれます。
夏:日々、色濃くなっていく緑の山々に囲まれた風景は、どこかノスタルジック。失われつつある自然の雄大さを間近に感じることができます。
秋:赤や黄色に染まっていく山は、まるで絵画の世界。山の幸にも恵まれ、自然の美味しさも堪能できます。
冬:ピンク、緑、赤や黄色と、その姿を変えてきた山々が一斉に白く染まります。月に照らされた白い山は、幻想的な世界へと誘ってくれます。 (南部町公式ホームページより)
鳥取県西端に位置する南部町は、平成16年10月1日、西伯郡西伯町と西伯郡会見町が合併して誕生しました。町の人口は12.186人、高齢化比率27.37%(平成19年1月31日現在)、東西約12km、南北約17km、総面積114.03平方km、周囲を米子市・伯耆町・日南町・島根県安来市に接する中山間地域です。豊かな自然に恵まれるとともに、県下有数の古墳密集地帯で、大国主命の古事に由来する史跡・地名が多く見られ、律令国家以前から豊かな文化が栄えた場所です。町の南側に鎌倉山(731m)など日野郡に連なる山地、北側に手間要害山(329m)を挟んで平地・丘陵地が広がり、水田地帯と町の特産物である柿・梨・いちじくなどの樹園地が形成されています。
平成16年2月に策定された南部町まちづくり計画(西伯町・会見町合併協議会)で、まちづくりの方向として、次の6項目が掲げられました。
このうち「4.安全で、安心して暮らせる福祉のまちづくり」の中で、「安全な生活の確保と安心できる生活の確保」を実現するために、西伯病院の役割が掲げられ、次のような病院づくりが望まれました。
西伯病院は、昭和26年10月に法勝寺村ほか4ヶ村の一部事務組合直営病院として開設され、以来、南部町を中心に、米子市、安来市伯太町ほか鳥取県西部地域の一部を診療圏として、地域医療を提供してきました。県内の公立病院では、唯一、精神科病床を有する病院であり、鳥取県西部地域における精神医療を担ってきました。
既存病院は病床規模210床、一般科102床、精神科108床という特徴のある病床構成で、一般科102床のうち60床は療養型病床(医療療養型床、介護療養30型床)となっていました。また、築後42年を経過した病棟があり、建物・設備の老朽化が著しく、求められる診療機能、療養環境に対応できなくなったため、全面改築することになりました。
平成8年ごろから病院改築に向けて院内で検討が重ねられ、平成14年8月に西伯病院改築基本構想・基本計画の策定に着手することになりました。
これと同時に住民参加による病院づくりを進めるために「西伯病院のあり方懇談会」が設置されました。この懇談会は、地域住民からの一般公募委員3名を含む、町内の保健・医療・福祉関係者など24名の委員で構成され「こんな西伯病院だったらいいなワークショップ」を計2回開催するなど、新しい病院づくりに向けて、次のような意見が集約され、計画に反映されました。
集約テーマ:人に優しい西伯病院サブテーマ:移動しやすい院内、分かりやすい院内、利用しやすい病院、癒しの病院、地域交流
サブテーマ:移動しやすい院内、分かりやすい院内、利用しやすい病院、癒しの暴飲、地域交流
集約テーマ:いつでも誰でも安心して受診できる外来~ホームドクターのような病院をめざして~
サブテーマ:患者を大切にした救急医療の充実、待ち時間の配慮、誰もが気軽に利用できる病院
集約テーマ:家庭的な病棟
サブテーマ:ゆったり・心の休まる病棟、利用者の生活を意識した設備、コミュニケーションのある病棟
平成15年3月、旧西伯町議会で西伯病院改築基本構想・基本計画が承認され、新病院の基本設計に着手するために、平成15年7月、西伯病院改築設計プロポーザルを地域住民に公開して行いました。これにより、施設建築に重要な役割を担う設計者の選考過程について地域住民の理解を得ることができました。
また、平成15年8月には西伯町・南部町合併協議会まちづくり委員(住民福祉部会)によるワークショップが行われ、ここで集約された意見も基本設計に取り入れられました。
その後、地域住民の意見が盛り込まれた新病院の青写真(基本設計・実施設計)が完成し、平成16年7月、西伯病院改築工事の工事請負契約が議決され、新病院の建築工事がはじまりました。
工事概要は次のとおりです。
「病院の中に街並みを、街並みの中に病院を」を設計コンセプトとして、次の「5つの特徴」により、親しみやすく地域性に溢れた新しいタイプの病院づくりを目指しました。
写真①
全体構成は、既存病院用地での建て替えを前提として、三角形の敷地の1・2階に外来・デイケア・検査・手術等、3階に一般病棟・療養病棟、4階に精神科一般病棟(50床うち認知20床)、5階に精神科療養病棟(49床)を機能的かつコンパクトに配置しました。
また、平成12年の鳥取西部地震の経験を踏まえて、免震構造を採用しました。
写真②
周辺の山並みに調和した切妻屋根の重なりや、病棟階のセットバックによる、威圧感の低減、暖かみのある外壁、バルコニーの木調手摺など、地域の風景にとけ込んで「みんなで暮らす家」を感じさせるデザインとしました。
街並みを取り込んだ瓦庇の総合受付、創作和紙の天井照明、地場産杉材の活用、街角に設けた円形レストラン、町の無形文化財となっている「一式飾り」のあるロビーなど賑わいと安らぎに溢れた病院の顔としてエントランスホールを設けました。
写真③
2階リハビリ部門の廊下には、千葉大学中山研究室による地域の老人会へのヒヤリング調査を踏まえて、認知症のお年寄りのための治療の場として、また地域の憩いの場として、懐かしい街並みを再現した「思い出街道」を設けました。
写真④
低層部の広い屋根面を利用して、各病棟から安心して利用ができ、見守りが必要な患者さまが身近に緑を感じたり、軽い運動ができる治療、療養の場として、屋上庭園「ガーデンテラス」を設けました。地域の方々も気軽に川辺の桜並木や、周辺に広がる山々の眺望を楽しむ事ができます。
写真⑤
病棟は、全ての病室にトイレを設けると共にデイルームの分散配置、廊下の縁台など、ベッドサイドリハビリや、精神科患者の社会復帰へ向けた家庭的環境づくりを重視しました。また、4床室は全てのベッド脇に窓がある坪庭型病室として、夏は天井から、冬は床下を経由して暖房ができる切り替え式空調としました。
退院後の在宅生活を支援するために、通所リハビリテーションを設置しました。また、訪問診察、訪問リハビリテーション、訪問看護など地域住民の在宅生活を支援するための機能の充実を図りました。
通所リハビリテーションでは、平成18年12月には1日平均16.5人(定員20人)、延べ346人の方々に利用してもらい、利用者ごとに担当理学療法士を配置してリハビリ訓練計画を作成し、積極的に個別リハビリに取り組んでいます。
その結果、60人の利用者のうち11人について、要介護度(要支援含む)の改善を図ることができました。
精神科医療を地域に提供するために、次の機能について充実を図りました。
医療情報の一元化・共有化並びに業務の効率化を図るとともに医療データの蓄積による医療の質・病院機能及び患者サービスの向上を目的として、次の12項目を基本原則として、電子カルテシステムを導入しました。
平成17年12月から本格稼動した電子カルテシステムは、大きなトラブルもなく1年以上が経過しました。
しかし、先日、受電設備のトラブルによる停電が発生し、発電機が作動しなかったため、電子カルテシステムが完全に停止してしまいました。その時には、外来診療業務がストップするなど、今や電子カルテなしでは診療業務が進まない状況となっています。また、電子カルテシステムの導入により、会計待ち時間の短縮、検査結果の提供など患者サービスの向上に役立つとともに、入院・外来ともに診療単価がアップし、経営改善にも貢献しています。
在宅・メンタル・ITをキイワードとした住民参加による病院づくりにより、「患者本位の医療の提供」、「快適な療養環境づくり」、「地域包括ケアシステムの構築」を実現するための基盤が整いました。平成18年4月には、院内に地域連携委員会を設置して、保健・医療・福祉の連携強化に向けて取り組んでいます。
また、平成20年度から保険者に義務付けられる特定健診・保健指導に向けて、生活習慣病の予防対策にも積極的に取り組んでいく必要があります。現在、国で検討が進められている「後期高齢者医療のあり方」に注目しながら、病院運営を進めていく必要があります。
全国的に医師不足・看護師不足が叫ばれていますが、当院も例外ではなく、非常に厳しい状況となっています。しかし、南部町の保健・医療・福祉の拠点として、地域住民に安心を提供するために、更に地域医療の充実を図っていく必要があります。