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北海道清里町/町民と行政のパートナーシップがささえる花と緑と交流のまちづくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2007年3月5日更新
摩周湖の風景写真

北海道清里町

2592号(2007年3月5日)  北海道清里町長 橋場 博


町の概要

清里町は、北海道の東部、世界自然遺産に登録された知床半島のつけ根に位置する、面積402.73平方km、人口約5,000人の町です。東に斜里岳道立自然公園、北にオホーツク海と知床国立公園、南に阿寒国立公園、西に網走国定公園と豊かな自然に囲まれ、気候はオホーツク高気圧の影響によって降雨量が少なく、晴れの日が続きます。

その容姿から日本のマッターホルンと呼ばれ、日本百名山にも数えられる町のシンボル斜里岳の麓には、40年以上にわたる土地改良事業によって区画整備された日本有数の大規模畑作地帯と耕地防風林が広がっています。また、市街地近代化事業によって整備された商店街や道路、恵まれた自然と生産環境のなかで、行政と町民の協働による安心と安全なまちづくりが進められています。

基幹産業は農業で、恵まれた気象条件や耕地環境を生かし、じゃがいも、ビート、小麦の主要3作物のほか、豆類、たまねぎ、メロン、長いもなどが生産されています。さらに、農産加工・合板工場などの木材加工や中小企業、小売商業が産業の基盤となる中、町直営で製造販売を行っている「じゃがいも」を主原料とした「じゃがいも焼酎」が、本格焼酎として全国の愛好者から高い評価を受けています。

町の面積の73%を占める森林と神秘の湖と言われる「摩周湖」、そして摩周湖の伏流水が湧き出る「神の子池」など豊富な水資源にも恵まれています。また、町の中心部を南北に流れ、町内に鮭の孵化場を有する「斜里川」は、環境省による水質測定検査で、2003年・2004年の2年連続「日本一きれいな河川」に指定されました。 

水と緑の豊かな資源を有する清里町では、この優れた自然や景観を町民共有の財産としてさらに保全育成していこうと、平成18年6月1日(景観の日)に知事同意による北海道で2番目の景観行政団体となりました。

また、本町では、長年住民参加と協働を基本にまちづくりを進めてきましたが、平成17年にはさらに「清里町自立計画」を策定し、町民一丸となった取組みを推進しています。この計画は、「自助・共助・公助」によるまちづくりに向けて設置した、公募委員を含む20名の「自立のまちづくり委員会」の手によるものです。

斜里岳とキカラシ畑の様子の写真
斜里岳とキカラシ畑

活動誕生の背景と目的

清里町では平成13年度より、第4次総合計画の重点プロジェクト事業として花と緑に囲まれた「ガーデンタウンきよさと」の創出と「交流人口の拡大」に向けたまちづくり活動に、全町民参加で取り組んでいます。この2つの取組みは、町民で組織する「花と緑と交流のまちづくり委員会」と行政とのパートナーシップによるもの。新たな町の魅力を発信・創造し、豊かな自然環境や農村アメニティをさらに高めるとともに、地域の自立と活性化をめざしています。

この新たな町民協働の取組みは、財団法人日本花の会が主催する「平成15年全国花のまちづくりコンクール」で「花のまちづくり大賞」を、平成18年には「全国過疎地域自立活性化優良事例」として「総務大臣表彰」を受賞することができました。

花で飾られたメインストリートの様子の写真
花で飾られた市街地中心部の風景

こうした花と緑を通したまちづくりへの一つの大きな契機となったのが、平成9年に友好都市提携を結んだニュージーランドモトエカ町との交流です。

ニュージーランド交流で学んだこと

清里町では、昭和62年から国際理解と英語教育の一環として北海道で最初に「外国人英語講師招聘事業」に取り組みました。その後、平成2年から英語講師の出身地であるニュージーランドとの交流が始まり、現在まで約500名にのぼる中高校生や町民の方がニュージーランドを訪問するとともに、約200名の受入れを行っています。

ニュージーランドとの交流の様子の写真
ニュージーランドとの交流の様子。 

研修に参加した町民が一様に大きく感銘を受けたのは、自然と人間がゆるやかに共生する生活スタイルや、木々の緑や芝生、花につつまれた美しい街並みと農村景観でした。

北海道の開拓とほぼ同じ長さの歴史を持つニュージーランドですが、農地造成による森林乱開発の反省から今は厳しい規制によって自然環境が保護されていること、また市民の方々が住民の義務として、道路などの公共空間に向かって芝生や花を植えている姿を見るなど、環境保護について身をもって学ぶ貴重な機会となりました。

また同時に、花づくりや緑の環境づくりが一人ひとりの生きがいと地域コミュニティへの貢献につながっていること、さらに安全で安心な食料生産を支える農畜産業の基盤をなしていることを学ぶことができました。

花と緑のまちづくりの気運の高まり

満開になったコスモスロードの様子の写真
満開になったコスモスロード

こうした研修に参加した町民の方々の気運の盛り上がりや、平成4年に行われた農林水産省による全国農村景観コンクールにおいて、耕地防風林で整然と区画された雄大な畑作田園風景が全国農村景観100選(内20選)に選ばれたことが大きな弾みとなりました。平成5年には地域の景観づくりとして、11戸の農家の皆さんが自主的に知床から阿寒に至る道路沿いの自己所有の畑3キロにわたりコスモスの花を植栽。以来、斜里岳と色とりどりのコスモスの花が織りなす風景は清里町の秋の風物詩として定着し、数多くの観光客の心を和ますとともに、花と緑のまちづくりが大きく全町に拡がる起爆剤としての役割を果してくれました。

また、この活動の波及効果は美しい環境づくりだけには留まらず、町内各地域での女性や農業者グループの皆さんによる地場産品を活用した特産品づくりや起業活動へと拡がりをみせています。

花と緑と交流のまちづくり委員会の発足

農業者の皆さんの活動が活発化する一方、自治会を中心としたまちづくり運動団体の皆さんが、毎年「まちづくり住民大会」を開催し、福祉やごみ問題をはじめとした生活環境の見直しなど1つのテーマを数年にわたって掘り下げ、それを実践的な地域活動として継続的に取り組んでいます。 

商店街では平成5年から開始された道路の拡幅整備と合せた市街地近代化事業により、自主的な建築協定を結び、「夏は花、冬は光」による潤いのある街並み整備を進めてきました。

農村女性グループによるドライフラワー造りの様子の写真
農村女性グループの起業家の先駆け「花いちもんめ」によるドライフラワー造り

町でも、平成6年に策定した「清里町グランドデザイン」を基本に、公共施設周辺の芝生と広葉樹を中心とした公園を整備、さらに緑地整備や緑の回廊づくりなど、緑の環境づくりを計画的に進めてきました。

こうしたなか、町では平成13年度から平成22年度までの新たな総合計画の策定を行った際、将来目標である「人と自然がともに輝き躍動するまち」を具現化するため、総合計画の6つの基本目標を横断的にとらえ、町民と行政のパートナーシップ(協働)による重点プロジェクト事業「花と緑と交流のまちづくり事業」に取り組むこととなりました。

この事業の町民サイドの推進組織として、自治会をはじめとした12団体が「清里町花と緑と交流のまちづくり委員会」を設立。同委員会が中心となり、これまで地域や団体で独自に行っていた自主的な地域づくり活動を基礎に、子どもたちから高齢者の方まで全町民が参加する新たな事業として再構築し、現在まで活発な活動を展開しています。

協働による事業の取り組みと実践

毎年6月から9月までの間、花・みどりフェスタを中心とする「花とみどりの潤いのまちづくり事業」、農村景観と自然を満喫できる「田園の散歩路(ウォーキングトレイル)事業」、都市農村交流や定住・移住、国際交流を中心とする「地域間交流事業」を3つの柱として、1年を通じ町の魅力を発信・創造する活動を総合的に推進しています。

花とみどりの潤いのまちづくり

雄大な自然や農業生産活動が生みだす農村景観に加え、コスモスやポプラ並木などによる緑の回廊づくりが農業者の皆さん自らの手によって行われています。

町の中心となる商店街には歩道にフラワープランターが設置されるほか、店先も各店が工夫を凝らした花で飾られます。春から秋にかけては花、冬はイルミネーションやアイスキャンドルで彩られます。

道路の植樹帯花壇に植栽された花は、沿道の事業所や自治会、家庭の方々が「里親」となって毎日の管理を行っています。また、住宅地域の個人ガーデンは街往く人が楽しめるよう通りに向かってつくられていますが、こうしたオープンガーデンには多くの方々に力いただいています。さらに、町の要所要所には自治会花壇が設けられるとともに公共施設や学校の全てで取組みを実施。このように町全体が緑につつまれるなか、花で彩られた街並みは潤いと安らぎの場として訪れる方々を温かく歓迎し、花を通じた地域づくりが着実に育まれています。

道路植樹帯花壇への花の植栽風景の写真
道路植樹帯花壇への花の植栽風景

春から秋にかけて4ヶ月間にわたり開催される「花・みどりフェスタきよさと」の期間中には、フォーラムやコンサート、ワークショップ、オープンガーデンツアーなど多彩な行事が開催され、町外からも多くの方が花と緑を楽しみに訪れます。

さらに、まちの魅力の再発見として町民応募による「景観スポット100選」、桜をはじめとした植樹活動やシーニックバイウエイ(風景街道)事業などとの連携による広域景観づくりへと新たな取組みも進められています。

田園の散歩路(ウォーキングトレイル)

ロングコースやタウンコース、森林浴コースなど町内3つの温泉を含む特色ある7コースが設けられ、豊かな自然や農村景観とふれあいながら四季折々のウォーキングを楽しむことができます。

ウォーキング、かんじきトレッキングの様子の写真
ウォーキング、かんじきトレッキング

各コースで春から秋にかけてウォーキング事業が行われ、冬には「神の子池」などの景勝地を散策する「かんじきトレッキング」や真っ白な雪原を舞台とした「歩くスキー」など、北海道ならではの体験を味わうことができます。

また、オホーツク海や知床・阿寒を眺望できる「パノラマの丘コース」は、平成16年に日本ウォーキング協会が主催する「美しい日本の歩きたくなるみち500選」に選ばれています。

都市農村と地域間交流

国内交流として埼玉県鶴ヶ島市、栃木県佐野市、新潟県上越市(旧清里村)と人的・物的交流を長年続けているほか、農業や自然体験を織り込んだ修学旅行の受入れも試験的に行っています。また、緑町小学校では、恵まれた自然と少人数での豊かな教育環境を生かし、家族留学を中心とした山村留学事業を平成6年から行い、現在まで関東地方を中心に50人を超える留学児童を受け入れています。

酪農を体験する修学旅行生の様子の写真
修学旅行生を受け入れる酪農体験のスナップ

国際交流事業では、毎年、中高校生と町民を友好都市提携しているニュージーランドに派遣するとともに、交換留学生の派遣・受入れと英語講師として職員採用を行っています。

また、ここ数年、都市農村の共生による新たな「体験型交流」や「移住・定住」に対する関心が高まっていることから、農・商・観光などの異業種連携による民間の受け皿とネットワークづくりを積極的に行っています。その結果、昨年、観光協会がNPO法人化されるとともに、体験活動をサポートするガイド協会や異業種交流による研究開発組織が立ち上がるなど、徐々に基盤が整備されつつあります。

今後の歩みと課題

清里町は、明治30年に開拓の鍬が降ろされ今年で110年を迎えます。 

また、昭和の大合併の時代に隣接する両町から分村独立し、昭和30年の町制施行により「清里町」の名前を称してから半世紀が過ぎました。

こうしたなか、「花と緑と交流のまちづくり」を住民参加と協働のシンボルとし、「清里町自立計画」による新たなまちづくりを町民挙げ推進しています。

地方自治体を取りまく環境が一段と厳しさを増す今日ですが、「安全安心のまちづくり」「真に豊かさを実感できるまちづくり」の実現こそ、地方自治の原点と考えます。花や緑、自然を愛でる心と、共にひとつの目標に向かい町民が語り合い汗を流すなかに、年代や職業を超えた新たな地域コミュニティの再生力が生まれてくると実感しています。

フランスのソルボンヌ大学の学長で文化地理学の権威でもあるジャン・ロベール・ピット氏はその著書に、「景観はその地に住む人々の産業と日々の営みの結果である」と記していますが、世代を超えてこの言葉を伝えうるまちづくりを、清里町は今後もしっかりと目指したいと考えます。