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神奈川県愛川町/自治基本条例と住民参加型のまちづくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2007年2月26日
愛川町の全景の写真

神奈川県愛川町

2591号(2007年2月26日)  総務部行政推進課主幹 大成 敦夫


町の概要

愛川町は神奈川県の中央北部、首都圏50km圏内に位置し、東西約10km、南北約6.7km、面積34.29平方kmの町です。町の西部には丹沢山塊の仏果山を最高峰とする山並みが連なり、南東部は相模川と中津川にはさまれた台地が広がり、緑豊かな美しい自然と中津川の清流に恵まれています。 

江戸時代から地場産業として繊維産業が発達、「糸のまち」として広くその名を知られています。昭和41年に神奈川県内陸工業団地が完成してからは、自然と調和した公害のない産業都市として着実な歩みを続け、現在の人口は43,941人、世帯数は16,874世帯(平成19年1月1日現在)となっています。

自治基本条例制定と背景と目的

本町では平成16年3月に、当時全国的にもまだ数少なかった自治基本条例を神奈川県下の自治体に先がけて制定しました。

条例制定から遡ること3年、21世紀を迎えた平成13年当時の本町を取り巻く状況は、地方分権の進展や住民意識の変化、住民活動の活発化により、地域の主役である住民の声を地域の行政運営に反映できる具体的な仕組みづくり、住民が参加しやすい環境の整備が大きな課題の1つでありました。

折しも当年10月に町長選挙が行われ、現山田登美夫町長が住民参加に関する条例の制定を選挙公約の大きな柱に掲げ、新しい時代の自治を運営するには、これまでの住民参加の考え方や取組み内容を整理し、「条例」という形で明文化することの必要性を訴えました。

これが契機となり、これまで散発的に行われてきた個々の取組みを見直し、住民参加をしっかりルール付け、同時に本町の自治のあり方を定める実効性のある規定を整備することになりました。

そこで、愛川町に住み、働き、学ぶすべての人々が行政に対して意見を述べる機会を条例で保障し、地域のことを自ら考え、行動し、住みよい町をみんなで力を合わせて作っていけるような協働型社会の形成、真のパートナーシップの確立をめざし、次の2点を条例制定の目標に掲げました。

  1. まちづくりの基本理念や住民、議会、行政の三者の行動原則を明確化すること。
  2. 住民参加のさまざまな具体的制度を標準化・共通ルール化し、積極的な住民参加が期待できる仕組みを整えること。

首都圏最大級の水がめ 宮ヶ瀬ダムの写真
首都圏最大級の水がめ 宮ヶ瀬ダム

条例策定作業のスタート

平成14年5月に住民参加に関連の深い部署の職員11人で構成するワーキンググループを立ち上げ、また同年7月には大学教授、議会議員、公募委員、自治会代表、関係団体代表など25人で構成する策定委員会を組織し、「住民参加」と「情報共有」を条例制定のキーワードに掲げ、条例案策定に向けた本格的な検討作業が始まりました。

当初、事務局では1つは地域住民が自由に参加するワークショップ型の住民主体の組織、もう1つは行政、自治会、関係団体等で構成する行政主導型の組織の二本立ての策定組織を編成して作業を進めることを想定していましたが、本町の人口規模地理的条件、住民構成、アドバイザーの意見などを踏まえ、これらを包括した1つの策定組織で作業がスタートすることになりました。

また、時期を同じくして、当時の(財)神奈川県市町村研修センターで実施した「行政課題調査研究グループ」(県内市町村職員12人が参加)の研究テーマが「自治基本条例」に決まり、本町がそのモデル都市に選定され、図らずも同グループと本町ワーキンググループとの共同研究が実現できたという幸運にも恵まれました。

町長と話し合うつどいの様子の写真
町長と話し合うつどい

策定プロセス

まず最初に取り組んだことは、条例をどのような内容にするか、条文にどのような項目を盛り込むかについて議論するための、それまでの本町の住民参加に関する現況調査でした。これには前述の「行政課題調査研究グループ」のメンバーも参画し、本町の各担当課職員との意見交換を交えながら、現状分析を進めたところです。 

そして、本町における住民参加の実態と問題点を「課題整理表」としてまとめ、よりよい住民自治を進めるための課題解決方策と条例に規定すべき項目の検討や、条例の類型等についての議論を経て、条例案骨子ができ上がりました。

この時点でこれまでの審議会等における議事の進め方と大きく異なった点は、事務局が提示した案を策定委員が審議し承認するという従来の本町の一般的なスタイルではなく、あくまでも委員主導により委員会全体で議論を尽くしながら、時間をかけて議事を進める手法で行われたことです。会議に要する時間は常に3~4時間は当たり前で、しかもより多くの委員から発言しやすい雰囲気を作るため、委員長等を除いて毎回、委員の席順はくじで決めるというユニークな計らいも委員の総意で決められました。

こうした進め方は、従来の本町の審議会等では前例がなかった訳ですが、事務局職員もしだいに溶け込み、「住民と行政との協働プロセス」を身近で実感するようになりました。そして先進自治体への視察、策定委員会と議会との意見交換、住民や職員への策定過程のPRなどを行いながら、いよいよ条例素案としてその形を現す段階となりました。

先の「課題整理表」に基づき条例案骨子として体系化した内容から導き出された条例の類型は、当時全国的には、やや守備範囲の狭い「住民参加条例」タイプの条例や単にまちづくりの理念を掲げた条例が主流であった中、策定委員会では自治基本条例タイプの総合的な条例が必要であると判断され、必然的に条例に規定する項目も条例案骨子の内容をそのまま条文に盛り込んでいくことで承認されました。

その後、数回にわたる策定委員会での議論を経て条文がまとまり、自治運営の基本理念、住民参加や情報共有の原則、住民の権利や議会・行政の責務、審議会等の会議の公開や委員の公募、パブリックコメント手続、町民公益活動の推進、住環境を良くするための地域のまちづくり推進に関する規定など、全34条から成る条例案ができ上がりました。

そして、策定委員会によるパブリックコメント手続を実施、寄せられた意見も一部条文に反映するなど、平成16年2月には策定委員会の条例最終案として山田町長に答申し、約2年にわたる条例案策定作業が完了しました。

条例案は同年3月議会に提案され、議員各位による慎重かつ活発な審議を経て原案のとおり可決成立し、同年9月1日から施行されたところです。

宮ヶ瀬ダム直下の県立あいかわ公園の写真
宮ヶ瀬ダム直下の県立あいかわ公園

監視機関の設置

この条例の特徴の1つに、『町民参加推進会議』という付属機関を設置したことが挙げられます。数年ごとに条例の見直し規定を設けている自治体も多くありますが、本町では特に見直し規定を置かない代わりにこうした機関を置き、この条例に基づいて住民参加による自治運営が適切に行われているか、制度が上手く機能しているかを把握し、検証するための、いわば監視機関としての役割を果たすものです。

自治基本条例に規定する事項や考え方が常に時代の変化に即した内容であり続けるために、町民参加推進会議の検証結果に基づいて制度や運用の見直しも検討し、必要な場合は町長にその旨を提言するとともに、検証結果は住民に公表します。また、同委員は10人で構成、任期は2年ですが、より多くの方々に担っていただくため、再任は1回に限定しました。

徹底した職員参加の推進と職員の意識改革

自治基本条例が制定・公布され、施行までの5か月間で最も力を入れたのが、条例を日々運用していく原動力となる職員への周知徹底と意識改革でした。

いくら立派な条例を作っても、運用を怠りますと「絵に描いた餅」になってしまいますし、条例は適正に運用されてこそ、各条文の持つ意味が最大限発揮されます。こうした認識から、住民参加や情報共有に関する具体的な施策を職員一人ひとりが十分に理解し、職員相互に共通認識をもって仕事を進めていくことの重要性を強調しました。

そこで、条例の逐条解説、運用基準などを掲載した「自治基本条例ハンドブック(153ページ)」や条例を分かりやすく図示したパンフレットを事務に携わる全職員に配布したほか、これらを用いて全職員を対象に実務研修を実施しました。この研修には町長はじめ特別職も例外なく参加してもらい、一般職員は職種に応じた研修コースを設定して実施しました。対象となる職員の参加率が100%だったことが印象に残っています。

その後も毎年継続した実務研修や運用の注意事項の周知などを行い、条例に基づく諸制度とその運用方策の共通ルール化という条例の制定目標を達成できるよう努めているところです。

今後の課題

自治基本条例の施行から2年以上が経過し、住民参加という土壌づくりがほぼ出来つつある段階を迎えましたが、住民への浸透度という点ではまだ十分とはいえない状況にあります。

そこで、住民参加と自治基本条例の仕組みが住民に一層定着し、より多くの住民が町政に気軽に参加でき、そして協働のまちづくりを推進させるための具体的方策を検討することが今後の課題といえます。これまで以上に多種多様な広報媒体を利用して、情報提供機能を量・質ともに拡充するとともに、情報共有を通じて住民への説明責任を果たすための取組みを一歩一歩着実に進めていくことを肝に銘じて職務に励んでいます。