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福島県矢祭町/合併しない宣言により矢祭町は腹を決めた

印刷用ページを表示する 掲載日:2006年10月16日
福島県矢祭町の写真

福島県矢祭町

2577号(2006年10月16日付号)
矢祭町長 根本良一


合併しない宣言を採択

司馬遼太郎さんは、いくら考えても我が国の官僚制度は近代国家を築いた明治維新の唯一の負の遺産だと断じて亡くなられた。彼の「この国のかたち」への遺言であろう。地方役場職員も、官僚の末席にあることはいうまでもない。そのことを糺し改めることは私たちの大きな役割です。

さて、平成13年10月31日矢祭町議会は議員提案され臨時会を開会し、町村合併しない宣言を全会一致で採択した。憲法第92条地方自治の尊厳を重んじての判断に外ならない。

以来、「それは珍しいことだ、覗いてやろう」と北は北海道、南は沖縄の離島の果てまで六百数十の団体・組織・六千数百人の指導者が来町され、大方は拍子抜け、失望して帰られた。そしてその中には、勿論生爪をはがされても石攻めにあっても、合併はしないんだという郷土愛に溢れた自治体も多数あったが、その後の特例法の期限内にあたふたと合併した自治体もあれば、未だ決めかねて「将来は合併も視野に入れた自立」という訳のわからない自治体が結構多いことに実は驚いている。

そして実に奇異に感ずることは、来町された殆どの自治体は、矢祭町より財政力指数も地域発展のために大事な大事な自然環境条件も総じて上位にありながら、郷土愛は意外と薄いように拝見され、逆に歯を喰いしばって独立を貫かんとする小規模自治体こそは郷土愛に溢れておるようです。実に行政そのものも到底本町は足下にも及ばない立派な自治体です。「家貧しゅうしてて孝子出ず」というべきでしょう。

唯一つ本町との違いがあるならば、「合併しない宣言」をしたことによって矢祭町は肚を決めた。ルビコン川を渡った。後退、迷いはない。「独立」この古くて悲壮感のある言葉を役場も議会も町民も高く掲げた。

総合5カ年計画と自治基本条例を制定

地方交付税制度が我が国の過不足ない発展に果たした役割、そして今後も重要欠くべからざることは今更述べることはしない。

しかしながら、日本の国が800兆円ともいわれる大借金を抱いて倒産しておる時に、地方が交付税はビタ一文たりとも負けられない、配分しろ、ということは如何なものか。ある意味では借金の800兆円は国土の均衡ある発展、とりわけ地方の隅々まで公共事業を投入し、日本中到る処人々が住み続けることが出来る世界一の国づくりに大きな役割を担ったことでもあろう。

親(中央政府)が子供達(地方)のためにガリガリ痩せ細るまで金をかけ、大借金をしておる時、子供達が未だ足りないということは、いささか気がひける。

可能な限りの自助努力をし、たとえ交付税・補助金が減っても悠然と運営できる自治体が増えていくことこそ日本の国の国力をあげる。午後三時半に傾いた国力は必ず中天に戻ることは疑いない。

国の財政状況に応じて行政の見直し、方策を立てることが肝要であり、合併する・しないに拘わらず、各々の立場で将来の自治体の運用の明確な設計・計画を樹立すべきではないでしょうか。国はそうした宿題を地方に課すべきではないでしょうか。

そして矢祭町は「自立宣言」を言い切ったからには、「将来こうなります」という図面を描きました。平成17年度策定し、18年度よりスタートした「総合5カ年計画」であり、それを貫くための町の憲法たる「自治基本条例」を制定しました。

桧山からみた町の風景
桧山から見た町の風景

総合計画の理念は「元気なこどもの声が聞こえる町づくり」であり、自治基本条例という、町の不磨の大典に基づいた町づくりが今、ダイナミックに進んでおります。

合併の最大の目的といわれる財政は、この4年余、みるみる豊かになり、財政調整基金は2億円くらいであったところが、今では13億、財政力指数も0.18であったものが18年度は0.4になることは確実。

また、正職員108名、嘱託職員34名、都合142名在籍して総人件費が約10億だったものが、現在は正職員75名、嘱託職員3名、合計78名、現在の人件費6億円で、約4億円の減額となりました。更には年間142名在籍時に約3,800万円だった年間超過勤務手当は、現在78名で約600万円に減りました。そして何よりも、その時実施しようとしてできなかった住民サービス・事業はあらゆるものが可能になってきました。

3人生んでも4人生んでも、あまり金が掛からないで立派に子供を育てていける町づくりでなければならない。そのため、人件費を1年に4億円も節約し、1円たりとも無駄遣いしないで13億円も財産ができた。

「子供は矢祭町の宝」子供のための施策中心でいこう、「善は急げ」というので、平成18年度より従来までも安かった保育料を更に半額にし、幼稚園の給食費、一食あたり244円を150円に減額。そして妊婦の健康検診料約13回40,000円の無料化も実施しました。

子育てのしやすい町をめざして

合併しないが故に事業・サービスが低下することはあってはならないことであり、むしろ当時の数倍楽々とこなしております。

役場は元々1人で出来ることを3人でやり、「ずるこいで」やらなかった。そしてこれからは住民は、そういうことは断じて許さない、勘弁しない事だと声を荒げて言う時代に入りました。

あゆのつり橋
あゆのつり橋

本町は保育所も幼稚園も朝7時30分より6時45分まで運営し、役場も勿論7時30分より6時45分まで行っています。元日も祝日・土・日曜日も1日たりとも休まず、年中無休で住民の利便を図っております。そして町民の方には色々のご要望がありましたら、どうぞ遠慮なくと申し出ております。

合併しないということは、本町に人が住み続けていく可能性を残すことであり、合併することによって周辺自治体は1秒間で人が住まなくなることは言うまでもないのですが、少しずつ人口が減っていくことは自立のための大きな懸案です。自然減が1年約100名自然増約40名、差引60名の人口減です。

矢祭町の出生率1.94、様々な施策を講ずることによって、どうしても2.5くらいまで高めたい。当面はプラス・マイナス0にすることが最大の課題と考えます。これらを実現し、増加に転ずることを目指すために、平成17年度には、3人目の赤ちゃん誕生祝金として100万円、更に本年1月1日より4人目150万円、5人目200万円を差し上げる条例を制定いたしました。

効果は徐々に現れ、今年は既に昨年を超えて20名近い3人目の出生が予定され、5月には初めて自然増が自然減を2名上回りました。

しかしながらこれは生みっぱなしの政策であるかも知れない、「お父さん今迄は隣の嫁は3人も生んで子作りだけは上手だね、など陰口を言われたが、今は町長さんが来られて100万円も下され、子供を抱いて誉められ、テレビや新聞も大勢来て放送されて私たちは町の英雄だわね」と喜んでいたところ、はたと気付けば「お父さんこれからこの3人の子供をどうやって育てていけるんでしょう。」こうなります。

子ども中心の祭り

自治体の名称に「祭」を冠した自治体は全国にありません。前九年の役で源頼義・義家親子が安部貞任・宗任兄弟を征討し、凱旋の帰路本町の名勝に立ち寄り、弓矢を奉納し、戦勝を報告し祭りをした、以来矢祭山と名付けられ今に至っています。

そして本町は今年より毎年春夏秋冬、町を挙げて子供中心の祭を計画します。さしあたり、1月14日には矢祭町凧あげ大会で旗揚げをいたします。

雑感

改革につぐ改革を断行した同志・田中康夫氏、去る8月6日長野県知事選にて敗れる。

思い起こせば、寛政の改革の名君・松平定信公も、改革を一気に進めようとして石を投げられ失脚した。しかし、二百六十余年に亘る徳川長期政権の礎になったことはあまりにも有名。そして田中康夫氏の改革の志は長野県ひいては日本の国の新しい時代の松明として大きく評価されることは疑いもない。

秋の久慈川
秋の久慈川

そしてまた、靖国は大きな論点としてそびえている。あるメディアの言葉を借りれば、一国の首相・総理大臣が、自国のある施設、領域に他国の圧力によって足を踏み入れることができないとある。日本民族の誇りと為替は同規格であってはならない。この時代日本人の魂こそ強く持ちたい。

靖国を松明にするか、心の問題に留めるか、日出ずる国の天子、日没する国の天子に書を致すべき秋

自治基本条例について

本町は本年1月11日町村合併50周年記念式典を挙行するにあたり、50年後100年後までも微動だにしない、自立を貫くための基本理念を矢祭町自治基本条例と銘打って制定しました。

教育長白石勝夫と、及ばずながら矢祭町長根本良一、そしてNHK報送記者畠山博幸氏のご指導を仰いで成文いたしました。

自主独立の歩みを続ける本町の条例は、全国一律であってはならず、矢祭町の将来を定める本町の憲法というべきもので、前文に「法令を以て命令されない限り、合併をせず自主独立の道を歩む」と改めて宣言し、これまでの改革を後戻りさせないためのものです。

基本条例の大事なところは、第2条、第3条に「現役世代には朝から晩まで真黒くなって働いて頂き、その人達のためには税金は使わない、そして現役の人達の子供達が安心して健やかに成長できる町づくり、お年寄りが皆から尊敬され長生きできる町づくり、我々働き盛りの成人の世代は働くだけで見返りは何も求めない」、第6条では「団塊の世代の定年退職にも不補充で臨み」と職員の採用をせず、人件費を節減し、あらゆる住民サービスのためにその分を充てる、要は「入るを図って出るを制す」を肝に銘じ、行財政改革の灯を消すことなく職員自らが立ち上がって一円たりとも無駄遣いしない、住民のためにはひたすら全力をあげる役場をつくることです。

矢祭町自治基本条例

矢祭町は、平成13年10月31日、平成の大合併の波が押し寄せる前夜、全国に先駆けて「市町村合併しない矢祭町宣言」を行った。
これは、矢祭町民の郷土を愛し守ろうとする強い意志の顕示である。
私達は、先人から受け継いだ郷土矢祭町を将来にわたって、子々孫々に引継ぎ、真に人間らしい生活を享受できる郷土を築くために、法令を以って命令されない限り合併をせず、自主独立の道を歩むものである。  
ここに、矢祭町の基本的自治権を遵守するとともに、これからの矢祭町を創造するための理念及び運営の基本を明らかにし、もって町民の福利の向上に寄与するためにこの条例を制定する。

第1章 目標

(適正規模の共同社会)
第1条 矢祭町は、我が国が歴史始まって以来の人口減少を迎える中でも、自立するためのあらゆる施策を講じ、人口減少に歯止めをかけ、適正規模の共同社会を目指す。

(郷土づくりの基本方向)
第2条 子どはも町の宝、国の宝。矢祭町は、恵まれた自然環境の中で、夢をもって子育て・子育ちができる、「元気な子供の声が聞こえる町づくり」に努める。

第3条 矢祭町の青年・壮年の世代は、子や孫達の健やかな成長を願うとともに、社会のために尽くしてきたお年寄りが、尊敬され、大事にされ、安心して生きていける町づくりに努める。

(総合計画等)
第4条 矢祭町は、郷土づくりの基本方向に沿って町の将来の姿を明らかにし、これを総合的かつ計画的に実現するため、議会の議決を経て総合計画を策定する。

第5条 矢祭町は、町基本条例に基づいて運営される町政の基幹的な制度と運営の原則を明らかにするために、行政、議会、町民の役割とその相互関係等を別に定める。

第2章 役割

(町執行部及び職員の責務)
第6条 町執行部及び職員は、町民の信託に応え、町民の奉仕者であることを肝に銘じ、来たるべき団塊の世代の定年退職にも不補充で臨み、事務事業の執行に努める。

(町議会議員の責務)
第7条 町議会議員は、町民の信託を受けた町民の代表である。議員は、町民の声を代表して、矢祭町の発展、町民の幸せのために議会活動に努める。

(町民のあり方)
第8条 すべての町民は、主権者として町政に参加する権利を有する。町民は、町政の主権者として、郷土愛を高め、自らの自治能力を向上させ、町づくりに参画する。

第3章 態勢

(町財政の健全化)
第9条 矢祭町は、健全財政を堅持する。人件費や経費の節減をし、以って町民サービスの向上に努め、独立独歩「自立する町づくり」を確立する。

(町民の参加)
第10条 矢祭町の希望ある将来は、すべての町民の連帯と創造的な諸活動によって確立されなければならない。矢祭町は、町民の不断の努力と連携することによって、魅力ある町づくりを推進する。