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岡山県吉備中央町/「感動を生む日本一のまちづくりを目指して」

印刷用ページを表示する 掲載日:2006年4月3日更新
百姓王国

岡山県吉備中央町

2556号(2006年4月3日号)
町長 重森計己


はじめまして

誰にも、宴席や雑談をしているときに、ふと、「こんなことをやってみたい」「こんな夢話が実現できたらいいのに・・・」と思ったことはないでしょうか。せっかくのユニーク案であっても、ただ言い流して終わってはいませんか。まちづくりは楽しくやるものであり、夢や希望が膨らむとすばらしい波及効果も様々な形で得られることになるのです。衆議一決論より一案(少数意見)の生かし方を論ずる方が意義深いのではないでしょうか。

2003年5月14日神戸市立雲雀丘中学校(1年生133名)総合学習「バラの芽カギ」作業
2003年5月14日神戸市立雲雀丘中学校(1年生133名)総合学習「バラの芽カギ」作業

一つの「夢」を実現するには、つぎのような手段も考えられます。・一人でできなければ、複数で取り組む。・今日出来なければ、明日努力する。・今までとやり方を変えてみる。但し、こうした力を取り込むには、平素から人に尽くすなど信頼を得ておくことが条件となりうるかもしれませんが・・。これから紹介する事業は、そんな発想から生まれた夢のあるユニークな事例としてご紹介しましょう。

町・地区の概要

吉備中央町は、岡山県の中心に位置し、吉備高原の一角を占めており、平成16年10月に加茂川町と賀陽町が合併した町です。新たなまちづくりは、自然環境や文化遺産、地域資源など先人から受け継いだものを最大限に活用し、快適で安全な住みやすさを醸成するために、町民がひとつになって、ともに挑戦、ともに感動、ともに笑顔に努めながら「22世紀の理想郷」づくりに挑戦しています。

2002年5月22日~23日岐阜県上之郷中学校就学旅行団生活体験受け入れ式の様子
2002年5月22日~23日岐阜県上之郷中学校就学旅行団生活体験受け入れ式の様子

さて、上田西地区(百姓王国)は円城台地に属する純農村地域で、典型的な吉備高原台地の地形をもつ畑作地帯です。高原特有の冷涼で昼夜の温度差のある気候と土質が相まって、昔からその味には定評のある農産物の生産地域であり、専業農家や農業後継者も比較的多い地区です。王国の会員数259名、世帯数74戸で構成。標高は200m~400m、町の総面積268.73平方キロメートルで、山林がおよそ7割を占めています。このうち、上田西地区は0.74平方キロメートルの地区です。

建国の背景

平成2年、当時の加茂川町は建設省国土地理院へ検出依頼をし、岡山県のちょうど真ん中に位置することの確信を得ました。しかし、単に中心というだけでは意味がないため、「いい人・いい夢・いい心」が集まり、岡山県の中心でキラリと輝く、日本一の格調高い田舎の町づくりを目指し、「ハートオブおかやま(岡山県の心)」をキャッチフレーズにまちづくりに取り組んできました。

飛躍の郷ひだまり

まちづくりの基本は、住民と行政が心を一つにすることから始まります。これは、まちづくりに取り組む基本姿勢です。そこで、住民の生の声を行政に取り入れるべく、平成3年から町長と担当職員が地元へ出かけ、「談義」と称する会合を各地で開きました。

初年度は若者を中心に、町長と町政を語る「スルメ談義」を開催。これはその名のとおり、スルメをかじりながら町政に前向きな意見や提言を行うというもので、スルメはかめばかむほど味が出るが、話もすればするほど中身の濃いものになるというのが語源です。お酒の力で普段意見を口にしない住民の声を聞き出そうというもので、38会場、延べ500人を超える青年たちの意見を聞くことができ、その多くを早期に実現させました。さらに、全ての意見を冊子にして、町内へ配布しました。

この談義は、その後女性の意見を聞く「(町長と町政を語る)花談義」、自主的な村づくり活動団体を対象とした「(同)村づくり談義」、お年寄りとは「(同)茶のみ談義」へと発展し、平成6年度からは農業の未来を語る「(同)百姓談義」も開催しました。この百姓談義において、上田西地区で営農集団組合員から次のような意見が出されました。

「町が全町公園化を目指すように、上田西地区では伝統ある多様な作目とその高度な生産技術、また美しい生産環境と地域の連帯意識を結集すれば、何ら手を加えなくても自然のままの一大農業公園ができるのではないだろうか。」と提案されたのが、「百姓王国」の建国です。

王国の活動状況

この「百姓王国」は建国と同時に、各作目の中心的生産者13名を、それぞれ基幹作目をとって「白菜大臣」「米大臣」「マスカット大臣」などに任命。平成8~9年度国・県補助事業により、進入道へのゲート門、各大臣の似顔絵付きの看板を地区内に立て、町内外へアピールするとともに、百姓王国マップを作成しました。地図と看板を頼りに訪ねていけば、農業生産の話や庭先販売・収穫体験などができる仕組みになっています。

更に、平成11~13年度に国庫補助事業により木工体験施設・ふるさと農道・収穫体験型いちごハウス・交流体験型宿泊研修施設なども整備しました。

2002年10月26日ふるさと再発見バスツアーで訪れた京阪神の親子ツアー客たち
2002年10月26日ふるさと再発見バスツアーで訪れた京阪神の親子ツアー客たち  

当初は、地域の産物をPRする目的から農業体験学習の場として機能し始め、随時の各種団体の体験受け入れはもちろん、県内外学校単位とした総合的な学習の時間の受け入れや千葉県・岐阜県からの中・高校生による修学旅行(提案型農業体験コース)のニーズも受け入れるなど、全国各地の生徒たちが百姓王国へ足を運び、異世代間のふれあいと交流の場にもなっています。

百姓王国大臣とゆかいな仲間たち
百姓王国大臣とゆかいな仲間たち

また、岡山県に研修や友好交流を目的に来日した様々な外国青年や国賓に相当する要人なども含め、体験交流を図ることで、地域をこえた心の農業交流が、手紙や写真の交換などから成果として伺われます。

「百姓王国」建国から10年という、比較的歴史は浅いが、地区内の連携と助け合いの心、広い視野(国際感覚)で、誰でも柔軟に受け入れようとする取り組みが県内外に評価され着目されています。現在では、都市と農村、産地と消費者の交流促進を積極的に進めること(グリーツーリズム)、そして、生産から消費まで責任と自信をもった、いわゆる農業の第6次産業化(第1次産業×第2次産業×第3次産業)の実現、「地産地消」による地域づくりに向けて一歩づつ前進しています。

王国の成果と課題

町内加茂川エリアでは、主要作目のほとんどが、この百姓王国で生産されており、「道の駅」「ふるさと交流プラザ(岡山市内に常設)」にある販売品目の70%に値するに至っています。王国内の生産者が自らの産物に付加価値を添えて評価?PRしたいとの思いが一つになり、上田西地区全体を「農業公園」にしたいという夢をみごと実現したのです。

もも大臣から桃の摘果作業を学ぶ中学生たち
もも大臣から桃の摘果作業を学ぶ中学生たち

そして、町内外の子どもたちにも学習の場や都市民との交流の場として提供できる機能を充実させようと「交流体験型宿泊施設(飛躍の郷ひだまり)」を整備したことで、これまで単に生産農家であった大臣が「自らの畑」という教室」の教壇に立ち、今では「桃の先生「マスカットの先生」などと呼ばれながら、全国の子どもたちに親しまれ、テレビ番組の全国放送などがあれば、放映後電話や手紙などが寄せられるほどです。

最近では、心のUD(ユニバーサルデザイン)運動と題して、「笑顔でひと声運動」を展開しており、人と出会っても、何もしゃべらないのは出会わないのと同じこと。そのひと声が誰にも響く温かいことばなら、きっと幸せな気分にしてくれます。「ひとを思いやる心がけ」へと波及効果が生まれています。

今後の課題としては、都市と農村、生産者と消費者の交流促進をより積極的に進めること、そして、生産から消費まで責任と自信をもった農業の第6次産業化の早期実現であり、そのためのソフト・ハード両面にわたる官民一層の「協働」体制の確立なのです。