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沖縄県東村/交流型農村を目指して ~エコ&グリーンツーリズムで村の活性化~

印刷用ページを表示する 掲載日:2005年4月11日
修学旅行農業体験の写真

修学旅行農業体験


沖縄県東村

2516号(2005年4月11日)  企画観光課長 山城定雄


村の概要

東村は、「山原(やんばる)」と呼ばれる沖縄本島北部の東海岸に位置する、人口2千人足らずの小さな村である。

村には九州随一の規模を誇るつつじ園、県民の生命の水を貯える福地ダム、そして県内の30%を生産するパインアップル、いわゆる「花と水とパインの村として知られている。

村の総面積は81.79平方キロメートルで沖縄本島では三番目に広い面積を有している。しかし42%が米軍の演習場となっている。地形は国頭山地が縦断する形で連なり、亜熱帯林で覆われた樹林には国の特別天然記念物であるノグチゲラや天然記念物のヤンバルクイナ、ヤンバルテナガコガネなど多くの貴重な野生生物が生息し、世界に誇れる多様で豊かな自然環境を有している。脊梁山地を源に大小14の河川が太平洋に注ぎ、県下一の福地ダム等が築かれるなど沖縄本島における重要な水源地域となっている。

また、海水と淡水が混ざり合う河口近くに生育するマングローブ林(ヒルギ林)が発達し国の天然記念物に指定されている。近年、このマングローブ林を生かした自然体験ツアーやカヌー体験ツアーが人気を博し、県内外の修学旅行生やエコツアーで賑わっている。

さらに、デビュー1年目にして年間5勝を挙げ、日本女子プロゴルフツアーで十代初の1億円プレーヤーに輝き、2月に南アフリカで開催されたW杯女子ゴルフでは世界チャンピオンという金字塔を打ち立てた、宮里藍さんをはじめとする宮里三兄妹の出身の村としても知られている。村では、3月1日から6月末まで期間限定で「宮里藍写真付き切手」を全国発売し、収益の一部を次代を担う村の人材育成に充てることにしている。

マングローブカヌー体験の写真

マングローブカヌー体験

「農業の再生」の取り組み

村の基幹産業はパインアップルを中心とする農業で、中でも品質の高い生食用のパインアップルは県内外から高い評価を受けているが、輸入自由化やバブル崩壊後の農産物の価格低迷等農業を取り巻く環境は厳しい状況におかれており、農業の再生を図ることが緊急の課題となっていた。

このため、地域の宝(資源)を見い出し、付加価値を高める手段としてエコツーリズムやグリーンツーリズムと農業の両立によって持続可能な交流型農村を目指した取り組みが行われている。

村民総参加による「村民の森つつじ園」の整備

奄美大島から沖縄本島にかけて自生するケラマツツジは、本村が適地であることから、昔から村内いたるところに自生し、各家庭においても庭木として村民に親しまれ、昭和38年には「村花」として選定された。ところがその後、植木ブーム等による盗伐があいつぎ、ほとんどの山から消えてしまった。

「村民の森つつじ園」は、このような状況の下で、次の目的をもって計画された。①村花である「つつじ」を名実ともに東村のシンボルとする。②次代を担う青少年のふるさとを大事にする心を養う③村民の連帯と協調意識の高揚を図る④村民のレクリエーション広場づくりの一環とする。⑤観光開発の拠点づくりの一環とする。

この公園整備の特徴は、造成や機械を必要とする部分は役場が担当し、ツツジの植付けは小学校4年生以上の児童生徒からお年寄りまで村民総参加による手作り公園として、昭和58年から6年余の歳月をかけて、4.5ヘクタールの面積におよそ5万本のツツジが植えられた。

これらの村民総参加の取り組みは、住民の公園への愛着を一層深めており、造成から27年が経過した現在でも年1回のボランテイア作業は続いている。

この公園を舞台に昭和58年から「つつじ祭り」がスタートし、これまで観光客の訪れることのなかった村に「ツツジ」に魅せられ3週間で6万から8万人余の観光客が訪れ、2千人足らずの小さな村は休日には万余の人で賑わうようになり、イベントの経済効果もおよそ1億円と言われ、村の活性化や知名度アップにも大きく寄与しています。この祭りも今年で23回目を数え、本村のみならず沖縄の春を彩る一大イベントとして定着している。

セカンドスクール漁業体験の写真

セカンドスクール漁業体験

「自然との共生」「都市との交流」をキーワードにした村づくり

1990年代初頭の村の状況は、基幹作物であるパインアップルの輸入自由化(平成2年)に加え、大型リゾート計画に村の未来を託した夢もバブル崩壊により頓挫し、農業・農村のあり方が問われている中で、身の丈にあった地域づくりを模索した。

このため、平成8年3月に策定した「第三次東村総合計画基本構想」において、従来の農業一辺倒の村づくりを見直し、「交流」をキーワードにした村の21世紀ビジョンを策定した。しかし、交流事業やエコツーリズムなどの推進を掲げた計画に、住民からは「農業を捨てた村づくりを目指すのか?」とか、「都市との交流」とは何ぞや?という意見もありましたが、都市との交流は時代のニーズであり、交流の根っこの部分で農業の振興と深く結びついており、「農業を捨てた村の未来はありえない」と説明し、理解していただいた。  

21世紀ビジョンの施策の体系では、「自然との共生」を基本理念に自然体験型観光ルートの設定やダム湖や河川を利用した観光施設の整備等の施策を展開するとともに、豊かな自然資源の付加価値を高めるエコツーリズムやグリーンツーリズムの推進による持続可能な交流型農村を目指すものである。

このため、主要プロジエクトとして既設の「村民の森つつじ園」に本格的なオートキャンプ場などを備えた家族で楽しめる自然体験滞在型公園としてリニューアルする「村民の森施設整備事業」(平成9~13年度)や「東村ふれあいヒルギ公園整備事業(山村振興等農林漁業特別対策事業)」(平成9~11年度)などの交流拠点施設の整備をすすめてきた。

一方、21世紀ビジョンの策定を契機に、地域活性化を足元から考える活性化委員会が、村内全ての集落において立ち上げられ、それぞれの地区の資源の掘り起こしを行った。

なかでも、慶佐次地区においてはヒルギ林の利活用をテーマに、地域の資源を生かした観光の方策などについて検討が行われ、地域が主体的になってエコツーリズムに対する取り組みが展開された。

体験農園の写真

体験農園

修学旅行の受け入れ230校余へ、9割は県外からの学校

村においては、主要プロジエクトとして「東村ふれあいヒルギ公園」の整備などのハード事業、マングローブを紹介した冊子の発行やインタープリターガイド)の養成などの人材育成事業、さらに受け皿となるエコツーリズム協会、ブルーツーリズム協会、グリーン・ツーリズム研究会の設立など、ハード・ソフト両面の事業を官民協働で取り組んだことにより、エコツーリズムやグリーン・ツーリズムに対する気運が一挙に加速された。併せて、修学旅行のグループ化や平和学習から体験学習への転換という要因が追い風となって、平成10年度にわずか1校でスタートした修学旅行の受け入れも、平成15年度には230校余と飛躍的な伸びとなった。これにはエコツーリズム協会や民間の「やんばる自然塾」などの力に負うところが大きい。

また、ふれあいヒルギ公園の向かい側にある地域の共同売店においては、地元で採れた新鮮な農作物が直売されていて地域の活性化に一役買っているばかりでなく、お年寄りの生きがいにもつながっている。

こうした取り組みは、住民に地域資源の再認識や農産物の販売を通じ地域経済への効果を高めたばかりでなく、村の知名度アップにもつながっている。

村民の森つつじエコパークの整備

本村には、これまで宿泊施設がなかったため素通り観光であったが、平成14年4月には、自然体験活動の拠点施設となる「村民の森つつじエコパーク」がオープンし、2年半余でおよそ4万4千人余が宿泊で訪れるようになり、来村者と村民の交流や都市住民の癒しの場として確かな手応えを感じている。運営を担っている第三セクターの東村ふるさと振興㈱には常勤の職員が7名、臨時が7名、パートの職員もこの1年間で延べ3千8百名余を雇用しており、拠点施設が村民の雇用の場の創出や地域経済への貢献につながっている。

これからの村づくり

本村におけるエコツーリズムやグリーン・ツーリズムの取り組みは緒についたばかりであり、基本構想に掲げる村の将来像を実現するため、豊かな自然資源の付加価値を高め地域の活性化に生かし、持続可能な村づくりを推進いかなければならないと考えている。

エコツーリズムやグリーン・ツーリズムを導入することで、東村の認知度が高まると同時に、村民の環境保全意識も向上した。さらに村を訪れる観光客も確実に増えており、地域の活性化の有効な手段として認知されはじめてきている。

一方で、豊かな自然環境を維持していくためのガイドラインづくり、行楽客が捨てるゴミの問題をはじめ、インタープリター(ガイド)の養成も継続的に行っていく必要がある。

従来型の観光においては、本村のような観光資源をもたない田舎の村は後れをとってきたが、豊かな自然資源に付加価値を高めたエコツーリズムなどの体験滞在型観光においてはトップランナーになることも夢ではないと考えている。

さらに、平成15年度からは本村がこれまで取り組んできたエコツーリズムやグリーン・ツーリズムなどのノウハウを生かして、都市部の子供たちを自然豊かな農村で宿泊し、自然体験、農業体験・漁業体験を通じ「生きる力」を養う、セカンドスクールがスタート(2校、240名)し、16年度は8校、1千名を受け入れ、17年度は11校、1千3百名余を予定しており、農村の資源を生かした先駆的取り組みとして大きな期待が寄せられている。

また、県下一のダムの湖面利用の一環として自然観察船を運行し、ダムのメリットを生かした取り組みもスタートし、体験滞在型観光の新たなフイールドとして期待されている。

本村では、これからも足元の資源に付加価値を高めた持続可能な地域づくりに取り組み、自然保護と地域振興が両立する持続可能なエコツーリズム、グリーン・ツーリズムを推進し「身の丈にあった地域づくり」「小さくても輝く自治体」を目指して官民協働で取り組んでいきたいと考えている。