水田にその姿を映しそびえる岩木山
青森県相馬村
2480号(2004年5月17日) 相馬村経済課長 成田 満
相馬村は青森県津軽平野の西南部に位置し、東は教育、文化や経済などで深い関わりをもつ津軽広域圏の拠点都市・弘前市、北は津軽富士と言われる岩木山、西と南は世界遺産・白神山地を望む人口4,000人弱の農村地域です。面積は103.54平方kmですが、うち81.5%が秋田県に接する国有林などで占められ、少ない平地の河川流域に水田、その背後に広がる丘陵地はりんご園として利用されています。
袋小路の村で通過交通が無いことや、特徴的な伝統や文化遺産がないことなどもあって周辺の住民にも極めて知名度が低く、また村民には統合のシンボルや誇りを持てるものが少ないという意識がありました。このため、「共同の力」による(1)米とりんごによる農業振興、(2)地域のイメージづくりと交流施設の整備、(3)地域づくりへの住民参加(4)生活基盤の整備を重点目標に掲げて進めてきました。
今回は、これらの取り組みの中から米とりんごによる農業振興、特に共同化による米づくりの施策を紹介したいと思います。
昭和43年から県営の区画整理事業が行われ、村内ほぼ全域にわたる約300ヘクタールの水田が30アール区画に整備されるとともに、大型機械の導入が進められました。
このほ場整備と機械化に対応し、各集落あるいは集落の連合体による稲作生産組織が設立され、さらに単位の生産組織を束ねる形で昭和48年に、相馬村高度集団栽培組合連絡協議会が組織されました。
その成果は、水稲栽培の機械化一貫作業体系が村全体に普及したこと、栽培技術の向上と品種の統一による良食味、高品質が維持され、一等米比率100%が平成5年の大冷害年を除いて現在まで続いていることなどに表れています。
しかし、結成当時に比べて単位集団の加入農家が減り、また転作の拡大により受益面積が3分の1まで減少したことにより維持運営費、特に機械更新時の農家負担の増やオペレーター不足などで運営が困難になってきました。さらには、農業従事者の高齢化に伴い、村外の精米業者などに田んぼを貸す農家も出始め、農作業や栽培方法の統一性が損なわれる状況になってきました。
これらの課題に対応するため、平成8年4月に生産組織代表者、県、農協及び役場担当者による「相馬村農業構造政策推進委員会」(23人)を立ち上げ、活動費は全額村の助成で先進地視察や現状分析を行い、翌9年4月には「再編プロジェクトチーム」を編成して、既存の11集団を統合し、1組織3班体制とする。育苗施設を整備し、加入者に安定供給する。既存集団の機械は買上する。行政が全面バックアップする。などの再編案の骨子を定め、再編の具体化に向けて取り組み、平成10年には設立準備委員会を発足させ、作業時の人員配置、作業方法、作業料金の設定及び徴収方法、規約など具体的な内容を検討し、調整しました。
これと併行して村では、水稲育苗(稚苗)施設建設(事業主体:農協)への助成、農作業準備休憩施設(事業主体:県 育苗機器、会議室など約600平方m)を整備し、平成11年3月に行政区域を全てカバーする「相馬村稲作生産組合」(通称:ライスロマンクラブ)が誕生したのです。
ライスロマンクラブ役員会議
相馬村稲作生産組合「ライスロマンクラブ」は、相馬村水田農業の振興と生産性向上を目指し、組合員の利益増進を図ることとしています。
組合員としての資格は、相馬村内の水田に所有権又は使用収益権を有する者で、平成15年度の組合員数は231名、加入面積は93.8ヘクタールです。
村内1組織3班体制とし、施設、機械の共同利用、共同作業を推進することとし、各班にはそれぞれトラクター部長、田植機部長、コンバイン部長を配置、各部長は担当部門の作業調整と機械の保守管理業務の責任者となっています。
耕起、代かき、田植え、刈り取り(運搬まで)の基本作業
基本作業料、苗代金、運営賦課金を含めて10アール当たり48,000円で、賦課金には機械の減価償却費も含めており、機械購入時に組合員からの臨時徴収は行わないことにしています。
JA相馬村
若者のオペレータによる田植え
ライスロマンクラブの組織率は戸数比率92%で、村内を1農場と捉え、地域別に3班に分割した作業班の編成により、機械移動のタイムロスが少なく、計画的・効率的な作業となりました。さらに応援体制も確立したことで作業日数が大幅に短縮されたほか、作業ごとの経費分析と他班との比較で問題点を洗い出し、改善を行うことでコスト削減が図られています。
再編時に既存集団の機械を買上げ整理し、計画的な買い替えにより過剰投資を防いでいます。オペレーターについては、賃金を高く、即日現金払いとしたことや、高性能機械の導入など作業環境の改善により、若者の従事が多くなり、後継者の育成確保にもつながっています。
施肥設計や育苗、防除体系などの栽培方法を統一し、品質と食味の高位平準化を目指した栽培を行っています。有機質投入として、全生産者が稲わらの全量すき込みを行い、苗は育苗センターで労力と経費を節約した稚苗を育成、安定供給し、春先の辛い育苗作業から解放されることとなりました。生産指導は、JA相馬村と弘前地域農業改良普及センターが一体となって行っており、作付け品種は、良食味品種の青森県の銘柄米「つがるロマン」で統一し、一等米生産比率は再編前の平成6年から(平成5年の大冷害時を除く。)現在まで100%を続けており、反収も540kgを目標にした安定生産となっています。
生産された米は、全量、農協・全農を通しておりますが、そのうちの約20%は、農村下水道が整備され生活汚水が水田に流れ込まない、安全性を重視したこだわり米として、「コープ十勝」(北海道帯広市)に販売しています。つけたネーミングは、生協組合員から募集した「相馬つぶより」で、生産者と消費者との交流をしながら、安全で安心な顔の見える米との評価を得、このことはりんごの販売促進にもつながっています。
稲作生産組織の統合再編によって、共同作業、共同利用、使用薬剤の低減など水田作業効率が向上、コストも削減し、余剰労働力をりんご栽培作業に向けることができるようになりました。転作は農家ごとに100%対応しており、主にりんごのわい化改植への転作で、経営規模が拡大されりんごと米の複合による経営の安定化、農家所得の向上など地域農業の活性化が図られています。
育苗ハウスの苗
ライスロマンクラブのみでは解決できる課題ではありませんが、これまで農家個々が転作に対応してきたことにより水田と転作地が混在し、お互いに作業効率が悪い状況にあります。永年転作地はほとんどりんご園となっていることから簡単に農地の集約化は困難ですが、重点課題として農家ともども検討していく必要があります。また、育苗作業と苗の供給が終わった後の硬化ハウス(24棟、6,747平方m)の多目的利用も考えなければなりません。
組合としては、組織率を100%にすることと、今後ますます高齢化が進行する中で、現在は基幹作業である耕起、代かき、田植え、刈り取りを実施していますが、法人化を見据えて完全受委託を目標に地域の農業を守るため、今以上に組織の活性化を図っていく必要があります。
相馬村の産業構造は、農業、特にりんごと米に特化しております。りんごと米の比率は、経営面積、生産農業所得ともおよそ、りんご9:米1の割合でさらにりんごに特化していると言えます。
その中で水田の基盤整備とともに稲作作業の共同化を果たし、そこで生じた労働力をりんご栽培に投下して、品質の良いりんごを生産、農協への出荷率が90%を超え「飛馬(ひゅうま)りんご」のブランド名で販売してきました。平成12年の農業センサスによる農家1戸当たりの生産農業所得は、2,844千円、10アール当たりは137千円(全国72千円)と、りんごと米の複合経営では県下第1位で、同じような産業構造の周辺地域と比べても相当高い水準となっております。
相馬村に限らず農業は今、家意識の変化とともに兼業化、高齢化、後継者難など多くの課題を抱えています。今後とも相馬村の農業を持続していくために、りんごについても共同化をさらに推進して、農業経営面での持続、地域農業としての持続、自然と調和した農業の持続という、ちょっと欲張った目標を掲げて地域の活性化を図っていこうとしています。