熊本県大津町
2448号(2003年7月28日) 大津町企画財政課 田中 令児
大津町は、熊本市の東方約19㎞、阿蘇山との中間に位置しており、別府・阿蘇・雲仙を結ぶ国際観光ルート上にあります。阿蘇外輪山西部に連なる広大な森林や原野地帯とそれよりゆるやかな傾斜をなして広がる北部畑作地帯。阿蘇山を源として町を東西に貫流する白川の豊かな流れによって、南部平野は肥沃な水田地帯を形成しています。
江戸時代から豊後街道の宿場町として栄え、現在は、2つの国道が縦・横断し、熊本空港や九州縦貫自動車道熊本ICを近くに擁する交通条件に恵まれた田園産業都市です。また、熊本テクノポリス圏域に属し、自動車・IC関連産業を中心に企業立地が進み、県内有数の工業地帯を形成しています。
人口は、昭和50年代から増加を続け、現在28,500人あまり、世帯数は9,800世帯となっています。
第4次振興総合計画策定(平成4年)のため町民意識調査(対象2,000人)を実施した結果、町内に20年以上在住の人は55%、20年未満の人は45%と、確実に新住民が増えていることがわかりました。農村地帯から都市化が進む町へと変貌しつつあり、新たな町づくりが課題となりました。地域の連帯感の再構築や地域における自主活動の支援などを検討する中で「まちづくりは人づくりから」という原点に立ち戻り、地域のリーダーや活動グループの育成を目的として「人づくりまちづくり協議会」を設立。地域おこし講演会や異業種間交流、アンケート調査を実施しました。参加者から「もっと自分たちの手でいろいろなまちづくりを研究したい」との意見が寄せられ、平成5年度に町花の「つつじ」と特産品「からいも(甘藷)」を名前に冠した「つつじの里からいも大学」を開校しました。
当時の機関紙には、「この『つつじの里からいも大学』は、子ども達が、10年後20年後に、大津町に生まれてよかった、そう思えるような町にするために、今私たちは何をしなければならないのかを、町民の皆さんと行政が手をとりあって、いろいろと考えたり行動したりする大学です」と掲載されています。
自由な発想で行政に対して積極的な提言をしてもらうため、大学の「研究テーマ」は住民から募集し、テーマごとに学部生(受講生)を募集。自主学習の形で月に2、3回“授業”を開くという方式をとりました。テーマに関係のある部署の職員が事務局として、事務的な部分を担当。1年間かけて研究や活動を行い、成果を卒業論文(提言書)として発表してもらいました。これを受けて町は内容を検討し、できるものから政策に取り入れていくという仕組みをとりました。
過去、軟硬さまざまなテーマが研究されてきました。やさしいまちづくり、国際交流、みどり空間創造、未来にはばたく元気のでる農業、ホームページを作ろう……このうち、平成5、6年に開設された「国際交流学部」では、海外からの企業研修生などともちつき大会や民族料理大会などの交流事業を展開。2年目には、学部生が中心となって町国際交流協会を設立しました。「みどり空間創造学部」は、初年度から3年連続の設置。広葉樹の森づくりや森林公園の整備など実務的な内容の提言とともに林業オリンピックの開催など実践活動を行いました。広葉樹の森づくりは、町の事業として取り組み7年の歳月をかけて約100haに広葉樹40万本の植林を行い、平成12年「広葉樹2000年の森」として完成しました。「一人が声を上げても行政はなかなか動いてくれない。みんなで積み上げた意見だからこそ行政を動かす力になった」とある学部生は話していました。
しかし、年を経るにつれてテーマ設定の課題や参加者が途中で減るなどの問題も浮上してきました。「JR豊肥線の高架化」「市街地の電線地中化構想」など町だけでは即応しきれないケースや「町道の整備、物産館などの複合施設の建設」といった今までの要望にとどまるケースも少なくない状況になってきました。そこで意見の言い放しではなく、提言した事業への参加やまちづくり活動を実感できる実践活動を行う大学として平成12年度に「からいも大学」と名称を変更し、新たに出発しました。地域の資源や特徴を生かす内容などをテーマとする、地域づくりまちづくり活動を実践するグループを募集し、その活動を応援する仕組みに変えました。応募があったグループの活動計画や事業内容を「人づくりまちづくり事業推進本部」で審議し、1年間の活動を支援するため年間30万円を限度に助成を行っています。また、事務局は関係課が担当し、活動の成果発表は年度末に行っています。学部に対しては、卒業後も実践活動を継続して行うようお願いをしています。
からいも大学・よかとこひきだそかい学部「ほりだし劇団」による劇
平成12、13年度は、男女共同参画社会を目指した「よかとこひきだそかい学部」(“よかとこ”というのは、良いところの意味)を開設。同学部は、劇を通して地域の人と一緒に慣習などを見直していこうと「ほりだし劇団」(名称は、掘り起こしの意味とからいも掘りから由来)を結成し、町内外で公演活動を行っています。そもそもの始まりは、地域婦人会の有志の皆さん。会の活動の中で男女共同参画について講師を招いての勉強会や町や県の研修会にも積極的に参加していました。「講演を聞きっぱなしではなく、自分たちも行動しよう」という声が大きくなり、学部が発足しました。学部の開講中は毎週1回、子どもの迎えなどを終えた後の午後8時頃から公民館に集まり、劇の台本づくりや練習を行いました。学部長は「地域に貢献したいのはもちろんですが、まず、楽しいからやっているんです。この活動のおかげで、自分たちの視点が変わり、生活が変わりました」と話しています。公演を見た人は「とてもわかりやすく、コミカルに演じられ大爆笑でした。しかし、おかしいばかりではなく、見た人に何か感じさせるところがあります。」と感想を述べています。
「ほりだし劇団」は、「今のままじゃ止められない、もっともっとテーマを掘り下げよう」と大学終了後も活動を続けています。
「ほっとな公園を考える学部」は、平成11年から3年間かけて住民参加の公園づくりを提案。「自分たちで育てられる公園をつくりたい」と地元の自然を生かした公園の青写真を作成しました。
平成14年度に矢護川公園としてオープン。二人の子どもを連れた母親は「水に入ったことがなかったので子どもが喜んで。ここなら近いしまた来ます」と感想を述べています。自然に溶け込み、訪れた人に大好評の公園。同学部は、地元のボランティアと一緒に公園の管理を自ら行うなど自分たちで育てる新しいタイプの公園づくりを展開しています。
平成14年度は、ホームページを窓口として子育て情報を発信し、子育てを応援しようと「エンジョイ子育てオーエンズ学部」が実践活動を行いました。子ども連れで楽しめる遊び場や買い物情報、町内の育児サークルや保育園の紹介など子育て情報満載のホームページができあがりました。今後もホームページの更新や新たな情報を掲載していこうと張り切っています。
完成した「矢護川公園」
開校して11年目を迎えた「からいも大学」。開校以来、延べ37学部、約350人が参加しています。当初の意見提案だけで終わりという段階から実践活動へと形を変えてきました。広報紙の音声訳や絵本の読み聞かせグループなど、この大学の学部を経て、活躍している卒業生やグループも少なくありません。学部での活動過程で「町職員を含め、人と人とのネットワークが広がった」「大学の中で新たな出会いや交流が芽生えた」などの意見もあり、人材発掘の面やまちづくりグループの育成からみると一定の成果は、上がってきています。
しかし、こうした人材の活用や卒業後の実践グループとの連携や活動の支援方策そして実践活動の中からでてくる提案などをいかに政策に生かしていくかなど課題も残されています。また、実践活動の困難さからか応募件数も減少してきています。
今後は、地域の主体的な活動支援や地域コミュニティを再構築するための取組みの支援なども視野に入れ、住民参加型のまちづくり、住民との協働によるまちづくりの応援団「からいも大学」として新たな事業の展開を考えています。