古い商家が軒を連ねる諏訪町本通り
富山県八尾町
2437号(2003年4月28日) 八尾町役場総務課 企画情報係 窪野 達章
八尾町は、富山県の中央南部に位置し、豊富な水と広大な緑に囲まれた自然豊かな町で、総面積は236.86平方km、人口は昭和25年の28,419人をピークに減少を続け、昭和50年以降は、横ばいの状況にあって平成12年の国勢調査では22,322人、世帯数は6,457世帯である。昭和28年、32年の2度にわたって1町8村が合併し、北東は、大沢野町、南東は細入村、南は岐阜県、南西は利賀村、北西は山田村、北は婦中町に接している。岐阜県境には、金剛堂山(1,638m)を主峰に、白木峰、小白木峰、西新山が連なり、町域の8割は山地で冬季間は積雪が1メートルを超える豪雪地帯である。この山々に源を発する室牧、野積、別荘、久婦須川は北流して流域に段丘平野を形成し、町中央部で合流、井田川となって北流し、北東部一帯に沖積層を形成して、富山平野の一部となっている。
八尾町は、江戸時代初期の1636年に加賀藩から町建の許可を得てから門前町として発展し、富山藩唯一の生糸公益市場として藩の財政を支え、養蚕業、特に蚕種を生産販売することで発展し、それが戦前に至るまで町の基幹産業として隆盛し、かつては「蚕都」と呼ばれて栄えた長い歴史をもち、古い街並みが今も残る町である。越中と飛騨との交易や蚕種産業からもたらされた多くの利潤から様々な町民文化が育まれた。毎年5月3日には越中の美術工芸の粋を集めた絢爛豪華な二層屋台の6本の曳山が曳き廻され、毎年9月1日から3日間開催される「おわら風の盆」は、叙情豊かで、哀調の中に優雅さをたたえた唄と踊りは、日本の代表的な民族芸能との評価を受けて、近年では近県の宿泊施設の収容人数を超える観光客が訪れて加賀から飛騨にいたるまで賑わいをもたらす一大郷土芸能イベントの町となっている。
しかしながら、ご他聞にもれず「おわら風の盆」の舞台となる中心市街地は衰退し、振興山村地域に指定される中山間地域と同様に過疎化、少子高齢化が急速に進展し深刻な状況にある。
「地域づくり総務大臣表彰」の住民参加のまちづくり部門は住民の積極的な参加を得ながら地域の特性を活かしたまちづくりに先進的な取り組みを行っている市区町村が受賞できる栄誉ある表彰である。このたび八尾町がこの表彰を受賞することができた背景には住民が主役のまちづくりを総合計画の柱として進めてきたとは言え、これまでの行政施策からしてみても想像以上、期待以上の取り組みを展開し、先進的な文化美術イベントとの評価を受けつつある「坂のまちアート in やつお」を住民が自主的に実施主体となって開催していることにおいて他ならない。関係者の惜しみない努力の積み重ねに対して町が代表して受賞したものであり関係者とともに受賞の喜びを分かち合うことができたことは、今後の更なる飛躍に向けての大きな励みとなっている。
「坂のまちアート in やつお」は過疎化による購買客数の減少に加え、近隣市町の大型店舗の増加等により顧客を吸収され、来街者の減少や空き店舗が増加し、閑散とした厳しい状況にある市街地に再び賑わいを呼び戻そうと平成2年に「文化づくり」をキーワードに経済、文化、観光等の掘り起こしを図る活動を始めた「坂のまち千年会議」を中心に実行委員会が組織されて平成8年からスタートした。
全国から文人墨客を招いて交流の中から伝統文化を創り上げてきた町の歴史に学び、新たな文化を創出するために様々な分野のアーティストの参加を得て、様々な所に住み、様々な文化感を持った人々が交流する「坂のまちアート」の企画が練り上げられ、アートは美術館という固定観念を捨て、一般の民家や商家、日本の道百選に選ばれた「諏訪町本通り」等の道路空間を展示会場とした格子戸や石畳、坂道の路地を歩きながら、アート作品や町屋の佇まい、情緒ある八尾散策が楽しめる「作家と町民と来場者」のコラボレーションイベントとして毎年10月上旬に開催されている。
「坂のまちアート」は、「風の盆の町」の新たな美術イベントとして全国的にも注目を集めるようになり、平成14年の第7回では、開放いただく町屋・商家は50ヶ所、出展作家も100名近くに登り、家々の軒先を山野草で飾る「野の花展」も町民総参加で開催され、地元の八尾高校の生徒達がフリーマーケットを出店したり「おわら踊り」を披露して賑わいづくりに参加して4日間で3万人を超える観光客が訪れている。
軒先のアート作品に足を止める
「坂のまちアート」の波及効果によってイベントのない週末や祝祭日に飲食店に行列ができる程の賑わいが町に感じられるようになると自分の家の軒先にさりげなく花を飾ったりする住民達も増えてきている。伝統的な町屋や街並みを活かしたアートは、県内市町村への広がりを見せて平成13年度からは「元気に富山推進事業」の支援を受け、「まちなみアートリレー in とやま」が広域ネットワークで開催され、さらに平成14年度には、3市1町が新たに参加して9会場で開催されるアートイベントの回廊が構築されつつある。
どんなイベントでも継続して開催するには、苦しみながらも今までとは違う新たな取り組みや新たな人材の確保が必要になることはいうまでもないが、そこから更に大きなイベントへと発展させるためには、これまで以上に多様な主体の参加と連携の促進を図る体制づくりを行政側としても支援する必要がある。
坂のまちアート in やつお実行委員会では、平成15年度の開催が八尾町町制50周年記念事業となるように町と連携して、これまでの開催手法からステップアップし、より広域的な連携を意識して通年的に開催する方法や石垣、坂道、細い路地等の八尾町固有の景観の活用方法や今後国際的なアートイベントへと発展させる方法等について調査・検討・試行を行う計画である。
坂のまちの石垣景観
八尾町の21世紀のまちづくりのキーワードは「八尾らしさ」である。
連綿と繋がれてきた独特の芸術や文化を背景に豊かな情緒を醸成してきた八尾町の魅力を活かした「住みたいまち、訪れたいまち」や全ての町民が「豊かで安心して暮らせるまち」の実現を文化(アート)を活用して推進することである。
「八尾らしさ」の事例の一つを紹介するとノーマライゼーション社会の実現を目指して「障がい者」も「高齢者」も誰もがまちづくりに参加する「八尾風“やつおふう”福祉」を実践する小規模通所授産施設の社会福祉法人「おわらの里ふれあいホーム」が平成14年度に実施した「富山八尾発、風のたより事業」は、千人近い町民の参加で作成された紙風船約2万3千枚を「おわら風の盆」に訪れた観光客に配布し、八尾町への「まちづくりの提案」をそえて郵便として送り返してもらう事業で千通を超える「たより」が寄せられて、今後は、商工会や観光協会等とも連携した新たなまちづくりが始められようとしている。
八尾町では、平成の大合併を間近に控えたこの時期に、あるべき町の将来像を見据えて古い歴史的な町並みや「坂のまち」の個性的な市街地環境を維持し、おわらや曳山等の伝統文化の保存継承に努めながら「おわら風の盆」以外の日も通年観光で賑わう中心市街地の再活性化を目指し、中山間地域においては、恵まれた自然環境や伝統文化の継承、地域資源の活用を図りながら、グリーンツーリズムによる都市農村交流等を促進し、生活環境の向上と産業の振興を図ること等を目指し、全国の自治体でも先進的に取組んでいるマルチメディア等のIT基盤を積極的に活用して、住民一人ひとりが八尾町を活性化させ、次の世代へ引継ぐ、「八尾らしい」まちづくりに積極的に取組むこととしている。
上新町地区の街並み