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農山村再生-「限界集落」問題を超えて-

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年10月5日

農山村再生-「限界集落」問題を超えて-

小田切徳美 著
岩波新書〔岩波ブックレット〕 定価504円

 著者の小田切氏は、本書執筆の動機を次のように語っている。

 「最近、マスコミで『限界集落』がしばしば取り上げられる。しかし、それを強調することは、一部の農山村への関心を高める可能性があるが、他方では『特殊な問題』として、同質の問題に直面する農山村全体へ関心の拡がりを妨げる可能性もある。『限界』という言葉の強さにより、農山村全体の現実が見えづらくなっているのではないのではないか」。

  「『限界集落』問題を超えて」という本書の副題は、このような著者の思いを表したものであろう。しかし、こうした主張は、著書自らに、正確かつバランスが良い実態把握を求めることとなる。それに応えて本書では、市町村合併による農山村の「周辺化」をはじめ、近年の農山村をめぐる実態変化が、リアルに分析されている。

 そして、その現状分析の延長線上に地域再生の処方箋が示される。そこでは、地域のコミュニティの再生と地域経済構造の再生という2つの柱が立てられ、前者では「手づくり自治区」と呼ぶ新しい組織の実態とその構築のポイントが論じられている。また後者では、「第6次産業」をはじめとする地域経済の新しい動きが「4つの経済」としてまとめられている。

 著者も強調するように、本書で紹介されている再生策のすべてが、現場で現実に行われていることであり、農山村の再生力は決して小さくない。しかし、そうであるからこそ、その動きを一層促進する政策が要請される。民主党新政権が、農山村政策として何をするべきか、本書全体が明らかにしていると言えよう。

 本の書名は、時に誇大広告であることがある。しかし、「農山村再生」と題する本書は、タイトル通りの内容を持っている。「ブックレット」シリーズの小さな本であるが、その情報量は膨大である。ある政府系金融機関の職員は、本書を読んで、「農山村の再生策が全部書いてある。後はこれを実践するだけだ」と言ったという。農山村のフィールドワーカーであり、政策分析者としての著者の力量が遺憾なく発揮されているのであろう。

 首長、自治体関係者に是非ご一読をおすすめしたい好著である。