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自治立法権の再発見

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年2月16日

原島良成 編著

第一法規 3,500円+税

自治立法権の再発見 表紙写真

 本書は環境法研究の第一人者である北村喜宣上智大学法学部教授の門下生らによる「北村喜宣先生還暦記念」を冠した論文集である。行政法や行政学など気鋭の研究者の先端的な研究成果とともに、条文や判例の演習問題を併載したユニークな構成になっている。

 「自治立法権」ときくと条例制定権が思い浮かぶ。しかし、この問題を普段意識している人は少ないだろう。本書は憲法が保障する条例制定権の根拠や法律との関係などについて、条例による対応と関りを持つことの多い環境行政分野を題材に、様々な切り口で分析し構造や課題を紐解いている。しかし、本書をより特徴づけているのは、「条例=法律の範囲内」と宿命のごとく思いこみがちな条例制定権(自治立法権)を、あらためて捉え直し、真の自治の実現をめざす各執筆者の論調にある。

 

 前半の「一般理論編」からいくつか紹介したい。

 原島良成(熊本大)は、条例制定権の根拠や憲法94条の「法律の範囲内」の解釈等について、通説的捉え方からの脱却を分析的に論じている。判例や様々な学説の見解を参照しながら現在的な解釈を上乗せあるいは、書き換えながら論理展開を試みる。新たな領域や課題に対する独自条例を起草する際、その視点は大いに参考になるであろう。

 釼持麻衣(日本都市センター)は、「独自条例の実効性確保」をテーマに「過料」を取り上げている。実効性確保の仕組みすなわち行政上の強制措置は、分類体系がやや複雑でありながら、自治の現場では規範化や運用にあたり的確な判断が要求される問題である。過料と行政刑罰は、単純にいえば対象行為の犯罪性の問題であるが、制裁措置という効果においては相対化していると指摘する。路上喫煙の規制事例など、制度の運用実態と課題を整理しながら、過料と行政刑罰の役割分担のあり方を提起、実効性確保の本質を探っている。

 嶋田暁文(九州大学)は行政学の立場から「条例による「総合性」確保」を取り上げている。縦割り行政に縛られた国法への対応として、「総合的対応条例」の有効性を指摘する。この点について自治基本条例の意義を強調する。自治基本条例は行政内部の規範のみならず、住民の行動規範にもなりうるとしつつ、昨今の職員数削減や民間化、近年話題となった「圏域行政のスタンダード化」が総合性の確保に影響すると指摘している。

 

 後半の「個別法政策編」では、建築基準法が適用されない領域を自主条例の制定によって運用してきた、まちづくり条例の変遷とその内容を解説している。事例として「京都市歴史的建築物保存活用条例」を取り上げ、自主立法化のプロセスや理論構造を明らかにしている。このほか、廃棄物処理施設などイメージや感情で反対される施設の設置における紛争予防条例の可能性や、ペット霊園規制条例の制度設計の問題などが紹介されている。

 

 自治体がカバーすべき領域の中で、本書が取り上げる環境行政は今後の拡大が避けられない。この分野はまた、公益と私益、生存権と自由権など関係者間の利害や保護法益の調整が求められる、いわば自治体法務の本丸でありかつ先端領域でもある。条例は常にその中心にある。「特別寄稿」は、通説にとらわれない「北村条例倫」の内容や進化の過程を本人自ら図式とともに解説している。自治体が何ゆえに条例制定権を有しているのか、自治体関係者が必読すべき内容である。

 新型コロナの出現など、前例のない課題への対応を求められることが避けられない中、自治体関係者には、自らの手で自治立法権の再発見を試みる態度が求められる。

 本書はその羅針盤となるであろう。