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地道な取り組みは成功への近道~「協働のまちづくり」を目指して~

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年12月19日

宮城県村田町長 佐藤 英雄

 

私の住む村田町は、宮城県の南部に位置し、政令都市仙台から南へ約30㎞、仙台空港から車で40分足らずの人口1万1千5百人程の町である。また、古くからの交通の要衝であり、現在は、東北自動車道村田IC・山形道村田JCTがその役割を継いでいる。西に蔵王山系を望み、明瞭な四季が織りなす自然豊かな町でもあり、町中心部には今なお江戸時代や明治、大正に建てられた蔵の町並みが残り、平成26年9月には宮城県初、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された歴史と文化の香る町である。

さて、2016年のノーベル生理学医学賞は、東京工業大学の大隅良典栄誉教授に授与されることになった。日本のノーベル賞受賞は3年連続で、21世紀に入っての受賞者が16人、55人の米国に次ぐ2位で、英国やドイツ、フランスを大きく上回っている。私は、それよりもなによりも大隅さんが成果を性急に求めない姿勢でもって、28年前に「オートファジー」を確認し、今回の受賞につながる研究に長年取り組んできたことに価値があると思っている。

地方行政に身を置き、任期4年という限られた期間でもって成果を求められる町長としては、長いスパンで地道な研究ができる世界が羨ましく思える。地方行政分野の中でも教育や人材育成、まちづくり等、地道な研究と同様、長い歳月を経て成果が現れる活動が多くあるにもかかわらず、目先の課題解決を優先せざるを得ず、地道な取り組みがしにくいと感じることも多い。

私たちは、常に豊かさを求めている。豊かさは、人間にとって幸せになる力の源だからだ。80年代までの右肩上がりの社会は、経済優先の社会であり、経済の繁栄が豊かさの中心だった。その結果、格差や貧困が拡大し、様々な社会問題が生じてきている。そして、それらの問題が解決されないまま、今日の少子高齢化に伴う人口減少社会を迎え、私たちは、人間として助け合える一体感というような、もう一つの豊かさを見つけ出す必要に迫られている。

人口減少が進めば、私たちの生活に様々な問題が生じてくると思われるが、わが町には四季折々の自然や人々が育み伝えてきた独自の歴史的文化等、数多くの地域資源がある。それを活かすために、わが町の住民の知恵や工夫を持ち寄り、共に地域経済を活性化させる戦略を立てることで、村田町の自立・持続が可能になると信じている。

町長に就任して現在3期目の私は、村田町に住む一人ひとりに思いをはせ、その人たちが生きる幸せを感じられる質の高いまちづくりを模索してきたが、最近やっとその筋道が見えてきたような気がする。

私は、東日本大震災の中で、様々な人たちと触れ合い、見ず知らずの人への「信頼」やお互い様という「互酬性の規範」、そして人々の間の「ネットワーク(絆)」という「ソーシャル・キャピタル(=社会関係資本)」の素晴らしさを体験した。

私は、今、この経験を行政に生かすためにも、「協働のまちづくり」に地道に取り組むべきであると考えている。しかし、協働の2文字が放つイメージとは違って、いざこれを進めてみるとそう簡単にはいかない。それは、行政だけの取り組みで完結するものではなく、そこに住む人たちの話し合いによる「住民自治」の取り組みが欠かせないからだ。

ノーベル賞受賞決定後、「日本人が沢山出ているからすごいというのは間違っている。若い人を支える体制を作らないと、日本の科学は空洞化する。」という大隅教授のコメントを聞いて、私は、いわゆる基礎研究(=住民自治)に地道に取り組むことが、その成果(=「協働のまちづくり」)に至る近道であることを確信した。そこで、当町民が、自分たちの課題を解決するため、お互いに協力し、支え合い、そして幸せを分かち合うという社会を築く手段として新しい公共の考え方である「協働のまちづくり」実現に向け、確実に取り組んでいきたいと考えている。