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「熊野筆」産地の明日を想う

印刷用ページを表示する 掲載日:2015年7月13日

広島県熊野町長 三村 裕史

 

熊野町は広島県の西部、広島市・呉市・東広島市の中央に位置する、人口約2万5千人、面積約33k㎡、標高約220mの高原盆地に開けた町です。周辺都市のベッドタウンとしての性格が強く、人口はほぼ横ばいで推移しています。

■施策■

高齢化率は33%と高く、少子高齢化が本町でも大きな課題ですが、幸いにもボランティアやスポーツ活動等に精力的な高齢者が多いためか、介護認定率は県内で最も低い値です。 3年前から無料巡回バス「おでかけ号」を運行し、高齢者等の移動手段を確保するとともに、2年前から子育て世代への住宅取得費助成制度を創設するなど、子育て世代の定住促進にも努めています。

隣接する広島市の土砂災害では、自然災害の脅威と対策強化の必要性を改めて痛感いたしました。このため本年度は、自主防災組織への補助制度の創設、避難所までの遠距離住民が緊急に避難できる一時待避所の建設、 夜間の土砂災害を想定した避難訓練などの実施を予定しています。

■「筆の都」■

さて、本町は180余年の歴史を有する伝統的工芸品「熊野筆」の産地です。主な生産品である書道筆、化粧筆、画筆は、国内産のなかで高いシェアを占めており、練達の筆職人が伝統的な技術・技法を守っています。

「熊野筆」は、その品質の高さから書家や書道愛好家には広く知られてきましたが、「なでしこジャパン」が2011年FIFA女子ワールドカップで優勝した際、国民栄誉賞の副賞として本町の化粧筆が贈られたことから、 一躍、「熊野町」や「熊野筆」の名が全国に知られることとなりました。今では遠方の出張先でも「筆で有名な町ですよね」と声をかけていただけるようになりました。

毎年秋分の日に行われる「筆まつり」では、筆供養の祭事、有名書家による大書揮毫などのほか、熊野筆も格安で提供されるなど、約5万人の観光客でにぎわいます。この会場の近くには、 筆の博物館である「筆の里工房」があり、年間約9万人が来館されます。国宝展の開催や著名人の展覧会などの企画展は、良質で意欲的であるとの高い評価をいただいています。

筆の産地として書写教育にも力を入れており、町立小学校1・2年生に独自の書道の時間を設けています。

また、80年以上の歴史を誇り、全国最大級の公募展である本町の全国書画展覧会には、児童生徒を中心に、国内外から毎年十数万点の出品をいただいています。

■アクセス■

このように、“筆”という特長的な地域資源を有する本町ですが、地勢的な条件から交通インフラの面は脆弱で、鉄道も国道もありません。 このような交通環境も東広島市と呉市の間の自動車道の開通やインターチェンジまでの県道の峠道がトンネルへと改良されたことから大幅に改善され、広島空港や周辺都市へのアクセスが飛躍的に向上しています。 県道改良に併せて造成した産業団地も完成から半年足らずで完売するなど、定住・交流人口増や雇用創出が今後進むのではと期待を寄せています。

■地方創生■

こうした環境の変化を追い風と考え、地方創生の戦略の練り直しを進めているところであり、「筆の都」の特色を最大限に活かした地域ブランド化を一層進めたいと考えています。

また、東京オリンピックという好機を逸することなく「熊野筆」の市場拡大を図るとともに、「筆の里工房」をブラッシュアップするなど、 更なる観光振興にも力を注ぎたいと考えております。「熊野町筆文化大使」に就任いただいている石坂浩二さんにご協力をいただき、「熊野町」や「熊野筆」の魅力を国内外に発信するビデオ制作もその一環です。

本町は3年後に町制施行100年を迎えます。将来、道州制等により市町村制が大きく変わる可能性もありますが、100周年を機に、「筆の都」として更なる前進を図りたいと思います。

皆様、ぜひ「筆の都」にお越しください。お待ちしております。