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修学旅行事始め

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年8月11日

愛媛県内子町長 稲本 隆壽

 

「自分で価値をつけられないものはつくらない。」「いいものは売れるとは限らない。」「売れるからいいものをつくる。」

77歳の創業者の熱い言葉に51名の生徒たちは圧倒され真剣に聴き入った。

4月下旬、関西方面への修学旅行で地元中学生51名が訪問したのは、ばねをつくる機械を製造している会社。創業者はこの生徒たちの大先輩、地元高校を卒業し大阪に出て様々な経験や苦労を重ね起業を決断された。 そして、今では全国のばね製造の約70%がこの会社の機械を使用しており、海外でも34ヶ国で使用されているという。正に日本のものづくりのモデルである。

ばねは、シャープペン、洗濯機、医療機器など私たちの日常生活用品に多く使われている。自動車には約4000個のばねが使われているという。引っ張るもの、押すもの、 顕微鏡でないと見えないような極めて小さいものまでその使用目的によって多様である。しかもそれは、耐久性に優れ高品質でなければならない。これら一つひとつのばねが、 まるで滝から水が流れるようにすごいスピードでつくられる。

生徒たちはその現場に立ちすくんだ。

「会社は事業を通して社会に貢献するんだ。」

「一緒に働く人たちの生活を守らなければならない。」

現場を案内していただく社長から熱いメッセージが発せられる。

修学旅行の目的は、学校・地域社会では得られない社会的見聞を広げることにある。今までの例では、名所旧跡巡りやテーマパークをみせるようなものが多い。保護者は費用を負担し、 コースや内容は旅行業社の提案によるものが多い。事故もなく終了すればそれはそれで事は済む。生徒たちにとっても確かに思い出に残る修学旅行であるとは思う。

しかし一方では、中学3年生ともなると自分の人生や将来のことを真剣に考える時期でもある。学校の設置権者である町としても、 彼らはこれから10年もすればこの町のまちづくりの人材として育ってもらわなければならない大切な若者たちである。感動し、夢を追い、あの人のように生きたい、こんな会社をつくってみたい、 と考えられるような契機になる場をつくりたかったのだ。

大阪には本町出身者が数多く在住され、「内子人会」が組織されている。会社で仕事一筋にその道を極めた人、オンリーワンを目指して起業した人など大都会の波の中で頑張ってきた人たちである。私も総会に招かれ、 ふるさと内子の話に花が咲き親しく懇談させてもらっている。多くの方々がふるさとの限りない発展を心から願っていることがよく解る。このようなつながりの中から今回の修学旅行生の受け入れに結びついた。

「起業することの素晴らしさ、難しさ、またその喜びを感じることができました。」「誠実に努力することの大切さを学びました。」「内子町の出身者でこのような人がいることを誇りに思います。」 「私も社会に役立つ立派な人間になりたい。」等々、生徒たちは心からのお礼の手紙を書いた。この生徒たちが、これから10年後、どんな若者に育ってくれるか、どんな人生を歩んでくれるか楽しみである。同時に、 この町のまちづくりの人材としてもたくましく育ってくれることを願っている。

最後に、私はこの会社訪問で大先輩の話に真剣に耳を傾けてくれた51名の生徒たちがいることを町長として誇りに思っている。