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人材の流出と流入

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年7月14日

島根県津和野町長 下森 博之

 

山陰の小京都として全国の多くの皆様に親しんで頂いている津和野町は、700年を超える城下町の歴史に多様な文化が醸成され、 掘割に鯉の泳ぐ殿町通りや古い商家や民家が立ち並ぶ本町通りをはじめ津和野城跡、鷲原八幡宮、堀氏庭園、森.外旧居、西周旧居、鷺舞、流鏑馬など、 数多くの歴史文化財産が津和野ならではの町並みを形成し、貴重な観光資源となっております。また、 周辺には西中国山地国定公園にブナの天然林を誇る安蔵寺山や秀峰青野山、更には水質ランキング連続日本一に輝く一級河川高津川など豊かな自然に恵まれた、 日本の原風景を思わせる美しい町であるとも自負しております。

一方で、過疎化は年を追うごとに進んできており、特に若者世代の減少が今後の人口予測にも大きな懸念材料として影を落とし、 定住対策が重要な課題となっております。高校を卒業した後、進学や就職で町を離れそのまま帰ってこない(または帰りたくても帰れない)若者の流出は、 現在の、そして将来の津和野の町を活力あるものに創り上げて行く上での人材の流出を意味します。 町を魅力あるものにして行くために必要な発想と情熱と行動力を持った若い人材の流出を食いとめるべく様々な対策を講じているものの、 解決には至っていないのが現実です。

こうした中で、若者の流出を防ぐ定住対策と同時に本町では2年前からファウンディングベース(以下、FB)事業に取り組んでおります。 当事業は本町独自のもので、都会で暮らしている大学生に大学を休学し1年間(最長3年間)本町の職員として働いて、 まちづくりに取り組んでもらおうというものです。これまで縁もゆかりもない若者に、一時的ではあってもまちづくりに関わってもらうことで、 発想と情熱と行動力を持った新しい人材を本町に流入させていこうという目論見です。

募集にあたっては首都圏の大学生とネットワークを持つNPOとタイアップし行いましたが、大学生活のうち1年から3年を休学してでも社会勉強にあて、 自らのキャリアアップにつなげたいという志を持つ若者が初年度は60名近く応募して下さり、その中から慶応大学2名、東京工業大学1名、 国際基督教大学1名の合計4名を採用し、観光や農業、教育などの分野でまちづくりに精力的に取り組んでくれております。

例えば、観光地津和野の知名度は40歳代以上の方々には全国的に高い一方で、若者世代の知名度は極端に低く、 津和野観光の将来を考える上で若い世代に津和野の魅力をどのようにアピールしていくかという重要な課題の解決にアイディアを出してくれております。また、 町内唯一の高校である県立津和野高校の魅力化の一環として、町立の公営塾の立ち上げと運営にも取り組んでくれております。本町の職員は、 平成17年の合併以来定員管理計画に基づいて減少の一途をたどっており、日々の業務に追われる中で創造的な事業に着手することが難しい環境になりつつありますが、 こうした新しい人材がこれまでにはなかった発想のもと事業を企画し、前例やしがらみに束縛されずに意欲的に挑戦してくれており頼もしく思っております。また、 町内全域の集落に積極的に出向いて町民との交流を普段から行っており、それが高齢者の心に元気と明るさを灯す効果をも認めております。

FB事業は徐々に進化し、3年目となる本年も新しい人材が町にやってきてくれておりますが、現役大学生に拘らず、 大学院生や大学卒業ののち社会企業家として活躍している者など様々な分野で志を持つ若者が数多く本町で活躍をしております。 過疎化に伴う若い人材の流出に懸念を抱いてばかりのこれまででありましたが、新しい人材の流入がまちを活性化し、 それが結果として若者の流出にも歯止めをかけることに繋がると期待しております。