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防災について

印刷用ページを表示する 掲載日:2012年5月28日

高知県黒潮町長 大西 勝也

黒潮町は高知県西南部に位置し、平成18年に、旧大方町と旧佐賀町が合併して誕生した町です。温暖な気候や、 長い海岸線を有する立地条件等から、施設園芸や漁業が盛んで町の基幹産業となっています。中でも日本有数の水揚げ高を誇るかつお一本釣り船団に代 表されるかつお漁は古くから盛んで平成23年には、産学官連携による単一魚種としては珍しい『日本カツオ学会』が当町において産声を上げました。

また、長さ4キロにも及ぶ砂浜と背後の松原は風光明媚な白砂青松として毎年多くの方に訪れていただいています。 「私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です。」とのコンセプトで活動するNPO砂浜美術館は創立以来、各種イベントを手掛 け、今年24回目を迎える『Tシャツアート展』は毎年、全国各地から多数、デザインの応募をいただき、ゴールデンウィークにはTシャツにプリントされ た作品が砂浜でひらひらしています。また、一昨年はウランバートル市観光局、JICAのご協力によりモンゴルの草原で、そして昨年はハワイで開催 できるまでになりました。

『3・11』から『3・31』へ

昨年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による甚大な被害は記憶に新しく、中でも長い海岸線を有し、住民の多くが沿岸部に暮らす当町にとり ましては、あの想像を絶する津波被害は対岸の火事でなく、まさに我が事として受け止めています。震災発生から1週間後、支援物資とともに被災地へ 入った際に見た光景は一生忘れることのできないものであり、今後の防災対策に必ず活かしていかなければならないものです。『3・11』以後、避難す ることに主眼を置き、避難道、避難場所の整備、充実を優先的に進め、あわせて国道改良事業に伴う役場庁舎移転についてもそれまで表明していました 低地から、ある一定日常の利便性に影響が出ることも覚悟の上、高台への移転予定地の変更を表明いたしました。 この1年は明確な根拠となる数字の示すことのできない中での防災施策の推進となりましたがその都度、温かくご指導、ご助言を頂きました住民の皆様 に感謝申し上げます。

そして、去る3月31日には『3・11』以後、協議を重ねてきた『南海トラフの巨大地震モデル検討会』から『南海トラフの巨大地震による震度分布、 津波高について』第1次公表を受けることになりました。公表資料、各種メディアの報道でご承知の通り、黒潮町においては、津波高は国内最大の 34・4m、が示されたところです。公表結果については、昨年の中央防災会議『東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会』報 告に示された、『あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波』であり、決して南海トラフ沿いにおいて次に発生する地震・津波を予測して 検討したものではないという事を考慮してもなお厳しい推計結果であるという事を冷静かつ真摯に受け止めなければなりません。実現象として経験した 『3・11』を教訓に被災地の復興と併せて『3・31』以後の防災対策は喫緊の課題です。

防災対策推進体制について

公表結果を受け、甚大な被害が想定される他の市町村においても防災対策は緊急かつ最重要課題と位置付けがされた事と思います。今後防災対策が、 スピード感をもってより一層充実、強化されるためには推進体制も併せて強化していく必要があります。市町村は現場であるとの自覚の下、これまで以 上に地域を熟知し、住民と一体となった防災体制を強化しなければなりません。

また、市町村がそれぞれの地域特性にあわせ推進していく防災対策が円滑に進められるよう、関連する法整備も強く求めます。今回公表された推計は これまでの対策の延長ではカバーできないもので、想定フリーの新たな施策が求められ、かつ大きな財政負担を伴うものになります。地震財特法の適用は もとより柔軟な施策推進を強力にバックアップする法整備は国の責務です。

あわせて、今後、公表予定の被害推計は広域かつ甚大なものになる事は間違いなく、まさに国を挙げての列島強靭化が求められます。災害対策基本法 第3条「国は国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護する使命を有することにかんがみ、組織及び機能のすべてをあげて防災に関し万全の 措置を講ずる責務を有する。」とあるように国はその組織及び機能を最大限に生かし、防災対策を講じなければなりません。そのような中、昨今の地域 主権、地方分権の流れの中で拙速な議論のもとに進められようとしている地方整備局の移管は到底認められるものではなく、国内最大の津波高が示され た町として断固反対します。

最後に、3月31日の公表以後、全国各地から多数、温かいご指導、ご助言、励ましの言葉を頂きました。この場をお借りし厚く御礼申し上げます。今後 も引き続き、ご指導賜りますようよろしくお願いいたします。